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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十一章 マナの守り人
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第三百六十九話 門限破り

「ただいまぁ!」


「ただいまなのです!」


 ……二十時か。


「遅い、何時だと思ってるんだ? 暗くなる前に帰って来いって言っただろ? っておい?」


 俺の話を聞かずに二階に上がっていきやがった……。


 ……ん?


「お邪魔するでござる……」


 また来たのか。

 一日のうちに王都と大樹のダンジョンを一往復半もするとは暇な人だ。


「カスミちゃん、お疲れでしょう? まずは着替えてリラックスしてください。さっ、こちらへどうぞ」


「かたじけないでござる……」


 おい?

 二階に連れてくのか?

 ……ジェマの部屋に泊まらせるつもりなのかな。


「カスミ丸、絶対お兄ちゃんのことがこわいんだよ」


「はぁ? 俺がなにかしたか?」


「したじゃん。カスミ丸やジェマさんが考えた案を、面倒だ……の一言で一蹴しちゃうんだもん」


「だってあれはマリンだってそう思っただろ? なんか俺たちまで悪いことしてるような気になるし、継承権争いのごたごたに巻き込まれそうだし、しかも三日がかりでジリジリ追い詰めるとか言ってたし」


「まぁそうなんだけどね。でもジェマさんは面食らっただろうな~」


 ジェマも短時間でよく考えたよな。


 特にパルド王国を帝国化する案には驚いた。

 王都以外の町村を順番に魔道化していくことで外堀から徐々にしっかり埋めていくというものらしい。


 完全に王都に喧嘩売ってるよな……。

 王都というか王族にというか。


 それほどシャルルたち家族を継承権争いのいざこざから守りたいということであったんだろうが、ただの恐怖でむりやり言うことを聞かせるようにしか思えなかったからな。


 それに暗殺者が手配されて誰かが死にでもしたらそれこそ破滅の始まりだ。

 だから俺は面倒なことはせずにシンプルに手っ取り早く解決したほうがいいと思ったんだが、カスミ丸は明日の午後に出発すればいいとか言ったんだ。


 そもそも俺たちが口を出す問題でもないのに、助けを求めてくること自体おかしいんだからな?

 なんで王族と敵対するような感じにならなきゃいけないんだよ。

 しかも俺の魔物を脅しの手段に使おうとしてたんだぞ?

 そんなの完全に悪者のすることだろ。


 ……まぁシャルルやジェマ、その家族を暗殺者から守りたいっていうことだけには賛同できるけどな。

 実際に昔シャルルは巻き込まれたことがあるんだし。

 だから仕方なく協力することにしたんだぞ。

 たまには俺たちにも感謝してほしいもんだ。


「で、どうだったのかしら?」


 そりゃスピカさんは興味あるよな。

 こんな事態にならないためにシャルルの魔力を隠す手助けをしてきたわけなんだから。


「二人の顔を見る限り、王都をたっぷり楽しんできたんでしょう。だから上手くいったんじゃないですか?」


「そんな簡単にいかないと思うんだけどね。王族の継承権問題は私たちではわからない根深いものがあるから」


 国王と大臣の件とかか?


