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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十一章 マナの守り人

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第三百八十五話 大晦日の夜

 来たか。


 二十一時を少し過ぎたころ、南マルセール駅が急に慌ただしくなった。

 俺とララとシャルルは家のリビングでその様子を見ている。


「みんながジャポングまで行ってるのにここにいると変な気持ちになるわね」


「今のシャルルちゃんが行っても足手まといなんだから仕方ないでしょ」


「わかってるわよ……。今日なんてちょっと動いただけで息切れしたわ……」


「明らかに太ったよね?」


「ララ!? ロイスの前で変なこと言わないでよ!」


「どうせレア袋にウチのお菓子を大量に詰め込んでいってたんでしょ?」


「う……だってすることなくて暇だったし、美味しいからいっぱい食べてしまうのよ……」


「でも体重が増えたほうが力はついていいかもね。ウチの冒険者にはあまりいないタイプだし、特に女性では」


「痩せるわよ! すぐに痩せるんだから見てなさいよ!」


 うるさい……。


「ミャ~(そういやこの子、地下牢で私を見てすぐに状況を察してたわよ。ララとユウナが芝居してる間もなにも言わずに黙って聞いてたし)」


 へぇ~。

 普段のシャルルからすれば騒ぎ出しそうなもんだけどな。


「あっ!? 入ってきたわよ!」


「見ればわかるから大きい声出さないでよ。ダイフクが起きちゃうでしょ」


「……私の部屋にもそのうちダイフク来るわよね?」


「残念でした。ダイフクは私かお兄としか寝たことありません」


「なんでよ!? そんなのズルいじゃない! みんなは文句言わないの!?」


 うるさい……。

 ダイフクは起きるどころか眠れてもいないと思う。


 そんなことより避難者が続々と駅に入ってきてるようだ。


 ……さすがに疲労の色が見えてるな。


 大型魔船での船旅だと約十時間、高速魔船でも約六時間もかかるんだ。

 それに船に乗る前までのほうが大変だっただろうからな。

 船の中では色々と考えることも多かっただろう。

 少し頭の中が整理できてきた今くらいが精神的には一番キツイかもしれない。


 まだ二十一時ということはおそらく高速魔船で来たんだよな?

 待合室に座った人の数は……百人にも満たない程度か。

 ならやはり高速魔船で来たんだろう。


「少ないわね」


「そうかな? 国全体で一万人しかいないんだから、もうその百分の一の人はここにいるんだよ?」


「あ、そう考えたら多いわね……」


 避難に踏み切れる人が半分の五千人として、そのうちの多くの人はまず近場のラスに行くことを選ぶだろう。

 もし魔瘴が拡がってこなければまた国に戻ればいいと考える人も多いだろうからな。


 その中で今南マルセールに来ることを選んだ人は状況をよく理解してる人だと思う。


 もうジャポングには戻れないということや、ラスもまたすぐに同じ状況になるかもしれないと考えたんじゃないだろうか。

 それなら多少遠くても南マルセールに行ったほうが安全だし、同じように既に帝国から避難してきた人たちも多くいる。

 なにより当面の住むところの心配をしなくてもいいし、毎日Pも貰えるからしばらくゆっくり考える時間もある。


 おそらく今日明日で来るのは千人くらいだと思う。

 俺からしたら南マルセールに行くという一択なんだけどな。


「兄様、大丈夫かしら……」


「ウサギと猫がいるんだから大丈夫だって」


「そうじゃなくて、ちゃんと接客ができるのかってことよ」


「……シャルルちゃんに心配されるなんて可哀想」


「どういう意味よ?」


 駅ではメロディさんによる説明が始まっている。

 ジェラードさんはそのメロディさんの脇にジェマといっしょにいるようだ。

 この説明が終わったら色々と質問されたりもするだろう。


「ミャ(ヤマが来たわよ)」


 転移魔法陣部屋からヤマさんが現れた。


「港はどうなってる?」


「あ、ヤマさん! 今ね、第一便が来たところなんです。たぶんエゾかオーエドから直接来た人たちだからヤマさんのご家族はまだ来てないと思いますよ」


「そうか。今日は来ないのかもな。もし来たら夜中でも何時でもいいから知らせてもらっていいかな?」


「はい。って私たちも寝てたらごめんなさい」


「ははっ、そのときはいいからさ。大晦日だから夜更かしするかなって思って」


「明日も普通に営業ありますし寝ますよ。お兄はここで寝ると思いますからヤマさんも気になるんだったらいつでも来てください」


「あぁ、わかった」


 ヤマさんはあっさりと帰っていった。


 というか俺は今日ここで寝ないといけないのか?

 ずっと駅の様子を気にしておけと?


