第三百三十話 大混乱
屋上からの階段を下りていき三階部分に差し掛かると、そこから下は吹き抜けになっており、一階の広場が見えていた。
……なんだよこれ?
「これ以上先に進ませるな!」
「二階にも上がらせないで」
「魔道士は上から狙ってくれ!」
「こっち側の壁を背に戦え! 入り口はもう捨てろ! 敵はなるべく中央に集めるんだ!」
広場が戦場になってる……。
入り口の扉の突破を許してしまったのか。
「終わりじゃ……もうこの村は終わりじゃ……」
ジジイの諦めが早すぎる……。
俺はこんなところで死にたくないぞ。
「ジジイ、まず土魔法が使える人たちには壁や天井の強化をお願いしてください。土や石はこのレア袋に大量に入ってますので」
「……」
「ジジイ? ……ジジイ! しっかりしてください! 村長でしょ!?」
ダメだ……気が動転してるのか、俺の声が全く聞こえてない。
「あの、俺が指示しても問題ないですかね?」
近くにいた村の人たちへ聞いてみる。
「「「「……はい」」」」
いいのか。
俺のことなんて知らないはずなのによく任せられるな。
では遠慮なく指示させてもらうぞ?
みんな脳筋ばかりだろうから戦闘にしか目がいってないはずだし。
そしてレア袋から小型拡声魔道具を取り出す。
「え~、ユウシャ村のみなさん、私は王国にある大樹のダンジョンの管理人のロイスと申します」
まずは挨拶が大事だからな。
「うるせぇ!」
「話してる暇あるならお前も戦えよ!」
「邪魔しないでよね!」
「戦えないお坊ちゃんはどこかに隠れてろ!」
酷い言われようだ……。
少しへこみそう。
「諦めないでください……」
「戦闘で気があらぶってるだけですから……」
周りの人たちが慰めてくれるのはありがたいが、心折れそう……。
「ミャ~」
「ニャ~」
内ポケットにいるこいつらだけだけが癒しだな。
……あれ?
ペンギンは?
「ピュー!」
いつのまにか内ポケットから抜け出し、ジジイをペシペシ叩いている……。
もっとやっていいぞ。
さて、気を取り直してみんなに声をかけるか。
「まず一階入り口を土魔法で閉じましょうか。じゃないと魔物がどんどん入って来ますよ?」
「それだ! 急げ!」
「私が行く! 援護をお願い!」
さっきの罵声はなんだったんだよ……。
「ピピ、頼んだ」
「チュリ(了解です)」
ピピが飛び立ち、入り口上空でレア袋から土や石をばら撒く。
一瞬驚いた村人たちではあったが、すぐに土魔法によって壁を作ることに成功したようだ。
そして今度は入り口側から挟み撃ちで敵を攻撃し始めた。
うん、とりあえず敵の侵入は防げているようだ。
敵もそんなに強そうなやつはいなさそうだし大丈夫だろう。
「村の外から誰か帰ってきたときに上から見ることはできるんですよね?」
「はい、あちらの壁側の通路にある窓から確認できます。強いガラスなのでたぶん大丈夫……あ、割れた」
「え……」
あの窓のサイズだともしかしたら……あ、やっぱり。
「キャーッ!」
俺が見ていた方向と逆側から悲鳴が聞こえてきた。
慌てて小型拡声魔道具を構える。
「みなさん! 窓からも敵が侵入してきました! なのでそれぞれの部屋にある窓は全部土魔法で塞いでください! 魔道士のみなさん! 早く! 俺の仲間の白い鳥が材料をばら撒きに行きますんで!」
村全体に聞こえてるよな?
とりあえず窓から入ってきた魔物に火魔法をぶっ放しておこう。
……さすがに一撃だな。
初めて見る魔物っぽいし、一応あとで魔石は回収しておこう。
「凄い!」
「今どこから魔法出したんですか!?」
「剣からですよ。みなさんも魔法が使えるんならどんどん使ってください。エーテルは大量にありますから魔力を気にすることなくお願いします」
「「「「え……」」」」
ん?
剣から魔法が出ることに驚いたか?
……あ、もしかして帝国ではエーテルも高級品なのか?
って王国でもエーテルはポーションより高いもんな。
とりあえずここらへんに100個くらい置いておくか。
「遠慮せずにご自由にお使いください。まだまだありますから本当に遠慮せずにどうぞ」
「「「「……」」」」
「それと攻撃魔法が使えない魔道士の方、魔力を流すだけで攻撃魔法が出せるこの杖をお使いください。数十発で壊れますが、予備はたくさんありますからこれも遠慮なくどうぞ。俺は二階に移動しますね。土魔法を使える方が来ましたら天井の強化をしてもらってください。では」
そしてペンギンを抱え、階段を下りて二階に移動する。
このフロアでも大勢の人が走り回っているようだ。
「次こっちの部屋の窓もお願い!」
「手が空いてるやつは階段付近に行け! 上から援護しろ!」
全員戦闘民族だと守らないといけない人がいないから楽でいい。
誰かを守りながらの戦いは大変だからな。
……あ、今ピピがいないから俺を守る魔物もいないんだった。
常に警戒が必要だな。
何気に今までの人生で一番危険な状態じゃないか?
