第三百九十五話 Uターンラッシュ
1月3日土曜日、時刻は正午。
南マルセール駅に高速魔船が続けて三隻到着した。
「チュリ(みんな馬車じゃなくて船で戻ってきたんですね)」
「まぁそっちのほうが早いか。ついでみたいなもんだしな」
船にはラスやリーヌに帰省していた冒険者も多く乗っていたようだ。
みんな約一週間振りの再会を懐かしんでいる。
場所は違うが同じ時間に戦ってたことは知ってるから話も余計に弾むんだろうな。
宿屋の帰省ルールでは、ダンジョンへの帰省日は十五時以降の受付じゃないとダメってしてたが今日はまぁいいか。
リョウカたちに伝えないと。
「チュリ(一部の冒険者の姿が見えないようですが)」
「あれじゃないか? ラスの人たちは馬車で王都に寄って冒険者を乗せてくる約束してるとか」
「チュリ(あ~なるほど。それならどれだけ早くても今日の夕方になりそうですね)」
「マッシュ村までの山道がなぁ~。山道じゃなければ魔道列車だってもっと早く開通させてたかもしれないのに」
「チュリ(魔物も出ますからね。だから作業するにしても一般の方には厳しいかもです)」
「そのときは護衛の冒険者をいっぱい雇わないとな。でもサハの次はボワールで、おそらくその次は……なんだっけ?」
「チュリ(スノー大陸のスノーポートの町ですよね? でもそっちはまだ安全なのに、先に開通させていいんでしょうか?)」
「だってボワールから近いし、海だから簡単に設置できそうだし、お客もいっぱい増えるしな。海にまだ魔物が少ない分、魔石による魔力の調達は計算できないかもしれないけど」
「……チュリ(本来の目的を見失ってるような気がしますが)」
「ついでみたいなもんだからいいんだって。それにそのスノーポートには魔道列車を開通させるだけで、まだ封印結界とかの魔道化まではしない予定だしさ」
「チュリ(あ、そうなんですか。それならありです。ついでですしね)」
「だろ? 向こうの大陸から冒険者が来なくても、運搬費が格安になれば魔石の流通量も増えるだろうし」
できればウチに来てもらいたいけどな。
魔力を得る方法で一番効率がいいのは、ウチのダンジョンの中で魔物を倒しまくってもらうことだ。
循環による活性化効果が凄いんだろう。
人間だって自分の魔力総量を増やすために毎日魔力を消費して、回復して、また消費してというのを繰り返してるもんな。
「それより、ボネの能力のこと知ってたか?」
「チュリ? (能力? 封印魔法以外も使えるようになったんですか?)」
「ピピも知らなかったのか。それがさ……」
ピピに念力のことを説明する。
「チュリ(ボネにそんな力が……)」
「レアっぽいな。でもそれ以外はまだ封印魔法しか使えないんだよ」
「……チュリ(もしかして相手が放ってきた魔法などの攻撃も操れたりするんですか?)」
「ん? ……まだ見たことないけど、飛び道具の攻撃ならできるかもな」
「チュリ(もしそうなら防御面は鉄壁ですよね。全部はね返しちゃえばそのまま攻撃にもなるわけですし。守りだけに徹するんであれば封印魔法を使えばいいわけですし)」
「戦闘時に封印魔法は使い勝手が悪いみたいだけどな。魔力も相当使うみたいだし」
「チュリ(まぁ魔法はどう応用を利かせるかが大事になってきますから。ボネの今後の成長に期待しましょう)」
別に成長しなくても可愛いからいいけどな。
「ピィ! (マリンちゃんとモニカちゃん呼んできました!)」
「ユウナちゃんたち帰ってきたの?」
「あぁ、今南マルセールに着いた。それより二人とも少し休憩したほうがいいぞ」
「うん、わかった。ご飯食べたら少しお昼寝するね」
「カトレアたちはまだ?」
「なんの連絡もないな」
「そっか~。カトレアがいないと最終的なテストができないからさ~」
転移魔法陣のテストか。
ドラシーの転移魔法陣でテストしてもあまり意味ないしな。
「あ、ラスやリーヌの冒険者たちも馬車じゃなくて船で帰ってきたんだよ。だからこのあと受付が忙しくなるから悪いけど少し手伝ってくれないか?」
「いいよ~。ご飯食べてくるね~」
マリンとモニカちゃんはバイキング会場に行ったようだ。
「チュリ(いっしょに行かなくて良かったんですか?)」
「ピピたちが見回りに行ってた間にさ、みんなから料理の試作品をいっぱい食べさせられてお腹いっぱいなんだよ……」
「チュリ(ふふっ、活気があっていいですね)」
ヤマさんは南マルセールの寿司屋で出す試作品。
モモ、ヤック、ハナ、アンは公園で出す試作品。