「お城では今頃みんなお酒飲んでるわ」


「大晦日だから?」


「大晦日というか年末年始だからね。大人のみんなは朝も昼も夜も食事のときはたくさん飲んでたわ」


「シャルルちゃんも?」


「私は夕食のときに出るシャンパンを一杯だけかしらね」


「シャンパンかぁ~。ウチのバーでもビールより飲みやすいってみんなに人気だよね」


「そういえばロイスがお酒を飲んでるところってあまり見ないわね」


「お兄はビールの味が苦手なの。シャンパンはサイダーに近いから飲めるんだってさ。めったに飲まないけどね」


 なんでララが答えるんだよ……。

 まぁその認識で合ってるけど。

 でも俺だってもう大人なんだからビールくらい飲もうと思えばガブガブ飲めるぞ、たぶん。


「なんだか少しだけ飲みたくなったから持ってくるわ」


 シャルルは二階に転移していった。

 自分の部屋に酒が置いてあるのか?


「お兄は飲んじゃダメだからね?」


「わかってるよ。カトレアにバレたら面倒だしな」


「なら良し。みんな徹夜になるかもしれないんだからシャルルちゃんにもそこのところしっかり言っといてよ? じゃあ私は寝るから」


「あぁ、おやすみ」


 ララはダイフクを起こし、いっしょに二階に転移していった。

 今日はボネはいっしょじゃなくてもいいのか。


 入れ替わるようにしてシャルルが戻ってきた。


「あれ? ララは?」


「もう寝るってさ」


「そう。子供は早く寝るのが一番ね。あ、ロイスも飲む?」


「俺はいいや。まだみんな働いてるしな」


「じゃあ私一人で飲むからせめて注ぎなさいよ」


 なんでこんなに偉そうなんだろう……。

 しかもみんなが働いてることなんてお構いなしだし……。


 シャルルはおつまみをテーブルに並べ始めた。


「ミャ~(私にもミルク用意してよ)」


 こいつら……。


「ボネもローストビーフ食べる?」


「ミャ~(わかってるじゃない。小皿に入れて)」


 もう似た者同士の二人で勝手にやってろよ……。


 それからシャルルとボネは晩酌を始めた。


 そしてシャルルが昼間のララたちのダンジョンでの様子を聞きたがるので仕方なく話す。

 完全に酒のつまみにされてるな。


「本当にララを乗せた状態で戦えたのね」


「戦うっていうか目の前に来た敵だけをパンチで撃退するって感じだけどな。シルバみたいにミスリルの爪を装備してたけど。でも今日のダイフクはまだ洞窟と草原の散歩をしてるだけのようにも見えた」


「ミャ~(ダイフクもああ見えて色々気を遣ってるのよ。ララをこわがらせたらダメだからね)」


「……最後のほうはララも魔法で攻撃したりしてたな。ダイフク用に作ってもらった防具は馬に人が乗るときにつけるやつを参考にアレンジしたものらしいから、片手を離しても全然大丈夫そうだった」


「ジャジャ丸とチャチャ丸が付けてる馬具もここで作ってもらったらしいわよ。カスミ丸とアオイ丸も前より乗り心地が良くなったって言ってたもの」


「そうみたいだな。だから急に言われてもすぐに作れたんだろう。でも即席の物には違いないから、フランはこれから改良を重ねるって言って防具素材を家に持って帰ったよ」


「せっかくの休みなのに家でも防具を作る気なの? 本当に防具バカね」


「職人にはみんなプライドがあるからな。自分の作った防具を購入してもらって装備してもらうという喜び以上に、その防具で敵からの攻撃を防げるかという不安や心配も常に持ってるんだよ。冒険者のレベルや戦う敵に応じて使う素材も考えないといけないしな。高い防具ほどいい素材を使ってるのは間違いないが、冒険者の懐事情も考慮すると高い物ばかりを使うわけにはいかないだろ? ホルンはそういうことを考えながら日頃の戦闘を見てるんだ」


「……」


 シャルルの手がとまった。

 防具職人がそこまで考えて防具を作ってるとは思ってもみなかったんだろう。


 って少し熱くなってしまったか。

 フランやホルンが苦労してるのを見てきてるからか、シャルルの軽い発言にイラっとしてしまったのかもしれない。


「……私の防具、ユウナとパーティを組んだときに購入したものだけど、地下四階の敵相手では危険なんじゃない?」


「……」


 なにも響いてなかったようだ……。

 自分の防具の耐久性が心配になったのか。


「ミャ~(大物になりそうじゃない。そういうの嫌いじゃないわよ)」


 そりゃボネと似てるからな……。


「お金も貯まってきたし、そろそろ防具を新調しようかしら」


「……そうしろ。武器はユウナがプレゼントしてくれた最高級の槍があるんだしな」


「え、これ最高級なの?」


「おい……ミスリルと魔力プレートを使ってるんだから最高級に決まってるだろ……」


「あ、それもそうね。魔法付与がされてないから少し下に思ってしまってたわ」


 ……それはそうだな。

 確かに今なら魔法槍も可能だ。


「魔法付与してもらうんならどんな魔法がいいんだ?」


「う~ん、風魔法かな? あ、でも今はまだいいわよ。それに魔法に頼りすぎると槍の技術が磨けないとか言われそうだし」


 俺がこのあと言おうとしてたことをよくわかってるじゃないか。

 でも風魔法を選ぶとは意外だな。


「それよりロイス……怒ってる?」


「ん? どこをどう見たら怒ってるように見えるんだよ?」


「今じゃなくて……一昨日のことよ」


 一昨日?


