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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十章 帝国大戦乱
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第三百四十一話 帝都壊滅

 五時間か。

 途中三度ほど休憩を入れたにしては早かったんじゃないか?


 帝都の入り口前に馬車をとめ、ユウナに封印結界を張ってもらう。

 昨日の早朝にもここにいたんだよな。

 なんだか一昨日のことのような気もする。

 それくらい濃い一日だったってことか。


 一日経って帝都の避難者たちはどのあたりまで進んだのだろうか。

 さすがに中間地点の橋は越えててほしいが。


「じゃあ行ってきます。一時間ほどで戻りますから」


「あぁ、今のうちに食事をしておく」


 ここはカーティスさんに任せ、俺たちは帝都の中へと入る。


 メンバーは俺、ユウナ、シャルル、リヴァーナさん、ジジイ、ルーナさん、そして魔物全員だ。

 ユウナとシャルルはまだ事情をよくわかってないが、帝都や城の中に行ってみたいらしい……。

 ユウナはユウシャ村から旅に出た直後に寄ったことがあるだけで二度目の帝都だそうだ。


「モ~(体中が痛いよ~僕も休憩したいよ~)」


「今は軽いだろ? 散歩みたいなもんだからゆっくりでいいぞ」


「キュ(ふぅ~、いい修行になりましたのです)」


 馬車を引くウェルダンとは対照的に馬車の中ではメタリンがくつろいでる。


「一日でこんなになっちゃうんだね~……」


「おそろしいですよね。昨日はなんともなかったのに……」


 町の中ではあちらこちらから火の手が上がっている。

 当然建物もまともな形を保ってはいない。

 魔瘴も外と同じくらいの濃さのものが町中に拡がっているようだ。


「死体はあるけど、今逃げてる人は誰もみかけないってことはついさっきこうなったってわけじゃなさそうだよね。まだ家の中に隠れてるのかな?」


「さすがにこれだけ家を破壊されてて逃げないって選択肢はないでしょう。屍村のほうに逃げたか、城に行ったかのどちらかと思いたいですが」


 家の中で死んでるって可能性が一番高そうだが……。

 もしこれだけの数の魔物が一気に町の中に入ってきたとしたら、外に出ることすらためらうだろうな。


 シルバとリスたちは適当にそのへんを走り回って敵を倒してるようだ。

 まだ中級レベルの敵を見かけてないことだけが帝都にとって唯一の救いかもしれない。


「お城の中どうなってるかな? 帝国魔道士がいっぱいいるはずなんだよね?」


「……えぇ、封印結界で守られてるって予想ですけど」


 リヴァーナさんはいっしょの馬車に乗っていたお母さんから大魔道士ローナ物語を聞いたそうだ。

 ずっと御者席から攻撃し続けてたのによく話が頭に入ってきたな。

 途中からテンションが上がりっぱなしに見えたのはそのせいに違いない。


「……ところでさ、シルバ君たち、少しペース落としたほうがいいんじゃない?」


「敵を倒してないと落ち着かないんでしょうね。タルだってもう何本の魔法杖を消費したことやら」


「ピィ! (まだまだやります!)」


 タルは攻撃魔法を使えないから、馬車の中から魔法杖で攻撃しまくっている。

 杖が大きくてタルには扱えないこともあり、杖は俺が持って敵に向け、タルが魔力を流すといった形になってるが。


 城に向けてのゆるやかな坂道を上っていくにつれ、人間の死体の数も増えていく。

 城に逃げようとして、魔物に殺されたのだろうか。


 そして帝都入り口からウェルダン馬車にしてはゆっくり進むこと二十分、ようやくマーロイ城の入り口に辿り着いた。

 ここからは階段もそこそこあるということなので、歩いて行くことにする。


 メタリンとウェルダンにはここで休憩しててもらうことになった。

 メタリンは一度城の中に入ってるしな。

 ここにも封印結界を張ってもらい、ペンギンたちも置いていくことにした。


「ルーナさん、大丈夫ですか?」


「ご心配にはおよびませんよ。老体だからって体力がないと思わないでください」


「すみません……」


「ワシには聞かんのか?」


 聞くわけないだろ。


「リヴァーナちゃんズルいのです!」


「ズルいんじゃなくて、上から一望することで敵を発見しやすくしてるんだよ? みんなのためだからいいの!」


 またゲンさんの肩に乗ってるのか……。

 ユウナがうるさいもんだから、ゲンさんは仕方なく逆肩にユウナも乗せることにしたようだ。

