第三百十三話 皇族の避難者
「ロイス君、楽しませてもらったよ。君はかなり役者だね、はっはっは」
「はぁ……」
騎士たちがビシッと整列したってことはそういうことだよな……。
「私はマーロイ帝国第二皇子のバーゼル。こっちは妻のフィオナと娘のアリアナだ」
第二皇子……。
さすがに皇帝ではないだろうとは思ってたが皇子か……。
年齢は……三十歳くらいか?
奥さんはもう少し若く見える。
娘さんはまだ五歳ってところか。
「スタンリー騎士隊長、もしかして君がさっき言ってたのは私のことかい?」
「そうなのである! 呼びに行く手間が省けたのである!」
皇子に対してもあるあるなんだ……。
「それよりロイス君、さっきはいきなり雰囲気が変わったから驚いたよ~。あ、もちろん最初にアルフィさんと話してた丁寧な口調のときから聞かせてもらってたから、そのあとの騎士たちへの口調ってことだけどね。なぁ、アリアナ」
「うん! お兄ちゃん少しこわかったよ!? ねっ、お母様!」
「そうですね。なにが起きてるのか理解が追いつきませんでした」
う~ん、なんていうかこの三人、ゆるい感じだな……。
「ワシが連れてきたんじゃ。ワシが皇帝に会っとる間にこっそりと城を抜け出してもらってな。メタリンちゃんに手紙を届けてもらってのう」
「キュ! (お城の城壁から忍び込んだのです!)」
メタリンに危ないことさせるなよ……。
でもだから休憩させてたのか。
「窓をノックされた気がしたからカーテンを開けると、外のバルコニーにスライムがいたからそれはもうビックリだったよ。でも手紙を持ってたから悪いスライムじゃないと思ってね」
よく窓を開けたな……。
というかそれならピピのほうが良かったんじゃないのか?
でも馬車を引くのはメタリンしか無理だから仕方なかったのか。
「そしたらなんとアルフィさんからの手紙じゃないか。たぶん十年以上は会ってなかったから正直名前を見てもすぐにはピンとこなかったよ。しかも今城に来てると書いてある。でもそのあとは、王国へ行く気があるのなら今すぐ城を抜け出してメタリンちゃんに付いていけ、持っていく荷物はレア袋に入れろと書いてあるだけなんだよ? メタリンちゃんがこのスライムのことなのはなんとなくわかったけど、レア袋の説明に関してはなにも書いてないんだ。まぁメタリンちゃんが教えてくれたから助かったけどさ」
「キュ! (お城の中凄かったのです! 騎士の人に見つからないようにするのもハラハラドキドキで楽しかったのです!)」
城の中もいっしょに行動したのかよ……。
少し羨ましい。
というかジジイ、なんでレア袋を持ってるんだ?
「そんな目で睨まんでおくれ……。メタリンちゃんもノリノリじゃったぞ? ……あ、レア袋はララちゃんがくれたんじゃ。錬金術士ならせめてこれくらいは作って見なさいよとか言われてのう……」
ララのやつ、ジジイをイジメて楽しんでるな……。
「続きだけど、城から少し離れた場所に着くとメタリンちゃんが馬車を出せって言ってきたからさ、そのレア袋から馬車を出して、あとはアルフィさんが出てくるのを待ってたってわけなんだ。アルフィさんの後ろからは騎士が続々と来てたからビクビクしてたけどね、ははっ」
ここに来たってことは王国に避難したいってことなんだよな?
しかも家族三人だけで。
親……皇帝や母親は見捨てるってことか?
「……ロイス君? なにか言ってくれないかな……」
というかこの人も次期皇帝の一人なんだよな?
第二皇子ってことは皇帝になれる可能性もそれなりに高いんじゃないのか?
第一皇子が皇帝になるって決まりがあったら知らないけど。
こういった権力争いはドロドロになるみたいだからな……。
「ピュー?」
あ、起きたのか。
まだ赤ちゃんなんだからもっとよく睡眠を取らないとダメだぞ?
