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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十一章 マナの守り人

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第三百五十一話 年末年始の勤務予定

 年末ということで久しぶりに従業員会議を行うことにした。


 本当なら帝国から帰ってきてすぐのタイミングで報告も兼ねてやるべきだったんだが、あいにく俺はまともに動ける状態じゃなかったからな。

 そんな痛々しい俺を見たらみんなも気兼ねして言いたいことも言えなかっただろうし。


 ストア裏のバックヤードにある休憩スペースや会議スペースも以前に比べるとかなり広くなっている。

 新たに鍛冶職人、防具職人、そして木工職人がそれぞれ数人ずつ従業員に加わったことで、各作業スペースも拡張することになった。

 それによってアイリスたちの部屋はほかの従業員たちと同じ宿屋階層に移転。

 部屋があった場所には木工職人工房を新設した。


「みんなの自己紹介は別にいいか。一か月半も経てばそれなりに覚えたよな?」


 ……大丈夫そうか。


 元々いた従業員からしたらたった十人増えただけだしな。

 覚えるのが大変なのは新しく入った人たちのほうだが、厨房の人間のことは知らなくても仕事には支障はない。

 まぁこの休憩スペースで顔を合わせる機会も多いだろうから、顔くらいはわかるだろうし。


「ワシまだ全然覚えとらん……」


「ジジイには無理でしょうから気にしなくていいですよ」


「まだボケとらんぞ……記憶力もバッチリのつもりなんじゃが……」


 意外にもジジイは工房から全然出てこないらしいからな。

 人工ダンジョンを創りたいって言ってたのも嘘だったし、このダンジョンの仕組み自体にはもう興味がないのかもしれない。

 それ以上に杖の技術をユウトさんに教えることに夢中になっているようだけど。


 鍛冶工房に依頼が来る錬金釜での杖のメンテナンスの仕事も最近ではもっぱらジジイの仕事だ。

 錬金術を勉強したということだけは本当だったらしいな。


「さて、今年の年末年始の営業なんだが、今は港町……じゃなくて南マルセールが慌ただしいこともあって、休みなしで営業することにした」


「「「「えぇ~っ!?」」」」


 まぁ不満が出て当然だよな。


「でも従業員のみんなは31日と1日は完全に休みにするから安心してくれ。厨房もダンジョン酒場もストアも宿屋の新規受付も全部ストップするから。この機会に一週間の休暇も合わせて使ってもらってもいいけど、使う人はこのあとすぐにララかカトレアに相談するように」


「じゃあ料理は多めに作っておけばいいよね?」


 こういうときはミーノが発言するのがお決まりになってるな。


「あぁ。余るくらい作っておいてくれ。あ、でも帰省する冒険者も半分以上いるだろうから、そこまで多くなくてもいいか。仮に足りなくなってもララがいるから安心して休んでくれていい。それに年末年始に関してはララも従業員の一人に数えていいから」


「わかった。一週間の休みを分割して使わせてもらってもいいんだよね?」


「もちろん。休めるときに休んでくれ」


「うん。できるだけ被らないようにはするからね。それと厨房への新しい従業員の件はどうなってる?」


「冒険者村やパラディン隊に入る人たちの家族を採用したいんだ。だから来月中には何人か雇えると思うからもうしばらくだけ今のまま我慢してくれ」


「うん。無理言ってごめんね」


「いや、二か月前に比べて冒険者の人数も倍近くなって、みんなの仕事量が格段に増えてるのは把握してるから」


 それ以上にみんなの料理の腕が凄いことになってるんだよなぁ。

 調理器具も一回り大きいのにしたみたいだし、一度に作る量や速度もどんどんレベルアップしてるんだよ。

 冒険者よりも腕力があるんじゃないかと思ったりするくらいだ。

 もちろん味は少しも落ちてないし、落ちるどころか改良されて美味しくなってるものばかりだからな。


 厨房組には24ストアの弁当の件でもかなり頑張ってもらったし、休めるときにはできるだけ多く休んでほしい。

 またいつ急に忙しくなるかなんて誰にもわからないんだから。


「それとまた厨房組が忙しくなるようなことを言って申し訳ないんだが、今度大樹の森の入り口に公園ができるだろ? 大樹の森自然公園ってやつ」


「うん。単純に公園としてみんなも楽しみにしてるけど、もしかしてそこでもお店出すの?」


「おっ? さすがだな。冒険者村の運営資金のために少しでも利益をあげておきたい。そこの従業員も村人から雇用することを考えてる」


「うん、いいんじゃない? で、私たちはなにをすればいいの?」


「できれば全部を任せたい」


「「「「えっ!?」」」」


 え……もしかして嫌なのか?

