第四百六話 現役忍者
外は寒いのでとりあえず小屋の中に移動した。
可哀想なのでグルグル巻きの縄もほどいた。
ララの封印魔法によって封印結界の中に閉じこめられてるけどな。
「お兄、はいカフェラテ」
「おう、ありがとう」
ふぅ~、生き返るな。
二人は羨ましそうに俺とララを見ている。
客人かどうかわからないのでまだ飲み物は出さない。
「で、カスミ丸たちともグルなの?」
「……いや、カスミとアオイ殿は関係ないでござる」
さっきもだったが、男性のほうがまず口を開いた。
「でもじゃあ二人が木の上に潜んでることをなんで私たちに言わなかったの?」
「忍者は隠密行動も大事であるから、仲間の存在を気軽に他人には言わないのでござる」
「じゃあ忍者の里の存在を私たちに話して、仲間や家族を助けるために頭を下げて船やレア袋や魔物を貸りてきたカスミ丸とアオイ丸は忍者の裏切り者であって恥さらしってこと?」
「いや……それは非常にありがたかったでござるけど……」
ララとの口論はやめたほうがいいぞ。
「まぁいいや。じゃあ目的もなくただ隠れてただけ?」
「危険を感じたらすぐに割って入る予定だったでござるよ」
「なんの危険があるの?」
「いや……未知の場所でござるし……隠れるのは忍者の習性というかその……」
「あんなところに隠れられると嫌でも気になっちゃうよ? まぁ私も探知を使ってなければ気付かなかったかもしれないけどね」
「探知……リヴァーナ殿にもそれで見つかったでござる……」
「当然でしょ。あ、そういやリヴァーナさんたちも二人が隠れてること知ってたんだよね? もぉっ! あの家族も完全に私たちを試してたんじゃない!」
そういうことになるな。
ユウナたちは探知は使えないから、試されてたのはララか。
でもユウナたちも周囲の警戒はしとかないとダメだよな。
魔物たちにはさすがにすぐに気付かれると思っていただろう。
「お兄、もういいよね?」
「そうだな。特に面白いこともなさそうだ」
「だよね。……はい、封印魔法解いたから帰っていいよ」
「「え……」」
本当にただ隠れてただけだったのか。
ついでに大樹のダンジョンも見ておこうとウチまで来たって感じかな。
「聞いてた話と違うでござる……」
「お寿司……」
こっちの女の子は寿司のことしか言わないな……。
「違うってなにが?」
「カスミからはもし安易な行動を取って捕まりでもしたら死に近い拷問が待ってるって聞かされてたでござるよ……」
「そんなこと聞かされてたのによくここに来る気になったね……」
それだけ見つからない自信があったってことか?
それとも逃げ切れると?
確かカスミ丸も逃げ切れると思ってたって言ってたもんな。
でも魔物に追いかけられて捕まり、グルグル巻きにされて引きずられ、さらに封印結界の中に閉じこめられるなんて拷問みたいなもんじゃないか?
こっちの子が泣いてたのはこれからもっと酷い拷問が待ってると思ってたからかもしれない。
もしかしてもう二度と寿司が食べられないと思って泣いてたのかも。
「残念ながらそんな事実はないからね。……あ、ここで話を聞くんじゃなくて火山か氷山にぶち込んでも良かったかも」
「「……」」
確かにあそこは修行じゃなかったらただの拷問だもんな。
「帰らないの? こっちはお腹ペコペコなんだけど」
「……カスミとアオイ殿を呼んでもらえないでござるか?」
「いいけどさ。なんかこういう風に捕まってから誰かを呼んでパターン多いんだよね~。お兄、カスミ丸たちに少しお灸をすえとくね」
ララは宿屋に入っていった。
二人は無言で俺を見つめてくる。
「なにか?」
「もう自分たちを警戒しなくてもいいのでござるか?」
「俺になにかする気ですか?」
「そうじゃないでござるけど……」
「ここは既にウチのダンジョン内みたいなものなんです。だからお二人が凄い速さで俺を殺そうとしたところで俺が死ぬことはありません。お二人が死ぬことはありますけど」
「「……」」
死ぬことはないだけで怪我はするけどな。
まぁそうなる前にドラシーがとめるだろうが。
「そういやカスミ丸のことをカスミって呼んで、アオイ丸をアオイ殿って呼ぶのは年齢が関係してるんですか?」
「そうでござる。自分はカスミと同じ年齢で、カスミがパルド王国に行くまではよくいっしょに修行してたでござるよ」
「幼馴染ってやつですか、いいですね」
昔は俺にも幼馴染と呼べるやつが何人もいたんだけどな。
こっちに引っ越してきてからは友達の一人もいない。
寂しい人生だ。
まぁ今となっては別にどうでもいいが。
「なにか飲みます? それともご飯食べていきますか?」
「「ご飯で」」
早いな……。
少しは遠慮とかするもんじゃないのか?
