第四百十七話 未熟な冒険者
やらかしてしまった……。
マリンと魔力暴走の話をしたり、ミオの戦闘を見ることに気を取られていたせいだ。
「……なにも連絡してこないし、別にいいんじゃない?」
「だよな……」
気付いたらサウスモナ駅オープンの式典が終了していた。
そして魔道列車には続々と人が乗り込んでいる。
……まぁいいや。
もし誰かになにか聞かれたらダンジョンでトラブルがあったとでも言っておこう。
それにモニカちゃんとスピカさんがいるんだから大丈夫だよな。
気を取り直して、パラディン隊採用試験の会場設営の案を考えるか。
それから一時間半ほど、マリンと色々意見を出し合った。
そして会場設営も並行して進めようと、小屋の隣で試験会場入り口を作る準備をしてたときだった。
「あっ!? 外にいたんだ!? ちょっと来て!」
リョウカはなにか急いでる様子だ。
俺とマリンはとりあえず付いていく。
するとリョウカは小屋に入ってすぐのところで立ち止まった。
「今日来たあの子、ここで寝ちゃってるみたいなんだけど……」
「あの子? ……あっ!?」
「ミオちゃん!? どうしたの!?」
ミオがベンチに横になって寝ている。
……疲れて眠くなったのか?
「今何時だ? ランチにはまだ早いよな?」
「……もしかして魔力切れ起こしたんじゃない?」
「えっ!? 意識がないってことか!?」
「いやいや……意識がなかったらここまで来れないでしょ……それにドラシーがなんとかするもん」
それもそうだ。
「……大丈夫……ちょっと気持ち悪いだけ……」
うん、意識はあるようだ。
マリンはミオにスピカポーションをゆっくりと飲ませた。
「少し休んでれば楽になるからね。リョウカさん、知らせてくれてありがとう」
「うん。ちょうど小屋の整頓に来たところだったの。でももうすぐ冒険者たちが帰ってくるから場所を移したほうがいいんじゃない? 部屋取る?」
「いや、いい。とりあえずウチに連れてく」
「え? 大丈夫なの? なにか事情があるのはわかるけど……」
「詳しくはまたあとで説明するよ。ミオ、ちょっと持ち上げるぞ?」
「うん」
よいしょっと。
……軽い。
ユウナよりも軽い。
さすが忍者だけあって身軽だ。
そしてミオを抱えたまま小屋を出て、玄関から家に入る。
「ちょうどダンジョンから冒険者が出てきたところだったね」
「危ない危ない。こんなところ見られたら変な誤解されるからな」
「お兄?」
「「あ……」」
ララだ……。
「……ミオちゃんかな? どういうこと?」
「いや……どうやら少し無茶をして体調を崩したみたいで……」
「魔力切れ起こしたみたいで、小屋で倒れてたからスピカポーション飲ませてしばらくウチで休ませようって私が提案したの」
「ふ~ん。じゃあ早くソファに寝かせてあげたら?」
「あぁ……」
そしてミオをゆっくりと寝かせる。
……だいぶ落ち着いたようだな。
安心したのか、すぐに寝息が聞こえてきた。
「まさかずっとミオちゃんのこと見てたの?」
「いやいや! ララがダンジョンに入ってからは俺たちもパラディン隊試験の会場設営の準備をしてたぞ! それで外で入り口を作ってたら、リョウカが慌てた様子でやってきてちょっと来てって言うから、付いていったら小屋でミオが倒れてたんだよ!」
「わかったから。もう少し静かにしないとミオちゃん起きちゃうでしょ」
「あ……」
つい言い訳のようになってしまった。
でも本当のことだからそこらへんはハッキリさせておかないと。
「どうやら魔力量はまだたいしたことないみたいだね」
「それは仕方ないんじゃないか? 忍者って魔法の修行はそんなにやらなさそうだし」
「でも魔力があることが忍者になれる条件なんでしょ? それならもっと魔力を伸ばす修行もしないと意味ないじゃん」
「それはそうだけど……」
「……はぁ~。マリンちゃん、どう思う? お兄さ、ミオちゃんのこと気にしすぎじゃない?」
「どうって言われても……。でもお兄ちゃんがここまで気にするんだから、ミオちゃんには冒険者としてなにか光るものを感じてるんだと思うよ」
いや、ただ心配なだけだと思うが……。
それにそもそも今の状況はミオが招いたもので俺は関係ないし……。
ってウチに連れてきたのは俺か。
「あ、それにミオちゃんは今朝ね、宿を取ろうとしててさ。でも私がカスミ丸といっしょの部屋に住めばいいんじゃないかなって提案したら、ミオちゃんも考えるって言って宿を取るのをひとまず保留にしてたの。だから今は休める部屋がなかったからウチに連れてくるしかなかったっていうのもあるんだよ?」
「そうなの? もぉ~、それを先に言ってよ~。お兄が本気でミオちゃんのこと好きになっちゃったかと思ったじゃん」
「そうではないと思うから安心して。それにお兄ちゃんはララちゃんのことが一番好きだからね」
「マリンちゃんのこともね!」
「うん!」
……可愛い妹たちだ。
と思っておくことにしよう。
それが一番平和だからな。
「でもやっぱりミオちゃんは冒険者としてはまだ本当に新人だね。自分の力を過信してたから自滅しちゃったんだよ」
「魔物と戦うのは初めてなんだから仕方ないだろ。そのうえ覚えたての身体強化魔法の制御感覚をつかみながらだったんだし」
「あ、でもそういやジャポングにも魔物いたって言ってなかった? なんか魔石くれたよね?」
「まだ吸収させてなかったのか」
「だって弱いって聞いたらただのコレクションになっちゃうだけだもん。いつでもいいやって気にもなるでしょ」
「まぁな」
犬の魔物だっけ?
