第四百一話 魔物の死因
落ち込んでる様子のララをマリンが慰めながら、なんとか家のリビングに移動した。
だがララはソファに座ったのはいいが、膝を抱えてうずくまってしまってなにも話そうとしない。
カトレアはお腹が空いてたのか、朝食を取ってきてここで食べ始めた。
さっきちょうど見回りに行ってた魔物たちも帰ってきたので、ダイフクは風呂でみんなに洗ってもらえてるようだ。
砂漠に行ってたせいで砂がいっぱいついてたからな。
「う~ん、まずなんの話から聞いたらいいんだ?」
「順番にいきましょうか。まずサハに着いたところからお話しますね」
カトレアはご飯を食べながら話し始めた。
俺とマリンは食後のカフェラテを飲みながら聞く。
すぐにジェマも起きてきて、ララの様子を心配しながらも話に加わった。
「ふ~ん。じゃあサハはすんなりと魔道化を受け入れたのか」
「はい。元々サウスモナとの仲も良好みたいでしたし、つい二か月前まで船が運行していたマーロイ帝国のナポリタンの町が今どうなってるかということも理解していただいてましたからね」
「話が早くて良かったじゃないか。で、ナミにも行ったのか?」
「はい。サハの国の王様に、ナミの王様の前でも封印結界を実演してほしいと言われたものですから。町の規模としてはサハのほうが大きいのですが、経済的にはナミの国のほうが栄えてるらしくて、いつも意見がぶつかったりするそうなんです」
「国の争いはどこも面倒だな。そんなのに巻き込まれそうなら断っても良かったのに」
「そういうわけにはいきませんよ。あ、ちょっとおかわり取ってきます」
カトレアは再び料理を取りに行ったようだ。
「おはようなのです~」
ユウナが起きてきた。
そしていつものようにソファに寝転がった。
「……え? ララちゃんなのです!?」
ユウナは飛び起きた。
「……ララちゃん? どうかしたのです?」
寝てるとは思わないのか。
「ユウナ、今カトレアが保存エリアにご飯取りに行ったからお前も取ってこい。サハの話を聞いてた最中なんだ」
「え、わかったのです……」
ユウナはララのことを気にしながらも、早足で転移魔法陣部屋に向かっていった。
「おはよ~」
今度はモニカちゃんか。
そしてユウナと同じようにソファに寝転がった。
……ララがいることには気付かないようだ。
「ふぁ~、みんな日曜なのに早いわね」
「カトレアたちから連絡は?」
シャルルとスピカさんも起きてきて、ソファに寝転がる。
これで全部のソファが埋まった。
ユウナが寝てたら誰かは寝転がれなかったってわけか。
上手く被らないようになってるんだな。
「もう帰ってきてますよ。今ご飯取りに行ってます」
「え? そうなの? ……え? ララ?」
スピカさんはようやくララがいることに気付いたようだ。
つられてモニカちゃんとシャルルもララがいたことに気付く。
「ララ!? おかえり!」
シャルルの元気な声が部屋に響いた。
「ララちゃん?」
モニカちゃんはララの様子がおかしいことに気付いたようだ。
「体調悪いのかしら?」
「いえ、オアシス大陸から大事に連れ帰ってきてた動物が途中で死んじゃったようなんです」
魔物って言ったら驚くだろうからな……。
「ただの動物じゃなくて魔物だもん」
「「「え……」」」
ララの発言に四人は固まった。
マリンは魔物だということを知っている。
「まだ赤ちゃんだったからお兄の傍にいれば仲間になると思ったんだもん」
そういうことだったのか……。
「なんで死んだんだ?」
「……かなり暴れる子だったの。まだ赤ちゃんのはずなのに襲ってくるし」
そりゃ魔物だからな。
「だから捕まえたときに安らぎパウダーを溶かした水を飲ましたの」
「「「「……」」」」
なんとなくだがたぶんみんな同じことを想像したはず。
「おとなしく寝てくれてると思ってたんだけど……」
「ララ、それ以上は言わなくていいぞ……」
ララは悪くない。
……とはさすがに言えないよな。
スピカさんはほんの少しだけ気まずそうにしているように見える。
ほんの少しだけな。
「使用する用量には気をつけろって言ったよな?」
「だってちょっとだったんだもん……」
「前も同じこと言ってなかったか? 人間の大人はそれで大丈夫だったかもしれないが、魔物の赤ちゃんには多すぎたのかもしれないだろ?」
もしこれがボネだったら……。
「うん……。魔物だから人間より丈夫だって思ってたところもあるかも」
「飲ませるんじゃなくて火で炙って嗅がせるだけにすれば良かったのに」
「そうだよね……次からはそうするね」
「いや、魔物を捕まえようなんて思わなくていいから」
「でももっといっぱいペッ……お兄の仲間欲しいし」
今ペットって言おうとしなかったか?
