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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十章 帝国大戦乱
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第三百二十六話 ローナの願い

 帝国の現状を聞いたローナさんは黙り込んでしまった。

 魔王のことは文献で読んだことがあるだけらしく、復活したということをすぐには信じられないようだ。

 なにより帝国が壊滅状態という現実が受け入れられないのであろう。


 こんな非常事態なのになにもできない自分が悔しいのだろうか?

 火の玉だから今どんな表情をしてるのかはわからない。


「魔王はいずれ俺たちが必ず倒しますのでご心配なく。それより浄化魔法が載ってる本ありませんか?」


「……そこにある本、全部持っていっていいですよ」


「では遠慮なく頂いていきます」


 ……いや、待てよ。


 せっかくローナさんがいるんだから、ユウナは直接教えてもらったほうが覚えるのも早いんじゃないか?

 それなら本がないと困ることもあるかもしれないし、頂くのはユウナが帰ってきてからにしよう。


「そろそろ部屋出ていいですかね? また来ますんで」


「はい」


 ふぅ~、やっと出られる。


「あ! やっぱり待ってください!」


 ……。


「一つだけお願いがあるんです!」


「お願い?」


「はい。その……私には子供がいたんです」


「え……嘘ですよね?」


「本当です……まだ一歳にもなってない女の子でした……」


 可哀想すぎる……。


「勇者との子供ですか?」


「はい。あの人があの子をちゃんと育ててくれたのかが一番の心残りなんです」


「それを調べてほしいと?」


「そうです。お願いします……」


 三百年も前のことなんてそんな簡単にはわからないだろうな。


「わかりました。でもかなり昔のことなんであまり期待はしないでくださいね」


「はい……それとあの、絶対にまた戻ってきてくださいね?」


「まだ本は一冊も頂いてませんからまた来ますよ。では」


 今度こそ出られるな。

 そして指輪をはめている左手をドアに触れる。


 ……どうやら出られたようだ。


「チュリー! (あっ!? ロイス君!? 無事だったんですか!?)」


「ピューーーー!」


「ミャ~」


「ニャ~」


 失敗作と言われてみれば確かにいつもの転移と少し感じが違った気がする。

 一瞬、頭というか脳が揺さぶられたような感覚があり、そのせいか視界が少しぼやけてる。


 魔物たちが抱きついてきた。

 ピピは俺の顔に何度もスリスリしてくる。

 ペンギンと子猫たちは必死に足にしがみついてくる。


 ……魔物たち以外にも何人かいるな。

 あのお爺さんが知らせたんだろう。

 そりゃみんな中が気になって仕方ないか。


 それより少し気分が悪い気がする。


 ……あ、ヤバい、倒れ……


「おっと、大丈夫かのう?」


 誰かが受けとめてくれたようだ。

 ……ジジイか。


「チュリ! (ジジイ! 早く横に寝かせてください!)」


 あ、無理……。


 そしてそのまま意識が遠のいた。



◇◇◇



 ……ん?


 ……あぁ、そうか。

 気分が悪くて倒れてしまったんだった。


 ……眠い。

 寝ようと思えばまだまだ寝れるな。


 それより、帝都に向かってる途中に体調を崩したのと合わせて、この旅で早くも二回目のダウンだ。

 慣れないことはするもんじゃないな。

 普段の生活が怠けきってるのは理解してるが、やはり俺には管理人室でのんびりしてるほうが性に合ってるらしい。


 で、ここはどこだ?

 ベッドには寝かせてくれたようだが。


 ……あ、俺が持ってきてた小屋か?

 ん?

 お腹のあたりでなにか動いた気がして布団をめくると、ペンギンと子猫がいた。

 ぐっすり寝てるようだ。


「ご気分はいかがですか?」


「え? ……ルーナさん?」


「お邪魔してます」


 もしかして看病してくれてたのか?

 ウェルダンといい、迷惑かけてばかりだな……。


「すみません、おかげさまで大丈夫そうです」


「それはなによりです。こんな素敵な小屋を持ち運べるなんて凄いですね」


「ウチの錬金術師が優秀なおかげです。あ、すぐお茶を……って飲まれてますね」


「アルフィさんが用意してくれたんですよ。そのレア袋の中を勝手にあさってたようですけどね」


 ジジイ……。

 人の袋を勝手にあさるなって習わなかったのか?

 この小屋もジジイが出したに違いない。


「ところでここはユウシャ村のどこなんですか? というか小屋を設置しても良かったんでしょうか……」


「屋上だから大丈夫ですよ。お気になさらずに」


 屋上だと?


