第三百二十八話 ローナの子孫
「「「……」」」
なんだか疲れたのでカフェラテを飲む。
ペンギンたちも起きてきたので、テーブルの上でご飯を食べさせる。
子猫たちの好みはまだわからないが、とりあえず肉だ。
ブルブル牛の肉なら間違いない。
あとはカウカウ牛のミルクだな。
「のうロイス君? 怒っておるのか?」
「赤ちゃんたちのご飯の時間になっただけですよ。いい魔物になるか悪い魔物になるかはこの時期に摂取するマナがたっぷり詰まった食事にかかってますからね。マナと言えばあの開かずの部屋ですよね。まだ俺のほうはなにも話してませんし、みなさんが俺のことを疑うのは当然だと思いますよ。あ、さっきの話に出てきた悪役っぽい二人、みなさんも推測してるとは思いますが、俺の先祖らしいんですよ。大魔道士ローナをあの部屋に閉じ込めた犯人かもしれない二人の子孫が俺ってわけですから、ルーナさんは俺を敵対視して当然なのかもしれませんね」
「敵対視なんてそんな……」
「ワシじゃろ? 怒っておるのはワシが原因じゃろ? すまんかったって……。でも言えるわけないじゃろ? 今じゃってロイス君が話してくれんことには真実がわからないんじゃし」
「魔物使いや大樹のダンジョンに対して疑いの気持ちがあるから言わなかったんですよね? ウェルダンが魔瘴に侵されたって話も嘘だと思ってたんじゃないですか? それを口実に開かずの部屋に入ろうと企んでるとでも思ってたんでしょう?」
「う……全部は否定せんが、例えロイス君があの部屋に入るためにユウシャ村に行くんじゃとしても、決して悪いことを企んでるなんてことはちっとも思っておらんかったんじゃよ。信じてくれ……」
「まぁどっちでもいいですけどね。ジジイがなにか隠してるってことはわかってましたし」
俺がイライラしてるのは、ただ俺の中で色んな気持ちが錯綜してるからだ。
大樹のダンジョンを生み出した二人が犯人扱いされてるとなると、俺だけじゃなく大樹のダンジョン自体が悪い存在みたいに思われてると感じてしまうだろ?
俺があの部屋で起きた出来事を話せば全てが解決するかもしれないが、嘘を言ってると思われる可能性だってある。
誰だって自分の先祖を悪く言われたりはしたくないだろうからな。
いくらジジイが過去のことは俺には関係ないと言おうが、俺が勝手にあの部屋に入った以上、俺には怪しさしか感じないだろ?
だから俺から説明するのはやめておこう。
「ルーナさん、ご自分の目で確かめてきますか?」
「えっ!? ……私も入れるのですか?」
「入れると思いますよ。特になにも細工なんてしなくても」
「「「……」」」
こうなったらとことん疑ってくれていいぞ。
開かずの扉の謎だけ先に教えてやる。
「鍵はこの指輪です」
「「「指輪?」」」
「ルーナさんだってマナが豊富だって言ってたじゃないですか」
「そうですけど……その指輪をはめるだけであの部屋に入れると言うのですか?」
「えぇ。鍵は指輪と言いましたが、実際には一定量以上のマナの力が鍵になってるんです」
「「「一定量以上のマナの力?」」」
「はい。転移魔法陣には設定というものがあるんです。ウチのダンジョンでも指輪に個人情報を持たせて、転移魔法陣を通過する際にダンジョンのデータベースと照合させ、特定の部屋に転移させるといったことはしてます」
「「「……」」」
「あの開かずの扉にはドアの外側と内側、計二つの転移魔法陣があります。その転移魔法陣同士を結び付けてるのが設定というもので、その設定が一定量以上のマナの力を持つ者であれば通れるというように設定されてるんです。もっと詳しく言えば位置情報などの相互設定もあるんですがそれは置いといて、おそらくその一定量以上のマナの力という設定値を設定しなければ誰でも通れる転移魔法陣だったことでしょう。ここまではわかりますか?」
三人は頷く。
わからなくてももう一度説明する気はないけどな。
あ、俺まだイライラしてるな……。
カフェラテを飲もう。
……ふぅ。
「で、この指輪です。俺がこれを大樹のダンジョンから持ってきた理由はウェルダンを救うためです。魔瘴はマナの力で治ると信じてましたからね」
嘘だけどまぁいいだろう。
ダンジョンコアに持たされたなんて言えるわけないからな。