「あっ! みんなもう起きてるのです!」
ユウナとカトレアが戻ってきたようだ。
「多めに持ってきて正解でしたね。みんなで朝ご飯にしましょう。ララちゃんも食べないと元気出ないですよ?」
「うん。もう大丈夫。ごめんね、カトレア姉」
カトレアとユウナがテーブルいっぱいに料理を並べると、ようやくみんなが起き上がった。
そして朝食を食べ始めた。
「ララちゃん、きっとあの子はいい魔物にはなりませんでしたよ。それにこんな形で仲間になってもロイス君はあの子のこと可愛がれないでしょう?」
「うん……。魔物のほうからお兄の仲間になりたいと思ってくれないと意味ないもんね」
「そうですよ。だからもっと仲間が欲しいのであればロイス君が自ら出会うしかないんです」
「……わかった。当分の間は諦める」
今すぐ俺に外出許可を出してくれてもいいんだぞ?
俺がここにいる限り仲間が増えることはないんだからな。
かといって魔物が襲ってくるようなところへはできれば行きたくないけどさ。
でもウェルダンはララたちに付いてきてここに辿り着いたんだよな。
メタリンも仲間になるために森にいたゲンさんに相談してたくらいだし。
でもウェルダンもメタリンも俺というよりも俺の魔物たちの影響が強かったんだよな。
それならこれからも魔物たちが見回りを続けていればまた仲間になりたいと思う魔物がやってくるかもしれないのか。
町の外には今まで以上に魔物が増えるわけだからその機会も増えるかもしれない。
俺としても仲間が増えるのは大歓迎だ。
「リスたちはパラディン隊に配属する」
「なに急に? 今の会話にそんな流れあった?」
ララの言うことはもっともだ。
「ウェルダンはさ、ララとユウナがカウカウ牛を捕まえに行ったときに、メタリンを見て人間に興味を持っただろ?」
「あ、そういやそうだね」
「だからもしかしたらそういう魔物がほかにもいるかもしれない。そのとき見回りしてるのがパラディン隊の人間だったら気付かないで倒してしまうかもしれない。それ以前に封印結界の中には入ってこれないからスルーという線が濃厚だ」
「なるほど。リスたちなら話が通じるかもしれないってわけね?」
「あぁ。でもリスたちをパラディン隊に配属するのはそのためだけじゃないし、今決めたことでもない。おそらくあいつらは今以上の戦いには付いていけないと思うんだ」
「……お兄も気付いてたんだ」
「これでも一応あいつらの主人だからな。ってまぁあいつら自身が悩んでるんだよ。ピピやシルバたちがDランクの魔物相手に修行してるのに、自分たちは地下四階の魔物と戦うのが精一杯だってな」
「元々ただの小さいリスなんだからここまで成長しただけでも凄いと思うよ」
「俺もそう思う。今の強さでもパラディン隊になるみんなからしたらリスたちがいることは心強いだろうしな。まぁリスたちは今までとあまり変わらない生活かもしれないが」
でもパラディン隊となるとさすがにウチにいる時間は少なくなるか。
封印結界が魔物から攻撃されると考えたらやっぱり黙って見てるわけにはいかないし。
魔物討伐は冒険者に依頼してやってもらえばいいんだろうが、そんなお金の余裕はないしな。
「でもタルもパラディン隊にするの?」
「ん? そのつもりだけど?」
「う~ん。回復魔法が使えるんだからもったいない気もするよね」
「パラディンでも戦闘はあるんだからそっちで活きると思うが。特にリスたちには率先して封印結界の外で戦闘してもらわないと困るし」
「それはそうだけど、魔物で回復魔道士って人間よりも珍しいからさ。ピピたちといっしょは無理でも、ダイフクとボネといっしょなら大丈夫かもと思って」
タルもダイフクの上に乗せるということか……。
確かにタルがいればララたちの身はより安全になるだろうけどな。
「……わかった。じゃあタルはララに任せる」
「うん! ユウナちゃんに負けない回復魔道士に育てあげるね!」
「望むところなのです!」
ユウナはそんなこと言ってる余裕あるのか?
ララはもう四人パーティになってしまったぞ?
そういやリヴァーナさんたち忍者の里組はまだか?
「あの……そろそろオアシス大陸の報告をしてもよろしいでしょうか……」
あ、完全に忘れてた……。




