第四百話 マリンとの朝食
朝からハードな話を聞いてしまったな。
こんな気分で受付する気になんてなれないし、今日が日曜で良かった。
「あ、お兄ちゃん! どこ行ってたの!?」
「森を散歩だ。面倒だからララには言うなよ」
「言わないけどさ。それよりそのララちゃんから連絡があったよ! サウスモナ駅から魔道列車に乗るって!」
「そうか。ピピに探しに行かせないですんだな」
さっきの話をみんなにもしないといけないのか。
なんだか気が重くなるな。
でもドリュの謎が解けたんだからこれでようやく俺も外出許可が下りるんじゃないか?
ってドリュがなぜ復活して今なんのために動いてるかまではわかってないからララが納得してくれないか。
すんなり皇帝や帝国への復讐のためと思ってくれたらいいんだが。
でも魔王の手先になってたら面倒だよなぁ~。
「どうかした? なんか元気なくない?」
「実はついさっきゲンさんからさ、マーロイ城で会ったあの敵についての昔話を聞いたんだよ」
「えっ!? どんな話だったの!?」
「長くなりそうだからみんなが揃ってからな」
「えぇ~? 私にだけ先に教えてくれてもいいじゃん」
「重い話なんだよ。俺だってそんな話をそう何度も話したくないし」
「むぅ~。じゃあ待つよ」
聞いたことを後悔するかもしれないけどな。
「それよりさ、明日からの週パスのこと、お姉ちゃんからなにか聞いてる?」
「あ……。そういや魔道具の完成報告も聞いてないぞ……」
「やっぱり……。急にジャポングやらサハの件が入ったから完全に忘れてるんだよ」
「今日帰ってきてやるつもりなんじゃないか? コアのデータベースに週パスの項目を追加したり、冒険者カードを少し改修したりする程度だろ?」
「そうだけど、事前に検証がいっぱい必要なんだからね。なにか不具合があったら後処理が色々と面倒なのわかってる?」
「まぁ少しは……」
「もぉっ。お姉ちゃんが帰ってきたらモニカちゃんといっしょにすぐ取りかかるけどさ。宿屋に宿泊してる人の冒険者カードのアップデートは明日の朝ね。今日の夜にでも放送入れといてよ?」
「わかった……」
カトレアに仕事を振りすぎたか。
というか錬金術師たちは帝国の件のときからほとんど休みを取ってないもんな……。
マリンもイライラしちゃってるし……。
「ピュー(ご主人様、喧嘩はダメ)」
「喧嘩じゃないぞ。俺が大事な仕事を忘れてただけだ」
「ピュー(それならもっとダメ。でもマリンちゃんも怒らないで)」
「ん? な~にペンネちゃん?」
「俺をイジメたらペンネが許さないんだからねって」
「え?」
「ピュー! (ペンネそんなこと言ってないよ!)」
ペンネは見るからに否定している。
「お兄ちゃん?」
「……怒るのはほどほどにしてやってくれってさ」
「お兄ちゃん?」
余計怒らせてしまったようだ。
「マリン、朝ご飯食べに行こう」
「……もぉ~」
なんとか誤魔化せたはず。
「ピュー! (ペンネはトレーニングエリアで泳いでくるね!)」
「人にぶつからないようにしろよ。ボネとゲンさんもどこかにいるからな」
ペンネは手がかからなくて楽だな。
掃除もしてくれるし。
そして俺とマリンはバイキング会場にやってきた。
日曜の冒険者たちにしては珍しくみんな早起きだな。
明日からのために今日はトレーニングエリアや図書館で修行するんだろう。
厨房はオーウェンさん、シエンナさん、それにジュリアさんか。
若い従業員が多い厨房だからジュリアさんが馴染めるか心配してたが、意外にすんなり馴染んでるようだ。
まだみんな気を遣いまくってるだろうけどな。
でもストアのバックヤードにはカミラさんやフレヤさんといった年齢が近い女性もいるからそこまで心配することでもないか。
スピカさんも昔からの知り合いだし。
そしてマリンと二人、のんびり朝食を食べた。
俺がウチの従業員の誰かといっしょにいるときには誰も話しかけてこないし、近くにも寄ってこない。
もちろん挨拶くらいはするけどな。
……でも今は近くのテーブルからジーっと俺を見ている人がいる。
明らかに俺になにか聞きたそうだ。
「ソロモンさん、どうかしました?」
