第三百九十一話 海中トンネル
ララがカトレアに連絡してから三十分後、みんながウチに帰ってきた。
そして新年の挨拶はほどほどに、リビングで会議を行うことになった。
「あっ、ご飯食べた!?」
「いえ、まだです。先ほど船が来たばかりでしたのでそれが終わってからと考えてました」
「じゃあすき焼き食べる!? 今色々と試作してたところだからここですぐに準備できるよ!?」
「すき焼き……みなさん、食べましょう。ではあちらのテーブルにご移動を」
カトレアも大好きだもんな。
みんなも疲れてるだろうし、食べながらリラックスして聞いてくれればいい。
カトレアのほかにはマリン、モニカちゃん、セバスさん、ジェマ、そして……
「これがすき焼きか~。帝国では食べたことないね」
なぜかバーゼルさんもいっしょに来ていた。
って今日付けで副町長に就任したんだからなにもおかしくはないか。
メアリーさんは南マルセール駅に残ったようだ。
マリンとモニカちゃんは二人とも来れたんだな。
向こうはスピカさんやミランダさんに加えブルーノさんたちもいるから大丈夫ってことか。
「じゃあどうぞ遠慮なく召し上がってください!」
「「「「いただきます!」」」」
男性と女性に分かれてそれぞれ鍋をつつき始めた。
みんな美味しそうに食べるな。
ララは給仕で忙しいので、サハの町の件について俺が説明することになった。
だが俺が説明してる間もみんなは箸をとめることなく、食事を楽しみながら聞いている。
ララと違って驚いてはくれないんだな……。
一通り話が終わると、ようやくマリンが箸をとめた。
「ララちゃん、すき焼きの試作ってなにしてたの?」
そっちかよ……。
そしてララが一人鍋の説明を始める。
「……それは面白いかも!」
そっちにはちゃんと反応するんだな……。
そしてまた食べ始めた……。
「ミャ~(ねぇ、なんだか疲れたからソファで寝てていい?)」
「ん? あぁ、真ん中四つは使うから横のソファでならいいぞ」
ボネとダイフクはソファで仲良く眠り始めた。
わざわざここで寝なくてもいいのに。
……ん?
転移魔法陣部屋からシャルルがやってきた。
「え……みんな、なにしてるのよ……」
みんなで楽しそうにすき焼きを食べてるなんて信じられない。
というような表情をしている。
自分だけ仲間外れにされたと思ったのかもしれない。
「シャルロット様! これは違うのでございます! 今から緊急会議をするところでございましたが、その前に腹ごしらえをしようということになったものでございますから……」
セバスさんは必死に弁明している。
「緊急会議? なにそれ……私聞いてないわよ……」
「え……いや……それは……ロイス様?」
俺に助けを求めてくるなよ……。
「ほら、みんなもうすぐ食べ終わってそっちに移動するからお前は先に座ってろ。……いや、やっぱりジェラードさんを呼んでこい」
「……うん」
シャルルは泣きそうになりながらゆっくり歩いていった。
「あ~あ、お兄ちゃんが仲間外れにしたせいだよ」
「ちょっと忘れてただけだろ……」
シャルルには一応まだしばらくの間は町長という肩書きが付いてるんだもんな。
本人はもう役場に行く気は全くなさそうだけど。
「あの方が王女様ですか?」
「そうでございます……」
「本当にお若いんですね。つい見惚れて挨拶をしそこなってしまいましたよ、ははっ」
バーゼルさんにはシャルルの事情を話してある。
でもジェラードさんのことまではまだ知らないだろうな。
「バーゼル様、実は……」
ちょうどセバスさんが話してくれるようだ。
「なんと……それは素晴らしい。マルセールにとってこれ以上ない町長の誕生ではないでしょうか」
「そう仰っていただけますのはありがたいのですが、なにぶんまだしばらくは見習い期間でございまして」
「その心意気に感動しました。私も懸命にサポート、いや、いっしょにいい町を作っていきたいですね」
さすがバーゼルさん、大人だ。
バーゼルさんが町長で、ジェラードさんは副町長でいいんじゃないだろうか。
それにセバスさんのような年上の人と話すときの口調はより穏やかで、聞いてて心地良ささえ感じる。
そしてシャルルとジェラードさんがやってきた。
「緊急会議ってなにかあったんですか!?」
そういやさっきのシャルルは緊急会議のことよりも、自分に声がかかってないことのほうがショックだったんだよな……。
やはり町長を続けなくて正解だと思う……。
片付けをララとジェマに任せ、みんなでソファに移動する。
そこで初めてシャルルたちとバーゼルさんが互いに自己紹介をした。
セバスさんはその様子をずっとハラハラしながら見ている。
この二人のことは自分の娘以上に心配なんだろうな。
「食後のデザート持ってきたよ! 好きな物食べてね! ドリンクはなににする!?」
う~ん、チーズケーキにしようか。
ドリンクはもちろんホットカフェラテだ。
……みんなも満足気に食べてくれてるな。
でもなぜサハの魔道化についてはなにも言ってこない?
