第四百二十五話 急募、王国騎士隊
「以上になります。なにかご質問のある方はいらっしゃいますでしょうか?」
ちょうどエマによる試験説明が終わったところのようだ。
エマがこういう仕事もこなしてくれると俺の仕事が減って非常に楽だな。
次は冒険者カード発行などの受付の仕事も覚えてもらおうか。
さて、質問もなさそうだし、補足の説明をしに行くとするか。
「リアムさん、ゴンザレスさん、いいですか?」
「あぁ」
「……想像以上に人が多いな」
騎士隊長ともあろう者がビビってるんじゃないだろうな?
まぁ確かに俺も今日だけで六百人来るとは思ってもみなかったけど。
そして説明会場に入った。
「「「「あっ?」」」」
俺たちが入ってきたことに気付いた受験者が声を出した。
俺のことを知ってるウチの冒険者かもしれない。
「え?」
エマも俺の登場に少し驚いているようだ。
俺と受験者が顔を合わせるのは面接の場だけという話だったからな。
エマはなにかあったんだと思ったようで、すぐに俺に場所を譲った。
……画面越しに見てるのとは大違いの緊張感だな。
エマもこんな空気の中、よく一人で説明を終えたもんだ。
「お疲れ。詳しくは裏でユウナたちに聞いてくれ」
小声でエマに声をかけると、エマは頷いて部屋から出ていった。
さて、面倒だが説明しないわけにはいかないからな。
「本日はパラディン隊採用試験にご参加いただきありがとうございます」
……みんな緊張してるせいかざわつくような様子も全くない。
一人で参加してる人が多くて、隣に座ってる知らない人とは話しにくいからかもしれないが。
「私は大樹のダンジョンの管理人をしておりますロイスと申します」
「「「「えっ!?」」」」
そこは驚いてくれるんだ。
「少しばかり補足の説明をさせていただきます。みなさんは王国騎士隊をご存じでしょうか? ……そうです。その名の通り、王都パルドの城や町、そして人々を守る騎士たちのことです」
隣の二人には少し嫌味に聞こえたかもしれないな。
まぁそういうつもりで言ったんだけど。
「実は今回のパラディン隊試験において、王国騎士隊の採用試験も同時に行うことになりました」
「「「「えぇ~っ!?」」」」
「「「「?」」」」
驚いた人、よく意味が理解できない人、半々くらいか?
俺は全く意味が理解できない部類だ。
なんでそんな面倒なことをしなきゃいけないんだよ。
第一王子に言われて渋々やるんだからな?
もし第二王子が言ってきてたら家族揃ってウチからもマルセールからも追い出してたからな?
まぁマルセールから追い出す権利は俺にはないんだけど。
「とは言いましても、当ダンジョンが主催する試験内容にはなにも変更はありません。試験は完全に当ダンジョン主導で行いますので、王国騎士隊は選考委員に加わっただけとお考え下さい。それにみなさんにとってもマイナスなことはなにもないと思います。仮にパラディン隊に合格できなかったとしても、王国騎士隊の試験には合格してるという場合もございます」
「「「「おおっ!?」」」」
「もちろん逆もございますし、当然ながらどちらの試験にも不合格となる方もいらっしゃいます。そしてもし両方の試験に合格していた場合、みなさんにはどちらかお好きなほうをお選びいただくことになります」
「「「「おおっ!?」」」」
喜んでるところ悪いが、そんなに甘くないぞ。
大半はどちらの試験にも落ちることになると思う。
というかこれ完全に王都の特権ってやつだよな?
かなり横暴な気がしないでもない。
だってウチが主催する試験なんだぞ?