みんな休み明けの昨日は遠慮してたらしい。
だからまとめて厨房エリアでちょっとした試食会を行うことにしたんだ。
公園組も商品が被らないようにするためにお互いの商品を知っておいたほうがいいだろうからな。
「ミャ~! (喉乾いたから早くミルク用意してよ!)」
「なに言ってるのよ? もう少しわかるように話しなさいよ」
ボネとシャルルもダンジョンから帰ってきたようだ。
「ミャ~(ロイス、ミルク)」
「ミルクだってさ」
「あ、ご飯じゃなくてミルクだったのね。ぬるめでいいのよね?」
シャルルもボネの扱いに慣れてきたようじゃないか。
でもこれも今日の午前中で最後だな。
「さっきユウナたちが南マルセールに着いたぞ」
「わかったわ。ダンジョンに入ってたことバレないようにしないと」
一応ユウナは二か月近くもダンジョンに入ってなかったことになってるからな。
それなのに帰ってきたばかりのシャルルがダンジョンに入ってたと知ったらユウナもいい気はしないだろう。
と、シャルルは思ってるようだが、ユウナからしたらむしろダンジョンに入って鍛え直しておいてほしいと思ってるんじゃないか。
「ボネ、楽しかったけど私たちのパーティももう解散ね」
「ミャ~(近距離攻撃の氷の刃だけじゃなくて、遠距離攻撃の氷柱ももっと使ったほうがいいわよ)」
「遠距離からの攻撃をもっと鍛えろってさ」
「なるほど。ボネみたいにとはいかないけど、速度や命中率といった精度をあげないとね」
「ミャ~(わかってるじゃない。でもその前に氷自体の精度も上げなさいよ)」
「まずは氷そのものの質を上げたほうがいいって」
「なんだかララに言われてるみたいね……」
シャルルの氷魔法を利用して攻撃していたボネだから色々とわかることもあったんだろう。
シャルルもボネ用に氷を多めに出したりして、なかなかいいコンビには見えてたけどな。
「それよりご飯はいいのか?」
「ユウナを待ってみるわ。お土産があるかもしれないしね」
お土産を買ってくる余裕なんかないと思うんだが……。
あったら嬉しいけど。
それから十五分後、大勢を乗せた魔道列車が到着した。
アグネスとアグノラは駅で冒険者と馬たちのお出迎えだ。
俺とマリンは受付の準備をする。
と言ってもマリンが冒険者カードを受け取って指輪を発行するから俺は隣で見てるだけだが。
「ただいまなのです!」
「おかえり!」
家の前からユウナとシャルルの声が聞こえた。
ようやく二人の修行も先に進めるんだな。
そして続々と冒険者たちが受付にやってくる。
みんな元気そうだ。
ゆっくり休むことはできなかっただろうけどな。
「ただいま帰りました」
ん?
リビングから声がした。
……あ、エマか。
「おかえり。怪我はないか?」
「はい。できる限りのことはしてきたつもりです」
「ピピとタルから話は聞いた。大活躍だったそうじゃないか」
「大活躍だなんてそんな……。じゃあ私もユウナちゃんたちといっしょにご飯行ってきますね」
「あぁ、お疲れ。今日はゆっくりしてくれ。でもまた新しい話があるから、夜にまた俺のところへ来てくれるか?」
「はい。では失礼します」
エマは玄関から外に出ていった。
そしてシャルルと、既にシャルルから指輪を受け取っていたユウナと三人で小屋へ入っていく。
ユウナは小屋に入る直前、こっちに向かって手を振ってから入っていった。
「チュリ(エマちゃん、相当疲れてますよ)」
ぐったりしてたもんな。
魔力的にも体力的にも精神的にもギリギリな状態なんだろう。
そんなエマに次はすぐにサハの町へ行く準備をしてくれなんてとても言えない……。
やっぱり今日は言うのやめて、明日にしようか。
「管理人さん! 無事に上手くいったよ! ありがとうな!」
「ゾーナさん、お疲れ様です。みなさんも」
今度はパーティ四人でやってきたな。
もうリーヌは安全ということなんだろう。
「それとさ、大樹のダンジョンに行ってみたいっていう冒険者もたくさんいたからいっしょに連れてきた! ラスからの船にも同じような冒険者がいたみたいだ! だから新規の説明頼んだよ! ほら、みんな待ってるから早くな! じゃあアタイらはこれで! あ、今年もまたよろしくな!」
……確かに見たことない人たちがたくさんいるな。
新規が増えることはありがたい。
「チュリ(みんなもやっと帰って来ましたね。まずはお風呂入りたいでしょうから私たちも手伝ってきます)」
「あぁ。頼んだ」
ピピとタルは駅から最後に出てきた魔物たちを出迎えに行った。
さて、俺も仕事をするとしよう。