忍者ってやつはどいつもこいつも本当に図々しいな。
「あ、自分はコタローでござる。こっちはミオ。自分たちとカスミたちは従兄妹でござる」
「へぇ~。まぁそうでしょうね。一つ気になったんですが、忍者ってあの三軒の家に住んでる人しかいないんですか? 各家の母親を除くと、十人くらいしかいないことになりますよね?」
「父たちはもう引退してるでござるから、現役の忍者は四人だけでござる」
「四人? コタローさんとミオさん、それにカスミ丸とアオイ丸……これで四人ですけど?」
「その四人で合ってるござるよ」
「えぇっ!?」
たった四人!?
しかもその全員が今ここにいるだと!?
忍者って絶滅危惧種ってやつだったのか……。
……いや、さすがにこの里の忍者が四人だけってことだよな。
「忍者の里はいくつかあったんですよね? ほかの里の人たちは?」
「自分のところの里、ミオのところの里、あとはカスミたちのところの里で全部でござるよ」
「……近いんですか?」
「歩いて五分もかからないくらいの距離でござるな」
近っ……。
「それって里じゃなくてただの家なのでは?」
「父たちも自分の流派を持って繁栄させたいという夢があったのでござるよ。それに忍者の数としては以前より増えているでござるから」
「たった四人で? 以前って言うのはお父さんたちの代ってことですか? つまり三人だけだったと?」
「そうでござる。さらにその前は父たちの父、つまり自分たちの祖父たった一人だけだったでござるからな」
既に絶滅の危機は脱してたのか……。
一人に比べたら四人はかなり多く感じる。
里も一つから三つに増えたってことだし。
でもまた一つになったようなもんだよな。
「外部から弟子を取ったり、忍者を希望する人が訪ねてきたりはしないんですか?」
「基本的に弟子は取らないでござるな。それにジャポングは平和でござるから、魔物と戦うために強くなりたい人間は魔物が出現するほかの国に行ってしまうのでござるよ」
つまり希望者はいないってことだよな?
忍者って人気ないんだな……。
というかもう絶滅したって思われてるんだと思う。
「連れてきたよ~」
ララがカスミ丸とアオイ丸といっしょに戻ってきた。
「ロイス殿……内緒にしててすまなかったでござる……」
「二人が大樹のダンジョンを甘く見てたから少し懲らしめてほしかったでござるよ……」
なんでそんなに申し訳なさそうなんだ?
面倒なことには違いないが、これくらい別にたいしたことじゃないのに。
それに忍者の話はどうせ誰かから聞かないといけなかったしな。
あ、ララのやつまた俺が激おことか言ったんだろ?
「懲らしめるって言ってもただ捕まえただけですよ?」
「それでいいのでござる。なんせこの二人は魔物のこわさを全く知らなかったでござるからな」
確かに少しは効果があったようだが。
そこまで言うなら一応念を押しておくか。
「お二人とも、俺の魔物は優しいですからね? 仮にこの強さの敵に追われてたら間違いなく瞬殺されてましたよ?」
「「……」」
「二か月ほど前にさっきのリスの兄弟が一匹殺されました。あと、あの大きなゴーレムも致命傷のダメージを受けて、つい最近まで二か月ほど意識がないまま生死をさまよってました。ちなみに俺も、しばらく寝たきり生活になったほどのダメージを負わされてました」
「「……」」
これくらいでいいか?
魔物はこわいんだぞ?
「コタロー、ミオ、自分と兄上は今日から大樹のダンジョンのために仕事をしていくことになるでござる」
「なんでござると!? そんな話聞いてないでござるよ!? 忍者の道はどうするでござるか!? やっと四人揃って修行ができると思ってたのにでござる!」
「雇われ主が変わるだけであって別に忍者をやめるわけではないでござる。それに自分と兄上がパルドで仕事をしている間も二人は里で修行をしてたわけでござろう? おそらく二人のほうが自分たちより実力は上でござるよ」
「そんなこと言ってるのではないでござる! カスミとアオイ殿が里のために働いてくれてたからこそ里のみんなが生活できてたでござるよ!? だからこれを機に四人でこれから忍者をどう繁栄させていくかを考えようと思ってたのでござる……」
もしかしていい話か?
そういうのはこんな小屋でやらずにダンジョン酒場で冒険者たちに聞かせてやってくれ。
酒のつまみには最高だし、みんなのモチベーションも上がりそうだしな。
「ねぇ、話まだ続く? 私たち家帰っていい?」
「え、ここで帰るのでござるか……」
「今いいところなのにでござる……」
聞いてほしいのかよ……。
忍者って本当に面倒だ。




