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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第二章 大樹のために
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第三十八話 肉屋の娘

「いらっしゃいませー!」


「こんにちは」


 八百屋を出て次に肉屋へやってきた。

 といっても八百屋のすぐ隣にあるのだが。


「あっ、ロイス君いらっしゃい!」


「……どうも」


 肉がいっぱい並べて置いてあるガラスケースの上から声をかけてきたのはこの店の娘ミーノさんであった。

 確か年齢は俺と同じだったはず。


「今日はなんにする!? 少しはサービスするよ!?」


 どうしてこういった商売の人はみんなしてテンション高めなんだろうか。

 そんなに声張らなくても普通でいいのに普通で。


「そうですね、その前に少しお話があるのですが」


「え!? お話!? なになに!? もしかしてデートのお誘い!? う~ん、いいよ!」


「……」


 いいんだ?

 って今のは俺の言葉が足りてなかったな。

 でも誘ったら本当にデートしてくれるのか?


「いや、そうじゃなくてですね、おじさんいますか?」


「え~違うの!? お父さんは奥で手が離せないの!」


「ではおばさんはいますかね?」


「お母さんはちょっと外に出てるの! 私じゃダメなの!? この店にある肉のことならなんでも説明できるよ!?」


「肉のことといえばそうなんですが、少し相談したいことがございまして」


「相談!? もしかして買取とか!?」


「!?」


 なぜ見抜かれたんだ!?

 まだ買取なんて一言も言ってないぞ?

 この子、実はエスパーなんじゃないか?


「あっ、その顔はやっぱりそうみたいね!」


 俺の表情から買取をお願いしにきたことを読み取ったのか!?

 肉屋の娘でありながら実は魔道士でそういう魔法を使ってるのか!?

 となると隠し事はできないってことか。


「実はそうなんです」


「やっぱりそうなんだ! さっきお母さんからね、隣のおばさんと話してたらロイス君とおじさんがダンジョン産の凄いリンゴの買取の相談をしてるみたいっていうのを聞いてたからさ!」


 ……エスパーでも魔法でもなんでもなかった。

 ただの井戸端会議ってやつじゃないか。

 でも本当についさっきのことだぞ?

 それを娘に話しておばさんはまたどこかへ行ったみたいだし。

 まさか言いふらしてるんじゃないだろうな?

 というか俺がダンジョン管理人ということはやはりみんなに知られてるようだ……。


「で、なにを売ってくれるの!?」


「えぇと、そういう話はおじさんやおばさんと話したほうがいいと思いまして」


「なに!? 私じゃダメってこと!? 私にもできるわよ! 解体作業だってできるんだからね!? それなりに素材の見る目もあるわよ!」


 肉屋の娘だから目は確かかもしれないが、さすがにお金の話をするのはどうだろうか。

 俺たちはまだ十四歳で世間からしたら子供だ。

 お互いに説得力がない。

 それに今から出すのは魔物の肉だ。

 もちろん魔物の肉が持ち込まれることもあるだろうが、普通の牛や豚、鶏に比べたら少ないはず。


「そうだとは思いますが、やはり大人の人がいたほうがいいと思いまして」


「なによ!? 私でも大丈夫だって言ってるでしょ!? それに同じ年なんだから敬語はやめてよね!」


 商売の話なんだからこれで問題ないと思うんだが、そういやこの子はいつも俺に対して敬語なんか使ったことないな。

 でもそこまで怒らなくてもいいじゃないか。

 うるさいからとりあえず見せるだけ見せておくか。

 リュックの中から肉を取り出した。


「じゃあまずはこれを見てもらえますか」


「初めからそう素直に出せばいいのよ! あと敬語はやめてって言ったよね!? ……これは……猪肉? ダンジョンてことは魔物だから……ワイルドボアかな?」


「あっ、わかるんですね」


「バカにしないでよね! これくらい見たことあるわよ! ……何回かだけど」


 最後小声だったよね!?

 実は自信なかったんじゃないのか?

 でもワイルドボアだと見抜いたしその目は本物のようだな。


「ぴったり一キログラムあります。どうでしょうか?」


「本当にぴったり一キログラムね。この包装はロイス君がしたの?」


「いえ、ウチのスタッフがやってます」


「透明の包装ってあまり見たことがないけど、なんか違和感があるのよねー」


 違和感だと!?

