第三百五十九話 怪しい人物
ボネによると、管理人室のすぐ外に誰かいるらしい。
しかも中を窺うように聞き耳を立ててるときた。
受付に来た冒険者ならそんなことせずに窓のほうに来るはずだもんな。
その人物はかなり怪しい行動をしていることには違いない。
「あ、そうでした。私はこのことをロイス君に伝えるためにここに来たんでした」
「このこと? ……おい!? 待て!?」
カトレアはソファから立ち上がってドアの傍に行き、そのままドアを開けた。
「……おはようございます。こちらの指輪をはめて、表の玄関からお入りください」
なんだと?
知り合いか?
俺も立ち上がって外を見てみるが、そこにはもう誰もいなかった。
「誰なんだよ?」
「紹介しますから。私たちもリビングに移動しましょう」
促されるがままに俺とボネとダイフクはリビングに移動……
「えっ?」
ソファに知らない人が座ってる……。
もしかしてもう玄関から入ってきたのか?
全く音もしなかったよな……。
というか服からしてかなり怪しい……。
「ミャ(ダイフク)」
ボネがダイフクに声をかけた瞬間、客人に向かってダイフクが飛びかかった。
「おい!? ってあれ!?」
消えた!?
ダイフクはソファの背もたれに突っ込み、ソファは無残にも壊れた……。
それよりどこに消えたんだ?
「ミャ! (上よ!)」
上?
……あっ!?
天井に張り付いてるのか!?
どうやってるんだろう?
そしてダイフクは天井に向かってジャンプする。
……また消えた。
「ニャ!?」
ダイフクは天井に激突し、壊したソファの上に落ちた。
さすがに天井は無事のようだ。
一方、客人は何食わぬ顔で別のソファに座っている。
「ミャ! (こうなったら私が!)」
「ボネ! ダイフク! やめろ! 」
「ミャッ!?」
ボネを強引に抱える。
……少しおとなしくなってくれたようだ。
カトレアはダイフクの元に行き、怪我がないかどうかを確認してる。
ボネをソファに降ろしたが、ボネは客人を睨みつけている。
尻尾の太さがいつもの倍くらいに膨れ上がってないか?
っとまずは謝っておくか。
「急にすみませんでした。お怪我はありませんか?」
「……」
なぜ無言?
落ち着いてるように見えて実はこわかったとか?
「身のこなしが軽いですね。冒険者の方ですか?」
「……」
この服の柄、迷彩柄って言うんだっけ?
上から下まで全身迷彩柄っていうのは初めて見たかも。
というかフードをそんなにきつきつに被って苦しくないのか?
髪が完全に隠れててはっきりとは顔がわかりづらいが、たぶん女性だよな?
「カトレア、そろそろ紹介してくれ」
「はいはい。その前にダイフク君もボネちゃんもお客様に謝ってください」
「ミャ~!? (なんで私が謝らないといけないのよ!? 怪しい人物がいたら身動きとれないように拘束しろってララから言われてるんだからね!?)」
確かに怪しいもんな……。
さっきの身のこなしやこの服装といい、まるで森の中に隠れてスパイでもしてそうだ。
「怪しい人は拘束するようにララから言われてるんだって」
「怪しい人を家に入れるわけないでしょう? ほら、悪いことをしたら謝るのが魔物です」
そんなの初めて聞いたぞ……。
「……ミャ~(わかったわよ。……ごめんなさい)」
「ニャ~(ごめんなさい)」
「ごめんなさいって謝ってます」
「……」
怒ってるのか?
その割にさっきから表情が全く崩れないな……。
「はい、じゃあお茶にしましょうね。ロイス君も座ってください」
カトレアはキッチンでお茶とお菓子の準備をし始めた。
ボネとダイフクはテーブルの上に乗って客人から目を離そうとしない。
毛が逆立っているところを見ると、まだかなり警戒をしているようだ。
「大丈夫だから落ち着けって。それとテーブルの上に乗るなっていつも言ってるだろ? お茶も置けないから早くこっちに来い」
……それでも動こうとしないので、まずはダイフクを抱え……重い。
次にボネを抱え上げ俺の横に座らせる。
そしてカトレアを待つ間、しばし無言の時間が流れる。
それにしてもこの人、なに考えてるか全く読めない。
さっきから俺、ボネ、俺、ダイフク、俺と、目だけを動かしてる。
怪しさだけがどんどん増してくな……。
「お待たせしました」
カトレアは客人の隣に座るようだ。
もしかして友達なのか?
