第四百十一話 別れと出会い
モニカちゃんとスピカさんがサウスモナに向けて出発していった。
まだ七時なのに、サウスモナ駅にはもうヒューモさんたちやリッカルド町長が来ていたようだ。
九時からの式典やオープンが待ち遠しいんだろうな。
駅員はヒューモさんのほかに二人いて、その二人はヒューモさんの冒険者時代のパーティメンバーだ。
舞台は変わっても仲間として仕事を続けられることを三人とも喜んでくれているようだった。
一人は魔道士だから、魔道カード発行業務に使う魔力も問題ない。
それぞれが自分の天職だと思えるようにこれから頑張ってほしいものだ。
さて、次に旅立つ人たちが来たようだ。
「ロイスさん、では私たちも出発しますね」
「お気をつけて。もし封印結界が間に合わないようならすぐに使いを出してください」
「ありがとうございます。国王様や王子様には私からしっかり言っておきますのでご安心を」
「別になにも言わなくても構いませんよ。ウチが直接関わるわけではありませんので」
「ふふっ、ロイス君らしいですね」
ミランダさんたちも王都に帰るようだ。
ミランダさんが持つレア袋には、魔道柱、魔道線の完成品を少量と、その素材となるミスリルやミニ大樹の枝がたくさん入っている。
素材と引き換えに、錬金術師ギルドに保管してあったという魔石をたくさんくれた。
この程度では到底素材分にはならないが、まぁ仕方ないよな。
そのうち国がちゃんと報酬はくれるって言うし。
「なぁ、不安しかないんだよ……」
「なんとかなりますよ。帝国の魔道士を十人も雇えたんですから」
「それが不安なんだよな……。いくらギルドが合併するって言っても、魔道士ギルドのほうはまだバタバタしてるだろうし」
「しっかりしてくださいよ。ブルーノさん次第では王都が壊滅しちゃうんですからね?」
「……また会えることを祈っててくれ」
死ななければってことか。
でも忙しくしてた割にはちゃっかり魔道士の勧誘もしていたようだ。
もちろん封印魔法が使える魔道士な。
「あ、キャロルさん。モニカちゃんのご両親への手紙と、メタリンとピピの紹介お願いしますね。二匹とも会ったことあるみたいですけど一応」
「それは任せて。今後はなかなか会えなくなるかもしれないってことも伝えておくから」
王都へ魔道列車を繋げられるといいんだが、そう簡単にはいかないからな。
今のうちに親孝行しておいてもらわないと。
「「「「キャロルさん!」」」」
「あらみんな、こんな朝早くから見送りに来てくれたの?」
ティアリスさんたち女性回復魔道士の何人かが駅にやってきた。
宿屋フロントで聞いたんだろう。
半年前、みんなが浄化魔法を使えるようになったのもキャロルさんやブルーノさんのおかげだからな。
「俺は無視かよ……」
ブルーノさんは嘆いている。
女性の輪に入るのは無理だから仕方ないと思う。
「落ち込まないでくださいよ。王都を封印結界で救ったという実績を作ればみんなから尊敬されますって」
「みんな封印魔法を使える魔道士のほうを注目するんじゃないかな……」
「ウチの冒険者たちは錬金術師の偉大さをわかってますから」
「そうだといいけど……じゃあもう行くよ。昼までに着いて早速王様たちに成果を報告しないとな」
ブルーノさんとミランダさんは列車に乗り込んだ。
「チュリ(では行ってきます)」
「あぁ。モニカちゃんの両親が来れそうな日もちゃんと聞いてきてくれよ」
「キュ! (了解なのです! 夕方までには帰ってくるのです!)」
「飛んで帰ってくるんなら昼過ぎには帰ってこい」
メタリンとピピコンビに任せておけば安心安全最速だからな。
ウェルダンは重いからピピといっしょには飛べないし。
「じゃあね、みんな! 世界を救えるくらい強くなりなさいよ!」
「「「「はい! お元気で!」」」」
こっちのお別れもすんだようだ。
……まぁ別れはツラいから泣くのも仕方ない。
でもそんな感情でこのあとダンジョンに入れるんだろうか……。
ミランダさんたち三人の見送りも終わり、管理人室に戻ってきた。
マリンとカトレアはダンジョン酒場で冒険者カードのアップデート作業中だ。
おそらく冒険者たちは列を作ってることだろう。
そしてこのあとは週パスの受付を開始して、受付が落ち着く九時頃にはサウスモナ駅の様子を見ないといけない。
そのあとはパラディン隊試験会場の設営準備だ。
今日は忙しくなりそうだな。
「ミャ~(来たみたいよ)」
「誰が?」
「ミャ~(忍者四人。……と、あと二人と……四匹?)」
「四匹? それに二人?」
それってもしかして……。
外に出ると、忍者四人と、見覚えのある二人と四匹がいた。
「ロイス殿! おはようでござる!」
「おはよう。みんな早いな」
まずカスミ丸が元気に挨拶してきた。
この四人を仕切ってるのはカスミ丸みたいだな。
「「おはようでござる!」」
「おはよう」
「「……」」
忍者ではない二人は軽く頭だけを下げてきた。
「朝の運動がてら走ってきたでござるよ! やはりこの森の空気は最高でござる!」
だから後ろの二人は息が切れてるのか。
忍者の修行をしていないというのは本当のようだ。
というかまず紹介してくれよな。
「そちらの二人は?」
「コタローの弟のヨタローと、ミオの兄のツバキでござる! 二人とも十七歳でござるからロイス殿の一つ上でござるな」
「そうか。昨日もお会いしましたが、改めましてロイスです」
「ヨタローです! どうか言葉遣いは崩してください!」
「ツバキだ。俺たちのほうが年上だが気にすることはない。普通に話してくれ」
いいのか?
