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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十章 帝国大戦乱

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第三百十一話 最終避難開始

 やっとジジイが城に向かっていった。

 メタリンを休憩させたかったからゆっくりお茶してたんだってさ。


 一方こちらでは、ゾーナさんから帝国の冒険者たちへ今後の説明がされている。

 予定を少し早めて今から出発するということは既に避難者たちへは伝えてある。


「……以上だ。公園からは頼れる仲間が多く合流してくれるけど、橋までは休憩できないと思ってくれ」


「「「「おーっ!」」」」


 まさに代表者って感じだな。


 意外にも冒険者の数が多いことに驚いた。

 二百人くらいはいるんじゃないか?

 どうやら橋から公園まで全く冒険者がいなかったのは、最後の大移動に備えて帝都に集中させていたからだったようだ。


 この冒険者全員がウチのダンジョンに来てくれるかな?

 そうなったら一気に人数が増えて楽しいだろうな。


「「「ロイスさん!」」」


 ん?

 ……この三兄妹は相変わらず息がピッタリだな。


「みなさんご無事でしたか」


「はい! ですが勝手な行動して申し訳ありません……」


「いえ、ララから話は聞きました。俺でも同じ行動を取ってたと思いますから気にしないでください」


「そう言っていただけると……でもおかげさまで家族とも合流できました。この最後の移動まではずっと避難を呼びかけてくれてたようです」


 ララが言ってた通りだな。


「ウチの馬たちはいますか?」


「はい、ほかの冒険者たちも使わせてもらってたので結局四頭と二台の馬車が来てしまってるんです……」


 馬たちもよく無事だったな。


「じゃあ責任持って屍村まで送り届けてくださいね? 馬車はどう使おうが構いませんので」


「はい、それはお任せください。歩いての移動が難しい方に乗ってもらうつもりですので」


「そうですか。不満が出ないように気をつけてくださいね。でもどうせなら馬車をもう二台お渡ししますので連結してください。今度は走るわけじゃないのでたぶん大丈夫でしょう」


「馬が少し可哀想な気がしますが……」


 そんなことはない。

 馬だっていっぱい人が乗ってくれたら多少重くても嬉しいはずだ、たぶん。


「ではマイキーさん、マシューさん、マリッサさん、また王国でお会いしましょう」


「え? いっしょに行かないんですか?」


「……まさか?」


「……ユウシャ村に?」


 そういやこの三人はユウナがユウシャ村出身ってカミングアウトしたときの場にいたんだっけ。


 ……というかこの三人が大樹のダンジョンに来たところから全てが始まったんだよな~。


「はい。実はウェルダン……俺の仲間の牛の魔物がユウシャ村で倒れたんです。だから三人が大樹のダンジョンに帝国の危機を知らせにきてくれたときと同じように、今度は俺が勇気を出してユウシャ村まで行こうって決めたんですよ」


「そんな……」


「まさか巻き込んでしまうなんて……」


「すみません……」


「あ、いや、そんなつもりで言ったんではなくてですね……」


 この三人からしたらそう思ってしまうものなのか。

 ウェルダンが帝国に行かなければ倒れることもなかったんだもんな。


「風邪みたいなものですから心配いりませんよ。俺が行けば元気になるんです。ついでに帝国がどんなところか見てみたかったですしね。ちょうどいい機会ができて良かったですよ、ははっ」


「「「……」」」


 笑ったのは不謹慎だったか……。

 嘘だってこともバレてそうだな。

 自分で言っといてなんだが、俺が行って治る風邪ってどんな風邪だよ。


「「「……どうかご無事で」」」


「はい。みなさんも一人でも多くの人を救ってください」


 三人はそれ以上は聞こうとはせずに去っていった。

 自分たちのできることをやろうと決心したんだろう。

 最後マリッサさんの目には涙が浮かんでいるようにも見えた。


 でも俺、死ぬなんてこれっぽっちも思ってないからな?

