第三百六十三話 第一王子の苦悩
一気にテンションが下がったわね。
なんの話をしてたのかも忘れちゃったわ。
……あ、パラディン隊の話の途中だったじゃない。
「ジェマはパラディン隊のことについてはどうやって脅してきたのよ?」
「え、それはだな、王国騎士隊の部屋にも募集のビラを貼りました。王都に住めるということを除けば条件はどれも騎士隊よりいいはずですし、なにより強くなれます。それにパラディン隊はマルセールだけじゃなく近隣の村にも配置する予定で、希望があればサウスモナやボワールの町に配置することも検討したいと思います。つまり規模はかなり大きなものになります。あ、ちなみにボワールまで魔道列車が延伸することは決定済みです。っていきなりそこで魔道列車がボワールに延伸することを知らされたんだよ……」
本当になにも知らないのね……。
リアムお兄様の情報屋はどうなってるのかしら。
「そのうえ、この際魔道列車が開通してる地域だけで国として独立するのもありかもしれないですね。このまま北はラス、南はリーヌまでぐる~っと魔道列車を延伸していきましょうか。……あ、そうなると独立したのは王都のほうだったってことになりますか、ははっ。って追い討ちをかけてきたんだよ……」
残酷ね……。
私はジェマ側で良かったわ。
「俺たちはただでさえ帝国からの移住者によって人口が増したマルセールの独立を懸念してるんだよ。だからこそシャルとはこの一か月半もの間慎重に話し合いをしてきてただろ? 大樹のダンジョンさえなければ勝手に独立してろって言えるかもしれないけどさ」
「だからって大樹のダンジョンを目の敵にしないでよね? それじゃ魔王と同じよ?」
「わかってるよ。継承のことなんかよりこの国を守ることが大事だってこともわかってる。でもなにもできないんだよ。というよりなにをすればいいのかがわからない……」
「なんで弱気になるのよ……第一王子がそんなんじゃ国民が不安がるでしょ」
「もういっそのことシャルが次期国王に名乗りを上げたら全てが上手くいくと思う」
「嫌よ。それに私ができるならお姉様たちもやりたがるでしょう? そうなったらさらにドロドロの継承権争いに発展するわよ?」
「そうだった……あいつらはダメだ……権力に溺れるのが目に見えてる」
リアムお兄様はなにしにここに来たのよ?
ただ愚痴を言いたかっただけじゃないでしょうね?
「ジェマの話は? もう終わり?」
「……最後に、今後ともシャルと友好な関係を続けたいのであれば最初に言った条件を全て飲むこと、それ以外は全て交渉決裂……だってさ。こっちの条件など聞く耳を持たないんだぞ? 酷くないか?」
「どんな条件なのよ?」
「この国にある全ての町、村への魔道列車開通と封印結界による保護、シャルのマルセール町長の継続、これだけだよ。できるだけ早急に頼むとは言ったが」
「全ての町村って無理に決まってるでしょ……どれだけの作業と魔力が必要になるかわかってる? それに私のことを条件に入れるのはジェマの要求を真っ向から否定してるじゃない……」
「セバスやメアリーはもう俺たちの言うことを聞かないんだよ……。帝国の件を協力しなかったことでかなり不信がらてるのはわかるし、帝国民を見捨てたと思われても仕方ないんだけどさ……」
「そう思うのなら最初から助けておけば良かったのよ。サウスモナの町長にまで嫌われてるらしいじゃない? この調子じゃボワールもマルセールを頼りにするでしょうね。魔工ダンジョンが出現したときも王都じゃなく大樹のダンジョンに救助依頼がいってたらしいし」
「……ボワールとサウスモナを入れた西部地方だけで独立するって言われても当然だと思うか?」
「えぇ。移住者がたくさん来て困ってるのに、町に資金提供もしないで税金だけ徴収してる国になんか誰が住みたいと思う? ボワールとサウスモナはマルセールへの資金提供に加え、移住者のための住居や雇用のことまで協力してくれてるのよ? だからこその魔道列車延伸なんだからね?」
「……シャルも町長らしくなってきたじゃないか。たった半年でずいぶん変わるもんだな」
「今の私には時間がいくらあっても足りないの。魔王と戦うときに後悔はしたくないからね。だから町の仕事はセバスたちに任せて私は冒険者として生きることにしたのよ。それが結果的に町や国を守ることに繋がるんだから」
「……」
ようやくわかってくれたかしら?