「では紹介しますね。こちらはカスミマルちゃんです」
カスミマル?
変わった名前だな。
「……」
「初めまして。ダンジョン管理人のロイスと申します」
「……」
だからなぜ無言?
人と喋るのが苦手ってことでいいのか?
そういう人の対応にはそれなりに慣れてるつもりだからまぁいいけど。
「カスミマルというのは仕事上の名前で、本当の名前はカスミちゃんです。カスミちゃん、こちらの黒い小さな猫がボネちゃん、クリーム色の大きな猫がダイフク君です」
「……」
仕事上の名前?
カスミマルのマルって、ユウナがダイフクに名前を付けるときに言ってた猫丸みたいなもんか?
というかさすがに猫の紹介はいらないんじゃないだろうか……。
それに猫じゃなくて魔物だって紹介しろよ……。
「冷めないうちにお飲みくださいね。……あ、もうフード取ってもいいですよ?」
取るのか?
取って大丈夫なのか?
……取った。
……黒髪ショートカットの可愛らしい女性じゃないか。
身長はララと同じくらいかな。
でもこの女性があんな動きをするのか……。
「ふぅ~。ダイフクどの、なかなかの動きだったでござるよ」
「は?」
「ロイスどの、こうやって面と向かって会うのは初めてでござるな。改めて、カスミ丸ことカスミでござる。いつもお世話になってるでござる」
「……」
なんだよこの話し方……。
ござるが気になって会話が頭に入ってこない……。
「お菓子もいただくでござる。……美味いでござる。ここの料理はなに食べても美味いでござるな。このあとランチバイキングも食べていっていいでござるか?」
「もちろんですよ。いっしょに食べましょうね」
「おお? カトレアどのがいっしょだと心強いのでござる」
カトレアどの?
殿?
そういや俺やダイフクのことも殿って呼んでるか?。
「ミャ(なにこの人間……)」
「ニャ(不思議)」
それよりなんで急にこんなに口を開くようになったんだろう?
フードを被ってるときは人と話してはいけないという決まりでもあるのか?
「む? ロイス殿、そんなに警戒しなくていいのでござる。さっきまでの自分は任務中モードだったので集中してたのでござる」
「任務中モード?」
「そうでござる。任務中は余計なことを口にせずに仕事に集中するのが里の決まりでござる。でなければさっきのダイフク殿の攻撃を避けることができなかった可能性もあるのでござる。正確には今も任務中でござるが、カトレア殿が楽にしろと言ってくれたので楽にしてるのでござる」
里?
故郷のことだよな?
町ぐるみでそんな決まりがあるのか?
「カスミちゃん、ここは安全ですからご安心を。ほかの魔物たちとは全員面識ありましたよね?」
「いや、ペンネ殿とはまだ会ったことないでござる」
ん?
ペンネのことも知ってるのか?
しかもこの言い方だとほかの魔物たちとは会ったことがあるのか?
だから魔物たちはすんなりと通したのか?
「今お昼寝中ですからまたあとで紹介しますね。あ、今朝ゲンさんがやっと目覚めたんですよ」
「おおっ!? それは良かったでござる! ジャジャ丸も喜ぶでござる!」
ジャジャ丸?
まだ仲間がいるのか?
「ジャジャ丸君は今どちらに?」
「森でお散歩中でござる。大樹付近は特に空気が美味いでござるからな」
「ではジャジャ丸君も連れてきたらどうですか? たまには温かいお風呂にゆっくり浸かるのもいいでしょう」
「それは名案でござる! 最近走りっぱなしで疲労も溜まってるに違いないでござるからな! では連れてくるのでござる!」
……速い。
補助魔法を使ったララ以上に速いかもしれない……。
「何者だ?」
「馬ですよ。カスミちゃんの愛馬ジャジャ丸君。黒毛でカッコいいんです」
馬だったのか。
「ってジャジャ丸のことじゃなくて、カスミさんのことだよ」
「あ、そっちですか。ニンジャです」
「ニンジャ?」
なんだっけそれ?
でもどこかで聞いたことがあるようなないような……。




