第四百七話 たった四人の忍者
バイキング会場オープンの時間になったので忍者たちを連れてやってきた。
「「……」」
まぁそういう反応になるか。
さっき宿屋に足を踏み入れただけでも固まってたもんな。
コタローとミオの二人は大樹のダンジョンの施設についてなにも知らないようだ。
カスミ丸たちもあえてなにも言わなかったそうだ。
今驚いてるのはこの会場の広さにということもあるが、それよりも冒険者が大勢いたからだろうな。
宿屋の存在も知らなかったみたいだし、外には家とあの小屋しかないわけだからまさかこんなに冒険者がいたとは思いもしなかったんだろう。
「ロイス君! やっと会えた!」
「あ~、ティアリスさん。おかえりなさい。それとジャポングの件はお疲れ様でした」
「ただいま! あっ!? カスミ丸さんたちも帰ってきてたんだね!」
「ティアリス殿、その節は色々と世話になったでござる。ジャポングの人間が多く避難できたのもティアリス殿たちのおかげでござるよ」
そうか、ラスには同じ馬車で向かったんだっけ。
この様子だと忍者ということは話したようだな。
まぁティアリスさんなら話さなくてもバレるような気がするが。
それになんだかティアリスさんの表情が年末のときと比べてずいぶん明るくなった気がする。
なにか吹っ切れたのかもしれないな。
「管理人さん、リッカルド町長がよろしくお伝えくださいと言ってましたよ」
ヒューゴさんたちも来てたか。
ソロモンさんもいっしょにいるようだ。
パラディン隊の件は相談してみたのか?
「サウスモナ駅は明日オープンですけど、ヒューモさんは大丈夫そうでしたか?」
「さすがに不安そうにはしてましたが、兄はきっちりと仕事をする男ですから」
「そうですか。気になるなら明日いっしょに見ますか? オープンは九時ですけど」
「いえ、私たちはダンジョンに入ります。こちらも新年のスタートですからね」
ヒューゴさんのテンションもいつもより高い気がする。
オアシス大陸に行って疲れてるはずなのに。
なにか刺激でも受けたのかな。
「あ、キャラメルキャメルの件、ありがとうございました。ミルクが甘くて美味しいんですよ」
「いえいえ、こちらこそ凄い額の報酬ありがとうございました。ミルクも早く飲んでみたいですね」
「それでしたらあとでウサギに持って行かせますね」
「ありがとうございます。あ、ご飯前に失礼しました」
さすがヒューゴさん、気遣いができる男だ。
ティアリスさんとカスミ丸の話も終わったようだな。
「ロイス君、あとで少し時間ない?」
「すみません、このあと明日からの週パスの運用テストがあるんですよ」
「あ、そっかぁ~。じゃあ今週中の夜いつでもいいから暇な時間あったら声かけてくれないかな?」
「わかりました」
「ありがとう! じゃあね!」
パラディン隊のことで相談があるのかもな。
それともお兄さんたちやジョアンさんのことかもしれない。
「凄い大胆な子でござるな……」
「ロイス殿、風紀が乱れてるでござるよ?」
コタローとアオイ丸がなにか言ってる。
今の会話のどこにそんな要素があったのだろうか。
というかコタロー丸とミオ丸って呼んだほうがいいのか?
でも丸を付けるのって長くなるだけで正直面倒だよな。
それにコタローは俺より年上だけど、忍者って敬語とかそういうの気にしなさそうだから、カスミ丸たちと話してるのと同じようになんとなくタメ口にしたけどいいよな?
「冒険者って女性も多いのでござるな」
「意外でござるよな。王都の冒険者ギルドを拠点にしてる冒険者の男女比率は圧倒的に男性が多いでござるから、もしかしたらこの国の女性冒険者は全てこのダンジョンに集まってきてるかもしれないでござる」
「はははっ! さすがにそれは言いすぎでござるよ! いくら国から出たことのなかった自分でもそんなのに騙されるわけないでござる!」
コタローとアオイ丸はもう何年も会ってなかったんだよな?