リアムお兄様は私のことずっと子供扱いなんだもの。
もう私だって十八歳なんだからね。
「ねぇ、ずっと聞きたかったんだけど、なんでそんなに国王になりたいの?」
「……第一王子だからかな。国王になることをみんなから期待されて育ってきたんだ。俺が国王になれたとしてもただみんなより先に産まれたからってだけの理由だ。正直、ジェラードが国王になりたくて、みんなから選ばれるんならそれでもいい。あいつなら上手くやれると思うし、俺も手伝えることはなんでもする。でもな、俺のほうからどうぞどうぞって譲るってことだけはできない。それをしてしまうと俺の人生を全て投げ出してしまったような気になると思うんだよ」
第一王子が一番ツラいわよね。
第二王子以下はみんな同じ境遇のようなものだし、最初から国王になれるなんて期待してないもの。
ジェラード兄様も、リアムお兄様が国王になったら自分は大臣になると思うって昔から言ってたし。
「……でもお父様は第二王子だったのにどういう経緯で国王になったのかしら? タイロン大臣が譲ったわけじゃないの?」
「単純に国王としての器の問題だよ。今の大臣を見てればわかるだろ? 父さんの足を引っ張ることや、自分のことしか考えてない。それになにも言えない俺や父さんも同罪だけどな」
「ふ~ん。ならリアムお兄様が国王になっても今の状態とたいして変わらないんじゃない? 足を引っ張る大臣がいなくても、継承権争いのことなんか考えてる時点で器が小さいのよ」
「お前なぁ……俺も少し気にしてることをそこまではっきり言うなよ……」
「やっぱり私が国王になったほうがいいかもしれないわね」
「おい……ってみんなが望むのはシャルだろうがな」
「あ、私はただのお飾りよ? 喋るお人形のようなものね」
「は? そんなんで国王が務まるわけないだろ……」
「大丈夫よ。ロイスがいればきっとなんとかなるもの。それに私にはセバスたちもいるんだからこわいものなしよ。でも大臣にはリアムお兄様がなってよね」
「……実質ロイス君が国王みたいなものってことか。そこまでシャルの信頼を得るとはたいしたもんだ」
「当然よ。リアムお兄様もロイスに会えば器の違いがわかるわよ」
「……」
あ、落ち込んじゃったみたいね……。
少しからかいすぎたかしら?
でも少しくらいはいいわよね。
次にこんなやりとりができるのも当分先になるかもしれないんだし。
「冗談だから本気にしないでよね。私は国王なんかより冒険者を選ぶわ。それにロイスには魔物使いというお兄様以上に大事な宿命があるんだからね。国王なんかちっぽけすぎてロイスの頭の片隅にもないわよ」
「……シャル、お前は心が強くなったな。それになんだか穏やかになった」
「マーロイ城の話覚えてる? あれ、実は私もあの場にいたの。帝国の皇帝や第一皇子が死ぬ瞬間をこの目で見てるのよ。そして次のターゲットは私たちになり、封印結界でも防げないほどの威力の攻撃魔法が飛んできたとき、ロイスやロイスの魔物たちが封印結界の前に飛び出して身を呈して守ってくれたの。じゃなきゃきっと死んでた。で、一瞬ホッとしたあと、すぐにハッとしたの。ロイスはかなり吹っ飛ばされてたから死んじゃったかもって。幸いにも全治二か月ほどの怪我ですんだけど、私はそれからずっと後悔の念に駆られて仕方ないのよ」
「……そうだったのか。その……なんて言ったらいいかわからないが、ツラい経験をしたんだな……」
「うん。私の仲間も私の帰りを待ってくれてるはずなのよ。たった二人だけのパーティなんだからね」
「ユウナちゃんか。王都近くの魔工ダンジョンを討伐してくれたのも彼女なんだよな。早く戻ってやらないとな」
「まぁユウナはユウナで今は私がいないほうが修行に集中できていいかもしれないけどね。魔道士ってね、ただ戦闘してれば強くなるってわけでもなくて、魔法の勉強もちゃんとしないと成長しないのよ」
「へぇ~。あ、氷魔法だっけ? ちょっと見せてくれよ」
「いいわよ。えっと槍は……あったあった」
「おい……今どこから出した? ……ん? なんだあれは…………猫か?」
「猫?」
……あ、本当だ。
部屋の入り口のほうから歩いてきてるあれは猫ね。
…………え?
なんで猫がこんな地下の牢屋に?
「まだ子猫じゃないか。どこかの壁の隙間から入り込んでしまったのかもな。あとで確認させとくか」
「子猫? ……あ」
「ミャ~」
「親猫は近くにいるのか? まだこんなに小さいのに可哀想に……」
「……」
クロロ?
じゃなくてえっと確かララが付けたお菓子の名前の……ボネだっけ?
ボネよね?
少し大きくなってるけどボネに間違いないわ。
耳も折れてるもの。
「ミャ~」
「ん? あ、そっちはダメだ。出られなくなるぞ」
「……」
まさかこんなに早く助けに来てくれたの?
カスミ丸がマルセールまで行ってくれたってことよね?
「あ、こっちは封印魔法がかかってるから来ちゃダメだってば!」
「ミャ!」
「え……」
なんか怒ってるわね…………って、え?
消えた!?
封印結界が消えてるわよね!?
……もしかしてこの子、封印魔法が使えるの!?
「リアムお兄様、この子……」
「ボネちゃ~ん、どこ行ったのです~?」
「ボネ~? ここは悪い人がいるところだから危ないよ~?」
え……この声は……。




