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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十章 帝国大戦乱
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第三百三十八話 ユウナの決断

 ルーナさんの胸でしばらく泣き続けたユウナだったが、泣きやんだあとはいつものユウナに戻っていた。

 と、思ってたんだが……。


「嫌なのです」


「は?」


「嫌って言ったのです」


「なに言ってるんだよ? 今この村は襲われてるんだって。だからみんな地下に避難してるんだぞ? 疲れてるのはわかるが、せめて地下にだけでも封印結界を張ってくれないとみんなが不安がるだろ?」


「別に疲れてなんかないのです。睡眠も取ったしご飯も食べたのです。だからあとは早く大樹のダンジョンに帰るだけなのです」


「いやいや、お前はなにしにここに来たんだよ……」


「できることは全てやったのです。それでもここに残るって言うんならもう知らないのです」


 予想外すぎる答え……。

 まぁウチに帰るって言ってくれたことには正直少し安心したが。


 ……ん?

 帰る?

 もうユウナにとってはウチが帰る場所なのか?


「帰るにしても、最後に封印結界張っておかないと後味が悪いだろ?」


「嫌なのです。この村のみんなにはもう呆れたのです。みんな弱いのに自分の力を過信しすぎなのです。それにみんなが魔工ダンジョンを甘くみたせいでビス君は死んだのです。私はビス君の分も強くならないといけないのです。だからもうこんな村のことはどうでもいいのです」


 頑固だな……。

 

 ……いや、これはもしかしてユウナなりに村人全員を避難させようとしてるのか?

 そうなんだな?

 まずはここにいるルーナさんとコンラッドさんを連れていくために俺に加勢しろって言ってるんだな?


 よし、いいだろう。


「ルーナさん、コンラッドさん、ユウナもこう言ってますし、お二人も王国に行きませんか?」


「はい。私たちはそうするつもりでした」


「えっ!? 行くのです!?」


 あっさりすぎるだろ……。

 俺が少しでも悩んだのがバカらしくなるじゃないか。


「はい。ロイス君が私たちの悩みを解決してくれました。だから心おきなくこの村を出ることができるんですよ」


「なにがあったのです!?」


「まぁそれは旅の途中にでもおいおい話しますよ。それに私たちがこれからのユウナちゃんの成長を間近で見てみたくなったということもあります」


「本当にいいのです? 村のみんなも行くのです?」


「それはユウナちゃんとロイス君次第でしょうね」


 え?

 ユウナと俺次第?


「わかったのです。あとはロイスさんに任せておけば確実なのです」


「おい……」


 全部俺任せなのかよ……。


 まぁいい。

 ユウナも立ち直ったみたいだし、そろそろ村を出るか。

 ユウナがウチに帰ってくるのなら、今後この村がどうなろうと、もう二度とこの村に来ることもないからどんな結末になっても心も全く痛まないはず。


「とりあえず広場に行きましょうか。まだみんな起きてるといいんですけど」


 ルーナさんたちは旅の準備をしてくると言って部屋に戻っていった。

 ピピはウェルダンにビスのことを話してくれるようだ。

 だから俺とユウナだけで広場に移動する。


 ……起きてるどころか集まって話をしてるじゃないか。

 明日からのことが不安で寝れないんだろうな。

 子供たちはさすがに寝ているようだが。


 あ、そういや子供たちにペンギンと子猫を預けてたんだったな……。

 どこだ?