 まさかその二人が兄弟でしかも国王が弟だとは思いもしなかった。

 王都周辺に魔工ダンジョンが出現したときのことや、帝国の件などの対応を聞いてた限り、大臣に良い印象など一つもない。

 国王が自分では言えないことを代わりに大臣が言って悪役になってるとしても、あまりにもお粗末な意見ばかりで、まるで足を引っ張ってるようにしか思えなかったからな。


「ミャ~(疲れたわ)」


「お、ボネおかえり」


「ボネちゃん、こっちおいで」


 ボネは俺とマリンの間に寝そべった。

 ……本当に疲れてるようだな。

 マリンはボネの背中を優しい手つきで撫でてあげている。


「こんなに長い時間いるなら私もいっしょに帰れば良かったな~」


 モニカちゃんは南マルセール駅にいたからな。

 それにララたちもすぐ帰ってくる予定だったから事後報告になってしまった。


「モニカ、今は我慢しなさい。そのうち長期休暇取っていいから」


「は~い。スピカさんは王都に帰りたくなったりしないんですか?」


「しないわね。って元々この家が実家だし。王都に住んでたことなんてもう頭の中から消えつつあるわよ」


「……年のせいじゃないですか」


「なに?」


「いえ……。あ、ロイス君、お母さんたちここに連れてきてもいいかな?」


「旅行ってことか?」


「うん。魔道列車に乗りたがってたしね」


「え、まだ乗ってなかったのか。ウチはいつでも構わないしモニカちゃんの好きにしてくれていいよ。ウチに泊まるんだったら宿屋も好きに使ってくれていいから」


「うん! ありがとう!」


 自分が帰れないなら来てもらおうということか。

 それでモニカちゃんの気が紛れるなら大歓迎だな。

 両親たちも旅行ができて嬉しいだろうし。


 でもマルセールは宿場町とは呼ばれてるけど、観光名所っぽいところはこれといってないんだよな。

 あくまで王都、ボワール、サウスモナまで行く際の中間地点にあるってだけだ。

 現在進行中の町計画も住居や店舗ばかりだしな。


 その点、ビール村やボクチク村なんかは村の特色を存分に活かしてるよな。


 ビール村はビール製造過程や酒蔵の見学、広大な麦畑を散歩するのも人気らしい。

 現地だと酒も安く買えるし、最近ではその酒を飲むための陶器のコップを買っていく人も増えてるとのことだ。

 だから南マルセールにいる移住者への求人で、陶器職人になりたい人を大量に募集したりもしてくれてた。


 ボクチク村はなんといっても牧場がメインだ。

 動物との触れ合いは子供に大人気だし、大人には乗馬なども人気らしい。

 それに新鮮な肉を使ったBBQも楽しめる。

 ウチでは全く流行ることがなかったBBQだけに少し悔しい……。


「ねぇお兄ちゃん、今日はもう考え事やめたほうがいいんじゃない? 頭おかしくなるよ?」


 なんだと?

 頭を使えば使うほど考えが成熟されていくんじゃなくて、おかしくなるだと?


「いや、ものの例えだからさ……脳も疲れちゃうから休ませたほうがいいよ……」


 確かに今日は昼寝もしてないな。

 パラディン隊の試験内容のことを考えてたらいつの間にか時間が過ぎていた。

 さすがにそろそろ準備しないとマズいから焦ってるってこともあるが。


「あ、もしかしてララたち先にお風呂に行ったんじゃない? なら私たちも行きましょう。ロイスもそうしなさい」


 みんな話を聞くために待ってたのに。

 仕方ない、俺も風呂にしよう。


「ボネ、ピピたちは?」


「ミャ~(帰ってきて真っ先にお風呂に行ったわよ。私はあとでゆっくり入るわ。乾かすの手伝ってよね)」


 魔物たちも風呂が先か。

 きれい好きでいいことだ。

 毎日風呂に入る動物なんて数少ないらしいが。

 そもそも魔物は風呂になんて入らないだろうしな。




 あ、いつの間にか大浴場に来てた……。


 考え事しながら体を洗ってると、無意識のうちに体を洗い終わってるのがこわい。

 今本当に洗ってたのか自分で自分を疑ってしまうよな。


 ……大浴場はガラガラだ。


 まだバイキングの時間中ということもあるが、やはり半分も人がいなくなると寂しく感じる。


「ロイスさん! お疲れ様であります!」


「あ~ソロモンさん、お疲れ様です」


 一人のようなので隣に入らせてもらうことにしよう。


「ふぅ~」


「ここのお風呂、広くて最高でありますよね~」


「やっぱり風呂ではリラックスしてほしいですから」


「温泉とかは考えたりしないでありますか?」


「温泉? 温泉……」


 聞いたことはあるんだが、大樹の水を使った風呂があるんだからそのほうがいいだろって思ってすぐに興味がなくなったあの温泉か?