その割には仲良く見えるな。
「兄上の言うことは間違ってないでござる。女性目線からしたら如何にこのダンジョンが女性に配慮されてるかがよくわかるでござるよ。ダンジョンストアでも女性専用のコーナーがあったりするくらいでござるし」
「ダンジョンストア?」
「おい、話はあとでゆっくりしてくれ。とりあえずご飯食べるぞ。二人に取り方を教えてやってくれ」
こっちはもう腹ペコなんだからな。
俺は忍者たちの相手なんかせずに家でのんびり食べたかったんだけど、ララが冒険者のみんなに顔見せてこいって言うから仕方なく来てるんだぞ。
今日の午後にダンジョンに戻ってきた人たちはまだ俺と会ってない人も大勢いるからってな。
どうせ明日の朝は受付で挨拶はするのに。
まぁいい。
それよりご飯だ。
なんとなく俺も寿司の気分になってる。
う~ん、どのネタを食べようか。
……迷ったときは盛り合わせに限るな。
ん?
ミオも寿司の転送魔道具の前を歩きながら悩んでいる。
これだけネタの種類が豊富だと初見では悩んで当然か。
カスミ丸は別の場所で料理を選んでいるようだ。
「取り方は教えてもらったよな?」
「うん」
「寿司以外の料理もいっぱいあるからな?」
「うん。でもお寿司食べたいから」
「そうか。とりあえず俺が取ったこの盛り合わせにしたらどうだ? 食べ放題だからあとからでも好きなネタは自由に取れるぞ?」
「うん。そうする」
ミオは転送魔道具のボタンを押した。
すると一瞬で寿司の盛り合わせが転送されてきた。
「わっ!?」
最初は少し感動するよな。
でもすぐに慣れてなにも思わなくなる。
「ガリとか醤油はこっちの魔道具だ。量が足りなければ複数回頼めばいい。俺の場合、ガリは三つ頼んで、一つの皿にまとめて空いた二つの皿はすぐにこっちの皿返却用の魔道具に置く」
「なるほど」
ミオも俺と同じようにしてみせた。
そしてドリンクも俺と同じ温かいお茶を取り、空いてるテーブルに座った。
すぐにカスミ丸、それから数分経ってアオイ丸とコタローがやってきた。
「ブルブル牛のステーキとローストビーフそれぞれ三人前でござるよ! 白米も大盛りでござる!」
「自分はブラックオークのトンカツとシャモ鳥の唐揚げがメインでござる! まだまだ食べたい料理がいっぱいあったでござるな!」
肉ばかりじゃないか……。
しかも取りすぎだろ。
この二人に比べたらこっちの女性二人はまだだいぶマシに思えてくるな。
というかミオのお盆に載ってる量は少なすぎるくらいだし。
「「「いただきますでござる!」」」
「「いただきます」」
みんなに注目されてるぞ……。
って俺がいるからか。
おそらくみんなは新しい従業員と思ってくれてることだろう。
この四人のことを知ってるのはティアリスさんたちだけだしな。
ってカスミ丸とアオイ丸は従業員だから間違いではないか。
「美味いでござる!」
「これが魔物の肉でござるか!」
「素材だけじゃなく料理人の腕も凄いのでござるよ」
「美味しい……お寿司ってこんなに美味しかったんだ……」
こんなにござるばかり聞いてるとござるが俺にまでうつりそうだ……。
でも食べっぷりはいいな。
これだけ美味しそうにいっぱい食べてくれると料理人たちも嬉しいだろう。
「次取ってくるでござる!」
「あ、自分も行くでござる!」
「兄上、コタロー、もう少し静かにするでござる」
忍者なんだからという意味だろうか?
