第三百四十話 脱出ユウシャ村
シャルルたちが起きたようなので地下に戻る。
そして食事をすることになった。
「えっ!? ペンペンなの!?」
こいつも勝手に名前を付けてたっけ。
「そうなのです! ペンネと子猫ちゃんたちが新しい仲間なのです!」
「この猫たちも魔物なの!? めちゃくちゃ可愛いわね!」
でもめちゃくちゃデカくなるかもしれないんだぞその猫。
「子猫はリヴァが保護したんだよ!? だからリヴァに一番なついてるの!」
「……そうは見えないけど」
「なつき対決でロイスさんに勝てるわけないのです」
リヴァーナさんと二人との距離はまだまだ縮まらないようだな。
「お喋りはあとにして早く食べてくれ。もうみんな上で待ってるぞ」
ユウナとリヴァーナさんはさっき食べたばかりなのになんでまた食べてるんだよ……。
「お寿司だっけ? これ美味しいよね!」
「ヤマさんっていう職人さんが作ってるのです! ウチではいつも食べ放題なのです!」
「バイキングだっけ!? 楽しみ!」
「ウチでしっかり稼ぎたいんなら早くパーティ組んだほうがいいわよ。で、リヴァーナはどれくらい強いの?」
シャルルもまだ知らないのか。
馬車の中にいたから見てなかったのかもしれないな。
「う~ん、ララちゃんくらい?」
「「え?」」
「あ、雷魔法だけならリヴァのほうが上かなぁ?」
「なに言ってるかわかってる? というかララのこと知ってるの?」
そこからかよ、面倒だな。
それより早く食べろって言ってるのに。
「おい、リヴァーナさんの強さはもうすぐわかるから。先に少し言っておくと、ソロでもウチの地下三階を突破できるのは間違いない」
「「え……」」
ユウナもさすがにそこまでのレベルとは思ってなかったようだな。
ユウシャ村で噂を聞いてたにしても、実際にはリヴァーナさんの十三歳までのことしか知らないんだろうし。
「ロイス君、でもリヴァ体力にはあまり自信がないからさ、魔物急襲エリアとかいうところに辿り着く前に山登りでダウンしちゃうかも……」
どうした急に?
……あ、さては一人じゃ無理アピールか?
仲間が欲しいって遠回しに言ってるんだな?
仕方ない、少し援護してや……
「なに可愛い子ぶってるのよ? もしかしてロイスに色目使ってる?」
「リヴァーナちゃんはか弱いキャラじゃないのです。いつも私のお兄ちゃんを鍛えてたのです」
「あ、確かにそんな感じするわね。じゃないといくらロイスの魔物といっしょとはいえ、一人で中級魔工ダンジョンの中になんて入ってこないもの」
「えっ!? リヴァーナちゃんが来てくれたのです!? ……でもなんだか納得なのです」
「ロイスが許可したくらいだから相当できることは確かのようね。お手並み拝見とさせてもらおうじゃないのよ」
「楽しみなのです。私の地獄の炎と勝負なのです」
ララの炎な?
というか仲良くしてくれよ……。
リヴァーナさんが泣きそうになってるじゃないか。
ユウナもさらっとユウトさんのことなんか言うなよ。
「……いいもん。リヴァの実力見て泣いても知らないからね? ヒューゴ君たちなんかリヴァのことしつこくパーティに誘ってきてるんだからね?」
「ふ~ん。あそこ三人だしちょうどいいんじゃない?」
「確かに攻撃魔道士欲しがってましたのです。いいパーティに入れそうで良かったのです。でもあのパーティは体力や足の速さも凄いのです。山登りくらいで泣き寝入りするようじゃ足手まといなのです」
「え……」
リヴァーナさんの期待してた反応とは違ったようだ……。
可哀想だが、出会ってすぐにパーティを組もうなんて普通はならないからな。
そもそもこの二人はララがパーティに戻ってくるのを待ってるんだから、その前に誰かを入れようとなんて考えてもいないだろう。
「ほら、もう行くぞ」
テーブルの上を強引に片付け始める。
「あ、ペンネと子猫たちは私が抱えていくのです!」
「ペンペンだってば! 私にも一匹貸してよ!」
「リヴァも一匹欲しいもん!」
ちょうど三匹いて良かったな。
「ゴ(ロイス、こっちは終わったぞ)」
ゲンさんが部屋に顔だけを覗かせた。
「どうだった?」
「ゴ(木でできた小屋だな。マドといっしょに強引に土を崩したが壁には傷一つ付いてなかった。三百年も経つのにまだ封印魔法がかかってるなんて信じられん)」
「あのさぁゲンさん、もしかしてだけど、知ってた?」
「……ゴ(話には少し聞いてたって程度だ。その話は帰ったらゆっくりしてやるから、早く帰ろうぜ。昔のこと思い出したら少しホームシックになったみたいだ)」
