第三百七十三話 王子様の今後
王子様たちとの顔合わせも終わり、ランチバイキングにやってきた。
……うん、通い組の人たちもいるようだな。
おそらく初めてこの会場に入った人も多いだろう。
でもやっぱりガラガラだな~。
ゆったり食べれるからたまにはこういうのもいいんだろうけど。
「お兄ちゃん……厨房の中からララちゃんが睨んでるよ……」
「見るな。気付かないふりしとけ」
「もう目が合っちゃったよ……」
こんなに大勢で押しかけたら料理を作る量も増えるだろうからな。
あとでたっぷり嫌味を言われることは覚悟しておかなければならない。
「おおっ!? 前より広くなったんだな!」
「料理の種類もだいぶ増えてるみたいね!」
ブルーノさんとキャロルさんはバイキングを楽しみにしてくれていたそうだ。
最近は王都でも食べ放題の店が増えてきてるそうだが、王都だけあってやはり料金が高いらしい。
それに味もウチの料理に比べると……って感じだそうだ。
そりゃウチは特別な素材を使ってるんだから、王都の料理人の腕がいかに良かったとしてもどうにもならないものがあるんだろう。
こんなこと言ったらウチの料理人たちに怒られるか。
「シャル、これはどういう仕組みになってるんだ?」
「メアリー、この料理はなんなの?」
王子様も王妃様も興味津々のようだ。
シャルルとジェマ、セバスさんとメアリーさんはそれぞれ二人がかりで説明をしている。
「兄上……ここまでのものだとは想像してなかったでござる……」
「妹よ……世の中にはまだまだ知らないことがたくさんあるのでござるよ……」
兄妹そっくりだな……。
それから一時間以上バイキングを楽しみ、昼食会は解散となった。
そして一人でリビングに戻ると、ララとユウナがソファで待っていた。
二人の間で寝ているダイフクは肘置き代わりにされているようだ……。
ボネたちも帰ってるのか?
「お兄、早く座って」
「はい……」
明らかに怒ってるな……。
なにから説明すればいいんだろうか。
「ご飯は食べたのか?」
「お兄たちがの~んびり食べてる間にササっとね」
「今は食後のデザート中なのです。忙しくて疲れたのです」
「……」
「簡単にでいいからみんなが来たところから説明して」
「お昼寝したいから簡単にでいいのです」
二人とも疲れているようなので、できるだけ簡潔に説明した。
当然第二王子がウチで働くことに乗り気なことも。
「ふ~ん。いいんじゃない?」
「王子様なのにウチで働きたいなんて変わり者なのです」
「いいのか? ジュリアさんは厨房で働いてもらうとして、ジェラードさんはどうする?」
「駅は? マルセール駅と南マルセール駅とかで案内役でもしてればみんなから顔も覚えてもらえるかもしれないし、後々町長になったときに、あ、あの人第二王子だったんだ!? 駅で地道に働いてた人だよね!? とか思ってもらえるかも」
「あ、それいいな。ウサギたちに見張りをさせてれば安全だし」
「う~ん、王族関係はもう大丈夫だと思うけど、単純にお金目当てで狙ってくる人はいるかもしれないか。でも見せしめのために一度わざと狙わせてもいいかもね」
「おい……ダンジョン内でなにかあったらウチのせいになるだろ……」
「そのためのウサギでしょ。たくさんのウサギの目を掻い潜れるような人なんてそうはいな……あ、忍者だと危険かもね」
確かに……。
あの素早さはウサギでも対処できないかもしれない。
「かといってウサギをすぐ傍に配置するのは変だしな」
「別にいいと思うけどね。……それかウサギ以外で傍にいても違和感がなさそうな魔物を配置してみる?」
「ほかに護衛ができそうな魔物がいたか? 賢いやつじゃないとダメなんだぞ?」
「今色々試してるんだけど、良さそうな子がいるの」
「あっ!? もしかしてマーロイフォールドなのです!?」
「言ったらダメじゃん! お兄をビックリさせようと思ってたのに!」
「ごめんなのです……」
マーロイフォールドか。
それよりララのやつ、またこりずに牧場で猫飼ってるのか。
ボネとダイフクに嫌われても知らないぞ。
「魔道士タイプのほうだよな?」
「うん! 戦士タイプのほうは凶暴性をなくすとすぐ寝ちゃって全く頼りにならないの!」
ダイフク、言われてるぞ……。
「でね、魔道士タイプのほうって防御力が低いせいで普通は人間から逃げるようにしながら魔法を使うでしょ? でもそれが人間を襲わない設定をするだけでなんと、誰にでも凄くなついてくるようになるの!」
「可愛いのです! 触り放題なのです!」
なんだと……。
ボネは俺相手でもたまに嫌がって逃げてくのに。
それを誰に対してでもなつくようになるだと?
ブラウンキャットではそうはならなかったのに?