 ペンギンたちを起こさないようにそっとベッドを下り、窓の外を見る。


 ……畑だ。

 そして武装したお爺さんやお婆さん。

 畑仕事のついでに上空の魔物退治ってわけか。


「まだ無理をしないほうがいいですよ。ウェルダン君はピピちゃんが見に行ってくれてますので安心してください」


「俺、どれくらい寝てました?」


「三時間くらいですね。聞けばここ数日あまり睡眠が取れてなかったらしいじゃないですか。どんなに忙しくても寝ないと体に毒ですよ。まだ若いんですから食事と睡眠はしっかり取ってください」


「すみません……」


 なんだか小言を言われてるみたいだ……。

 ユウナに似てると思ったのは気のせいだったようだな。

 そういやユウナはこのローナさんに口うるさく言われたせいで言葉遣いがあんな風になったってユウトさんが言ってたっけ。


 あ、ユウトさんのことはまだ話してなかったな。


 ……やめておいたほうがいいか。

 屍村にいたなんて聞かされて嬉しく思う人はこの村にはいないだろう。


 ルーナさんはお茶を美味しそうにすすっている。

 俺もカフェラテでも飲もうか。

 って今日飲みすぎか?

 とりあえず座ろう。


「ジジ……アルフィさんはなにしてます?」


「さっきまで一階にみんなを集めて晩餐会を開いてましたよ。自分は今日限りでこの村の村長を辞め、パルド王国に行くから最後の晩餐だと言って。料理は大樹のダンジョンで作られた物ばかりが並んでましたけど……」


 ジジイ……どれだけ俺の袋をあされば気がすむんだよ……。


「今は疲れて自分の部屋で寝てるんじゃないでしょうか」


 ジジイ……もうずっとここで寝とけばいいんだよ。


「ユウナたちはまだ戻ってきてませんか?」


「まだですね」


 さすがにまだ出てこないか。

 それまでにあの件を調べるとしよう。


「ルーナさん、大魔道士ローナって知ってます?」


「……もちろんですよ。最後の大魔道士として、この村でも帝国でも凄く有名なお方ですから」


「最後の大魔道士? それ以来、大魔道士と呼ばれる人物は出てないってことですか?」


「はい。だから魔道士はみんな必死に大魔道士を目指すのです」


 三百年も出てないということはローナさんは相当凄い人だったんだろうな。

 でももう一人俺のご先祖様の大魔道士がいたはずだけど、その人は帝国の人ではなかったんだろうか。

 まぁそっちの話は今はいいや。


「ではその大魔道士ローナの娘さんのことについてはご存じですか?」


「娘さんですか……」


 え?

 どういう反応だ?

 やっぱり可哀想な話になったりする?


「実は大魔道士ローナは当時同じパーティメンバーだった勇者と結婚して娘さんを授かったらしいのです」


 おお?

 そこまでちゃんと伝わってるんだ。


「ですが生後一年にも満たないときにある出来事が起こりました」


 あ……。


「娘を残してその親は二人とも蒸発してしまったのです」


 蒸発?


「そして一人になった娘は、誰にも引き取られることなく、短い人生を終えることになりました」


 ……え?

 娘は死んだのか?


 え、さっき二人とも蒸発って言った?

 え?

 勇者も!?

 それで娘さんは死んだのか!?

 勇者なにしてるんだよ……。

 でも誰か代わりに育てるって選択肢はなかったのかよ……。


「……というような説がこの帝国では一般的です」


 マジか……。

 ローナさんにどうやって説明しよう……。

 ってそのまま伝えるしかないんだろうけどさ……。

 こんな話を聞かされたら永遠に成仏できないんじゃないのか。


「ロイス君? 大丈夫ですか?」


「あ、いえ……やっぱりまだ少し気分が悪いようで」


「それは大変ですね。でも今の話はあくまで一般的に拡がってる説ですからね?」


「え? ……ほかの説もあるってことでしょうか?」


「はい。ごくわずかな者の間にしか伝わってない話があります」


 ごくわずかって……。

 それは信憑性がないからってことだろ?


「それよりロイス君、あの部屋でなにを見たんですか?」


「え?」


「大魔道士ローナの作業部屋のことですよ」


「えっ!?」


 もしかしてみんな知ってたのか?

 部屋の前で会ったお爺さんの話ぶりからして、開かずの扉がある謎の部屋と思ってるんだとばかり……。

 まずジジイに話そうかと思ってたけど、これならローナさんに話しても良さそうだな。


「その様子はやはりそうでしたか。代々伝わってきた話は本当だったようですね」


「は?」


「急に大魔道士ローナやその娘のことを聞いてくるなんて中でなにかを知ったに違いないですもの。ロイス君、中になにがあったのか教えていただけませんか? もう一説についてもお話しますので。それとできればこの話は内密にお願いします。あ、主人とアルフィさん呼んできますね」


「……」


 ルーナさんは小走りで小屋を出ていった。


 ……どうやら俺の頭はまだ働いていないようだから少し横になるか。


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