 でも今のソロモンさんの言い方だと、温泉のほうがいいに決まってるであります、とか思ってるような感じだったよな……。

 ここは慎重にいくべきか。


「あ、難しいでありますよね……」


 やはり温泉のほうが上だと思ってるってことか?

 今大樹の湯に浸かってるというのに、それでもなお温泉のほうが上だと言うのか?


「実はせっしゃ、温泉が大好きなのであります」


 ん?

 カスミ丸がせっしゃって使ったほうがそれっぽいよな?

 せっしゃとござるって相性良さそうだし。


「帝国には三つの町に温泉があり、それぞれの温泉で違った効能があったのであります。せっしゃも巡回という帝国魔道士の業務でよく地方に行ったでありますが、温泉がある町に行く際は毎回とても楽しみにしていたでありますよ」


 それは自分の家の風呂と比べてたからだろ?

 今は大樹の湯に浸かってるんだぞ?

 これを素晴らしいとは思わないのか?


「……ロイスさん?」


「え? ……帝国のどの町に温泉があったんですか?」


「まずなんといっても帝都マーロイであります! そしてベネットにミランニャ、これら三つが三大温泉地と言われてたのであります!」


 テンション高いな……。

 そこまで温泉に魅了されてたのか。


 ……そろそろ聞いてみるか。


「この大樹の湯はどうなんでしょう?」


「とても澄んでいてきれいであります。体の内部から浄化されていくような清々しささえ感じるであります」


 そうだろ?

 温泉なんかに負けないだろ?


「でも……」


 でもだと?

 どんな不満があるって言うんだ?


「体の芯から熱くなるようなものは感じないであります。大樹の水をいつも飲んでるからかもしれないでありますが、体が慣れきってる湯というか……」


 なんだと……。


 そうか、それは確かに考えたことがなかった。


 毎日朝から晩まで大樹の水ばかりだと体のほうも自然と飽きてくるんだろう。

 つまりただの普通の水としか感じなくなるんだ。

 俺は大樹の水に変に誇りを持ってるせいでこれが一番だと思い込んでただけなのか。


 そりゃ毎日同じ料理を出されたらどんなに美味しい料理でも飽きるもんな。

 少しくらい美味しくなくても別の料理が食べたいって思うだろうし。


 しかも今回の件に至っては完全に俺の食わず嫌いだ。

 毎日同じ料理を食べることになんの疑問も持たなかったなんて自分でも信じられない。


 って風呂と料理を同じものとして考える必要はないんだろうが、実際にソロモンさんは別の湯を欲している。

 この状況を放置するわけにはいかない。


「もう少し詳しくお聞かせ願えますか?」


「え、はいであります……」


 それからしばらくソロモンさんの温泉に対する熱い想いを聞いた。

 温泉好きはほかにもいたようで、続々と人が集まってきた。

 どうやら帝国では温泉が観光名所の一つとなっていたらしい。


 そして偶然にも温泉マニアがいたではないか。

 しかもその人はミランニャの町にある温泉の湯を小瓶に入れて持ち歩いていると言う。

 どうやら帝国に魔工ダンジョンが出現した際、ミランニャの冒険者ギルドに避難を伝えるために行ってたらしく、おそらくもう訪れることはないであろうミランニャの温泉の湯を記念に持ち帰ってきたそうだ。

 よくミランニャから生きて帰ってこれたなとも思ったが、数十人はどうにか避難に成功したらしい。


 ってそれより今は温泉のことだ。

 あとでその小瓶の温泉の湯……もうただの冷たい水かも知れないが、少し譲って貰えることになった。


「おい!? 大丈夫か!?」


「早く出せ! ウサギさん! お願いします!」


 少し長湯をしすぎたか……。


 のちほどバーで落ち合う約束をして大浴場を出る。

 有意義な時間になったな。


 って完全に忘れてた……。

 急いでリビングに戻らないと。


「お兄! 遅すぎる!」


「すまん……実は温泉マニ……え?」


「ロイスさまぁ~! うぅ……ありがとうございます……うぅぅ」


 ……どんな状況だ?


 セバスさんとメアリーさんは号泣しているようだ。


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