 喜んでくれると思ったのに……。

 さすがに忙しくなりすぎるよな。

 せめてウチに新しい従業員が入ってから話すべきだったか。


「やりたいです!」


「アタイも!」


「私が利益を出してみせます!」


「僕だって負けません!」


 ……やる気があるのはいいことだよな。


 モモ、アン、ハナ、ヤックがビシッと手をあげている。

 ハナがこんなに積極的な子に育ってくれて嬉しい……ってつい父親気分になってしまう。


 そういやアンも自分のことアタイって言うんだったな。

 アタイって言うとゾーナさんの印象のほうが強いが、攻撃的というタイプは似てるかも。

 決して悪い意味じゃないぞ?


 それより今は店のことだ。

 どうしようかな。


 ん?

 先月入ったばかりの職人たちはなぜか驚いているようだ。


 ……あ、そういうことか。

 この四人はまだ全員十五歳以下だ。

 アン以外は来年大人になるが、子供の四人が店をやりたいなんて言うことにビックリしてるんだな。

 しかも店の全部を任せるって言ってるんだし。


「ララ、どうする?」


「……私もやる」


「「「「えっ!?」」」」


 おい……完全に勝負がしたいだけだろ……。


 俺と話してるときにはそんなこと一言も言ってなかったのに。

 前にやったお菓子選手権? みたいなやつでハナとアンに完敗したことがいまだに悔しいんだろうな。


「カトレア、どうする?」


 ララは冷静さを失ってるようなのでカトレアに聞いてみた。


「……ニーニャちゃんにパンで参戦させます」


「「「「えっ!?」」」」


 なんでそうなるんだよ……。


 ……まさか参加する意思があるかどうかを確認されたと思ったのか?

 さっきのララもそう思ったってことか?

 ってララは違うよな。


 でもニーニャか。

 いくらカトレアがたまにパン作り錬金術を教えてると言ってもさすがに店を経営するのは無理だろう。

 ってパン作り以外のことは全部カトレアがやるに決まってるか。


「カトレアちゃん! ニーニャがやるんならワシも手伝うぞい!」


「ジジイは関わらないでください」


「酷い……」


 カトレアに一蹴されジジイがへこんだ……。

 ってジジイのことはどうでもいい。


 この事態をどう収拾つけるかのほうが問題になってきた。


「スピカさん、どうしましょうか?」


「私はやらないわよ?」


「……だからそういう意味で聞いてるんじゃないんですよ」


「わかってるわよ。でも面白そうだからみんな出しちゃえば? 町も出してくるんでしょ?」


「はい。フード広場っていうくらいですから出店も多いと思います。場所はちょうど町と大樹の森の境目のところになりますから、ウチからも一店舗か二店舗出してくれって言われてたんですけど……」


 まさか六店舗も出すことになるとは……。

 みんな盛り上がっちゃってるし、今さら三人で一つの店にしてくれなんて言える空気でもない。


 ……仕方ないか。


「店の規模はみんな同じだぞ。もちろん町側の店もだ。だから調理スペースはかなり狭いものだと考えておいてくれ。店では最後の仕上げだけをするイメージのほうがいい」


 制限があればやりたいこともやれなくなる。

 だからやっぱりやめるって言うやつがでてくるんじゃないか?


 ……むしろさらに盛り上がってるじゃないか。

 ウチである程度事前に準備できる分、店の従業員に頼ることなく自分の味が出せるからってことか。


「いつオープンなんですか!?」


 モモが元気よく聞いてくる。


「4月1日予定だな」


「「「「えぇ~?」」」」


 ……この反応はそんなに先なのかってことか?


「お兄、2月1日にするから」


「え……まだ公園ができてないと思うぞ……」


「先にフード広場だけでもオープンしちゃえばいいよ。みんなもそう思うよね?」


「「「「はい!」」」」


「……でも町側の店と足並み揃えないとマズいだろ?」


「同じ広場だけど土地はウチの管理してる場所だから気にしなくていいよ。それよりもう会議は終わりでいいよね?」


「……あぁ」


「よし! じゃあみんな! 勝負だからね! 卑怯な手は使ったらダメだよ!?」


「「「「はい!」」」」


 参加者は厨房エリアのほうに走っていってしまった……。


「わりぃ! 遅くなった! ……え? もう終わっちまったのか?」


 メロさんがようやくやってきたようだ。

 駅の仕事が忙しいだろうから別に参加できなくてもいいとは言ってあった。


 そして状況を説明する。


「なにっ!? 俺も参加するぜ! ホットドッグ一本で勝負してやる!」


「「「「……」」」」


 そしてメロさんも厨房エリアに向かって走っていった。


「……ロイス君、やっぱりパン屋の出店はやめて、私はみんなのお手伝いに専念しますね」


「あぁ、そうしてくれると助かる……」


 みんな普段の仕事があることを忘れてないだろうな……。


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