 ウチのウサギの包装に問題があるってことか!?

 ……じゃなくてもしかして気付いたのか?


「少し開けてみてもいい?」


「もちろん、そちらは見本として差し上げるために持ってきましたから煮るなり焼くなりしてくださって結構ですよ」


「……あれ? やっぱり鮮度がいいよねー。なにか包装に仕組みが……もしかしてこれって……状態保存ってやつかな?」


「おお! わかるんですか!?」


 やっぱりこの子魔道士かなにかじゃないのか?

 魔力による状態保存を見抜くなんて普通ではないぞ?

 しかも採集袋の中のような強力なやつじゃなくて、包装に込めたわずかな状態保存だってのに。


「たまにいるのよ! 仕留めた獲物を雑に解体して持ってくるくせに全体に状態保存の魔法だけはかけてる人!」


「そうなんですか。ですが、この包装に込められてる魔力はわずかですのでそう長くは持ちません。せいぜい二~三日程度ですね。もちろんダンジョン内では完璧な状態保存がかかっていますが」


「……二~三日ってそれとんでもないことなんだけどね。それにしても凄いのねダンジョンって! 私も行ってみたいなー! 最近よく噂で聞くんだよねー!」


 遊びにいくところじゃないんだから軽々しく言わないでほしいな。


「危険なところなのでやめておいたほうがいいですよ。それよりこれの買取はしていただけるんでしょうか?」


「もぉ~っ! そんな買取買取ばっかり言わなくてもいいじゃない! じゃあ切るからね! それから少し焼いてみるから待ってて!」


 そう言って少し怒りながら店の奥に入っていったミーノさん。

 俺はガラスケース内の肉を見ながら、今日はすき焼きにしようかな~なんて考えていると、中からミーノさんとおじさんが出てきた。


「やぁロイス君いらっしゃい! いつもありがとうね!」


「いえ、こちらこそ。いつもレシピ助かってます」


 そう、ウチの肉レシピのほとんどはこのお店のおじさんとおばさんから教えてもらったものだ。

 味が再現できているかは全くわからないが、美味しいから問題ない。


「それにしてもこの猪肉、相当質がいいよ。普通の猪と比べてはもちろん、そこらにいる野生のワイルドボアと比べてもずいぶんいい品質だね。で、これをどのくらいで買い取らせてくれるんだい?」


「あっ、お父さん! そこの交渉は私がするって言ったでしょ!」


「あはは、そうだったな。じゃあ俺は静かにしてるからやってみろ」


「うん! じゃあロイス君、百グラムあたり30Gでどうかな!? 一キログラムだと300Gね!」


 あまり人気がなさそうな猪肉ですらそんなにするのか?

 ここには置いてないようだから参考にはできないけど、さっき今晩のすき焼き用に考えてた牛肉は百グラムで50Gで売ってるな。

 いつも俺はここで一週間分の肉を二キログラム近く買っていく。

 育ち盛りの子供二人だから当然そのくらいは食べるよ?

 それでも足りないくらいだ。

 毎日朝昼晩のどこかで肉は絶対に食べるようにしてるからな。


 カトレアが来てからはさらに買う量が増えたからお得意様といってもいいんじゃないか。

 だが、これからは買う量が減ってしまうな。

 実に申し訳ない。


「えぇ、俺は肉の相場についてはわからないもんですからお任せします。といいたいところなんですが、売りに来るのは俺じゃなくて冒険者たちなんです」


「あっ、そうか! ロイス君と交渉しても意味ないんだった!」


「すまないがどういうことなんだい? ダンジョン産の猪肉とは聞いたが」


 俺はおじさんとミーノさんに、今後ダンジョン内に肉を調達することができるモンスターを四種類出現させること、ただし素材はドロップといった形で運によるものが大きいこと、そのため持ち込まれる量の検討が全くつかないこと、BBQエリアで冒険者たちが食べてしまう可能性があることなど、全てを包み隠さず話した。


 話の内容はなんとなくわかっても、こういったダンジョンの仕組みに詳しくない二人は困惑しているようだった。


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