俺から話しかけると、ソロモンさんはサッと俺の隣の席に移動してきた。
「その……ヒューゴさんたちの状況はどうなってるか知ってるでありますか?」
「あ~、たぶん今朝にサウスモナに帰ってきてるはずですよ。だから早ければ今日中にはここに来るんじゃないでしょうか」
「そうでありましたか! 良かったであります!」
ヒューゴさんに頼まれて、彼らがサハへ旅立つことはソロモンさんに伝えていた。
「あ、温泉の件ですが、そのうち大浴場エリアに実装できそうです」
「本当でありますか!? 楽しみであります!」
「お兄ちゃん、まだ正式に決定したわけじゃないんだからそういうことは軽々と口にしないでよね」
「すまん……」
「……すみませんであります」
なぜかソロモンさんまで謝らせてしまった。
仕事の優先順位があるとはいえ、温泉くらいすぐにでも実装できそうなのに。
それならドラシーに頼んでやってもらおうか。
……と思ったがマリンが睨んできてるのでやめとこう。
そういやソロモンさんはパラディン隊の試験を受けるんだろうか。
もう試験まであと一週間だぞ。
ソロモンさんに限らず、試験を受けるかどうか悩んでる人にとってこの一週間はどんな気持ちで過ごすんだろうな。
「ではせっしゃはこれで……」
そしてソロモンさんは逃げるように去っていった。
別にマリンはそこまで怒ってないからな?
「お兄ちゃんさぁ、みんなから要望聞いたり、意見を参考にするのはいいけど、実現できなかったらみんなガッカリするんだから途中経過みたいなのは言わないほうがいいよ」
やっぱり怒ってるのかもしれない。
「すまん」
とりあえず謝っておこう。
「今適当に謝っとけばいいやって思ったでしょ?」
マリンにはなんでも見透かされてるようだ……。
「でも温泉はどうしても作りたいんだよ。一日の疲れをリフレッシュするために必要なんだ」
「作らないとは言ってないでしょ。温泉に関してまだ私たちの知識が足りないからすぐにはできないって言ってるだけで。どうせならちゃんとした景観にしたいし」
「そうか。すまん」
「もぉ~。今はまず週パスとサハが先だからね? それが終わったら温泉に着手するからそれでいいでしょ?」
「うん。でも来週の土日にはパラディン隊の試験もあるからその準備も手伝ってくれ」
「あ、そうじゃん……じゃあ温泉はそれ以降だね」
まぁ仕方ないか。
「そろそろ戻ろうよ。ララちゃんたち帰って来ちゃうよ」
そしてバイキング会場をあとにし、リビングへ戻った。
それから三十分後、魔道列車が到着したようなので駅まで出迎えに行く。
するとまずカトレアが降りてきた。
「お姉ちゃん! おかえり!」
「ただいま。疲れました」
「どうだったの!? 早く中で話聞かせて!」
「はい。でもその前に……」
ん?
どうした?
というかララは?
「ララちゃんが……」
「ララになにかあったのか?」
「なにかというわけじゃないんですけど……」
マリンと顔を見合わせ、二人して急いで列車の中へと入る。
するとまず座席の間の通路で寝ているダイフクが目に入った。
……ん?
「なんだあれ?」
「たぶんだけど……ラクダってやつじゃないかな……」
「ラクダ?」
車内の後ろのほうにそこそこ大きな動物が二頭ほどいる……。
まさか魔物じゃないだろうな……。
あ、だから四人用の魔道列車じゃなくて通常サイズの魔道列車を使ったのか。
馬列車を使うのはさすがに面倒だったようだ。
それよりララは?
ダイフクのところに行くと、その隣の座席にララが座っていた。
下を向いてるようだが、寝てるのか?
「ララ?」
「……お兄」
え?
泣いてるのか?
「どうした? 後ろのラクダがこわいのか?」
「……見て」
ララは隣の座席に置いてある毛布をめくった。
「……うぉっ!」
ビックリした……。
そこには小さな動物が横たわっていた。
……これもラクダなのか?
「寝てるのか?」
「……死んじゃったみたい」
「……そうか。とりあえず外に出よう。そいつは俺が運ぶから」
「ニャ~(この子、魔物だって)」
「は?」
なんで魔物の死骸を大事そうに毛布で包んでるんだよ……。




