第三百七十話 王都会議の報告会
みんなは既に話を聞いたようなので、ララは俺のためだけにもう一度話をすることになった。
俺だって早く温泉のことを言いたいがここは我慢だ。
「……で、第二王子が変にやる気を出してなんだか上手くまとまったからそこで会議室を出たの」
……そんなにすんなりいくとはな。
俺は適当に話の流れを考えただけなのでララの話術によるものが大きかったのだろう。
「いまだに信じられないわよ……まさか大臣が自ら辞任するなんて……」
スピカさんも全く予想してなかった事態になっているようだ。
「あの粉は使ったのか?」
「うん。そのために火魔法使ったんだしね。大臣の目が少し虚ろだった気もするし、きっとあの人疲れてたんだよ」
スピカさんが研究中の粉、なんでも火で燃やしその香りを嗅ぐと心が安らぐ効果があるらしい。
まさに対大臣用に持っていって大正解だったわけだ。
「師匠、大成功じゃないですか。安らぎパウダーとして販売権利取得を目指しましょう」
「そうね。成果が出たことは良かったわ。まだ人では実験してなかったしちょうどいい機会だったわね」
危なすぎる……。
安らぎすぎて意識がぶっ飛んでたらどうする気だったんだよ……。
でも風呂とかで使えるんじゃないか?
……いや、ダメだ。
のぼせる人が増えても困る。
「そのあとの会議の様子は聞いてるのか?」
「うん、夕方にカスミ丸がジェマさんに聞いてきたよ。だから遅くなったんだからね? 遊んでたわけじゃないよ? 買い物はたくさんしたけど、料理の材料とかウチのダンジョンにないものを調達してたんだからね? いっぱい食べ歩きもしたけど、参考のためにだからね?」
王都を満喫してきたようだな……。
たまには息抜きも必要だからまぁいい。
「会議の内容は?」
「何点かあって、まずマルセールの町長の話ね。国王が直接指名してもいいそうなんだけど、第二王子の希望でマルセールの人に委ねたいみたい」
おお?
シャルルと違って本気でやる気がありそうだな。
「もう明日来るんだってさ」
「明日? 早いな」
「シャルルちゃんがすぐ帰りたいみたいだから明日になったんだって。あ、シャルルちゃんのお母さんもマルセールに住むみたい」
「お母さん? って以前王様といっしょに来てたあの人か。そんなことが許されるんだな」
「お城にいても暇なんだってさ。王様は行かせたくなかったらしいけど、みんなに説得されて渋々納得したみたい。あの王様、少し優柔不断なのよね。私も話しててイライラしてきたもん」
俺がマルセール駅で話したときはそんな感じしなかったけどな。
まぁほんの少しだけしか話してないけど。
そういやシャルルのお母さんはあのときもシャルルを心配して、自分もマルセールに住もうかなって言ってた気がする。
「執事もいっしょに来るのか?」
「来ないっぽいよ。セバスさんたちを頼りにしてるんだと思うけど」
「でも城にいたときとは違ってセバスさんたちも役場で働いてるんだぞ?」
「私に言われても知らないよ」
それもそうか……。
「妻には執事として専念してもらうことにします」
「……まぁタイミング的にはちょうどいいかもしれませんね」
「はい。ジェラード様、そして副町長になられるバーゼル様のサポートは私とジェマでさせていただきますので大丈夫かと。それにジェラード様はシャルロット様とは違い……いえ、なんでもございません」
そこは正直に言ってもいいところだと思う。
シャルルより仕事をしない町長なんているはずないし。
「カスミ丸とお兄さんはどうするんですか?」
「私としてはできれば今後もいっしょに働いてもらいたいのですが……。二人ともまだ小さなころから不満一つ言うことなく働いてくれていましたが、もしかすると本当はやりたいことがあるかもしれません。里に帰りたいかもしれませんしね。ですので本人たちの意志を尊重したいと思います」
情報屋はもう必要ないか。
さすがにジェラード王子が国王の座を狙ってるなんてもう誰も思わないだろうし。
「自分は……」
カスミ丸からしたら急に仕事をやめていいって言われても困るよな。
それにこんなことになるなんて昨日まで、いや、今日まで思ってもみなかっただろうし。
「ねぇ、ウチで働かない?」
「え? 自分が大樹のダンジョンで働くのでござるか?」
「うん。魔石の買い付けとかは今後もしてもらいたいしさ。それにウチの従業員になっても今まで通りセバスさんたちからの仕事も受けてくれていいし。お城への連絡係とかもしてくれて全然いいよ。給料も今までより多く出すからさ」
「なんとありがたいお話……即決したいところではござるが、一度兄とも相談していいでござるか?」
「あ、そっか、じゃあお兄さんもいっしょにどうかな?」
「兄もいいのでござるか!?」
「もちろん。パラディン隊で百人以上新しく雇うことになるんだから、従業員の一人や二人増えたところで全然平気だから安心して。それに一般人や冒険者じゃなくて忍者なんだからさ。知り合えただけでも運が良かったと思ってるんだよ?」
「……ララ殿は人たらしでござるな。でも返事は明日まで待ってほしいのでござる」
「うん、いつでもいいよ。従業員が嫌なら冒険者になってもいいからね? たまにウチの仕事を依頼として受けてくれるのもありだから」
「冒険者でござるか……そんな考えもあるでござるのか……」
ララのやつ、カスミ丸のことが気に入ったようだな。
実はさっき俺もセバスさんが手放してくれて少しラッキーと思ったけど。
忍者なんてレア職……レアだよな?
