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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十一章 マナの守り人

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第三百四十五話 通い組に救いを

 昨日と同じようにリビングのソファでララと向かい合ってる。

 ボネとダイフクの位置まで同じだ。

 違うのはペンネが俺の膝上に座ってることくらいか。


「どうだった?」


「結論から言うと、ララの言った通りだった」


「でしょ?」


「収入が少ないのは倒した敵の数、つまりゲットした魔石が少ないせいだ」


「うんうん。でもそれは考えればすぐにわかるもんね。で?」


「戦闘面に関しては思い切りの良さが全くなかった。ポーションやエーテルの価格が宿屋組の倍だから高級品とでも思ってるのか、使うのをためらってる人ばかりだったな。攻撃よりも防御を優先してるって感じが見受けられたし。もちろんそれは悪いことではないんだが、数を倒さないことにはドロップ品を得る機会も当然少なくなるからな」


「だよね。ほかには?」


「自動販売魔道具での食事に不満はないんだろうが、宿屋組がバイキング会場に入っていったり出てきたりするのをどこか羨ましそうにしていた気がする。通い組の人だけが感じる劣等感のようなものだろう」


「家族がいる人は少しでも節約したいし、自分だけ贅沢するわけにはいかないから仕方ないのかもしれないけどね」


「独身の人はともかく、家族持ちには厳しいよな。そして夜帰るときにはまたバイキング会場に入っていく宿屋組の様子をまざまざと見せつけられる。本当はウチの食事をもっと食べたいと思ってくれてるのかもしれない。夜のバイキングにしか出ない料理もあるし」


 今まではウチの宿屋に宿泊する人ばかりだったから問題が浮き彫りになってこなかっただけだよな。


 それにこの問題はただのお金の問題とも限らない。

 マルセールの町が大きくなればなるほど冒険者の数も増え、年齢層の幅も大きくなると思うし、今のうちに解決しておかないといけない問題でもある。


「それらを踏まえて、今朝の受付に来たみんなの表情を見てどう感じたの?」


「さっきも言ったが、魔道ダンジョンに住んでて結婚もしてないような若い人たちはまだいい。だけど家族持ちだと思われる人たちは本当にただの仕事としてここに来てるんだな~って思ってしまったな。本当にお金稼ぎのためだけに来てるって感じで、強くなりたいという気持ちがこれっぽっちもないのかもしれない。嫌々来てる人さえいるような気がした。パーティの仲間が行くから自分も仕方なく来たみたいなさ」


「なるほど。強さを求めてないのかぁ。年齢を重ねると限界が見えてきちゃうってのもあるかも」


「そうかもな。でもその人たちの姿はほかの冒険者にとっては未来の自分かもしれない。だからこそ、その人たちが誇りを持って冒険者を続けられるようにしたい。このままでは引退するとか言う人が近いうちに出てきそうな気もする」


「言うのは簡単だよ? でも正直ここまで大きな話になるとは思ってなかったけど……」


 収入が少ないといったお金の問題を解決するだけなら簡単だからな。

 昨日すぐに思いついたことがあるし。


 だが今重要なのはお金ではなく、冒険者たちの今後の生き方の問題だ。


「少し長くなるからメモを取りながら聞いてくれ」


「うん! お兄は頭に浮かんだことどんどん言ってくれていいからね!」


 さすがララだ。

 俺のことをよくわかってるな。


 それから三十分ほどだろうか。

 ララに向かって一方的に話し続けた。

 ララは俺が話したことをただ書き出すだけじゃなく、時折なにか考え込み、同時にまとめもしてくれているように見えた。


 ふぅ~、まぁこんなところか。


 この一日で久しぶりに頭をフル回転させた気がする。

 帝国から帰ってきてからは毎日ダラダラ過ごしてたからな。


「どうだ?」


「……」


 ララはまた考え込んでいるようだ。

 数字の計算をしているのかもしれない。


「ピュー? (ご主人様、カフェラテ飲む?)」


「あぁ、頼むよ」


 ペンネがカフェラテを注文してくれる。

 本当に優しくていい子だ。


「ミャー(私にもミルク入れなさいよ)」


「ピュ~(うん。ぬるめでいいよね)」


「ミャ~(わかってるじゃない)」


 この差はなんなんだろうな……。

 二匹ともまだ仲間になってから一か月ちょいだが、それからは同じ環境で育ってきたはずなのに。

 ダイフクは相変わらず寝てるし……。

 まぁ三匹とも悪い魔物にならなくて良かったが。


「お兄、セバスさんたちに相談するけどいいよね?」


「え? やっぱり話さないとダメか?」


「当たり前でしょ……。前半部分はウチだけの問題だから関係ないとしても、後半部分はマルセールに協力してもらわないと無理じゃん。だからウチの冒険者たちに伝えるのも全部決まってからのほうがよくない?」


