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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十章 帝国大戦乱

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第三百四十二話 重傷者たち

 帝都をあとにし、馬車は再び進み出した。

 次は途中にある大きな橋まで休憩なしの予定だ。


 はぁ、それにしても痛い。

 少しでも動くと痛みが走るんだよな。

 だからおとなしく横になっているしかない。


「たぶん腰を骨折してるのです! 最低でも一か月は絶対安静なのです!」


 本当かよ……。

 スピカさんに言われるんならともかく、ユウナにそこまでわかるとは思えない。


「ピピちゃん、シルバ君、タルちゃんは無傷なのです! なにか薬品のようなもので意識を失わされただけなのです!」


 本当だろうな……。

 俺の左で寝てる三匹を見ると凄く不安になる。


「マカちゃん、メルちゃん、エクちゃん、マド君は……」


 ……嘘だろ?


「……かすり傷なのです!」


 だよな。

 俺の右側では俺を枕にして四匹が寝ている。

 疲れて眠いから寝てるだけだもんな。


 というか今思ったが、ビスが死んだことでリスのオスはマドだけになってしまったのか。

 メス四匹にいじめられないだろうな……。


「ゲンさんはどうだ?」


「……大丈夫だと思うのです。最高級ポーションを飲ませましたし、今はお婆ちゃんがスピカポーションを体中に塗りたくってるのです。でもいつ意識が戻るかはわからないのです……」


 よくあれで死ななかったよ本当に。

 みんな絶対に死んだと思ってたし。

 だって全身のミスリル装備が粉々になったんだぞ?

 岩じゃなかったらどうなってたんだろう。


 まぁルーナさんが付きっきりで見てくれてるんなら安心できるな。

 隣の馬車ではゲンさんが寝てるから、リヴァーナさんとルーナさんが乗っただけで満員状態だけど。


「一番右の馬車からの攻撃は大丈夫なんだろうな?」


「あっちはリヴァーナちゃんの家族とカーティスさんに任せておけば大丈夫なのです。サミュエル君、なかなかやるのです」


 へぇ~。

 まだ十三歳になったばかりなのにな。

 両親の教えが上手いというのは本当なのかもしれない。


「あやつらの心配はいらん。ああ見えてカーティスは中級レベルの火魔法を操ることができるんじゃ。ララちゃんほどではないけどの」


 なんでジジイはこの馬車に乗ってるんだろう……。

 ほかの馬車には乗る場所ないからなんだろうけど。


「ジジイは暇ならシャルルちゃんの援護するのです」


「こっちは大丈夫。ジジイはお昼寝でもしてたら」


「ほうほう、二人ともワシに馴染んでくれたようじゃのう、ほっほっほ!」


 冷たくあしらわれることやジジイって呼ばれることに関しても慣れてしまったようだな……。


「傷は痛まないのです?」


「あぁ、それは大丈夫。ユウナの回復魔法とゲンさんが壁になってくれたおかげだろうな」


 あのダメージでコートは当然ボロボロ、中に着てたマグマドラゴンの服もボロボロ。

 背中からは血が出るほどの切り傷が数十か所。

 でもその傷はユウナの回復魔法のおかげで何事もなかったかのように元通り。

 回復魔法って凄い。

 そりゃどのパーティでも重宝されるわけだ。

 身をもって知ることができたいい機会だったかもしれない。


「ついでに骨もくっ付けてくれるとありがたいんだが」


「それは上級の上級じゃないと無理なのです。もしそれほどの魔法が使えたらそれこそ聖女って呼ばれてしまうのです」


「聖女か。ならユウナのお母さんは上級の回復魔法が使えるのか?」


「さすがに骨を治すほどのものは無理だと思うのです」


 あれ……予想した反応と違うな。

 俺が知ってたことにもっと驚くかと思ったんだが。


「……私もあんな魔法を使いたいのです」


 あんな魔法?

 聖女のことか?


「ミスリルの鎧でも防げない魔法、おそらく封印結界がまともにあれを受けてたら維持できてなかったと思うのです」


 あ、そっちか。


「あれはのう、おそらく風魔法と土魔法を同時に放っておったんじゃ」


「ただ同時に放っただけじゃないのです。あれは二つの魔法を合体させて一つの魔法にしたものなのです。しかも土も風も上級レベルだったのです」


「……その通りじゃ。よく見抜いたのう」


 ジジイ……。


 でも二つの魔法を一つにか。

 面白いことしてくれたじゃないか。

 せっかくだからウチのみんなに覚えてもらうからな。


「あの女性は魔物ですかね?」


「う~む。見た目は完全に人間のようにしか見えんかったが……」


「どうやって消えたか見てました?」


「いや、気付いたらおらんかった」


「たぶん床から消えたのです。あれほど土魔法を使いこなせるのなら床をサラサラにして下に逃げることも簡単なはずなのです」


「うむ、その通りじゃ。よく分析できておるじゃないか」


 ジジイ……。


 でもなぜあの場面で消えたんだろうか。

 俺たちを殺すことだってできたんじゃないのか?

 というかそれ以前に城の中で不意打ちもできたはずだ。


 でもゲンさんが相手を知ってたんなら向こうもゲンさんを知ってた可能性が高いよな?