カスミ丸の国にはたくさんいるかもしれないけど、あの素早さは絶対に使える。
パラディン隊の情報収集部門として雇ってもいいかもしれない。
「お兄、いいよね?」
「あぁ。二人に断られたら別の忍者の里に行ってスカウトしてきてもいいと思ってるくらいだ」
「それはダメ。カスミ丸とアオイ丸じゃないとセバスさんたちだって嫌でしょ? だから無理なら仕方ないよ」
「そうか、わかった」
冒険者村の隣に忍者村というのを作ろうと少し考えたが、ララがダメだと言うんならやめておこう。
「じゃあ一つ目の話は終わり」
あ、まだ一つ目だったのか……。
「ここからはまだみんなも聞いてないから。次、王都の封印結界について」
ん?
まさかあの金額に乗ってきたって言うのか?
「あ、でもその前に魔道士ギルドについてね。ギルド長は今日付けでクビになったみたい」
「「「「えっ!?」」」」
なんで急にクビ?
でもそんなに驚くことなのか?
俺は会ったこともないし、話もあまり聞いたことないからなんとも思わないけど。
「その理由として、国からギルドに支給されてるお金の横領、職務怠慢、魔道士としての実力不足などが挙げられたんだって」
最低だな……。
何気に魔道士として実力不足と判断されたのが一番堪えるんじゃないか……。
「横領については大臣が暴露したみたい。その割にあの大臣、自分はお金にあまり興味がないんだって。封印結界実装費用の3000万Gにはめちゃくちゃ文句言ってきたのに」
安らぎパウダーの効果ありすぎじゃないか?
部屋にいたほかの人たちは大丈夫だったのかな……。
「あ、そういやお兄の予想通り、シャルルちゃんが入ってた地下牢の封印魔法をかけた魔道士、元帝国魔道士だったよ」
「へぇ~、やっぱりそうだったか」
「うん。さすがお兄ね。地下牢もただの壁一枚の封印魔法じゃなくて結界だったし、封印魔法勝負するときに封印結界でって言ったらすんなり結界を張ってくれたしね」
封印魔法自体珍しいらしいけど、もし封印結界を張れるとしたらあの本を読んで修行したに違いないからな。
「で、封印結界実装の話だけど、素材だけウチから提供してもらう方向で話が進んでるみたい」
「素材だけ? 魔道柱と魔道線をってことか?」
「じゃなくて、ミスリルとミニ大樹の枝のことっぽい」
「ん? 錬金は自分たちでするのか?」
「みたいね。錬金術師ギルドのレベルアップを図ってるんじゃない?」
「……マリン、ほかの錬金術師にもできるのか?」
「ギルドには私たちの販売権利の資料があるから、元となる素材さえあれば似たような物ができるようになるとは思うよ。でも日々改良していってるし、例え最新の資料を見たところで私たちと同じレベルの物ができるとは到底思えないけどね」
「なるほど」
技術力で負けるはずないって言うんだな?
そういうプライドは好きだぞ。
「じゃあ却下で。と言いたいところだが、試しに少量のミスリルとミニ大樹の枝を渡してみよう。出来上がった物を見て、素材を売るか売らないか決めるっていうのはどうだ?」
「「「賛成~」」」
「ちなみに素材だけだといくらで買うって?」
「1000万G」
「却下で」
「「「「え……」」」」
いくらなんでも安すぎるだろ。
ミスリルはともかく、ミニ大樹の枝の貴重さをわかってるのか?
それに作業費や技術料が2000万Gもすると思ってるんだろうか。
魔道化してあるほかの町村と違って実装したあとの保守費用が貰えないんだから、足元見られてまでまける必要はない。
「封印結界は自分たちでかけるんだよな?」
「うん。帝国魔道士が数十人移住してきてることも伝えたから、魔道士ギルドでその人たちを受け入れて、封印結界専門の部署を作るんだってさ」
「それはいい心がけだな。封印魔法だけに特化して修行すればきっといい結界が張れるようになる」
「うん。ウチの素材があれば効力が倍増するのと維持が比較的簡単ってだけで、別にそれがなくても普通の封印結界自体はかけられるしね。たくさん人数いればどうにかなるでしょう」
「そうだな。やっとやる気を出してくれたみたいだし、封印結界のことはウチはノータッチということでいいな?」
「「「異議なし」」」
月一でエマを派遣することも考えてたが、しばらくは様子を見てみようか。
もしそれまでに魔瘴に襲われたらウチがやらざるを得なくなるけど。
「話はもう終わりか?」
「あ、あと一つだけ」
というかこれって会議内容を盗聴してるようなもんだよな……。
明日みんながなにも知らないフリできるかどうかが心配だ。
「王国騎士隊と魔道士ギルドのテコ入れをしたいから、来月のパラディン隊採用試験の際に便乗させてもらえないかって考えてるんだってさ」
「は? ……同時に王国騎士隊や魔道士ギルドの募集もしたいってこと?」
「そうなるよね。それと……」
「……なんだよ? とりあえず最後まで言ってくれ」
「うん……お兄にね、その……」
俺に騎士隊やギルドの採用まで面倒見ろって言うのか?
さすがにそれは無理があるだろ……。
どんな組織かもあまり知らないんだしさ。
「相談役になってもらいたいみたい」
「相談役? 採用試験の?」
「それもあるかもしれないけど、もっと大きな意味で」
「ん? はっきり言えよ」
「うん……。王国騎士隊や魔道士ギルドの編成はもちろん、国の政治に関することとかも意見を聞きたいんだって」
「「「「え……」」」」
…………却下で。




