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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十一章 マナの守り人
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第三百九十七話 かつての仲間

 いい天気だ。

 こんな朝は森で散歩……はできないんだった。


「ゴ(俺がララを説得してやろうか?)」


「いいよ。ララの気がすむまで待つから」


「ゴ(先は長そうだな)」


 そんなことはない。

 ……と信じたい。


 こうやって家の前でゲンさんと立ち話をするのも久しぶりだな。

 あのことを聞いてみるか。


「マーロイ城の件だけどさ」


「ゴ(あいつのことか。ドラシーから少しは聞いたのか?)」


「森の仲間だったってことだけは。それ以上はゲンさんが起きてからって言ってなにも教えてくれなかった」


「ゴ(そうか。まだ信じられないんだろうな)」


 ゲンさんだって信じたくないんじゃないのか?

 ……岩だから表情を見てもあまりわからない。


「見た目は人間のようにも見えたけど」


「……ゴ(少し歩くか。俺とボネが付いてるから大丈夫だ)」


「ボネ? ……あ、いつの間に」


 ボネはムスッとした表情で俺の足元から俺を見上げている。

 ほかの魔物たちはみんな見回りに行ってるから寂しかったんだろう。

 ダイフクもいないしな。


「ペンネは?」


「ミャ~(ダンジョン入り口周辺の掃除)」


 本当に掃除が好きだな……。


 そして少し迷ったが、ゲンさんがいっしょならと思い、かなり久しぶりに大樹エリアを出た。


 ……特に感動もなにもないな。


 しばらく無言で歩いた。

 そしてボネは歩くのが嫌になったのか、ゲンさんを登って肩に座った。

 するとゲンさんは話を始めた。


「ゴ(あいつの名前はドリュって言うんだ)」


「ドリュ?」


「ゴ(正確にはドリュアスなんだけどな。なんとなく呼びやすいからドリュって呼ぶようになってた)」


 かなり親しげだった感じだな。

 言葉も通じてたみたいだし、やはり魔物なのか。

 ……もしかして魔物使いとか言わないよな?


「ゴ(ドリュは精霊だ)」


「精霊? ……ドラシーと同じってこと?」


「ゴ(似たようなもんだが、ドラシーは大樹の精霊で、ドリュはこの森の精霊だ。……だったって言ったほうがいいか)」


 森の精霊か。

 ドラシーともゲンさんとも関りが深いわけだ。

 それに精霊なら人間の言葉も魔物の言葉もわかって当然なんだろう。


 というかあっさりドラシーのことも話してくれたな……。


「ドラシーは昔なんて呼ばれてた?」


「ゴ(大樹のダンジョンができてからはコアだが、それまではユグって呼んでたな)」


 大樹がユグドラシルって呼ばれてたからか。


 ドラシーも呼び名をころころ変えられて大変だな。


「で、その精霊ドリュアスがこの森からいなくなった原因は?」


「……ゴ(聞きたいか?)」


 え……そこが重要だと思うんだけど、聞いたらダメなやつか?

 でも聞かない選択肢なんてないだろ?


「……ゴ(あれは大樹のダンジョンができてすぐのころだった)」


 教えてくれるんだ……。


「ゴ(この森が火事になったことがあってな)」


「火事?」


「ゴ(あぁ、マルセールにほど近い場所だけどな。今の冒険者村のあたりか。ドラシーはダンジョンコアも兼ねるようになったばかりだったせいか、森の端のほうの異変をすぐに察知することができなかったんだ)」


「昔はマルセール付近まで察知できてたってこと? 今は大樹エリアだけなのに?」


「ゴ(今のドラシーの能力は昔ほどではないからな。最低期は……言わなくてもわかるな?)」


 え……まさか……。


 普通に考えれば地下一階リニューアル前の、客が全く来ない日が続いたあのときが間違いなく最低だったはずだよな……。

 でも魔力を多大に消費し続けてる今って言いたいのかもしれない……。


 ……深く考えないでおこう。


「ゴ(で、火事の話だが、真夜中だったこともあり俺もドリュも全く気付かなかった。それまでそんなことは起きなかったし、ドラシーに頼りきりになってたせいもあるが)」


「火事の原因は?」


「……ゴ(放火だ)」


「放火? 誰かに燃やされたってこと? 人間? それとも魔物が暴れたとか?」


「ゴ(どっちだと思う?)」


 真夜中なんだよな?

