第四百十八話 指導者探し
ミオは一時間半ほど寝て、目を覚ました。
お腹も空いていたようなので、料理保存エリアから持ってきたハンバーグをマリンと三人で食べる。
ミオは今までに食べたことのないハンバーグだと絶賛だ。
そして食事が終わったころ、カスミ丸がやってきた。
「ミオ、自分は一人暮らしが初めてなので凄く不安なのでござる。だからもし本当にミオがここの宿屋に宿泊するのでござるなら、自分といっしょの部屋に住むというのはいかがでござるか?」
「え……うん」
「良かったでござる。じゃあ早速リョウカ殿のところに部屋の手配をしてもらいに行くでござるよ。ミオもここの従業員の人たちと仲良くなっておくと今後の生活が楽になるでござる」
「うん」
二人は宿屋フロントに向かっていった。
まさかカスミちゃんのほうから同居を言い出してくれるとは。
とミオは思ってくれたかな?
実際にはミオが寝てる間に、カスミ丸には今朝のことや今のミオの状態を説明してあった。
でもカスミ丸がミオと同じ部屋がいいと思ってるのは本当だからな。
進む道は違っても、今いる場所は同じなんだから、今いっしょに過ごせる時間があるならばできるだけいっしょに過ごしたいと思っているようだ。
まぁカスミ丸は出張も多くなるかもしれないから、お互い一人の時間も適度にあってちょうどいいんじゃないだろうか。
とにかく、ミオのことはこれで一件落着だな。
今後は冒険者としての成長をしばらく見守らせてもらおうか。
「お兄ちゃん? なんかやりきった顔になってるけど、まだ終わってないからね?」
「え……ほかになにかあったか?」
「なにかってさっきカスミ丸が言ったこと聞いてなかったの? あ? ちょっと感動的なシーンだったからって入り込んじゃってたんでしょう? もぉ~、なら適当に頷いたりしないでよね」
「そんなつもりは……ただミオにもいいお姉さんがいて良かったな~って思って……」
「そんなにミオちゃんミオちゃん言ってるとさすがに私も愛想尽かすからね?」
「いや……それは困る……」
「というかカスミ丸がお願いしてきたのはそのミオちゃんのことだけどさ」
「え? なんだ?」
「優秀な魔道士に指導してもらえないかってさ」
「優秀な魔道士? 魔法をってことか?」
「魔法や魔力量アップも含めて冒険者生活をって意味だろうね。つまりパーティメンバーを探してくれってことだよ」
なんて図々しいやつ……。
しかもパーティ酒場にじゃなくて俺に直接頼んでくるとは。
「ミオはなんて?」
「なにも言ってなかったから、お兄ちゃんに任せるってことじゃない?」
まぁミオのためなら仕方ないよな。
「じゃあリヴァーナさんに頼んでみる」
「いいの? やっとサミュエルの子守をしなくてよくなったばかりなのに?」
「子守って……。マリンはサミュエルに厳しいよな」
「だってなんか子供みたいなんだもん。朝の受付でも挨拶だけしてさっさとダンジョンに入ればいいのに、わざわざなにか話しかけてくるしさ。そのせいでほかの人たちに挨拶できないんだからね。みんなからしたら私が挨拶してくれないのを感じ悪いと思ってるかもしれないし。それにサボってると思われるのも嫌だし」
「それはダメだな。サミュエルには俺から厳しく言っとく」
「うん。で、リヴァーナさん以外の候補はいないの?」
パラディン隊の結果が出た来週なら色々とパーティ編成にも変動が出るだろうから、パーティの再編も考えやすいんだけどな。
それまでにギャビンさんとディーナさんには今いる冒険者たちの特徴をつかんでおいてもらわねば。
今はまずミオのことだが、ユウナとシャルルに頼めないとなるとリヴァーナさんしか思い当たらないんだよな。
ただでさえどのパーティも新年になって士気が高いからそこに新人なんてねじ込める空気でもないしさ。
「仕方ない。俺が鍛えてやるか」
「……」
「……冗談だよ」
無言で睨まれるのが一番こわいな……。
「魔物たちに預けるか?」
「無理でしょ……」
言葉がわからないと指導は難しいか。
「やっぱり色々と事情を知ってるリヴァーナさんが一番楽なんだよな。指導にも定評あるし。今リヴァーナさんは単独行動か? 今朝は一人で入っていったはずだが」
「指輪情報から探してみる」
サミュエルも一人だったな。
あの二人の身体能力は並の魔道士となんら変わりないのに、魔法だけを鍛えて魔道士一人でも戦えるような戦闘力を身につけようとしてるんだから凄いと思う。
「あ、サミュエルと組ませてみるか」
「絶対ダメ」
酷い……。
サミュエルが少し可哀想になってくるじゃないか。
「いたよ」
「どこだ?」
「地下四階、二つ目の休憩エリアの直前くらい」
「は? 一人か?」
「画面に映すね」
そしてリヴァーナさんの戦闘風景が映し出された。
……周りでは何組かパーティが戦ってるようだが、リヴァーナさんは一人のようだな。
「あっ! マグロンが複数来てるぞ!?」
「どうするのかな?」
……え?
