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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十一章 マナの守り人
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第三百九十九話 精霊の死後

「そのあとドリュの遺体は?」


「ゴ(大樹の傍に墓を作って埋めてやりたかったんだが……)」


 だから『だが』はやめろって……。


「ゴ(皇帝の兄や帝国魔道士が殺害されたということで、王国と帝国が揉めに揉めてな。帝国はとんでもない額の賠償金を要求してきたんだ)」


「え、悪いのは向こうじゃないのか?」


「ゴ(帝国側の主張としては、大樹のダンジョンと友好を深める目的で視察に訪れただけなのに、大樹のダンジョンのやつらがいまだに帝国を憎んでるせいで殺されたに違いない。という意見の一点張りだったんだよ)」


「なんだよそれ……やつらに加担した冒険者たちはなにも言わなかったのか?」


「ゴ(もちろんこちらの味方をしてくれたよ。だがそれも、大樹のダンジョンのやつらが夜中に襲ってくるのを警戒して雇っていた護衛のはずなのに、金だけ貰って裏切るという最低なやつらだ。だってさ。帝国側は、関わった冒険者たち全員を裁くから身柄を引き渡すようにも要求してきたんだ)」


 そこまでいくと笑えてくるくらい最低なやつらだな……。


 でも皇帝はまともな弟が継いだんじゃなかったのか?

 それとも裏で誰かが牛耳ってたのか?

 兄のことが嫌いだったからわざと放置してたとか?

 都合よく死んでくれたし、いちゃもんつけてこの機会に王国から金を貰っとけみたいな?

 皇帝になったらみんな結局同じようになってしまうということなのかもしれない。


「ゴ(王国側もどうしたらいいかわからなくなってたよ。あ、王国側というのは王都の王様たちのことな。だからララシーとルーカスはある決断をしたんだ)」


 ここでどんな決断ができたんだろう……。


「ゴ(考えてみるか?)」


「……いや、続きが気になるからいい」


「ゴ(そうか。二人はな、帝国側に二択の選択肢を与えたんだ)」


 二択?

 しかも与えるって上からな感じが……。


「ゴ(まず一つ目は、精霊ドリュアスの遺体を石化し、大樹の木で作った棺桶に収納したものを帝国側に引き渡す。といったものだ)」


 皇帝の兄を殺した犯人を引き渡すってことか?

 それとも大樹の木でできた棺桶ってところに意味があるのか?


「ゴ(帝国側も真実はわかってたに違いないからな。精霊を怒らせるのも無理はないと思ってたはずさ)」


「精霊の存在は知られてたってこと?」


「ゴ(いや、今と同じで伝説でしか知らない。だがここは神聖な大樹の森だし、ララシーたちが嘘を言うわけないってことくらいはわかるだろうからな)」


 その神聖な森を身内が燃やしたのによく平気でいられたな……。


「ゴ(それに精霊と大樹の棺桶なんてマナが凄そうだろ? 実際マナが溢れてたからな。だからそれを帝都の地中に埋めればきっと町中がマナで溢れるに違いないと言ったんだ。もちろん帝国の連中を殺した張本人の身柄を引き渡すという意味もあったぞ)」


「石化したのはどういう意味が?」


「ゴ(万が一にでもドリュの体が傷つけられるのは嫌だからな。だから石化して、棺桶内部には封印魔法をかけるといった方法を取ることにしたんだよ。帝国側からしても、いきなり動き出されても困るからそのほうが安心だったろうしな)」


 やっぱりみんな優しいな。


 でもこれだけで帝国側は納得するのか?

 向こうは金を要求してたんだよな?

 ゲンさんの話ぶりや今までの流れからすると、この選択肢が選ばれたように思えるんだけど。


「ゴ(次二つ目の選択肢な。こっちは簡単。全面戦争だ)」


「え……戦争?」


「ゴ(あぁ。王国対帝国じゃなくて、大樹のダンジョン対帝国な)」


「いやいや……ゲンさん入れても三人しかいなかったんだろ? ドラシーや冒険者もこちら側?」


「ゴ(冒険者たちは巻き込まない。俺とドラシーには森や大樹を守るという役目があったから、実際にはララシーとルーカスの二人対帝国だ)」


 無茶苦茶だ……。

 本気で言ってたのかな……。


「ゴ(帝国は元々ララシーの魔法をおそれていた。それにルーカスは魔物を集めて今すぐにでも帝国を襲撃できるとホラを吹いた。それだけであっちはもう戦々恐々だ。どうにか一つ目の条件に少しばかり金を付け加えてもらえないかと言ってきたが、それに対し二人は激怒し、じゃあ戦争だなって言ったら、向こうはすぐに引っ込んだよ)」


