第三百三十二話 ユウシャ村会議
ジジイが半分寝ぼけながら起きてきた。
だが結局ジジイはなにも知らなかった。
もうこの村でずっと寝ててくれていいぞ。
ジジイはほっといてルーナさんと話してたら、カーティスさんがやってきた。
「ロイス君、少しいいか?」
「なんでしょう?」
「今から向こうの広場でみんなを集めて今後のことを話し合うつもりなんだが、ロイス君も参加してもらえないだろうか?」
「俺もですか? 意味ないと思いますが……」
「とりあえずは黙って聞いててくれていいから」
とりあえずはってどういうことだよ?
「ルーナさんも出るんですか?」
「そうですね。だから続きはまたあとでお願いしますね」
俺も暇になるからまぁいいか。
それにしてもなかなかいい話ができたな。
俺もルーナさんも自分の先祖のことだからというのもあっただろうが。
でもローナさんに報告するにはもう少し意見がまとまってからにしたい。
そして広場に移動する。
地下にも広場があったんだな。
既に多くの人が集まっているようだ。
俺がカーティスさんから一番遠い席に座ると、ジジイは俺の隣に座った。
村長なんだから前に行けよ、と思わないでもないが、実質の村長はカーティスさんのようなものなのであろう。
まぁ昼に行われた晩餐会とやらで王国に行くと宣言したジジイはもう村民扱いすらされてないのかもしれない。
「怪我人はいないな!? よし、なら始めるぞ!」
あれだけの魔物の数に村の中を襲撃されて怪我人がいないって凄いな……。
「しばらくの間はこの地下で生活することになると思う! 部屋の振り分けはあとでするからな! 追加の部屋が必要そうなら新しく作る!」
魔法で部屋が作れるっていいよなぁ。
……土魔法を出せる杖があればいいのか。
でもカトレアもララも土魔法は使えないから難しいか。
カトレアは火、氷、雷、風が使えるのになんで土が使えないんだろうな。
「まず最初に考えなきゃいけないのは食料の問題だ! 屋上の畑が使えなくなった以上、当面は魔物の肉に頼るしかなくなる! だから地下から外まで安全に出られるルートの確保が必要だ!」
さっき二階の窓から侵入してきた鳥なんか美味しいそうじゃないか?
焼きすぎて魔石しか残らなかったけどな。
それと地下でもなにか作物を育てたらどうだ?
屍村ではそうしてたみたいだし。
でもなぜジジイはそのことを伝えない?
もうユウシャ村のことはどうでもいいのか?
って目が開いてないが寝てるんじゃないだろうな……。
「次に帝都との物流についてだ! この役目はかなり危険なことになるが、誰も行かないというわけにはいかない! 特に装備品や衣服のための素材の買い付けは絶対に必要だ!」
この村で装備品を作ってるってことか?
というかもしかしてまだ帝都の現状を知らないのか?
俺が言わなくてもジジイが伝えるとばかり思ってたが。
仮に帝都が無事でもかなりの人が移住していったんだからその物流とやらには大きな影響があると思うぞ。
まぁ帝都に無事に辿り着けるかのほうが問題だろうけど。
「そして次にこの村の防衛についてだ! 現状ではユウナの封印魔法に頼りになるのは仕方ないと思う! だがユウナだけに頼りきりになるのは危険だ! だから壁や天井の強化は必須になる! 最優先するのは地下の強化で、それが完了次第、一階から順にやっていこうと思う!」
これだけの要塞があるのだから封印魔法に頼らないというのはいい心がけだと思う。
でもユウナは地下室の本のコピーを持ってるはずだよな?
それなら誰かが封印魔法を覚えるっていう選択肢も出てくる。
まぁそれはユウナが帰ってきてからか。
「最後に、これから魔王とどう戦っていくかについてだ! これについては正直俺も全くわからん! だからみんなの意見が聞きたい!」
「「「「……」」」」
さっきから誰もなにも言わないよな。
意外ではあるが冷静に考えられてるってことか?
俺への罵詈雑言の数々のことは忘れてないからな?
「あの……」
「おおっ、ギャビン!? なんだ!? なんでも言ってみてくれ!」
こういうときに意見を言ってくれる人はありがたいよな。
……あ、確かあの人リヴァーナさんのお父さんじゃないか?
「その……私たち家族は……王国に行こうと思います」
「なんだと!?」
「「「「えぇっ!?」」」」
「「「「本気か!?」」」」
凄いどよめきが起きた。
そういう決断もありだと思う。
例え村のみんなを裏切るような形になっても、家族みんながいっしょに暮らせるほうがいいに決まってる。
……隣にいるのが息子さんか。
リヴァーナさんより背は高いが、おそらく弟だろう。
でもこの家族がこの場の空気に水を差したのは間違いない。
反発がおきて当然だ。
「もう一度よく考えろ! 今は村人が一丸とならないといけないときなんだぞ!?」
「……でもリヴァーナは王国に行く意思が固いようですし」
「なんだと!? せっかく帰ってきたのにまた出ていくと言うのか!? みんながリヴァーナに期待してたんだぞ!?」
「……大樹のダンジョンから来た冒険者たちといっしょに戦ったことで意識に変化があったのでしょう。本気で魔王討伐を目指すのなら強い人たちと切磋琢磨できたほうがいいでしょうしね」
「この村にいては魔王は倒せないと言うのか!? 大樹のダンジョンの冒険者たちよりもウチの村人が下だと言ってるようなものだぞ!?」
「私が見たわけではないのではっきりとは言えませんが、ユウナちゃんの言葉からしてもそれは確実かと……」
「もういい! お前たちは出てけ! ディーナ! お前との親子の縁も今日限りだ!」
「そんな……」
え?