そんなこわい顔でホームシックって……兜で見えないけど。
でもゲンさんがわざわざ帝国まで付いてきてくれたのも、開かずの部屋のおかげかもしれないな。
まぁその話は帰ってからのお楽しみにしておこう。
そして地下をあとにし、一階へとやってきた。
村人たちはもう馬車に乗り込んでいるようだ。
もう日が変わってるし、寝た人もいるかもしれない。
馬車の前ではピピとメタリンとウェルダンが入念に打ち合わせをしていた。
魔物も全員揃ったことだし、最終確認をしておくか。
「メタリン、いけそうか?」
「キュ(動かすことさえできればあとはなんとかなりそうなのです)」
速度はそこまで出せないだろうが、乗合馬車よりかは確実に早いだろう。
「ユウナは左の馬車な。マカ、メルといっしょだ。ユウナとマカは火魔法で攻撃、メルは風魔法で馬車の通り道にある障害物、具体的には魔物の死骸や魔石を右側に飛ばしてくれ」
「はいなのです!」
「中央はリヴァーナさん家族とピピ、マドだ。ピピが遠くの敵まで把握できるはずなんで、リヴァーナさんはとにかく前方の敵最優先でお願いします。マドは前方の道の修繕をメインに頼む。ピピはマドやメタリンたちへの指示も頼むぞ」
「わかった!」
「シャルルは俺といっしょに右の馬車だ。シルバとエクとタル、それにペンギンたち三匹もこっちだ。右側から来る敵への攻撃はもちろん、余裕があればシルバとエクには魔石も拾ってもらう」
「メルはそのために風魔法で右側に飛ばすのね! わかったわ!」
本当はそんな危ないことはしないほうがいいのだろうが、魔石が山ほど道に落ちてるんだからなんかもったいないしな。
「ゲンさんは中央最後方の馬車で後ろの敵をお願い。隣二台の馬車が危なそうなら扉を閉めるかもしれないから」
「ゴ(任せろ。行きよりかは出番が増えそうだな)」
後方で倒した敵の魔石がもったいないけど仕方ない。
「ワシはどこに乗ればいいかの?」
いたのかジジイ。
「お好きなところにどうぞ」
「え……ワシのこと戦力として見ておらんのか……酷い……のうシャルルちゃん?」
「なんで私に聞くのよ……お爺さんはど真ん中の馬車で寝てればいいのよ」
「なんと……シャルルちゃんもそんなこと言うのか……」
「なんなのよ……じゃあユウナの馬車にでも乗ればいいじゃない」
「遠慮するのです。リヴァーナちゃんのところがいいのです」
「え~、ジジイとは屍村からずっといっしょだったんだからもういいよ~。シャルルちゃんの馬車に乗ってペンギンちゃんたちのお世話してたらいいと思う」
「みんなワシの扱い酷くないかの? まぁララちゃんよりはマシじゃがのう」
ララのやつどれだけ酷いこと言ってたんだろう……。
気持ちはわかるけど。
「じゃあ俺たちの馬車でいいですよ。寝てばっかりいないで攻撃もしてくださいね」
「任せるんじゃ!」
ユウナとシャルルは冷ややかな視線を浴びせている。
ジジイが元勇者だってことを知らなけりゃただの面倒なジジイとしか思わないからな。
それより、さっきからシルバやリスたちが無言なのが気になる。
「シルバ? 大丈夫か?」
「わふ(うん。ビスがいたらどんな陣形だったんだろうって考えてただけ)」
リスたちも同じか?
……もしかしたらシルバもリスたちも、俺のことを責めてるのかもしれないな。
例えば帝都で数時間もロスしてなければビスは死なずにすんだかもしれない。
途中途中の休憩が長すぎたのかもしれない。
シルバがウチに帰ってきてからすぐに出発していれば間に合ったかもしれない。
特にリスたちは兄弟を亡くしてるんだ。
人間のことなんかよりもビスの安全を最優先してほしかったと思ってるのかも。
「責めるのは俺だけにしろよ」
「わふ(責めてなんかないよ。僕たちになにが足りてないんだろうって思ってさ)」
足りてない?
強さがってことか?
……ふふっ。
「帰ったら全員鍛え直しだな。まずは食事量を増やすことから始めるぞ。俺がいなくても魔瘴なんかに負けないようにな」
「わふ(僕まだ大きくなるかなぁ?)」
「「「「「ピィ!」」」」」
リスたちも熱くなっているようだ。
これなら心配ない。
「そろそろ出ましょうか。リヴァーナさん、入り口を破壊したあとは外にいる敵をすぐに殲滅してくださいね。ゲンさんは馬車に乗ったまま入り口を修復しておいて。仕上げはマドがしてすぐに合流な」
そしてユウシャ村の入り口が豪快に破壊されるとともに、馬車がゆっくりと動き出した。