 シャルルは羨ましそうに見てるが、さすがに自分も乗りたいとは言えなかったようだな。

 というかお年寄り二人が歩いてるのによく乗れるな……。


「ゴ(非常に歩きにくい……こら、暴れるな)」


 なら乗せなきゃいいのに。


 そうこう言ってる間に城の中に入ったようだ。


 ……うん、荒れ放題。

 魔物もいっぱい。

 お馴染みのベビードラゴンがこんなところにまで。


 なにも言わなくてもシルバたちが瞬殺してくれる。


「封印結界は張られてますか?」


「いえ、今のところはなにもなさそうですね。城の中にまで魔物が入ってますし」


「先に研究施設に行ってみるかの。地下にあるんじゃ」


 それも地下に作ったのかよ……。

 まさかこの地下自体を俺のご先祖様が作ったんじゃないだろうな……。


 そして地下への階段を下りていく。


 さすが城だけあって地下まできれいだな。

 まぁ地下まで魔物に侵入されてるせいで壁は破壊され放題だけどな。


「ここじゃ」


 お~?

 広いな。


「……誰もいないようですね」


「うむ、魔物がおるだけで帝国魔道士の死体はなさそうだな。え~っと、あの部屋はどこじゃったっけな……お~、あそこじゃ!」


 こんなところにまで魔物が入ってきてるんだな。

 というかこの魔瘴だからもう城の中でも魔物が生成されてるのかもしれない。


「……ここですか?」


「……間違いないと思うんじゃが」


「ルーナさん、どうです?」


「封印結界もですが、マナがあるようにも思えませんね。ただ、木はいい物を使ってるようには見えますが」


「ゲンさん、ユウシャ村にあった部屋と比べてどう?」


「ゴ(同じだと思う。それにこの木は大樹の森の木で間違いない)」


 ってつい流れで聞いてしまったが、ゲンさんも入ってこれたのか。

 あ、入り口がさっきよりだいぶ広くなってる……。


「まぁこの魔瘴じゃマナが消えても仕方ないか」


「本棚はあるが本は一冊もないのう」


「ということは別の部屋に移動させた可能性が高いですよね。避難場所はここではないってことですよ」


「ふむ。上に行ってみるか」


 そして一階に戻り、二階、三階へと階段を上る。

 ピピとシルバとタルには下の部屋から順に誰かいないか見てきてもらうことにした。


「おかしいのう」


「いくらなんでも人がいなさすぎです。神隠しにでもあったのでしょうか……」


「やっぱり避難することにしたんじゃないですかね。」


「そうだといいんじゃが……そこが玉座の間じゃ」


 皇帝がいたはずのところか。

 きっとここにも誰もいないんだろうな。


 おぉ?

 凄く豪華な部屋だ!

 しかもこの部屋には魔物が入り込んでないじゃないか。

 ということはここに封印結界が?

 それにしては誰も見当たらないな。


 …………え?


「あれなに?」


「あんなところに木植えてるのです?」


「なに言ってるのよ。玉座の間って言ったら普通は……え?」


 この部屋はかなり広い。

 入り口から玉座までもかなり距離がある。


 その玉座の前に枝も葉もない太い木が三本。

 異様な光景にしか見えない。


「ゴ(あれはまさか……)」


「見て! 木に誰かいる!」


 リヴァーナさんが叫んだ。


 木に誰か?

 後ろに?

 それとも……あ。


「木の中か……」


 木をよく見ると、中心部分あたりに顔だけが見えている。


「捕らわれておるのか……」


「おそらく土魔法でしょう……」


 いったい誰がそんなことを……。


「むっ? 真ん中の木はもしや皇帝か!?」


「「「「えっ!?」」」」


 なんだと!?


「左は……第一皇子か。右は……う~ん、誰じゃったかのう……」


 誰でもいいけど、かなり危険だよな?

 この部屋に敵がいる可能性が高い……。


「少し様子を見ましょう。罠の可能性が高いです」


 俺の言葉でみんなの間に緊張が走る。


「ゴ(ロイス……マズいかもしれん)」


「え? ゲンさん? ……もしかして敵に心当たりが?」


「「「「えっ?」」」」


 そのとき、木から声が聞こえてきた。


「おい! 誰か知らんが早く私を助けろ!」


「僕を先に助けるんだ! 早く!」


「こんな二人は放っておいてどうか私を!」


「貴様! 誰に向かって口を聞いておるのかわかってるのか!?」


「もう君は首だ! 縛り首のほうの首だぞ!」


「うるさい! お前らのせいで逃げ遅れたんだぞ!」


 なんて醜い争いだ……。

 それより敵はどこだ?