カーティスさんはリヴァーナさんのお母さんのお父さんってこと?
つまりカーティスさんはリヴァーナさんのお爺さんだったのか……。
「ほかにこの村から出ていきたい者はいるのか!?」
「「「「……」」」」
空気がとても悪い……。
親子の縁が切れる瞬間を見せられたあとで発言できる人なんかいないと思う。
「コンラッド! 勇者パーティはここに戻ってくるよな!?」
「……わからん。もしかしたら魔王を倒しに魔族領に行ったのかもしれん」
「みんな聞いたか!? それなら俺たちはここで勇者が魔王を倒すまで耐えればいい!」
「……もうここは魔族領と同じ状態だぞ」
「「「「え……」」」」
コンラッドさんの一言でさらに空気が悪くなった。
でもその通りなんだから仕方ないよな。
「……アルフィ! 本当にお前も王国に行くつもりなのか!? 嘘だよな!?」
ジジイが名指しされるも、誰もジジイを見ようとはしない。
「ワシはもう戦えんからのう。王国にできる新しい港町でのんびりしたいんじゃ」
「そんなの信用して大丈夫なのか!? 町なんかすぐにできるわけないだろ!?」
「それまではダンジョンに住むから問題ない。ワシの孫はパン屋さんになるって言って張り切って仕事しとるんじゃ。あ、錬金術でパンを作っとるんじゃぞ? ワシの血かのう~」
パン屋さんになるとは言ってなかったと思うけど……。
「ならお前もさっさと出ていけ! 二度とこの村の敷居をまたぐんじゃないぞ!」
「わかっとるわい。この村にいるよりかは長生きできそうじゃ」
嫌な別れ方になったな。
なにも言わずに静かに村を出たほうがマシだったろ。
「誰か良い案はないのか!? このままではいつになるかもわからない魔王討伐をここでただ待つことしかできないんだぞ!? 今すぐ魔王を倒してやるという者はいないのか!?」
「「「「……」」」」
いなさそうだな。
というよりも実感が湧かないだけだろう。
帝国に魔工ダンジョンが出現してまだたった一週間ちょいなんだからな。
カーティスさんも、待てばいいとか、待つことしかできないとか、矛盾してるようなことは言わないほうがいいと思う。
「ロイス君!」
「え」
「君はどう思うんだ!? さっきみんなが戦ってる姿を見ただろ!? 我々はこの村でやっていけるよな!? 魔王だって倒せるよな!?」
ここで俺かよ……。
なんだか話の筋がよくわからなくなってきてないか。
それにジジイのときは誰も見向きもしなかったのに、なぜか今は俺が注目されることになってる……。
なにか言わなきゃマズいよな。
「みなさん、ご自分の好きなように生きたらどうです?」
「「「「え……」」」」
「この村が好きならずっとこの村で生活するのが一番だと思います。だからまずは村の防衛を第一に考えればいいんじゃないですかね。魔王を倒したくなったらそのときにまた考えればいいと思いますよ」
「「「「……」」」」
「そのためにも、ユウナが戻ってきたらみなさんでユウナに頼み込んでこの村に残ってもらうのがいいと思います。ユウナ自身が残りたいと言うかもしれませんが、みなさんから望まれて残るほうが気持ちいいでしょう? 俺は一年半ほどユウナを見てきましたが、回復魔法、補助魔法、浄化魔法、封印魔法、つまり攻撃魔法以外は大樹のダンジョンの冒険者の中でもトップクラスです。そんなユウナがいるのであれば村の防衛は安心していいと思います。ってみなさんの実力を知らない俺が言うのも変ですけど」
「「「「……」」」」
もっと喜べばいいのに。
俺としては泣く泣く言ってるんだぞ?
「えっと、ロイス君? ユウナは今すぐ王国に避難するようにみんなに言ってきたんだぞ?」
「そんなの気にしなくていいんですよ。みなさんはご自身で戦えるんですから、魔物の脅威くらいご自身で判断できるでしょう」
「……帝都に住む人間の多くは王国へ避難することを決断して、今朝方屍村への移動を開始したと聞いたんだが」
「「「「えっ!?」」」」
なんだ、カーティスさんは知ってたんじゃないか。
「戦えない人間にとってこの状況は危険ですからね。それに帝都の人が避難を決断したのは第二王子のバーゼルさんが避難宣言したことが大きかったんですよ」
「「「「えぇっ!?」」」」
驚いてばかりじゃないか……。
「ミランニャは壊滅したんだよな? それにベネットとナポリタンで避難する意思があった人はもうとっくに王国に着いてるんだよな?」
「そうみたいですね。でも昨日から今朝にかけて移動を始めた人が一番多いと思いますよ。ウチの冒険者たちが引き上げ時だと判断して、避難するなら最後だと各町に通告しましたから。帝都からは数万人が旅立って行きましたね」
「「「「……」」」」
「つまりこの国で住人が丸々残ってるのはこのユウシャ村だけだと?」
「でしょうね。でもみなさんの場合はほかの町とは違いますからね。魔族領にある村か町みたいになれると思いますよ」
「「「「……」」」」
もういいだろ?
これでみんなは安心してこの村に残ってくれるんじゃないか?
そのとき、どこかでなにかが崩れるような音がした。
「なんの音だ!?」
「壁をぶち壊して魔物が入ってきたのでは!?」
「きっと一階だ!」
「キャーッ!」
「静かにしろ! 地下にいれば大丈夫だ!」
あの壁が破壊されるのか……。
ウェルダンの封印結界さえ解けてくれれば今すぐ逃げるんだが。




