第三十二話 採集袋改良
「そして、先ほど言いましたソロとパーティの判断をどうするかなんですが」
「そうだ、そんなことできるのか?」
「お見せしたほうが早いですね。ここに私の冒険者カードと妹の冒険者カードの二枚ございます。カードのこの下部分に注目していただけますか? この下の部分には今なにも文字が書かれてませんが、このようにカードを重ねますと……ほらこの通り。先ほどなにも書かれていなかった場所にPTという文字が現れたのをご確認いただけますでしょうか?」
「「「「おお!!」」」」
「どうなってるんだ?」
「凄い!」
これ自体はそんな難しいことでもないらしいが、この冒険者たちは今なにを見ても驚くようになってしまっているな。
「この状態で戦闘を行い、どちらかが魔物を倒した場合でも二人に経験値が入ることになります。このPTの文字が入ってなければ経験値は一人にしか入りません。ただし、このPTにはある程度同じ範囲内にいる必要がございます。具体的に言えば半径十五メートル以内ですね。ララ、これ持ってちょっと離れてくれ」
ララがカードを持ち、二十メートルほどさっと離れてさっと戻ってきた。
「こちらをご覧ください。PTの文字がなくなっています。この状態だとソロだと判断されますのでご注意ください。ただし、三人以上のパーティの場合、自分以外の二人のどちらかと十五メートル以内であればPTが消えることはありません。つまり縦に並んでいたとして先頭の人と最後尾の人と最大三十メートルまでは離れても大丈夫だということになります。休憩中などうっかりして離れることもあるかと思いますので、再出発の際にはご確認していただくことをお勧めします」
冒険者たちはほぇ~といった表情をしているがしきりに頷いてくれている。
意外とみんな理解が早いな。
道具屋の店長さんが冒険者たちはバカだけどバカじゃないって言ってたもんな。
「冒険者カードの説明については以上になります。作成したい方は受付時にお申しつけください。作成料は無料となっておりますのでお気軽にどうぞ」
「「「「おお!?」」」」
「無料なのか!?」
「そんなんで大丈夫かよ!?」
「凄い!」
そりゃこのくらいでお金とってたらみんな来てくれなくなるもん。
「続きまして採集袋の改良についてご説明させていただきます」
この採集袋にも大きな変化を加えた。
この作業には結構魔力を使ったらしいからな。
カトレアの自信たっぷりな顔が目に浮かぶようだ。
……あれ?
寝てる?
カトレアちゃん?
今からその自信作をお披露目するのに……。
「まず、見た目の変化としまして、袋の外側、ここですね、採集物一覧と現在の採集数、本日の上限採集数をいつでも確認できるようにしました」
「「「「おお!!」」」」
「わかりやすい!」
「相変わらず凄いわね」
「凄い!」
どうだカトレア、みんな驚いてるぞ?
……そっとしておこう。
「ちなみに今日の採集上限はこのように、薬草二十枚、毒消し草十枚、リンゴ三個、ミカン五個となっております」
「薬草二十枚だと!?」
「それよりリンゴって言った!?」
「ミカンも書いてあるぞ!」
「凄い!」
ふふふ、これだけでも売ったら全部で最低でも200Gにはなるよ?
ウチのダンジョンお得でしょ?