「キュ(ご主人様、みんなが待ってるのです)」
「ん?」
……確かにみんなが俺を見てる。
……あ。
「バーゼルさんたちは本当に王国へ避難したいんですか?」
「あぁ。無責任と思われても仕方ないけど、話を聞けば聞くほど、この国を守り切れる自信がなくなっていったんだ。もちろん皇帝や兄を説得もしたさ。途中からはスタンリー騎士隊長も私と似たような意見だったみたいだが、それでも皇帝たちを納得させることはできなかった。だからもう私たちは皇族の身分を捨て、これからは王国の一国民として普通の生活ができればいいと思ってる」
「「「「バーゼル皇子……」」」」
「ジジイはなぜバーゼルさんに手紙を?」
「第一皇子は昔から皇帝そっくりじゃからの。それにほかの若い皇子や皇女のことはほとんど知らんのじゃ。じゃからこやつにかけてみるしかないというただの消去法じゃよ」
「消去法って酷いなぁ~。昔はあんなによく遊んでくれたのに。というかジジイって面白いね、ははっ」
「笑い事じゃないわい。この兄妹は揃ってジジイ呼ばわりするんじゃぞ……」
ジジイがちょうど勇者を辞めたころに生まれたくらいか?
よく遊んでたということはジジイも帝都にいたのか?
このジジイ、まだまだ謎が多そうだ……。
「騎士のみなさん」
「「「「はい!」」」」
いやいや、俺にはそんなかしこまらなくてもいいんだって……。
「……皇帝、第一皇子、第二皇子、その三人だったらどなたを支持しますか?」
「「「「第二皇子です!」」」」
「みんなありがとう! みんなの家族も揃って王国へ避難しよう!」
「「「「はい!」」」」
ちょっと待て……。
まだ話は終わってないんだからな。
「バーゼルさんにはその前にやってもらいたいことがあります」
「なんだい? 私にできることならなんでもさせてもらうよ?」
「最後に、ここから帝都全体に向けて避難を呼びかけてください」
「ここからってどうやって? しかも帝都全体にだって?」
「魔道具がありますのでそれは大丈夫です。メタリン、できるな?」
「キュ! (風魔法ならお任せなのです!)」
レア袋から小型拡声魔道具を取り出す。
そしてテーブルの上に置き、メタリンをピッタリくっつけて完成だ。
通常よりも遠くまで声が届くだろう。
「この魔道具に向かって言葉を発してもらうだけで帝都中に響き渡ります。どこにいても音量は同じに聞こえますので、近場がうるさいってことはないです」
「……わかった。でもなんて言えば……」
「避難することは悪いことだと思っていますか?」
「国を任される者として無力で申し訳ないとは思ってるが、これ以上私やこの国にはどうすることもできない問題だとも思ってる。このままじゃ死ぬ未来しか見えない。だから悪いとは思ってない。さっき騎士たちにロイス君が話す内容を聞いて余計にそう思うようにもなった」
「ではそのままの言葉でいいと思いますよ。それを聞いて避難するかしないかはみなさんの自由ですから。でも逃げたほうがいいと言うのではなくて、逃げても構わないという趣旨の言い方なら騎士のみなさんも動きやすいでしょうね」
「……ロイス君はいくつなんだ?」
「え? 十六歳ですけど?」
「そうか……。フィオナ、アリアナ、私たちもここから屍村までは歩いての移動になるが大丈夫だな?」
「大丈夫! みんなといっしょに歩く!」
「もちろんです。もう特別扱いは必要ありません。でもバーゼルさんは王国に着くまではこの国の第二皇子として最後までしっかりと役目を果たしてください」
フィオナさんの言葉からは強い意志を感じるな。
「わかった。じゃあロイス君、始めるとしようか」
バーゼルさんはベンチに座り、一呼吸する。
俺はタイミングを見て魔道具のスイッチを入れた。




