第四百二十四話 王子様と王女様
どうしたらいいんだ?
なんでこんな人たちがウチに来るんだよ。
「ここが酒場で、そっちが宿屋ロビー? 広いんだな」
「これでも狭いくらいだよ。朝と夜はたくさんの人で溢れかえるからね」
「こんなところに冒険者が千人いるって凄いよな……王都の冒険者ギルドよりも遥かに多いし」
「あ、野蛮な人なんてほとんどいないんだから偏見はやめてくれよ?」
「わかってるさ。問題がありそうな人はここでは修行させてもらえないだろうし」
「ははっ。兄さんが思ってるほどロイス君はこわい人じゃないからね?」
「……だといいんだが」
これが第一王子か。
ララはこの人が王様になったほうが国のためみたいなこと言ってたよな。
ララが言うんだからそれだけの器ってことなんだろう。
そう思ったらなんだか緊張してきた……。
ララのやつ、面倒になりそうだからって指輪だけ準備して逃げやがって。
というかダンジョン酒場で良かったのか?
ジェラードさんがここがいいって言うから案内したけどさ。
「ミャ~(このヒゲの騎士、前も見たわね。会議の場にいたってことはたぶん偉い人よ)」
となると騎士隊長か副隊長クラスか?
……筋肉は凄いな。
その分動きは遅そうだ。
「ミャ~(第一王子の隣の子も見覚えがあるわ)」
第二王女のことか。
第一王子とも第二王子とも母親は違うって話だ。
確か第一王子と第一王女。
第二王子と第三王女。
第四王子と第二王女って組み合わせだった気がする。
第三王子は例の事件でいなくなったらしいからな。
「ボネちゃんだったよな? 俺のこと覚えてるか? 牢屋で会っただろ?」
「ミャ? (当たり前でしょ。私のことバカだと思ってる?)」
「……城での会議の場にいた人のことは全員覚えてるそうです」
「へぇ~。さすが賢い魔物さんだな」
「ミャ? (その言い方、やっぱり自分のほうが賢いって思ってるわよね?)」
ボネがイラっとしてるので撫でてなだめる。
「リアムお兄様! 本当に来てたのね! あっ!? ダイアナお姉様も!?」
シャルルが凄い勢いで酒場に駆け込んできた。
その後ろからはユウナも付いてきたようだ。
「シャル、十日振りくらいだな」
「ビックリしたわよ! それより! ……いえ、なんでもないわ」
ん?
なんだよそれ?
一瞬俺のほう見たよな?
なにか俺には言えないようなことか?
ユウナはなにか俺に言いたそうにしてるようにも見えるが。
「ユウナちゃん、シャルが迷惑かけてないか?」
「……普通なのです」
「ははっ、普通か。なら大丈夫そうだ」
ユウナはみんなの顔をじっくりと見ている。
あの会議の場にいた人かどうかを確認してるのかもしれない。
「ロイス君、時間がないと思うけど、一応話を聞いてあげてくれるかな?」
ジェラードさんが申し訳なさそうに言ってくる。
そりゃ第一王子様の話を聞かないわけにはいかないだろう。
まぁ試験のほうは九時までに間に合えばいいからまだ時間はある。
「ユウナ、リョウカに書記を頼めるか聞いてこい」
「了解なのです」
ユウナは宿屋フロントに走る。
そしてすぐにリョウカを連れて戻ってきた。
ホワイトボードも準備してくれるようだ。
「では始めましょうか」
さて、どっちの用件だ?
「まず王都における封印結界の件について、今週月曜日に錬金術師ギルド長たちから報告を受けた。素材の提供、そしてなにより二人のギルド員の錬金術習得に尽力してくれたこと、非常に感謝する。ありがとう」
その件か。
でもそういうことは俺じゃなくて錬金術師たちに……あ、やっと来たか。
「あら、本当に第一王子様と第二王女様が来てるじゃない。それに騎士もこんなにたくさん」
ようやくスピカさんがやってきた。
試験の打ち合わせで忙しいから来ないかもと思ってたが。
「スピカさん、お久しぶりです」
「ついこないだ会ったばかりじゃなかったっけ? あ、魔工ダンジョンが出現したときだからもう一年近く前か」
「そうですよ。引っ越すって聞いたとき以来です」
「そうだったわね。ダイアナも元気そうじゃない」
「はい。スピカ様も相変わらずお美しいようで」
「なによそれ。城じゃないからって遠慮しなくていいのよ」
「いえ……私はいつもこんな感じですから……」
猫かぶってるってことか?