 ……あ、いた。

 子供といっしょに寝てるようだ。


 起こさないようにそ~っとペンギンと子猫を手で掴む。

 そして端のテーブルに移動する。


「あっ!? そのピンクのお腹はペンネなのです!?」


 そういやユウナはそんな名前付けてたな。


「子供たちが寝てるから静かにしろ。こいつ、あれからまた港に戻ってきたんだよ。よほど大樹の森が好きらしい」


「飼うのです!?」


「飼うっていうか、仲間だな。でも悪い魔物に育ったらすぐに魔石になってもらう」


「わーいなのです! こっちはなんなのです?」


「マーロイフォールドだよ。知ってるだろ?」


「えっ!? こんな小さいのです!?」


「まだ子猫だからな。こいつらも仲間候補だ」


「ララちゃんが喜ぶと思うのです! 部屋で飼えないからって牧場でブラウンキャットいっぱい飼ってたのです! 触って良いのです!?」


 ララのやつ、俺に隠れてそんなことしてたのか。


 そういえば地下一階をリニューアルしたとき、地下二階にブラウンキャットを大量発生させてたからすぐに撤収させた覚えがあるな。

 あのときは拗ねて大変だった。


 ユウナがうるさくするもんだから三匹は起きてしまったようだ。

 ペンギンはユウナのことを覚えていたらしく、喜んでいるように見える。


「あっ! ロイス君! こっち来て!」


 リヴァーナさんもこの集まりの中にいたのか。

 ソロ専とか言いながら、結構人と話すのが好きそうだよな。


 あ、ユウナに両親のことちゃんと聞かないとな。

 それとユウトさんのことも話しておかないと。


 ユウナはペンギンたちと遊んでるようだから、俺一人でリヴァーナさんがいるテーブルにやってきた。


「疲れてないんですか?」


「なんか最近不規則な生活すぎてよくわかんなくなっちゃった。それより紹介するね! リヴァのお父さんとお母さん! ついでに弟!」


「ついでってなんだよ!? ちゃんと紹介してくれよ!」


「ちょっと会わないうちに生意気になったね~。そんなんじゃ仲間できないよ?」


「ずっとソロの姉ちゃんに言われたくない!」


「リヴァは一人が好きだからソロやってるの! あんたといっしょにしないでよね!」


「というかユウトさんはどうしたんだよ!?」


「ユウトのことなんか知らない! ロイス君の前で余計なことは言わなくていいの! 時間がもったいないでしょ!」


「う~」


 ユウトさんの名前が出てドキッとしたが、仲良さそうな家族じゃないか。


「ロイス君、弟のサミュエル。十三歳になったばかりなんだっけ?」


「そうだよ! 旅に出て一週間もしないうちにこんな状況になったから慌てて帰ってきたんだよ!」


 悲惨な冒険者デビューとなったわけか。


「あのねぇ、ロイス君に生意気な口聞いてると大樹のダンジョンを出禁になっちゃうんだからね? 魔道列車にも乗れなくなるんだよ? というかダンジョンに入れないんじゃ、しばらく住む場所もないかもね」


「え……嘘だ……」


「本当。特にロイス君の妹のララちゃんにそんな口聞こうものなら……死ぬからね。ララちゃんめちゃ強なんだよ? まだ十二歳だけど、リヴァの魔法といい勝負のうえに、剣技なんて魔法より凄いんだからね? あんたなんか小指一本で死んじゃうから」


「……」


 脅かしすぎだろ……。

 でも確かに小指からの炎でほとんどの人間は致命傷になると思う。


「わかった? それならちゃんと自己紹介して」


「うん……。あの、ロイスさん、俺、サミュエル、って言います。よろしく、お願いします」


 片言みたいになってるじゃないか……。


「ロイス君ごめんね。こんな弟だけどたぶん魔法の才能はあると思うから、大樹のダンジョンに入れてあげてね?」


 入れないなんて一言も言ってないだろ……。


「あ、でさー、こないだリヴァに言ってくれた魔法の指導の件覚えてる?」


「探知の話とかしてたときのことですよね? もちろんですよ」


 面倒だから流されたのかと思ったら、ちゃんと覚えててくれたのか。


「リヴァのお父さんとお母さんじゃダメかな?」


「え? お二人が魔道士なことはわかりますが、魔道士としての腕のほうはどうなんですか? ある程度の実力がないと冒険者になめられますよ?」


「凄いストレートに聞くんだね……。たぶん今じゃリヴァのほうが上だと思うけど、お父さんたちが教えてくれるのが上手かったから成長できたんだと思うし。探知のコントロール方法だって教えてくれたしね」


 ほう?

 指導者としての能力は自身の魔法の実力とは別ってことだな?