 みんな俺の魔物を信用してるのかしてないのかどっちなんだろうな。


「チュリ! (準備オッケーです!)」


 ピピとタルが戻ってきた。

 帝都の外ではシルバたちが既に魔物を倒し始めてるはず。

 今回はただ魔物を倒すのではなくて、避難者が通る道上の魔物を全滅させることが目標だ。


 帝都周辺の魔物がいなくなったと喜んだり安心したりしてこのまま帝都に住み続ける人も多くいるだろう。

 今この大広場にいるのは帝都の住人のほんの一部の危機感を持った人だけなんだから。

 本当はこの人たちでも避難するのがかなり遅いくらいだ。


 だが再び魔物が出現し始めたときにはもう守ってくれる冒険者は誰一人いない。

 住人も騎士たちもそこで危機を感じてくれなければさすがにもう手の施しようがない。


 きっと俺たちやゾーナさんたち冒険者がいなくなってからもしばらくは避難者が続出するはず。

 だからその人たちのための最後の希望として、ティアリスさんたちがいた公園にはまだしばらく冒険者に残ってもらうことが先ほど決定した。

 だがその冒険者たちもせいぜい数時間長くいるってだけだ。

 早く前の行列に合流してもらわないと今から避難する人たちの中で犠牲者が増えるからな。


 もちろんそんなことはここに残る人たちには伝えるつもりはない。

 生きたいと思う意志さえあれば襲ってくる魔物から走って逃げてでも先に避難した集団に追いつこうとするはず。

 この町に残ればなにもしなくても皇帝や騎士たちが守ってくれるかもしれないけどな。


「ゾーナさん、準備ができたようです」


「わかった。先陣部隊! 出発してくれ!」


 二十人ほどの冒険者たちを先頭に、避難者たちが続々と町の入り口に向かって歩いていく。

 前との間はできるだけ詰めて、横に広くならないようにしてくれてるようだ。


 だがこれだけの避難者たちを冒険者だけで守るなんてことはまず不可能だろう。

 だから冒険者じゃなくても戦えそうな人には武器として銅の剣を渡すことにした。

 その人たちが自分の家族を守ってくれるだけでもだいぶ冒険者の負担が減るからな。

 敵を倒せないにしても時間を少し稼いでくれるだけでもありがたい。


「先陣の人たちの実力はどうなんですか?」


「帝都で中級者と呼ばれるパーティばかりだ。あくまで帝都での話な」


 帝都の中級者がどの程度のレベルかは知らないが、先導する人たちがどんどん魔物を倒してくれないと避難者たちの歩く速度にも影響が出るからな。


「ゾーナさんたちは公園に残る組なんですよね?」


「あぁ。アタイたちは責任を持ってどん尻を務める。前はティアリスたちに任せるよ」


 それなら安心か。

 帝国の冒険者たちを信用していないわけではないけどさ。


「なぁ、みんなそこまで弱くないからな? おそらくユウシャ村出身のやつらだっている。そいつらはみんな出身地の話になると口籠るからなんとなく察しがついてしまうんだ」


 いくら村のことを外部に話してはいけないって決まりがあるとはいえ別に悪いことしてるわけじゃないのになぁ。

 でもユウシャ村出身だとどうしても強い印象を持たれるだろうから、それが嫌な人も多いかもしれない。

 みんながみんなユウナやリヴァーナさんみたいな実力者じゃないもんな。


「ゾーナさんたちは強い部類に入るんですよね?」


「一応な。管理人さんがくれたこのミスリルの剣の力は大きいよ。帝国では高価すぎて武器屋でもまず目にすることすらできないんだ。だから何度もこれ狙いのやつらに襲われたよ。もちろん全員返り討ちにしてるけどさ、ははっ」


 それ盗賊とか強盗ってやつじゃないのか……こわすぎる。

 物価と収入が見合ってなければ治安が悪くなったりもするんだな、覚えておこう。


「あ、アタイたちより強いパーティもいるぜ? まぁアタイたちはついこないだまで三人だったから単純に比較はできないけど、そのパーティならすぐにでも地下四階に到達できると思う」


 ほう?

 それは楽しみだ。

 そういう人たちが来てくれるとウチも活性化するもんな。

 四バカは少し期待外れだったけど。


「……ふふっ、相変わらずだな」


「ん? なにがですか?」


「その無言でなにかずっと考えてる姿だよ。……あれからまだ半年しか経ってないけど、アタイたちは色々考えさせられることが多かった」


 アラナさんの死を乗り越えるところからのスタートだもんな。


「実はな、ユウシャ村にも一度行ったんだよ」


「え?」


「勇者に会うためにな。勇者の実力がどれほどのものかを知りたくなってさ。でも勇者は村にはいなかった。世界のどこかを旅してるんだとさ」


「勇者っぽくていいじゃないですか」


「そうなんだけどさ。でもそれよりガッカリしたのは村の人たちになんだ」


「村の人たち?」


「なんていうか、思ってたより強そうに見えなくてさ……。あ~この人たちも自分と同じ普通の人間なんだな~って思ってしまったんだよ。勇者の血が特別なものであってほしいと期待してたこともあるけどさ」


 そうだよなぁ~、勇者を生み出す村なんだから特別感が欲しい。


「でも管理人さんには魔物使いという特別な力があるだろ? だから余計に大樹のダンジョンのことばかり考えるようになってたんだよなぁ。せめて一年は旅してからじゃないと恥ずかしくて戻れないとは考えてたけど、まさか半年でこんな事態になるとは想像もしてなかったよ」


 確かにこのパーティには色々なことがありすぎたよな。


「そうだ、アタイとブレンダの家族はもうとっくにマルセールに着いてるはずなんだ。だからこれからは実家がマルセールになるよ、ははっ。ベネットの町を離れるのは寂しいけど、これも運命だよな」


 本当に無事に辿り着けてるといいけど……。


 ってこんなことを言うとフラグになりそうだからやめておこう。


「マルセールに住むのもいいですが、今はマルセールの南に港町を新しく作ってるんでそちらのほうがいいんじゃないですかね?」


「え? 港町? ……町? 町を作ってる? 港を作ったとは聞いたけど……」


「はい。まぁ詳しくは王国に着いたらわかると思います。ウチの冒険者たちもそこまではまだ詳しく知らないはずなので。ベネットの町を知ってる方々ならベネットの良さを取り入れた町にできるかもしれませんね」


「……ははっ、スケールが違いすぎて考える気にもならないや。でも管理人さんに任せておけば間違いないってことだけはわかる。これからも世話になるよ」


「じゃあ俺が生きて帰ってこれることを願っておいてくださいね」


「管理人さんの魔物たちがいて生き残れないようならどの道この世界が滅びるのは時間の問題だよ。だから無事しか信じない」


 無事しか信じない、か。

 死ぬか死なないかのどちらかしかないんだからそう答えて当然かもしれない。


「ゾーナ! そろそろ行くよ~!?」


「あ、思ったよりスムーズに列が進んでるみたいだな。本当に魔物を全滅させてくれてるのかもしれない。じゃあアタイたちも行くよ」


「えぇ、お気をつけて。あ、ララは同情の言葉は聞き飽きてるんで、悲しくなるような空気にはしないでくださいね」


「ははっ、なんだよそれ。じゃあまたな」


 最後は笑顔で別れた。

 次に会うときも笑顔で会えるといいが。


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