俺が聞いてた話のイメージからすると、第一王女も第二王女もシャルルと似たような性格なはずなんだけどな。
そしてスピカさんが席に座ったところで話が再開となった。
「そう、ブルーノとキャロルもよくやってるようね」
「はい。技術者を増やすための指導もやってくれてますし、ミランダさんからの信頼も厚いようですね」
なんかこういう会話を聞いてると、スピカさんって凄い人なんだなぁ~って思わされるよな。
「で、素材の代金なんですが、1000万Gでいかがでしょうか?」
急にお金の話か。
「ロイス、どうする?」
1000万Gか。
……まぁ素材だけだしな。
それにミランダさんから魔石はもらったし。
でもララが納得するか?
いくら素材だけとはいえ、リーヌに比べてかなりの量が必要になったし。
それにパラディン隊の採用人数も増えたからお金は少しでもあったほうがいいしなぁ。
「兄さん」
「あぁ……では1500万Gでどうかな?」
1500万Gか。
まぁそれだけあればいいか。
というか騎士たちも座ればいいのに。
王子たちの後ろに立っていられると気が散って仕方ない。
なんか俺ばかり見られてる気がするし。
「……2000万G。悪いがこれ以上は本当に出せないんだ……」
え?
2000万G?
というか俺はなにも言ってないのにそんなに上げてもらっていいのか?
やはりリーヌの町がくれた金額を知っているようだ。
「ロイス、1500万Gでいいわよね? 王都の財政もそんなに楽じゃないのよ。リーヌは別格なんだから」
「リーヌと比べられると……」
リーヌは王都よりも金があるってことか?
だからあんなに気前が良かったんだろうか?
「ロイス、いい加減にしなさい」
「俺はなにも言ってないじゃないですか」
「そうだけど、こわいのよ」
こわい?
どこがだよ?
こんなに大勢の騎士を後ろに控えさせてるほうがこわいに決まってるだろ?
こっちはボネとウサギ二匹の計三匹だけだぞ?
「それと騎士隊長、今護衛は必要ないからみんなを適当に座らせてよ。リアム、いいわよね? シャルロットとユウナはみんなにドリンク聞いてあげて」
騎士隊長とも知り合いなのか?
というかこのヒゲの人、騎士隊長なのか。
そりゃ王子様と王女様が外出するんだから最大限の護衛が必要になるよな。
ん?
よく見たらこの騎士隊長、以前王様たちがマルセール駅に来たときにも見た気がする。
「ロイス君、1500万Gでいいかな?」
今度はジェラードさんが聞いてくる。
「えぇ。構いませんよ」
別に金額に文句があるわけじゃないからな。
「……やはり少ないか?」
第一王子はなにをそんなに気にしてるんだ?
見栄ってやつか?
本当はリーヌ以上の金額を提示したいのかな?
「普通じゃないですか?」
「普通……また普通……」
いや、1500万Gという金額だけを見たらそりゃとんでもない額だぞ?
でもおかげで今ウチの魔力はかなりヤバい状況だからな。
そのせいでパラディン隊の試験会場も簡易なものしかできなかったんだし。
サハの魔道化や海中トンネルに使う魔力は確保してあるからいいが、ボワールやスノーポートの魔道化まで行おうとしたら保管してある魔石をかなり消費しないといけなくなる。
それにラスの封印結界のことも考えておかないといけないし。
というか本当は次にまずラスの作業を最優先しないといけないんだろうけどな。
こうしてる間にもジャポング側から魔瘴が迫ってきてるはずだし。
「で、あなたたちはこのためだけに来たの? わざわざ王子と王女が来るようなこと?」
「このためだけだとしても我々にとっては大事なことなんです。色々と助けてもらっておきながら、お金だけ誰かに届けさせて終わりではとても無礼だと思いますし。それにジャポングの件もです。もし仮に我々がいち早く助けに行ってたとしても、これほどの数は救えなかったでしょうから」
へぇ~。
確かにララの言う通り、この人しっかりしてるな。
ジェラードさんのような不安さもない。
「そんなの気にしなくていいのに。ロイスだって普段から王族と絡んでばかりで疲れてるわよ。しかもなんで今一番忙しいときに来るのよ? それくらいわかってたでしょ?」
「もちろんお忙しいのは重々承知してますとも」
試験が終わった月曜とかに来てくれたら良かったのにな。
「ですが折り入ってお願いがありまして」
「お願い? ……ロイス、聞かないほうがいいかもしれないわよ」
でも聞かないなんて選択肢があるわけないんだよな……。
というかむしろそっちの用件のほうが重要でわざわざ来たのかと思ってたし。
「「「「……」」」」
いや、俺を待たなくていいから……。
「……どうぞ」
「今から行われるパラディン隊の試験、どうか王国騎士隊の試験も同時に行ってはいただけないだろうか?」
ほらやっぱり……。
どこかで聞いた話だもんな……。