「面倒だな……」


「じゃあとりあえずマルセールが絡みそうなことはやめる? 別に急がなくてもいいし」


 う~ん、この勢いでやらなきゃ余計面倒になってもうやりたくなくなると思う。

 冒険者の支援のためにやろうと思ってるんだから悪いことではないはずだし。


「いや、やろう。セバスさんも忙しいだろうし、散歩がてら俺が役場まで行ってくるよ」


「ダメに決まってるでしょ。お兄はこのエリアから一歩も出ちゃダメって言ってるじゃない」


「もういいだろ……腰も治ったんだし」


「ダ~メ。セバスさんにはここに来るように私が連絡しとくから」


 まだ外出させてくれないのか……。

 魔道ダンジョン内に行くことさえも許してくれないからな。


 おかげで毎日ウチの管理人室で画面を見続ける日々だ。

 港町駅の様子を見てるだけでも楽しいが、やはり実際に行ってみたくもなる。

 でも危険だからってララが行かせてくれないんだよな。



 ララの中では、マーロイ城での出来事は最初から完全に俺が狙われてたという解釈らしい。

 皇帝たちは俺を誘き寄せるためのエサだったんだと。


 さすがに考えすぎだと思うけどな。

 俺たちがあの場に行ったのはユウシャ村での出来事があったからだし。

 皇帝が捕らわれてるなんてことも知らなかったし。

 ゲンさんが守ってくれなければ死んでたのは間違いないだろうけどさ。


「あ、セバスさん? ララです」


 ララが管理人室に行った隙を見計らってボネが俺の横に来た。

 もうミルクを飲んだのか。

 こんな小さい体なのによく食べるしよく飲むよな。


「ミャ~(ララの気持ち少しわかるよ。ロイスが死んだら私もヤダもん)」


 可愛いところもあるんだよなぁ。

 見た目は文句なしに可愛いんだけど。


「ピュー! (ペンネも早く強くなってご主人様を守るもん!)」


 リヴァーナさんの影響かどうかはわからないが、すっかり自分のことをペンネって呼ぶようになってしまったな。


「ランチのときに来るってさ」


「絶対ランチ目的だろ……」


「いいじゃん。じゃあ私は厨房行ってくるから、お兄は絶対に外出ちゃダメだよ?」


「わかってるよ」


 さすがにそこまで言われたら出ようとは思わないし。


 そしていつも通り管理人室でまったりとした時間を過ごすことになった。

 ペンネとボネとダイフクも俺といっしょのソファにいる。

 ……また一回り大きくなったな。


 ダイフクは戦士タイプのほうで間違いないだろう。

 ボネの体長がまだ30センチほどなのに対して、ダイフクはもう既に1メートルを超えてるからな。

 ボネは魔道士タイプだから体のサイズはそこまで大きくならないらしい。

 ずっとこのサイズでいてくれると可愛いんだけどな。


「ピュー(ご主人様……)」


 ん?

 ……寝言か。


 ペンネは50センチってところか。

 ペンギンテイオーの成長速度はどうなんだろうな。

 ダイフクとペンネ、どちらのほうが大きくなるかは少し楽しみではあるが。


「ミャ~(カトレアが起きたわね)」


 よくわかるな……。

 俺にはなんの音も聞こえなかったのに。

 まぁ今二階にはカトレアしかいないけど。


 数分後、カトレアが管理人室に顔を出した。


「おはようございます」


「おはよう。髪凄いことになってるぞ」


「そんなことよりロイス君、やりましたよ」


「なにを? …………えっ!? まさか!?」


「ふっふっふ。やってやりましたよ」


 これは面白くなりそうだ。


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