マーロイフォールド、なんておそろしいやつだ……。
「でもなつくのはいいが、ちゃんと護衛はできるのか?」
「たぶんだけどね。猫同士遊んでる最中に敵に襲わせてもちゃんと魔法で撃退できるくらい敏感だし、遠距離からの攻撃にも魔法で対処できてるもん」
どんな実験をしてるんだよ……。
ただ猫と遊ぶだけじゃ飽き足らず、鍛える方向にいってしまうのはボネやダイフクの場合と同じなんだな……。
「でももし攻撃をくらってしまったらすぐ死んじゃうでしょうけどね。まぁ最初の一撃からさえ守れればあとはウサギたちがなんとかしてくれるでしょ」
「そうだな。じゃあお試しでジェラードさんのすぐ傍に一匹、少し離れたところから見張るように一匹配置してみよう」
「わかった! 魔道ダンジョンの水晶玉にも魔石を吸収させるね!」
みんなに可愛がられることになると思うが、強めに撫でられたくらいで死んだりしないよな……。
「で、みんなは今なにしてるの?」
「あ、そうだ。ジェラードさんとジュリアさんは当面の間ウチに住むことになったんだよ。ウチって言っても宿屋な。だからシャルルやセバスさんたちはそこで荷物整理を手伝ってる」
「お兄、甘い」
「甘いのです。激甘なのです」
「だって二人が住んでみたいって言うんだから仕方ないだろ……しかもシャルルとジェマが宿代払ってでも住ませるって言ってきたしさ……それにどうせウチで働くんだし」
「ていうかさ、シャルルちゃんもいっしょに住めばいいんじゃないの?」
「ダメなのです。なぜなら私も宿屋に移らないといけなくなるからなのです……」
「あ……それはダメ。ごめんねユウナちゃん……」
「いいのです。でも仮にシャルルちゃんが宿屋に移るって言ったとしても、私は従業員だからって言い訳にしてここに残りたいのです……。例えパーティの仲が悪くなったとしてもなのです……」
なんだよこの二人の懇願してくるような目は……。
ララもそこはハッキリとずっとウチに住んでてもいいよって言ってやれよ……。
俺がダメだって言ったら二人の機嫌を損ねることになるんだから答えはわかりきってるだろ……。
「……で、ミランダさんたち三人は錬金術エリアに行って魔道柱や魔道線の錬金を試してるところだ。それでダメならきっぱり諦めてもらう。成功したとしても金額は上乗せしてもらうけどな」
「お兄?」
「無視されたのです……」
「……カスミ丸とアオイ丸はストアにいると思う。今日はウチの宿に泊まって、明日朝一で一度実家に帰るそうだ。あ、船も一隻貸すことにしたから、あとで操縦を教えることになってたんだ。俺も一か月暇だったからつい操縦を覚えてしまったしな、ははっ」
あの二人は器用そうだからすぐ覚えるだろうな。
港がないところでも岸に飛び移ったりできそうだから行動範囲も広がりそうだし。
「ユウナちゃん、お兄のことしばらく無視ね」
「……仕方ないのです。ロイスさんが悪いのです」
面倒だなこいつら……。
「はぁ~……ユウナの好きにしていいっていつも言ってるだろ。それにもうすぐ実家も冒険者村に建つんだし、ここも実家も宿屋も自分の庭のように出入りしていいんだから細かいことにこだわるなよ。シャルルが朝一からダンジョンに入るって言ったらユウナも仕事を気にせずにいっしょに入ればいいし」
「……許してあげるのです」
「ユウナちゃん甘いって。お兄にさ、ユウナとシャルルはウチの仕事をしてないわけだしもうみんなと同じ冒険者扱いにするから出てけってまた言われたらどうするの?」
「でも嫌われるのは嫌なのです……」
「もぉ~。お兄、ユウナちゃんがウチに住みたいって思ってる間はずっと住んでてもいいよね?」
「だからいいって言ってるだろ。でもシャルルだから仕方なかったわけで、三人目のパーティメンバーが見つかってその人が宿屋に住んでるんならさすがにパーティとしてどうかと思うけどな」
「うぅ……そのときは諦めるのです……」
「……見つかったらだもん。まだ今は二人なんだから先のことは気にしなくていいの! 今日は私の部屋でいっしょに寝ようね!」
本当にそんな先のことだと思ってるのか?
リヴァーナさんのことを忘れてるわけじゃないよな?
今は弟のサミュエルを鍛えるために二人でパーティを組んでるけど、最近は地下三階で修行するほどサミュエルは育ってきてるぞ?
もしかするとそのままユウナたちと四人パーティを組んでしまうかもな。
ってそれはないか。
さすがにサミュエルはまだ地下四階の魔物相手には戦えない。
それにリヴァーナさんの考えでは、地下三階魔物急襲エリアで少し戦えるようになったら二人での修行は終わりらしい。
そのあと二人ともそれぞれでパーティを探すそうだ。
もちろんリヴァーナさんの意中のパーティなんて一つしかないだろうけどな。
「……ララちゃんは無理なのです?」
「……ごめんね。今の私にはまだ誰かといっしょに戦う勇気はないの。それが例えユウナちゃんでも。ユウナちゃんは私を守ってくれるだろうけどさ、もし私が原因でユウナちゃんが死んじゃったら私は耐えられないもん。だからまずは一人で戦えるようにならなきゃって思ってるの」
「……わかったのです。でもずっと待ってるのです。四人パーティになったとしても五人目として待ってるのです」
「うん……ありがと……」
……なんだか上手くまとまったようだからいいか。