ブラックドッグより弱い犬なんて地下一階くらいでしか使えないだろうからな。
ララは自分の部屋に戻り、魔石を取ってきたようだ。
「じゃあ吸収するね」
そして水晶玉に吸収させた。
「……ウチにはいないっぽいね。なんて名前?」
「マメシーバだった気がする」
「マメシーバ……と。じゃあ一応確認してくる」
「念のため襲ってこない設定にするのを忘れるなよ」
ララは物資階層に転移していったようだ。
ようやく一息つけるな。
「ふぅ~。別に俺は悪いことしてるつもりはないのに、ララの前だとなぜか悪いことしてしまったような気になるんだよなぁ」
「この数か月ララちゃんの監視が厳しいからじゃない? ララちゃんもさ、万が一ミオちゃんが襲ってくる可能性を考えたら、ミオちゃんのことをまだ完全には信用できないんだと思うよ」
まぁそれは俺のためなんだから我慢するしかないよな。
でもこれで本当にミオに襲われたら完全に自業自得だけどさ……。
「ロイス君……」
「ん? 起こしちゃったか?」
「ごめんね……迷惑かけて……マリンちゃんも」
「ミオちゃん、気にしなくていいんだよ? 冒険者のみんなはこうやって成長していくんだからね。ミオちゃん以外にも倒れちゃう人っていっぱいいるから大丈夫」
「うん……ありがと。もう少し休ませてね……」
そしてミオはまた眠りについたようだ。
忍者っていっても普通の女の子なんだな。
「ミオが今装備してる防具さ、前にカスミ丸がウチで買った物らしいんだよ。レンジャーや武闘家初級者向けの安いやつだけどな」
「それをジャポングに送ってたってこと?」
「あぁ。ウチで入手した物のほかにも、女の子用の防具や服をたくさん送ってたらしいんだ」
「女の子はミオちゃんしかいなかったんだよね? じゃあミオちゃんのためだけに?」
「そうなるよな。ミオは嬉しかっただろうし、カスミ丸にも会いたかったと思う。だから今朝のマリンのミオへの提案は俺は凄くいいことだと思うんだ」
「うん。私だって血は繋がってなくてもお兄ちゃんやララちゃんといっしょに住めるの嬉しいもん」
「あぁ、俺もだ。だからきっとカスミ丸もミオといっしょに住みたいって思ってくれるはずだ。それに今ミオはこの防具がウチの商品だとは知らずに装備してる。それもなにかの縁だろ?」
「そうだね。縁は大事にしないとね」
ミオはここに来たことや冒険者になったことは偶然だと思ってるかもしれないが、実は必然だったのかもしれない。
「この防具もずいぶん長い間装備してるようだし、新しいものをあげようか」
「お兄ちゃん? 怒られるよ?」
さすがにそれはやりすぎか。
「お兄! マメシーバ! ヤバい!」
ララが叫びながら戻ってきた。
「ミオが起きるから静かにしろ。どうヤバいんだ?」
「可愛すぎ! 弱いことなんてどうでもいいくらい可愛すぎ!」
だからリヴァーナさんはララへのお土産って言ってたのか……。




