第三百八十三話 執事のようなジェマ
ジェラードさんとジュリアさんは今日一日マルセール観光を楽しんだようだ。
観光じゃなくて視察か?
いや、相当楽しんでたみたいだから観光でいいか。
付き添っていたジェマはくたくたになっている。
「新作の変装セットか?」
「いえ、カスミ丸に借りた物です。あ、でもここの防具職人さんたちに作ってもらった物ですよ? ジェラード様とジュリア様にも変装していただきました」
そもそも周りに騎士がいなければ王子や王妃とは気付かれないんだろうな。
今はまだ顔が知られてるわけでもないし、まさかこんなところで王子様が騎士を護衛に付けずに散歩してるとは誰も思わないし。
散歩じゃなくて観光か。
「南マルセールにも行ってきたのか?」
「はい。住居がある階層にも行ってきました。それと養護施設にも。お二人とも心を痛めておりましたね」
やっぱり観光じゃなくて視察か。
ってどっちでもいいか。
「あ、駅東口から出た付近に建設中の店舗群も視察してきたんですが、ヤマさんたちとお会いしましたよ」
「親父さんたちどんな様子だった?」
「楽しそうでしたね。新しいお店だからワクワクするんだと思います」
「昨日までの数日間は今後の生活が不安で絶望してただろうからなぁ~。じゃあ近くの家とかも紹介してあげたのか?」
「はい。娘さんたちが来てから相談するそうです。でも店舗群の裏の区画にはもう何十件も家が建ってきてるんですけど、マルセール方向にできていく家とは違ってあまり人気がないんですよね」
「駅や店の近くで高いからか?」
「それもありますけど、一番はマルセール中心部から離れていくからだと思います」
「ん? どういうことだ? そこの東口周辺も栄えることになるだろ?」
「やはり魔道列車の道上ではないというのが不安なんでしょう。それに現時点では南マルセールの最南端になりますし、魔物に襲われるなら封印結界の外側に近いところからなんじゃないかと思うらしいです。マルセールにはパラディン隊本部もできますし、治安の面でもそちらに近いほうが安全に決まってると思うのでしょう」
大樹のダンジョンには冒険者もいっぱいいるしな。
普通の人は南マルセール駅から東にも家が建設されていく予定だということを知らなければ、魔道列車用の魔道ダンジョンが既に東の本線まで繋がってることも知らない。
南マルセール駅からの魔道列車はマルセール駅までしか出てないし、魔道ダンジョン内の家だってマルセール駅と南マルセール駅間にしか作ってないからそう思って当然なのかもしれないが。
今度マルセールの西側に大きな公園ができることは知ってるだろうから尚更マルセール寄りに住みたいと思うのかも。
「来週からサウスモナ駅もオープンすることだし、魔道列車も南マルセール駅を通るようにするか」
「え、それはまだ早くないですかね……」
「そうか? ……まぁ確かにまだなんにもないもんな。じゃあ今後はそうなりますよって告知だけしておくのはどうだ?」
「そうしましょうか。それでも売れるかどうかはわかりませんが」
「賃貸でもいいんだろ?」
「もちろんです。でも駅前ですから家賃を設定するにしても高くなってしまうんですよね」
ある意味ウチの冒険者たちも駅前一等地の宿屋に宿泊してることになるな。
「一戸建てばかりなんだよな? 最初から賃貸向けの住居、それこそ魔道ダンジョンに作ってるような宿屋風のにすれば良かったのに。あの場所からだと眺めも最高だろうしな」
「……それなら店舗を作ると言ったときに合わせて提案してくれたら良かったじゃないですか。私だって昨日帰ってきたばかりで久しぶりに港町、じゃなくて南マルセールに行ったんですからね」
「え、あ、そうか……」
ジェマが珍しく少しムッとした……。
そういや一か月半以上王都にいたんだもんな。
そのうえ今日は王子たちの案内をして疲れてる。
このあとはジャポングからの避難者を受け入れるためにまた南マルセールに行かないといけないしな……。
「それはそうと、駅前の店舗の数なんですけど少し多すぎませんか?」
「え? 数店舗だろ?」
「なに言ってるんですか……軽く二十~三十店舗はありましたよ……」
「え……それは俺も知らなかった……」
数店舗分の開業資金なら貸すことができるって話で進めてたよな?