それなのに下手したら合格者全員王国騎士隊を選ぶ可能性だってあるんだからな……。
俺たちは王都のために試験をやるんじゃないんだよって話だ。
なんかまたイライラしてきた。
なんでスピカさんもセバスさんもこんな条件をのむんだよ。
ララなんか呆れかえって、お好きにどうぞって状態になってたし……。
これ絶対あとで俺が怒られるやつだろ……。
「ではこちらの方々を紹介させていただきます。まずこちらのお方は王国騎士隊の騎士隊長を務めてらっしゃるゴンザレスさんです」
「「「「おおっ!?」」」」
なんにでも驚く空気になってしまったようだ。
まぁ隊長クラスが来てるとなると驚くのも当然か。
ゴンザレスさんは一歩前に出て軽く頭を下げ、またすぐに一歩後ろへと戻った。
「そしてこちらのお方は王都パルド、いえ、パルド王国の第一王子、リアム様です」
「「「「おおっ!?」」」」
「「「「え……」」」」
会場は今日一番の沸きだな。
さすが第一王子様。
どこかの僻地でこじんまりとしたダンジョンの経営で生計を立ててるぐうたらな管理人とは比べるまでもない。
あ~、早く裏に帰りたい。
俺は横にずれ、リアムさんに場所を譲った。
「諸君、試験直前にお騒がせして申し訳ない。どうか激励だと受け取ってほしい」
「「「「……」」」」
受験者たちは感動してるようにも見える。
そりゃ第一王子様を拝める機会なんてめったにないだろうから無理もない。
「昨今、この世界においては魔王の手による魔工ダンジョン、そして魔瘴が猛威をふるってることはみなも存じているであろう。既にマーロイ大陸、アソート大陸、つい最近ではジャポングも魔王の手に落ちた」
「「「「……」」」」
俺が言うとただの妄想話としか思われないかもしれないのに、第一王子に言われると現実に起こってることなんだと実感するよな。
「近いうちに王都パルドも魔瘴で危険な状態になると予測している。本来王国騎士隊の採用試験は三月末に行っているが、今回こういう機会をいただくことができ、便乗させてもらう運びとなった。もちろん三月にも王都で採用試験を行う予定ではあるが」
なら三月まで待てよ……。
とは言えないような状況なのがもどかしい。
魔瘴が迫ってきてるのは事実だからな。
「そして王国騎士隊は今年から魔道士ギルドとも連携を取って治安を守っていくことになった。これまで魔道士ギルドの評判は決していいものではなかったが、先月より魔道士ギルドの抜本的な改革をしているところだ。その最初の改革として、近いうちに錬金術師ギルドとの合併が発表されるだろう。そして次の改革として、その新しい組織内に王国魔道士隊という部門も作ることになる」
「「「「おおっ!?」」」」
完全に帝国魔道士のパクリだぞ?
……受験者たちの食いつきは良さそうだが。
「つまり王都にいる冒険者以外の魔道士や錬金術師などはほぼ全員その新しい組織に所属することになると思う。そしてもちろん今回は魔道士も大量に募集したいと思ってる。王国騎士隊も含め、これからは全員で手を取り合っていかなければこの国の未来はない」
スピカさんはそんな組織絶対に嫌と言ってたけどな。
組織が大きくなればなるほど縛りがきつくなりそうだからスピカさんには合わなそうだ。
「王都を守ることはこの国を守ることでもある。いきなり王国騎士隊や魔道士隊のことを聞かされて驚いただろうが、合格した際にはぜひとも入隊を一度検討してみてほしい。では私からは以上だ。諸君らの健闘を祈る」
「「「「……パチパチパチパチ」」」」
拍手が起きた……。
まぁ王子に拍手しないとなると印象も悪いしな。
でもこの王子、楽して人を雇おうとしてるんだぞ?
こんなことがまかり通るなら三月の王国騎士隊の試験にウチも……って行く意味はなさそうだな。
王都でやる試験なんかウチ以上に適当なものに違いないし。
それよりようやく試験が始められる。
「ではみなさん、試験に必要のない荷物はレア袋の中に収納してください。このあとはまず適性試験になりますので、番号が呼ばれた方から順に移動をお願いします」
さて、この場はエマに任せて俺たちは別室に移動するか。
説明会場から出て、審査室に入る。
この部屋には大きな画面が数多く並んでおり、現場に行かない試験官はここで審査を行うことになる。
あとから来るであろうお偉いさん方にもここで静かに見学してもらう予定だ。
「ロイス君……」
ん?
部屋の隅っこでジェラードさんとシャルルが申し訳なさそうな顔で座っている。
「……なんで正座してるんですか?」
「さっきララちゃんに謝ろうとしたらさ……キッと睨まれてなにも言わせてもらえないまま部屋を出ていってしまって……」
「激おこなのよララ……だから誠意を見せようと思って……」
ララに正座してろって言われたわけじゃなくて自主的にやってるのか。
……リアムさんはどうしたらいいかわからないようで困惑してる。
ララを怒らすとこわいということだけはなんとなく理解してくれたようだ。
「気にしなくていいですよ。本当に怒ってるんなら試験なんか認めないはずですから」
「そうなのかな……」
「兄様は別にいいけど、私まで家から追い出されたらどうしようかしら……」
「おい……ララちゃんに嫌われたらここどころかマルセールにもいられなくなる……」
「え……なんかすまん……」
リアムさんにもしばらく困ってもらっておこうか。




