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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第二章 大樹のために
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第三十九話 ブランド肉

「最近の人工ダンジョンは凄いんだね」


「ダンジョンも凄いけどそれよりもロイス君が凄いのよ」


 ダンジョンを知らない者からしたらまるで夢物語だろう。


「やっぱり扱いに困りますかね? 遠慮なく断っていただいても構いませんからね。ダンジョン内で食べる施設もあることですから。一応他の肉も見てもらっていいですか?」


 まだ猪肉しか見せてなかったことを思い出し、残りの肉をリュックから取り出した。


「……開けてみてもいいかい?」


「もちろんです。ぜひ調理してみてください」


「……本当だな。この包装には状態保存の魔法がかかってるのか」


「ねっ!? 凄いでしょ!?」


 じっくり確認するように肉の包装を全て開けていく。


「どれもとてもいい肉だな。ミーノ、わかるか?」


「えぇ、これはナラジカね。それにこれは……鶏肉みたいだけど」


「鶏肉は合ってるがこれはただの鶏肉ではなく、シャモ鳥だろ?」


 凄いなおじさん。

 見ただけで鶏の種類までわかるのか。


「はい、さすがですね」


「いや、昔に一回見たことがあっただけだ。そもそもシャモ鳥は数が少ないし、強いからね」


「……私は初めて聞いたわ」


 ミーノさんは自分が知らなかったことにショックを受けたようだ。


「ちなみに卵もドロップします。四個セットで」


「なに!? 卵もあるのかい!?」


「えぇ、こちらに」


 俺はリュックから卵を取り出すと、おじさんは卵を食い入るように見はじめた。


「割ってみてもいんだよね?」


 俺が頷くとおじさんは慎重に卵を割って皿の上に落とした。


「ミーノ見てみろ! この黄身を! ほら! 指でつまんで持ち上げられるぞ!」


「凄いわ! なんなのこの濃厚さは!」


 卵に感動するのはいいんだけど、肉のことはどうなってるんですか?

 買取してくれるのか無理なのか早く答えてほしい。


「……あぁすまないなロイス君。この卵ですき焼きを食べたらどんなに美味いのだろうかと考えたらつい興奮してしまってね」


 その手があったか!

 よーし今日は牛肉いっぱい買って帰っちゃうぞー!


「いえ、で、買取はどうでしょうか?」


「そうだったな……いやちょっと待ってくれ、こっちの肉は……もしかしてブラックオークか!?」


「ブラックオーク!?」


「その通りです」


「バラとロースが五百グラムずつだな。そしてこっちは……ヒレ肉か!?」


「さすがですね」


「昔、南部を旅したときに一度食べたことがあるが絶妙な美味さだった!」


「え!? なによそれ!? 早く食べようよ!」


 ミーノさんは買取のことなどすっかり頭にないようだ。


「まぁ待て。先に買取の話だ。ドロップ率とやらである程度量が制限されてることはわかったし、魔物の強さからもしばらくはそんなに多く持ち込まれることにはならないだろうってこともわかった。この肉ならどれも持ち込んでもらって大歓迎だ。値段もそれなりに高い値で買い取る。これらの肉は他の肉と違いすぎるから競合にもならないはすだ。しかし、一度封を切られる可能性があるってのはなぁ」


 それもそうだ。

 決して衛生的にはよくない環境でしかも冒険者たちが自分たちで食べるために包装を開けた可能性がある物なんて売り物にはしたくない。


「ではこういうのはどうでしょう。買取できるのはこの一キログラムの状態でしかも包装を一度も開けてない物のみ。それがわかるように、この包装にウチのマーク、このビラのこの大樹の絵のマークを魔力で印字します。そしてこの包装が少しでも破られるとマークが消えるようにするというのではいかがでしょうか?」


「おお! そんなことまでできるのかい!?」


「凄いわねそれ!」


「えぇ、できると思います。ウチのスタッフは優秀ですから」


「ならついでになんだが、そのマークと一緒に肉の名前と部位も印字してもらうことは可能かい?」


「はい、可能だとは思いますが?」


 包装は透明だからプロならば見ただけでわかるはずだ。

 しかもウチの肉は数種類しかないから迷うこともないはずなのになんのために印字するんだ?