もっと多くても大丈夫ってララが判断したのか?
それとも町が支援することになったんだろうか。
「ただいまぁ~!」
ちょうどララが帰ってきたようだ。
「おかえり。ララ、ちょっとこっちに」
「見て見て! ダイフクこんなに真っ黒になっちゃった!」
確かにダイフクのきれいなクリーム色の毛がかなり汚れている。
ダイフクの上に乗っているボネは……元々黒い毛だからかあまりわからないな。
「先にダイフクとボネのお風呂行ってくるね!」
ララたちはそのまま魔物部屋に走っていった。
「ララちゃんどこに行ってたんですか? あ、ダイフク君の足跡が……」
ジェマはすぐに拭き掃除に取りかかってくれた。
これ以上機嫌を損ねてもいけないので俺も逆側から掃除する。
なんだかこの足跡可愛いな。
でもこれも倍の大きさになるのか……。
掃除が終わり、再びソファに座る。
「そういえばダイフク君も服……服というかあれは防具ですか? 着るようになったんですか?」
「急遽な。今日の昼間にフランに作ってもらった」
「急遽? ではどこか危険な場所に行ってきたと?」
「危険というか、ウチのダンジョンだよ」
「あ、なるほど。ダイフク君とボネちゃんもダンジョンデビューしたんですね。でも急ぎで服を作って貰う必要があったんですか? フランさんお休みですよね?」
「ララが家まで行ってむりやり連れてきたんだよ。ダイフクがララを乗せてダンジョンに入りたいって言ったもんだからさ」
「え……じゃあララちゃん、ダンジョンではダイフク君に乗ってたんですか?」
「そうなんだよ。俺も画面でずっと様子を見てたけど、ララもダイフクたちも魔物をこわがる素振りなんかいっさい見せなかったな。まぁ今日は地下一階と地下二階を隅々まで探索してたって感じだったからそこまで魔物との戦闘は多くなかったけどさ」
さすがに初日から魔物急襲エリアに行くようなことはしなかったようだ。
今日は時間が三時間ほどしかなかったっていうことも理由だろうが。
それにダイフクとボネは初めての戦闘だったしな。
それを考えると明日には地下三階の魔物急襲エリアに行くって言いそうでこわい……。
「良かったじゃないですか、ララちゃん」
「あぁ。ダイフクとボネがララを守ってくれてると思ったら俺も安心して見てられたし。まぁ子猫に期待するのはどうかと自分でも思うけどな……」
「ふふっ、新しいパーティの誕生かもしれませんね」
「次は地下二階魔物急襲エリアや地下三階の敵相手でララが本当に大丈夫かどうかだな。少しでも異変を感じたらすぐに転移させるけど」
「一歩前進したんですからまずは喜びましょう。しばらくは見守ってあげることも大切だと思いますよ」
「でも心配になるだろ。だから明日も……あ、ボネ」
ボネがリビングに入ってきた。
ビチャビチャのまま……。
「ミャ~(ダイフクを洗うのにもう少し時間かかるからロイスに乾かしてもらえって)」
「いいけど、こっちに来るんならせめて足は拭いてからこいよ……」
「水に濡れるとより小さく見えますね……可愛い……」
「ミャ~(そう? じゃあ今日はジェマに乾かさせてあげてもいいわよ)」
「……ジェマ、タオルで拭いてやってくれるか?」
「いいんですか? ボネちゃん、優しくしますからね」
その間に俺はまた拭き掃除だな……。