 そんな時間に戦闘をしてるとは考えにくいか。

 魔物が寝ぼけて……いや、ドラシーの力がマルセールまでおよんでたとしたら魔物なんているはずないか。


「人間?」


「ゴ(あぁ。誰がそんなことしたのか心当たりはあるか?)」


 いや、あるはずないだろ……。


 ……でもそれを聞いてくるってことは俺にもなにか心当たりがあるだろってことか?


 まさか昔から神聖な森扱いをしてるらしいマルセールの人間がそんなことするわけないよな。

 でも勝手にその神聖な森に大樹のダンジョンなんてものを作った俺の先祖に対して怒りが込み上げてきたってことは考えられるか。

 つまり俺の先祖が原因ってことか?


 ……でもそれならゲンさんは先に俺の先祖が原因だって言いそうな気もする。

 ほかに考えられることで、俺が知ってそうなことは……。


「もしかして帝国関係?」


「ゴ(そうだ)」


 そうなのかよ……。


 なんだか一瞬で色んなことが思い浮かんでしまった。


「復讐ってこと?」


「ゴ(その通り)」


 やっぱりか……。


 おそらく皇帝を勇者に殺されたことを根に持ってた皇帝側の人間の仕業だろうな。


「ユウシャ村は?」


「ゴ(あっちは大丈夫だったらしい)」


 勇者の娘より勇者の仲間ってことか。

 つまり勇者が殺された場にいた人間、帝国魔道士による犯行か?


「大樹のダンジョンができたのは勇者が死んでからどれくらいあと?」


「ゴ(確か五年くらいだったはずだ)」


 五年か。

 五年経っても殺された恨みがあったってことはよほど皇帝と近しい人物の犯行か?

 そのあとに皇帝になったであろう息子の指示って線もありそうだな。


 って聞いたほうが早いな。


「誰の犯行?」


「ゴ(殺された皇帝の長男だ)」


 当たったようだ……。


「ゴ(順当にいけばその長男が皇帝になるはずだったんだが、皇帝が死んだことで歯車が狂ったらしい。次の皇帝には次男が選ばれたんだが、どうやらその次男はまともな人間だったらしいからな)」


 まるで長男がヤバいやつみたいに聞こえるぞ……。

 実際にこんなところにまで放火しに来てるんだからヤバいやつなんだろうけど……。

 って本人が来たとは言ってないか。


 でも俺の予想では皇帝が放火を指示したと思ったんだが、それとは少し違ったようだ。


「皇帝になれなかった腹いせに放火したってこと?」


「ゴ(まぁそういうことだろうな。大樹のダンジョンができるまではなにもしてこなかったところを見ると、大樹のダンジョンを作ったことがやつを刺激させてしまったのは間違いないと思う)」


 怒りの矛先がこっちに向いたのか。

 それまでなにもしてこなくてもずっと恨んでたのかな。


「ゴ(火はお供で付いてきていた帝国魔道士たち数人が放ったものだけどな)」


 まぁ皇帝の兄から言われたら断れないよなぁ。


「ゴ(どうやらその中には殺された皇帝の側近だった魔道士もいたらしい)」


 その魔道士たちも俺の先祖を恨んでたかもしれないのか。

 もしかしたら皇帝が変わったことによって左遷されてたりして。

 皇帝になった弟がまともなら、前皇帝の考えを支持していた魔道士たちを野放しにしておくはずないもんな。


「ゴ(そして火は瞬く間に拡がり、あっという間にこの森の四分の一近くに火の手が上がった)」


「四分の一……それって結構マズイんじゃないの?」


「ゴ(そうだな。だがドリュとララシー……ララシーってのはお前の先祖の大魔道士だな。それと魔物使いルーカスの魔物の水魔法によってこれまたあっという間に鎮火されたんだ。燃えた木は死んでしまったけどな)」


「……犯人たちは?」


「ゴ(俺と残りの魔物たちですぐに全員捕まえたよ。それで大樹前に連れて行ったんだ)」


「……どうなった?」


「ゴ(どうもしない。そこでやつらになにかすればどこかで必ず憎しみが生まれる。その連鎖をとめるにはなにもしないって方法を取るのが一番だろ? だから事情を全て聞いてから、朝になってマルセールで解放した。もうこんなことはしないって言ってたしな)」


 さすがだな。

 自分たちの怒りさえ抑えられるのであればそれが得策だろう。

 俺でもきっとそうする、いや、できるかはわからないがそうしたいと思う。


「ゴ(だがやつらはなにも反省しちゃいなかった)」


「え?」


「ゴ(その日の夜、また同じことをしてきたんだよ)」


「え……」


 嘘だろ?

 バカなのか?


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