 魔力の無駄遣いはしたくないんだが……。

 

「ウチは包装した後に手書きでなんの肉かどこの部位かを書いてるだろ? だけどせっかくその魔力の技術があるんだし、大樹のマークも入ってるし、包装もきれいで状態保存までかかってるし、おまけにぴったり一キログラムなんだから、いっそのこと大樹のダンジョンブランドとして売り出したほうが買うほうも買いやすいんじゃないかと思ってさ」


 どこかで聞いた話だな。

 ……ってついさっき八百屋でも同じことを言われたんだった。

 どこもすぐブランド化したがるな。


「いえ、ブランド化とかいうのはやめていただきたいのですが。でもその印字はやらせていただきます。冒険者たちにもわかりやすいですし、ついでに開封したら印字が消える旨の注意書きも書いておきたいと思います」


「魔物の肉なんだから、大樹のダンジョンの魔物ってわかりやすくしたほうが価値が上がると思うんだがな~。野生の魔物の肉より身元がしっかりしてるダンジョンの魔物のほうが安心だし食べても安全なことがわかるだろ?」


 それは考えたことがなかったが、言われてみれば当然のことかもしれない。

 いくら魔物の肉が普通に食べられているといっても、動物の肉の方が安心安全なのは心理として当然ある。

 人を食べた可能性のある魔物の肉なんて食べたくないからな。


 それに安心安全という言葉を出されたら断れないじゃないか。

 ウチのダンジョンのモットーはまさにそれなんだから。


「確かにその通りですね。魔物の肉が得体の知れない肉と思われるのも嫌ですし、売り方はお任せします」


「本当かい!? よし、なら後はウチに任せてくれ! しっかり売ってみせるからな!」


「お願いします。持ち込まれる量が多い場合はご相談ください。調整しますので」


「この肉なら流通量が多いくらいでも問題ないと思うんだけどなぁ。でもブランド価値をわざわざ下げる必要もないか。懇意にしてる宿屋や料理屋で欲しがりそうなとこあるから一度声かけてみるよ。あっ、卵も持ち込んでくれたら助かるよ!」


 わざわざ売り込みまでかけてくれるってことか。

 なんか申し訳なくなってくるな。


 そういや卵もあったな。

 これもリンゴやミカンと同じで殻に印字することにするか。


「ねぇ、一つ質問いい?」


「はい? なんでしょうか?」


「この肉をウチが冒険者から買い取るのはいいとしてさ、それってロイス君になにか得があるの?」


「この肉が売れるとわかったら冒険者たちがそれを目的の一つとしてウチのダンジョンへ来てくれるかもしれないじゃないですか」


「でもそれってダンジョンの入場料? ってやつが入るだけでしょ? しかも50Gだっけ? それなら一定の量を定期的にウチに卸してくれる契約をしたほうがウチも助かるし楽だし、ロイス君の収入としても安定するんじゃないの?」


 ……またこれか。

 同じような説明ばかりしてるな。


「ウチはダンジョン経営が本業ですから。いくら肉に価値があったとしてもダンジョンに人が来なければ意味がないですからね」


「……その理屈がよくわからないんだけどね」


 そりゃわからなくて当然だ。

 でもただ肉や果物や薬草を売るだけならダンジョン農場って呼ばれてしまうじゃないか。

 え? 既にそうなりつつある?

 そんなことはない。

 地下三階が上手くいけば大樹のダンジョンが育成のためのダンジョンであるということがわかってもらえるだろう。

 俺は目立つことなくただのんびりしたいだけだ。


「でもこんなにいい肉を魔物が落とすんなら冒険者のをわざわざ買い取らなくても私が直接行って仕入れてこようかしら」


 ドロップ素材のことを仕入れとか言っちゃってるよ、こわい。


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