単にうるさいだけか。
「ミオも行きたい」
「ん? じゃあ取りに行くか」
まだ一人じゃ魔道具の使い方が不安なのかもな。
手間取ってほかの人に迷惑かけたくないのもわかる。
ミオは自分のことミオって呼ぶタイプか。
リヴァーナさんやペンネと同じだな。
「寿司や肉以外の料理もいっぱいあるから、ぐるっと見てみるか?」
「うん」
そしてミオといっしょに料理を見ながらゆっくりと歩く。
ミオの知らない料理ばかり並んでるらしく、俺が料理の説明をしながら歩いた。
「そういやミオは何歳なんだ?」
「十五歳」
「何月生まれだ?」
「八月」
「じゃあ俺の一つ下か。ユウナと同い年だな」
「ユウナ? ララちゃんは?」
「ララはミオの三つ下だ」
「三つ下!?」
お?
まさかそんな下だとは思ってなかったってところか。
ララはしっかりしすぎてるからな。
「そのユウナって子以外にもミオと同い年の子いっぱいいる?」
「冒険者には満十六歳の年齢以降からなることが多いんだ。だから今ミオと同じ十五歳の世代というのはほとんどいない。俺が把握してる中ではユウナとアシュリンさんの二人か。あ、サミュエルわかるだろ? あいつはミオの二つ下だな。でもあと三か月もすればミオと同い年の冒険者もいっぱい来るだろうけど」
「そうなんだ。冒険者じゃなくて従業員は?」
「従業員だったら俺の一つ下の世代はいっぱいいるな。モモ、ヤック、ハナ、アグネス、アグノラ……ほか誰かいたっけ……まぁ最低でも五人はいるぞ。それこそミオより年下もいっぱいいる。ほら、厨房見てみろ」
「……」
もしかして友達が欲しいのか?
町から外れた場所での生活だったから友達なんかいなかったんだろうな。
気持ちはよくわかるぞ。
「カレーにする」
「ん? カレーでいいのか」
まぁ俺も週一くらいでカレーを食べてるけど。
ララのカレーは世界一だからな。
俺はブラックオークの角煮と、サラダにするか。
「ミオもサラダ取る」
「ん? サラダもこうやって一つの皿にまとめるといいぞ。キャベツを注文して、その上にコーンを乗せたりするんだ。ドレッシングは横のコーナーにたくさん種類があるから好きなのかけるといい」
最初はバイキングの動作一つ一つが全て新鮮で楽しいもんな。
最初だけじゃなくてずっと楽しいか。
好きな食べ物を自由に選んで好きなだけ食べられるのって本当に幸せだよな。
俺もその分しっかり仕事しないと。
そしてテーブルに戻る。
……だからこいつら取りすぎなんだって。
三回目もまたこの量を取りに行きそうなくらいの凄い勢いで食べてるし。
今まで満足に食事を取ってなかったと思われるぞ?
何気にカスミ丸も二回目は凄い量を取ってきてる。
「ミオ、ロイス殿は優しいでござろう?」
「うん」
「あとでトレーニングエリアに行ってみるでござるか?」
「うん」
カスミ丸がミオに気を遣ってるのが丸わかりだな。
ミオももうすぐ大人になるんだからあまり子供扱いするのもどうかと思うが。
……でもミオとカスミ丸もかなり久しぶりに会ったんだよな?
カスミ丸は十八歳、いや、シャルルの一つ上だから十九歳になるのか。
ミオとは四歳離れてて、カスミ丸は十歳のころからずっと王都にいたとなると、もう九年間も会ってなかった可能性もあるってことか?
それならミオは当時まだ六歳だから、もしかしたらカスミ丸のことをほとんど覚えてないんじゃないか?
カスミ丸からしてもミオは子供のときのイメージしかないのかもしれない。
「カスミちゃん」
「なんでござるか?」
「ミオ、忍者やめる」
「「え?」」
やめるだと?
忍者を?