 さすがにユウナとリヴァーナさんはゲンさんから下りたようだ。


「ユウナ、封印結界を頼む」


「はいなのです」


「リヴァーナさん、探知を」


「もうやってる」


 ひとまず安心か?

 でも急に足元から木が生えてきたらどうしよう……。


「いる! 真ん中の木の後ろ!」


 またもリヴァーナさんが叫ぶ。

 全員が戦闘態勢に入る。


 どんな敵だ?


 …………影が見えた。

 いよいよお出ましのようだ。


「「「「え……」」」」


 俺だけじゃなく、みんなが驚愕したことだろう。


 木の陰から姿を現したのは、……女性だった。


 人間か?

 ……いや、どこか不自然だ。


「ゴ(やはりそうか……)」


 この反応、ゲンさんは彼女のことを知っているようだ。


「おい! 金ならいくらでもやるから早く助けるんだ!」


「僕の嫁にしてやるから助けてくれ!」


「この女は危険だ! なめてかかるな!」


 いったいなにが目的で皇帝たちを捕らえているのだろうか?

 交渉する相手が別にいるのか?


 しかしなぜ彼女はなにも言わない?

 それに木の横から動こうともしていないようにも見える。


「なにしてる!? 早く助け…………」


「「「「あ……」」」」


 皇帝の顔は木で覆いつくされ、真ん中の木はそのままサラサラの砂へと変化した……。


 続けて、第一皇子、それにもう一人の男性も同じ運命を辿った……。


 死んだのだろうか?

 どこかに場所を移動しただけとかじゃないのか?


「ゲンさん? どうすればいい?」


「……」


 こんなときに限って兜が邪魔でゲンさんの表情が見えない。


「あっ! 見るのです!」


 なんと、また同じ三か所から木が生えてきた。

 嫌でもさっき顔があった位置に注目してしまう。


 ……え?


「ピピ!? それにシルバとタル!?」


「ロイスさん! 出ちゃダメなのです!」


「うっ……ゲンさん!? なにか言ってくれよ!?」


「……ゴ(諦めろ)」


「は!? なに言ってるんだよ!?」


 諦めるわけないだろ!

 俺は封印結界から出て剣を抜き、女性に向かって炎を…………へ?


 そのとき、ピピたちを捕らえていた木が消え、弾き飛ばされるように三匹がこちらに飛んできて床に転がった……。

 三匹とも意識を失っているようだ。


 俺は慌てて保護に向かう。


「大丈夫か!?」


 死んでないよな?


「「「「ピィ!」」」」


 俺を心配してかリスたちも封印結界から出てきたようだ。


「ゴ! (ロイス!)」


「え?」


 ゲンさんの声に、反射的に顔をあげた。


 すると女性がなにか攻撃魔法のようなものをこちらに放った。

 とっさにピピたちを守るように回り込み、魔法に背を向ける。

 リスたちが俺より前に出ようとしたので、両腕でむりやりくいとめ、俺の体の前に引き寄せる。

 あ……ゲンさん……。


 その直後、背中に大きな衝撃を受けた。


 衝撃により体が宙に浮き、魔物たちごと吹っ飛ばされる。


 そして床に落ち、そのまま床を数メートル滑り、ようやくとまった。


 ……ぐっ……痛い……。

 それに背中が熱い……。


 ……でも大丈夫、生きてる。

 壁に激突しなかっただけマシかもしれない。


 魔物たちは大丈夫か?

 倒れた姿勢のまま、傍にいるはずのリスたちを探す。


 ……リス四匹でピピたち三匹を囲うようにして倒れてるじゃないか。

 みんなで守ってくれたんだな。


 それよりも……


「ロイス!」


 ……シャルルか。


「ゲンさんは?」


「……」


「おい?」


 まさか!?


 慌てて首を捻りゲンさんを探す。


 ……あっ!

 あれだけの衝撃を立ったまま堪えることができたのか?

 さすがゲンさんだ。


 ……え?


 鎧はどうした?

 あ……床に粉々になってるのがそうか……。


 そしてゲンさんはゆっくりと後ろに仰向けのまま倒れた。


 その向こうにいる女性はそれ以上攻撃してくることはなく、姿を消した。


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