 ……ゲンさんが起きるのを待つしかないか。


「城に誰もいなかったのはおそらく彼女の仕業ですよね」


「じゃろうな。あの場で見たのと同じように、砂にされたんじゃろう。あ、思い出したんじゃがあの右側の木の男、帝国魔道士隊長じゃ」


「へぇ~」


「驚くところじゃろ?」


「なんか普通だな~って。皇帝や第一皇子も顔しかわからなかったですし、あれが皇帝だと言われてもいまいち実感湧かないんですよね」


「感覚がマヒしておるようじゃな……」


 三人とも悪そうな顔してたな~。

 あんな発言だったからそう思っただけかもしれないけど。


「なぁユウナ、やっぱり着替えてもいいか? 背中がスースーするんだよ」


「ダメなのです。ロイスさんが戦って負傷しながらも仲間たちを守ったという事実をみんなに知ってもらうのです。あのときロイスさんと魔物以外は誰も動けなかったのですから」


「でも前は汚れた程度で背中だけボロボロなのは恥ずかしくないか? それに後ろから見ないと気付かれないんだぞ?」


「……それでもいいのです。ララちゃんには……いえ、とにかく着替えたらダメなのです。毛布を被るのはオッケーなのです」


 そうか、ユウナはララが俺を心配すればなにかのきっかけになるかもしれないと思ってるんだな。

 心配しすぎて今後外出禁止とかにされそうだが……。


「ピュ~?」


「ん? 俺は大丈夫だ。ピピたちの傍にいてやってくれ」


「ピュー!」


 弱い主人の仲間になってしまったと思われてたりして……。


「ミャ~」


「ニャ~」


「ん? ミルクか? ユウナ、準備を頼む」


「はいなのです! クロネと猫丸はこっちに来るのです!」


「クロロとクリーム猫太郎だってば!」


 そこは話に入ってくるんだな……。

 でもクリーム猫太郎って……少し面白いと思ってしまったじゃないか。

 黒猫だからクロを付けるのはわかるが、なんでもう片方は猫が付くんだろう……。


「名前はララと相談して決めていい。じゃあ悪いけど俺は少し寝させてもらうからな」


 そして二時間ほどが経過したころ、休憩場所となる橋に着いたようだ。

 ユウナとシャルルが交代でずっとペンギンたちと遊んでるせいで、うるさくて全く寝付けなかった。


「あっ! 人がたくさんいるわ!」


 昨日の朝出た組か?

 あれからもうすぐ約三十時間も経つというのにまだこんなところにいたか。


「たくさんってどれくらいだ?」


「二十~三十人くらい?」


「え? それだけ?」


「うん。……でもちょっと待って、あれって封印結界じゃない?」


 なんだと?

 起き上がって見たいところだが、どうせ俺には見えないんだったと思い、起きるのをやめた。


「本当なのです! 因縁の帝国魔道士に違いないのです!」


「あいつらがそうなの!? よし、見てなさいよ!」


「おい……落ち着けって」


「ほっほっほ! ワシもあやつらのことを見る目が今までと全然違うわい」


 ジジイが面白がって大魔道士ローナ物語を二人に話したせいだからな?

 二人とも、特にユウナなんてテンション上がりっぱなしで本当にうるさい……。


 リヴァーナさんなんか帝都の件で自分がなにもできなかったことにショックを受けてて、無言で淡々と敵を倒してるっていうのに。

 ……あとでフォローしてやらないとな。


「なにか叫んでるわよ?」


「向こうが攻撃してくるまでは待つのです! 先に手を出したらダメなのです!」


「いや、先とかじゃなくて絶対に手を出すなよ?」


「ほっほっほ! どれ、ワシが話を聞いてこようじゃないか。ついでに魔道士隊長のことも教えといてやるかの。ユウナちゃんも行くか?」


「行くのです! あんな封印結界解除してやるのです!」


「おい……」


 二人は馬車を降りていってしまった……。


「ユウナはなんであんなに敵対視してるんだ?」


「さっきの魔道士隊長を見たあとでローナ物語を聞いたからじゃない? 私も嫌なイメージしかないし」


「あの隊長が少し皇帝寄りだったってだけだろ。ここまで逃げてきてるってことはもうだいぶ前に帝国を出てるんだろうから、皇帝たちとは意見が合わなかったに違いない人たちだぞ」


「それもそうね。……あ、ジジイがキレた」


「は?」


「あ、ユウナが本当に封印結界解除したわよ」


「なぜそうなる……」


「戻ってくるわ」


「早かったな……」


 ジジイとユウナって一番行かせたらいけないコンビだったのでは……。


「こっちのみんなが馬車の前に集まってきたけど」


「そりゃ内容が気になるだろうからな」


 すぐにジジイとユウナの声が聞こえてきた。


「帝国魔道士がこんなところでなにしとるんじゃ?」


「おお? アルフィ殿ではないのです? もしや今から屍村に行くのです? 後ろの多くの馬車もなのです?」


「そうじゃが、お主らは?」


「私たちも同じなのです。もしよろしければ馬車に乗せていただけないのです?」


「定員オーバーじゃから無理じゃ。走ればまだ船に間に合うかもしれんぞ」


「間に合わなかったら置いてかれるのです!? せっかくここまで移動したのにです……」


「遅すぎたんじゃろ。ワシらがあれだけ言っておったのに。さっき城に寄ってきたんじゃが、皇帝や魔道士隊長はもちろん、城にいた者は全滅じゃったぞ」


「そんな……じゃあ仲間たちも死んだということなのですか……」


「じゃろうな。ワシらだって城で重傷を負わされた仲間がいっぱいおる。じゃからお主らみたいに中途半端なやつらは馬車に乗る資格なんぞない!」


「……ごもっともなのです」


「ユウナちゃん、こんなショボい結界なんぞ解いてしまえ!」


「はいなのです!」


 ……は?

 ジジイが一方的にキレただけじゃないか……。

 でもそれ以上にユウナの帝国魔道士役が気になって仕方なかった。


「あ、帝国魔道士たちが走ってきた。……土下座したわよ」


「なんでだよ……。で、乗せてくれって?」


「うん。どうする?」


「乗せるしかないだろ。あと三台馬車を準備してくれ」


「了解」


 すぐに帝国魔道士たちの歓喜の声が聞こえてきた。


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