「……ララたちが王都に行くことになったことか?」


「うん……ロイスはブチ切れの激おこって聞いてたもの……」


 そういやそういう設定にしたって言ってたっけ。

 まぁ面倒だと思ったのは事実だけど。


「ジェマの予定では今日魔物たちが王都に行くことになってたって聞いたぞ。冒険者たちが帰省してウチが暇になるだろうと考えたことは良かったが、拘束されて牢屋に入れられたって聞いたらさすがにみんな心配するだろ。カスミ丸はシャルルを拘束したのは第一王子だから大丈夫だとは言ったが、継承問題もあると聞いたし俺たちは第一王子のことを全く知らないから信用なんてできるわけないしな。それにカトレアとスピカさん以外はカスミ丸とすら初めて会ったばかりだったし」


「……そうよね。でもみんなが心配してくれて嬉しいわ」


「一番心配してたのはユウナだからな。すぐに助けに行くって言って聞かなかったんだぞ」


「え、そうだったの……」


「一か月半以上も毎日毎日ずっと待ってたんだから当然だろ。カスミ丸はジェマが上手く交渉するから少し待つように言ってるのに、ユウナは俺に今すぐ行くからどうすればいいって聞いてきてしつこかったんだよ」


 あ、確かに俺あのとき少しイライラしてたな……。

 激おことまではいかないが、怒ってる設定というのもあながち間違いじゃないのかもしれない。


「ユウナに謝らないとね」


「そうしろ」


 この三日間は色々あったせいでダンジョンのことを全然考えてないな。

 というか俺は今ここでシャルルとなにしてるんだっけ?


 ……あ、ジャポングから避難者が来るのを待っているのか。

 待っているというか見ているだけというか。

 外出禁止じゃなければきっと南マルセールの管理室に行ってたんだろうな。


「……まだこんな時間なのになんだか眠くなってきちゃったかもしれないわ」


「酒飲んでるからじゃないか? それに久しぶりにちゃんとしたトレーニングをして疲れてるんだろう」


「……ちょっと横になろうかしら」


「上行けよ。風邪ひくぞ」


「……じゃあ運びなさいよ」


「なんでだよ……」


「だってユウナが寝たら運んでるじゃない」


「それはユウナが本気で寝ちゃってて、一人でここに残すのは可哀想だから仕方なくだろ」


「それなら私が寝たら運びなさいよ」


「今二階に上がれば運ばなくてもすむ話だろ……」


「そういう意味じゃないわよ! もうここで寝てやるからね!」


 シャルルはソファに横になった。

 俺がここにいないといけないのをふびんに思って付き合ってくれようとしてるんだろうか。


 というか夜にジャポングを出たとしても朝まではひとまずラスで待機するかもしれないよな。

 暗い海を無理してまで来る必要はないんだし。

 そう考えるともう今日は船は来ないんじゃないか?

 いっそのこと俺も寝てしまおうか。


 ……ん?

 ララが二階から転移してきた。


「どうした?」


「シャルルちゃん、寝るなら二階に行こっか? 酔っぱらって動けないならダイフクが運んでくれるよ?」


「……大丈夫よ。ロイス一人だと可哀想だから私もここにいるわ」


「そっか。ならお願いね」


 それだけ言うとララは再び二階に転移していった。

 二階まで俺たちの声が聞こえて、俺とシャルルが喧嘩してるとでも思ったのだろうか?


「……ララはロイスのことが好きすぎるのよ」


「ん? 今俺のことが心配で下りてきたのか? でもそう言うんならシャルルはジェラードさんのことが好きじゃないのか?」


「あ……好きか嫌いかで言えばだいぶ好きね……」


「なら兄妹はどこでもそんなもんなんだろう。俺だってララのためならなんでもするぞ」


「……ごめんね。ロイスとララは二人きりなんだから仲良くて当然よね」


 それはそうかもな。

 母さんか父さんが生きてたら俺はここまでララのことを心配したりはしなかったのかもしれない。

 まぁ面倒を見てもらってるのは俺のほうなんだけど……。


「ミャ~(もっと飲ませて早く寝てもらったほうが静かでいいわよ。南マルセールでなにかあったら連絡してくるでしょうし、ロイスも寝ておいたほうがいいんじゃない?)」


「そうだな」


 グラスにシャンパンを注ぎ足すと、シャルルは嬉しそうに飲み始めた。


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