「そして俺が地下のあの部屋の前にいた理由、それはこの指輪のマナの力があの部屋に反応したからです。よく見てください。今は光ってませんが、地下に行くと光りだすんですよ。そしてあの部屋に近づけば近づくほど光が強くなっていくんです。気になって当然じゃないですか? でも俺はあの部屋の存在も大魔道士ローナのことも知りませんでしたからね。もし俺の目的があの部屋なら、ピピに見張りをさせてコンラッドさんに見つかることなく入ることだってできたはずですよ。ジジイにもウェルダンの部屋にいるなんてことは言ってなかったでしょうし」
「確かにそうじゃ……」
「そういえばもっと光ってましたね……」
「うむ。あのときのロイス君はあの部屋のことをなにも知らなかった。あれが演技だとは思えん」
わかってくれればいい。
でもこれだけでは証拠にならないからな。
「というわけで、この指輪をはめて開かずの扉に触れてみてください。中に入れば今言った転移魔法陣の設定のことがもっと詳しくわかることでしょう。なぜ一定量以上のマナの力という設定がされていたのかも。そしてみなさんが知りたいそれ以上のことも。俺はあとでユウナにも入らせるつもりでしたから、中にある物にはなにも手をつけてません。あ、ユウナを入らせようと思う理由についてはみなさんが中を確認されてから話します」
「じゃから疑ってないって……」
「そうですよ……私たちを信用してください……」
「ワシが悪かった……」
信じないぞ。
なんだかこれから爺さん婆さん全員を疑った目で見てしまいそうだ。
「ワシらじゃってワシら三人しか知らんことを話したじゃろ?」
「どのことですか?」
「さっき話したこと全部じゃよ。あの部屋が大魔道士ローナの作業部屋だってことはユウシャ村でもこの三人しか知らん。もちろんローナの娘が生きてたって話もな。ルーナがローナの子孫だってこともじゃ。屍村を作った勇者がその勇者じゃってことは皇帝レベルになると知ってるかもしれんがの」
確かにさっきルーナさんは内密にしてほしいと言ってたが、内密にもほどがあるだろう……。
「俺があの部屋から出てきたときにいたのも三人だけだったんですか?」
「そうじゃ。コンラッドが慌てて呼びに来てのう。ワシは村人に囲まれておったから抜け出すのが大変じゃったんじゃぞ」
「ロイス君があの扉の前で消えたって聞いたときは心臓がとまりそうなくらいビックリしましたよ。あ、疑ってたわけじゃないですからね?」
「あの部屋やこの言い伝えのことは本当にこの三人しか知らないんだ。現勇者である息子だって知らない。そのうち伝えるつもりではあったが」
この三人しか知らない理由があるんだろうが、なんとなくわかったから別にそこまでは聞かなくてもいいや。
「あ、言うの忘れてましたけど、あの転移魔法陣は失敗作らしいです」
「「「失敗作?」」」
「はい。俺は大樹のダンジョンで毎日何回も転移魔法陣を通ってますけど、確かにあの開かずの扉のものには違和感を感じました。気分が悪くなった原因の一つにはそのせいもあると思います。だから一応お気をつけて」
「「「……」」」
早く中を見てきてくれ。
そのほうが俺が説明するよりも早いし。
「……じゃあ行くかの。ルーナ、準備はいいな?」
「え、まずアルフィさんからどうぞ……」
「……ワシは旅の疲れがあるからきっとロイス君と同じで気分が悪くなるじゃろうからの。コンラッドが行ったらどうだ?」
「いや、ワシはいい……。ルーナが行くのが一番いいだろう」
「え、みんなして私に行けと言うのですか? こういうときはまず男性が率先して行くものでしょう?」
「こんなときに男女は関係ないじゃろう。のうコンラッド?」
「うむ。ローナの血を継いでるのはルーナだし、ルーナが適任だろう」
「嫌ですよ。失敗作の転移魔法陣とわかってるのに通りたくなんかないですもの。異空間にでも閉じ込められたらどうするんですか?」
「そんなこと言われても知らんわい。ロイス君はこうやって戻ってきたから大丈夫じゃろう」
「うむ。ルーナの回復魔法があれば中に入って気分が悪くなっても大丈夫だと思う」
「……二人とも、最低です。そんなんだからロイス君に信用してもらえないんですよ。ロイス君が怒りたくなる気持ちもわかります」
この低レベルな争いはなんなんだよ……。
別に失敗作だからって死ぬわけじゃないのに、たぶん。
「どうやらユウナちゃんに任せるしかなさそうじゃな」
「……まぁ仕方ないでしょう。あの子もそのうち知る運命だったでしょうから」
「そうだな。少し早まったってだけだから問題ない」
この人たち最低だな……。