小さいときから常にシルバかピピがいっしょだったからな。
今は左手でペンギン、内ポケットで子猫二匹を守りながらだから余計にそう思うのかもしれない。
正直かなり動きにくいし。
「ロイス君! こっちに来て隠れてください!」
二階の奥からルーナさんが俺を見つけて声をかけてきた。
でも隠れるのはこの村の人全員に負けた気がするからなんか嫌だ。
お爺さんお婆さんたちだって戦ってるのに。
「大丈夫です! 自分の身は自分で守りますから!」
これだけ指示をしておいて隠れたら絶対に非難されるし。
それに二階からなら俺だって戦える。
遠距離攻撃なら動かなくていいからペンギンたちだって邪魔にならないし。
……おりゃっ。
「グギャァー!」
どいつに当たったかわからないがかなりのダメージを与えているようだ。
広場中央には魔物がいっぱいいるから適当でも命中するし。
続けて何発か撃ってみるか。
……えいっ。
……うん、気持ちいい。
「あんた凄いな!」
「中級レベルの魔道士だったんだね!」
いや、違う……と言いたいが面倒だから無視しよう。
誰も剣から魔法が出てることには気付いていないようだ。
「ピュー!」
「危ないから剣には触るなって。……あ、もしかして魔力切れか?」
剣の底に装着した魔石の魔力がなくなったことに気付くとは賢いペンギンだ。
将来有望だな。
予備の魔石と交換し、再び火魔法で攻撃を再開する。
……よく考えたら、この戦い方なら剣じゃなくて杖でいいな。
杖のほうが魔法の再現度は高いみたいだし。
でも剣のほうがカッコいいし、接近戦にも対応できるしな。
「魔道士の価値が下がりそうだな」
「うわっ!」
ビックリした……。
狙いを定めてるときにいきなり後ろから話しかけてくるなよ。
でもこれが敵だったら俺死んでたな……。
「コンラッドさんは魔道士じゃないんですか?」
「ワシは戦士だ。魔力は少しあるが、初級の補助魔法程度しか使えん」
「それならこの杖使ってみます? ユウナの杖と同じ効果がありますよ」
「なんだと!? あの杖のほかにもこの世にまだ存在したのか!?」
「ウチの錬金術師が錬金できるようになったんです。使ってみてください」
「え……」
コンラッドさんは杖を色んな角度から凝視したあと、魔物に向かって一発魔法を放った。
風魔法の杖だったようだ。
「おぉ……凄いな」
「俺の妹が封印魔法を覚えてくれたおかげでようやく成功品が作れるようになったんですよ。だから正しくは妹と錬金術師の共作の錬金杖ですけどね。あ、これは失敗品ですけど」
「噂のララちゃんと錬金術師か……」
噂になってるのか?
ってジジイから聞いたのか?
……ユウナからかもな。
あっ!
そういやユウナも封印魔法使えるんなら、回復魔法の杖だって作れそうじゃないか!?
それって凄いよな!?
でも戦闘が楽になる杖ではあるが、さすがに回復魔道士から苦情が出そうだな……ってララの魔法が使えるとわかったら攻撃魔道士からもか。
今までは初級魔法しか使えないうえに回数制限がある失敗品だったから誰も文句を言ってなかっただけかもしれない。
コンラッドさんも魔道士の価値が下がるって言ってるし。
それに大樹のダンジョンの中で使用すると、冒険者の成長の機会を奪うことになりそうだよな。
安易に売り出すわけにはいかなそうだ。
まぁ俺は使うけど。
「そろそろ広場の敵も全滅しそうですし、各部屋の安全を確認したら一度みんなで地下に移動しましょうか」
「地下? 広場じゃなくてなんで地下なんだ?」
「え? だって地下の空間にはマナがある分、もし魔物がまた侵入してきても地下まではすぐには来ようとしないでしょう? さっき話しましたよね? 昔は今の地下にあたる階層が地上だったって。俺の指輪が反応するのも地下に入ってからですし。だからおそらく一階より上にはマナがないんですよ。魔物が入ってきたのもそのせいでしょう。きっと魔物たちは封印結界が弱まる瞬間を窺ってたんです。地下以外は魔王に行動が筒抜けと思ったほうがいいですよ」
「……」
「もしかしたら昔の人はこういう事態を想定してこのような建物の造りにしたんじゃないですか? 地下への入り口を閉じてしまえばマナがあるとか以前に魔物も気付かないかもしれませんし」
「……そうかもな」
「とりあえず急いだほうがいいかもしれません。今のところ運よくそこまで強くない魔物しか侵入してこなかったようですが、外には中級レベルの魔物がいっぱいいるはずです」
「わかった。……その声が響き渡る道具を貸してもらっていいか?」
小型拡声魔道具はどこでも大人気だな。
「……ついでにそのレア袋とかいうやつもいっぱい持ってたりしないか?」
あ、地下に移住する気だな……。