 強い冒険者がそのままいい指導者になるわけではないってことか。


「お二人はそれでいいんですか? 魔道士でしたら選択肢はたくさんあると思いますよ?」


「若い子たちに魔法を教えるのは今までもやってきたことですから、これからもそれを仕事にさせていただけるのならありがたいことです。なにぶん今までユウシャ村で好き勝手やってきたせいで世間の仕事がどういうものなのかも知りませんからね。なのでほかの仕事をするにしても、できればロイスさんに頼りたいというのが本音ですが……」


 この村に来たときにジジイと話してるのは横で聞いてたが、なかなか好感が持てそうな人じゃないか。

 

 でも魔法の指導といっても夜や休みの日がメインになるだろうから、それ以外の時間になにしてもらうかだよな。

 ……まぁ仕事は山ほどあるか。

 帰ってララとカトレアに相談しよう。


「わかりました。でもウチで働いてもらうかどうかは最終的に俺の妹が面接して決めることになってるんです。ですがウチで働く働かないに関わらず、なにか仕事を斡旋することはお約束しましょう」


「本当ですか!? ありがとうございます!」


「いえ、魔道士の方に来ていただけるのは凄くありがたいんです。ウチは魔力があると助かる仕事が多いもんですから。近くにあるマルセールという町では、町一帯に魔力を張り巡らせて色々なシステムを実現してるんです。今後は大規模の封印結界も実現する予定ですしね。王国に着いてからまた色々相談しましょう」


 二人は嬉しそうだ。


 それはそうと、さっきから周りの人たちがなにも話さずに、こっちの話に聞き耳立ててることは知ってるんだぞ?

 亡くなった人たちのことを考えて少し遠慮気味に話してたが、もうそんな配慮をしてる場合でもないか。


「ユウナ! ちょっと来てくれ」


 ユウナはすぐにペンギンと子猫を抱きかかえて走ってきた。


「あ、もしかしてリヴァーナちゃんなのです!? 帰ってたのです!?」


 ん?


「ユウナ、久しぶりだね。元気?」


 え?

 どういうことだ?


「元気じゃないのです……だから封印結界を張る力なんて残ってないのです」


「そっか。あ、私も大樹のダンジョンに行くことにしたからね」


「えっ!? リヴァーナちゃんも来てくれるのです!?」


「うん。そろそろソロも飽きたしね。あ、シャレじゃないよ?」


「ソロなのです!? もう村を出て四年くらい経つんじゃないのです!?」


「三年半くらいかな。自分に自信が持てるまでは大樹のダンジョンには行かないって決めてたからね」


「楽しみなのです! ロイスさん! リヴァーナちゃんは昔から凄かったのです! いいパーティを紹介してあげてほしいのです!」


 よくわからないが、ユウナはリヴァーナさんが助けにきてくれたことを知らないようだ。

 ユウナたちを発見したとき、ユウナは寝てたのかもしれない。

 それにリヴァーナさんもあえてなにも言わないようにしているようだ。

 俺が知ってるリヴァーナさんとは少し違う印象も受ける。


 ……ユウナのことを気遣ってるのか。

 ビスを亡くして悲しんでるユウナを見たらなにも言えなくなったのかもしれない。

 シャルルから状況は聞いたであろうが、シャルル自身も落ち込んでたから余計に気を遣ってるのかもな。


 というか今ユウナはさらっと封印結界のことを言ったよな……。


「えっと、みなさん、聞きました? ユウナには封印結界を張る力がもう残ってないんです。……というのは建前で、封印結界を張ったところでその状態をずっと維持するのは不可能だから、あとは自分たちでなんとかしろって言いたいみたいです」


「「「「えぇっ!?」」」」


「それにユウナの目標は大魔道士ですからね。ここにいるよりも大樹のダンジョンに行ったほうが実現できる可能性は高いですし、ルーナさんたちも王国に行くと言ってくれた以上、もうこの村にいる理由がなくなったんですよ」


「ルーナさんたちも行くのか!?」


「どうしよう!?」


「それより封印結界なしで本当に安全なの!?」


「カーティスさんはどこだ!?」


 いい具合に迷ってるな。

 この段階でもまだ迷えるところは戦闘民族ならではなのかも。

 でも誰もユウナを責めないところは凄いと思う。


「あ、俺たちは今から一時間後に出発しますので」


「「「「えぇーっ!?」」」」


 今日一番の大きな声が地下に響き渡った。


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