マグロンたちはリヴァーナさんに突撃することなく、急に方向を変えてほかのパーティに突っ込んでいった。
そのパーティは……辛うじて防御できたようだ。
さすがEランクパーティ。
第二休憩エリア近くまで来れてるだけはあるな。
「今なにした? マグロンが避けていったように見えたぞ?」
「私は杖を見てたんだけど、杖先の三本のうちの一つはずっと使ってる感じだったよ?」
「となると探知のための風魔法か? ……もしかするとマグロンは探知に触れたことに気付いて、攻撃されたと思って避けたのかも」
「その可能性もあるね。リヴァーナさんがなにかしたとするなら、その一瞬だけ探知に使ってる風魔法の威力を強くして威嚇したとか?」
「あ、それだとしっくりくるな」
そもそも探知と言っても二種類ある。
一つは自分のテリトリー内に入ってきた敵や攻撃を察知する探知。
もう一つは自分から敵を探しに行く場合に使う探知。
同じように思えるが、前者は受け身で、後者は能動的といった意味でいうと目的は正反対。
基本は受け身として使う機会が多くなるはず。
どちらにも共通してるのは、探知に使う魔力は本当に微量程度のものということか。
こうやってダンジョンを歩いてる間は常時探知を使ってるからそこまで魔力を消費できないし、敵に気付かれてしまう探知だとそれはもう探知とは呼ばないただの風魔法だ。
探知学Ⅱを学んだ冒険者たちが揃って口にするのは、微量の魔力を発生させてコントロールするのは非常に難しいということ。
訓練の最初はまずその微量の風魔法を発生させることから始まる。
次に自分を囲うように風を発生させ、自分のテリトリーに侵入されたときに察知できるように神経と魔力を張り巡らせる。
それがある程度の範囲まで拡大できるようになると探知学Ⅱの訓練は晴れて修了となる。
修了したからって特になにもないけどな。
ウチのダンジョン公認の探知使いになったという名誉だけだ。
名誉なのかどうかもわからないが、みんな喜んでくれてるからいい。
リヴァーナさんは当然その探知をもっとハイレベルで使いこなしている。
例えば普通は円状や半球状の決まった形の範囲をイメージして使うのが一般的で最も簡単らしいが、リヴァーナさんはそれを四方八方自在に形を変えて操ることができたりするそうだ。
一人で戦ううえでは必要なことだったとも言ってた。
当時のリヴァーナさんの心情を想像すると少し寂しい気もするが、ソロで生き抜くためには自分が強くなるしかないからな。
「お兄ちゃん? 聞いてる?」
「え? すまん、考え事してた」
「……リヴァーナさんってさ、こうやって戦ってるときの表情だけ見てると、外で会ったときとは完全に別人だよね」
「俺はそんなイメージないんだけどな。帝国を旅したときはずっと楽しそうに雷魔法使ってたし。まぁ俺の魔物たちといっしょに戦えたのが楽しかったからかもしれないけど。あ、でも俺が怪我したあとのマーロイ城から屍村までの道のりではこんな表情だったのかも。誰とも話さずにずっと厳しい表情してるって言ってた。ユウナとシャルルから聞いた話だけどな」
「じゃあこれが戦闘モードなのかもね。なんだかこのリヴァーナさんには話しかけにくそうだもん」
きっと探知に神経を張り巡らせてるんだろうな。
特に地下四階の海中だといつもと感覚も少し違うだろうし。
「でもさ、やっぱりリヴァーナさんが適任だよね。ミオちゃんも忍者なんだったらまず探知を使えたほうがいいもん」
「だろ? 今なら付きっきりで教えてくれるかもしれないし」
「でも引き受けてくれるかなぁ? せっかく地下四階の敵と戦えるようになったばかりなんだよ?」
「なにか報酬が必要かもな~。Pか防具のどっちがいいだろう?」
「お兄ちゃんが用意するの? そこはカスミ丸じゃない?」
「あ、そっか。じゃあ報酬代はカスミ丸の給料から天引きで」
「異議なし」
もうすぐ休憩エリアに着きそうだし、散歩がてら交渉しに行ってくるか。