果物の季節とか関係ないしねウチは。
「リンゴとミカンは地下三階でのみ採集可能となっております。今ご説明しましたのはあくまで見た目の部分です。次は中身の変更点につきましてご説明いたしますが、少し重要な点もございますのでよく聞いていただけますでしょうか」
「「「「……」」」」
冒険者たちは重要という言葉に反応したのか、シーンとした空気が流れ、俺が手に持つ採集袋に視線が集中する。
「まず今までの袋はタグ付き薬草を入れるとタグが外れ、その瞬間から薬草を覆っていた魔力も消えるというものでした。それに対してこの新しい袋は、タグ付き薬草を入れるとタグが外れ魔力も消えるところまでは一緒です。このようにカウントもされてますね。この薬草を取り出すと、通常の薬草として扱えるようになるところも同じです」
冒険者たちは息がつまりそうな様子で俺の次の言葉を待っている。
「違うのは、この薬草を再度袋の中に入れますと、見た目にはわかりにくいですが、再び魔力で覆われているのです。つまり袋の中に入れてる間は常に状態保存の魔力がかかっているのです」
「「「「!」」」」
「「「「?」」」」
驚いた者半分、それに意味があるの? といった者半分てところか。
まぁ薬草じゃわかりにくいか。
「薬草では効果がわかりづらいかもしれませんね。ではリンゴだとどうでしょうか? 例えばリンゴを半分齧って残りの半分をその場に放っておいたらどうなりますか? ……そうですよね、酸化して変色しますよね。それがこの袋の場合、その残りの半分のリンゴを入れると状態保存の魔力で覆われることになり、時間がどれだけ経過しようと袋に入ってる間は酸化されることはありません。袋の中は魔力の空間ですので汚れることはないので安心してください」
うん、仕組みまではわからなくてもなんとなく理解はしてくれたようだな。
さて、次の説明をする前に先に話しておいたほうがいいか。
あっ、一つ忘れてたな。
いや、二つか。
「それとこの袋ですが、先ほども言いましたように中身は魔力の空間でできております。つまり、この中にいれてる物の大きさや重量を感じることはありません」
「「「「!?」」」」
「薬草が入ってようと、リンゴが三個、ミカンが五個入ってようと、重さは袋が空の状態と変わらないということです」
「「「「!?」」」」
いい反応じゃないか。
なぁララ?
……ララ?
……ララちゃん?
立って寝たら危ないよ?
俺はシルバに視線を向け、ララの傍にいくように目で合図する。
するとシルバはさっと移動し、誰にも気付かれずにララを回収して家の中へ入っていった。
みんなの視線は俺が持つこの不思議袋に釘付けだからな。
実はこれについては最初に採集袋を提案したときにも言ってみたんだが、あのときは採集物が薬草しかなかったから見送られていたのだ。
「さらにもう一点、これには皆さまも喜んでいただけると思うのですが」
「「「「!?」」」」
もはや期待しかない目になってるな。
だがこれは期待してくれてもいいぞ?
なぁカトレア……は完全にカウンターに平伏して寝てるようだ。
「魔物を倒した際の魔石についてです。今回その魔石をこの袋が自動的に収集するようにしました」
「「「「魔石を!?」」」」
「「「「自動的に!?」」」」
「「「「収集だと!?」」」」
「凄い!」
はっはっは!
そうだろ?
凄いだろ?
声をあげずにはいられないっしょ?
「はい、特に魔物急襲エリアでの魔石集めが大変だという意見が耳に入ってきていましたからね。実は先にお話ししました指輪での経験値取得はこの魔石を判別して行っているんです。なので、ついでに魔石も袋が収集する形にしたらみなさんが楽になるだろうと考えまして。袋の口から入るわけではありませんので、そのあたりは特に気にすることはありません。ただし、パーティを組んでいる方たちの場合、経験値とは違って魔物にとどめをさしたお一人様の袋にのみ魔石は収集されることになりますのでトラブルにならないようご注意ください。もちろんどれだけ魔石を収集されようと重さを感じることはありません」
「「「「……」」」」
あれ? 驚かないの?
少し説明が長くてわかりづらかったか?
魔石は転移で袋の中に移動するって言ったほうがいいのか?
「ちなみに袋の中にはこのダンジョン内で取れる物しか入れることはできません。お持ちの剣であったり盾は当然、弁当なども入らないようになってます。ただし、このダンジョンでは採集物や魔石以外にも取れる物がございますよね? ……そうです、魔物素材です。この袋とも関係してきますが、今から魔物の素材について、これまでと異なる大きな変更点をご説明いたします」
さて、ここからが一番の山場か。
納得してくれない人も多いかもしれない。
だが、効率よく魔物を倒し、なおかつゲームっぽさを取り入れることでより楽しんでくれるはずだ。
「新システムとして、素材ドロップを導入いたします」