ボワールと勘違いしてるのか?
俺がサハじゃなくてボワールって言ってたのかな……。
「なぁ、俺さっきオアシス大陸にあるサハって国のサハの町について話してたよな?」
不安になったので近くに座ってるカトレアに小声で聞いてみる。
「はい」
良かった。
ってそれならなぜなにも言わない?
そんな魔力どこにあると思ってるんですか?
今はジャポングからの避難者受け入れが最優先です。
近いんですから船で避難してきてもらうのが一番早いし魔力も節約できるじゃないですか。
って遠回しに言ってることに気付けよってことなんだろうか……。
みんなに呆れられてるかもしれない。
「じゃあ回収しま~す!」
みんなが食べ終わったのを確認し、ララがテーブルの上をきれいにしていく。
するとカトレアはテーブルの上に地図を何枚か広げ、ジェマはホワイトボードを用意し始めた。
「こちらがサウスモナの町中の地図です。中央に駅があります。ですのでここから港までは魔道プレートを埋める作業が必要になりますね。上空の魔道線を増強すればできないこともないですが、魔道ダンジョンとなるとやはり魔道プレートのほうが安定感がありますので」
カトレア主導でいきなり会議が始まったぞ……。
「こちらはサハの地図です。今年度の最新版の地図ですので現状と大きく違ってはないでしょう。駅の場所は大体中央で想定しておきましょうか。こちらも港から駅まで魔道プレートを埋めるとして、二人はサハの町全体で必要になる素材の分量の計算をお願いします。高低差はなさそうですね」
マリンとモニカちゃんは紙に数字を書き始めた。
いつも思うが、地図を見ただけなのによく必要な数が計算できるよな。
それだけ地図の精度がいいということなんだろうが。
「地図って誰が作ってるんだ?」
つい聞いてしまった。
「この地図はパルドの錬金術師ギルドが発行しているものです。もちろん調査にも錬金術師が同行しています」
なるほど。
ミランダさんが許可してるとなると信頼もできて当然か。
でも錬金術師ってそんな仕事もするんだな。
今の言い方だと調査する専門の人は別にいるって感じか。
地図職人ってなんだか少しカッコいい。
ウチのダンジョン内の地図も作ってもらおうかな。
って話を俺が完全に逸らしてしまった。
これまでのカトレアの話からすると、俺の案は承認されたって考えていいのか?
「なぁ、誰も反対意見はないのか?」
「あったらのんびりデザートまで食べていませんよ」
「その割には反応が薄くないか?」
「ララちゃんに連絡もらってから帰ってくるまでの間に色々考えましたからね。オアシス大陸のお話ということでしたし、このタイミングと、連れてくるように言われた人物からして、封印結界のことだとは容易に想定できましたから」
「魔道列車は?」
「ララちゃんは緊急だと言いましたし、ロイス君が変なこと言い出したって言ってましたから、それを聞いたマリンは魔道ダンジョンを拡大して魔道列車を走らせる気なんじゃないかと思いついたようです」
「どうやって実現しようとしてるかまではわからなかったけどね! まさか上空を魔道線だけでとは言わないだろうし、橋でも架けるのかなぁなんてみんなで言ってたんだよ!」
な~んだ。
魔道列車のことって気付いてたのか。
それなら驚きも少ないはずだ。
みんなが驚いてくれなくて残念なんて決して思ってないぞ、うん。
でもさすがマリンだな。
俺の考えそうなことをよく理解してる。
「できそうなのか?」
「やりましょう。マーロイやジャポングの人たちの話を聞いてると、他大陸に避難するのをためらって結局来ない人も大勢いるらしいです。オアシス大陸には二つの国がありますし、ナミの国の人たちからしたらサハの国を超えて他大陸のパルド王国に避難なんてハードルが高すぎるかもしれませんし。でもサハの国になら避難してくれるかもしれませんからね」
「魔力は大丈夫なのか?」
「無駄なものに使わなければそれくらいの余裕はあります。それに魔道列車が開通することでオアシス大陸からも冒険者がたくさん来てくれるでしょうから、先行投資という意味で考えるのはどうでしょう?」
「なるほど。なにするにもリスクはつきもんだしな。じゃあやる方向で話を進めよう。海中トンネルが波で流されたりしないように設計を頼むぞ。セバスさん、バーゼルさん、ということでよろしいですか?」
「もちろんでございます」
「あぁ。ロイス君は相変わらず面白いことを考えるね」
面白い?
いい意味だよな?
変なことではないよな。