 強気にも出れるんじゃないか。

 さすが俺のご先祖様。

 少し尊敬してしまった。

 でも遺体とはいえ、仲間だったドリュを引き渡すのはツラかっただろうな。


「ゴ(これでこの話は終わり。王国と帝国の関係が本格的に悪くなったのはおそらくここからだな。王都の王様たちもこの一件があってからは大樹のダンジョンになにも言ってこなくなったよ)」


「ふ~ん。じゃあ今好き勝手できてるのもそのご先祖様のおかげだな」


「ゴ(おい……)」


 俺がのんびり生活できるのもご先祖様のおかげ。

 本当に感謝しないとな。


「じゃあドリュの遺体は帝都の地中に埋まってたってことでいいんだよな?」


「ゴ(あぁ、それは間違いないと思う。だがなぜ復活したかまではわからないし、ドリュの目的がなにかなんてこともわからない。魔王側かどうかもな。魔瘴が関係してるのは間違いなさそうだが)」


「少なくとも完全に人間側ではないだろ? あの場で皇帝たちを殺したのは過去のことを覚えていて復讐したのかもしれないけど、その時点でただの魔物と同じだ。俺たちも攻撃されたわけだし。まぁ記憶があるかどうかも怪しいけどさ」


「……ゴ(でもピピたちは生きてただろ?)」


「それは俺を封印結界から出させるための罠だったってララが言ってるけど?」


「……ゴ(そうかもな。もしくは俺に恨みがあるのかもしれない)」


 その線もあるか。


「どちらにしても帝都が魔瘴に覆われたタイミングで復活したんだから、魔王側と考えて動かないと危険だ。もしまた戦うことになったら俺は全力で倒しにいくからな?」


 俺というか俺の魔物がだけど。


「ゴ(それは当然だ。俺も次こそ俺の手であいつの魂を浄化させてやりたい)」


「じゃあゲンさんも修行しないとな。今のままじゃまたあの魔法にやられて終わりじゃないか?」


「ゴ(そこはいじってくるなよ……俺だって二度目だったんだからさ……)」


 三百年前からなにも成長してないってことだろ?

 とはさすがに言えないな。


「ん? ボネ?」


 俺にくっついてたボネが震えている。


「どうした? 大丈夫か?」


「……ミャ~(私が悪い魔物になっちゃったら、ロイスは私を殺すの?)」


「う~ん、ボネが人間を殺すようなら黙って見てるわけにはいかないよな」


「ミャ! (ヤダ! 私は悪い魔物になんてならないもん!)」


「そうだと助かるな。でもその悪い魔物からしたら人間は全員悪い人間なんだぞ? ボネが悪い魔物になったら本気で人間を殺したいと思うようになるはずだから、俺のことなんてただの悪い人間としか思わないんじゃないか?」


「ミャ! (でもドリュは最期泣いてたって言ってたじゃない! 完全に記憶がなくなったわけじゃないのよ!)」


「う~ん、少しでも覚えててくれるんならこっちも嬉しいよな。でもボネは今人間側なんだから、悪い魔物にならないように努力しないとな」


「ミャ~? (どうやって?)」


「マナたっぷりの食事をいっぱい食べるとか? そもそもドリュは魔物使いの魔物じゃなくて精霊だからな~」


「ゴ(精霊は人間でもなければ魔物でもない。だが人間でも魔物化することはある)」


「え……本当?」


「ゴ(あぁ。まずドリュと同じで、人間に対する憎悪が増すことによって魔物化するパターン)」


 まず?

 パターン?


「ゴ(そしてもう一つは、魔瘴の中で長く暮らすことによって気付いたら魔物化してるパターンだ)」


 え……魔瘴、こわい。


「ゴ(でも前者の場合が多いな。後者はそもそも魔瘴の中で生きられる人間がいない。ちょっとやそっと魔瘴を浴びたくらいで魔物化するわけじゃないし、魔瘴に身体が耐えられずに死ぬ場合のほうが多いし。もし耐えることができても、数年じゃなくて数十年は必要って考えておくといい)」


 考えたくないけどな……。

 今後リーヌの町に行くときとか魔瘴の中を旅することがあるだろうけど、帰ってきたらすぐに浄化魔法をかけてもらうように言っておこうか。


「ミャ~(ロイスといっしょにいれば大丈夫?)」


「当たり前だろ」


「ミャ~(でもロイスが人間に殺されたら私きっと……)」


「じゃあ俺が悪い人間に襲われたときはボネが俺を守ってくれるか?」


「ミャ! (わかったわ! ロイスは私が守るから!)」


 うん、可愛い。


 できれば俺がボネを守ってやりたいが、できないことはしないほうがいいからな、うん。


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