なら楽でいい。
「で、ヨタローとツバキはなにしにここへ? 暇なのか?」
「おぉ……凄い切り替えの早さ……」
「ふふっ、面白い男だ」
二人もウチで働きたいのか?
それとも兄妹をよろしくとでも言いにきたとか?
「その犬が忍犬ってやつか?」
「そうでござる! 今日から自分と兄上にも忍犬が付いたでござるよ!」
嬉しそうだな。
いっしょに働けるペットみたいなもんだから嬉しいに決まってるか。
「ロイス君、ミオも忍犬連れてダンジョンに入ってもいい?」
「忍犬は戦えるのか?」
「多少は」
「そうか。ボネ、試してみろ」
俺の後ろにいたボネがミオの隣にいる忍犬に向かって、そのへんに落ちてた小石を数個飛ばしてみる。
「キャン!?」
忍犬の目の前で小石は全てとまった。
だが忍犬は避ける動作すらできてなかったように見えた。
「ダメだな。足手まといだ」
「えぇ~……わかった」
物分かりが良くていい子じゃないか。
「ちょっと待て! 今のは不意打ちだったから驚いただけで、本当はもっとやれるんだ!」
ツバキは必死に忍犬をかばっているようだ。
「戦場で同じことを敵の魔物相手に言えるか? それに不意打ちもなにも俺は今試すって言ったよな?」
「うっ…………すまん」
うん、兄妹揃って物分かりがいい。
「その子は魔物かな?」
ヨタローが聞いてくる。
「魔物だけど、まだ生後三か月の見た目通りの子猫だ」
「え……魔物って凄いんだね……」
「忍犬と勝負させてみるか?」
「いや、やめとくよ。みんなが可哀想だ」
ヨタローはミオの傍にいる忍犬を撫でている。
ずいぶん忍犬と仲がいいようだ。
「この二人は忍犬育成が仕事なのでござるよ」
「忍犬育成? 忍犬の訓練や世話をしてるってことか?」
「そうでござる。忍犬以外に馬の面倒も見るでござるよ」
忍者になれない人間は忍者のお供となる忍犬や馬を育てる仕事を任されるのか。
でもそれはそれで重要な仕事だよな。
この二人がいなければお供もいないってことだろ?
本人たちは不本意なのかもしれないが。
「いい仕事じゃないか。みんなに感謝されるだろうな」
「え……わかるのかい?」
「わかるってなにが? 失礼なこと言ってたら謝るけど」
「いやいや! そうじゃなくて、この仕事の大変さというか、忍者ではない僕らの仕事の価値をわかってくれたんだというかさ」
この言い方はやはり忍者のほうが価値が上に思われて当然ということか。
「ウチにも同じような仕事をしてくれてる二人がいるからな。その二人がいなければウチの仕事は回らないからいつも本当に助かってるんだよ。まぁ冒険者たちはそこまでわかってないだろうけど」
「そうなんだ……話に聞いてた通り、ロイス君はみんなのことしっかり見てるんだね……」
まぁアグネスたちの動物好きと、この二人とは根本的に違うんだろうけどな。
この二人は忍者になれなかった負い目のようなものがあっても仕方ないと思う。
「ヨタロー、二人が忍犬や馬の面倒を見てくれてるからこそ自分たちは修行に専念することができるのでござるよ。いつも言ってるでござるだろ?」
「兄上……」
「コタローの言う通りでござるよ。ヨタローとツバキもこれからはロイス殿の元で働けば価値観も変わるかもしれないでござる」
「俺たちがここで働く? 父上たちにはなんて言えば……それに忍犬や馬たちはどうするんだ?」
「それはロイス殿に任せておけばなにか良い案を考えてくれるでござるよ」
おい?
なんで勝手に話を進めてるんだ?




