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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第二章 大樹のために
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第三十一話 冒険者カード

「どうする? まだやめることもできるんだぞ?」


「ヤダ! 絶対今日オープンするの! みんなが戦ってるとこみたいもん!」


「……はぁはぁ、そうですよ。私は一刻も早くお肉を……」


 肉? 今お肉って言わなかった?

 でも二人ともボロボロじゃないか?

 そんな体調ではオープンどころかまともに働かせることもできないぞ。


 昨日、ララは地下三階のチェックに行くと言って転移した後、夕飯の時間になっても帰ってこなかった。

 カトレアはポーション自動販売魔道具の作成を比較的短時間で完了させた。

 その後は別件について俺と色々検討していたのだが、俺がアイデアを決定させ、今から魔道具を作るようにお願いするとげっそりした様子で頷き、その場を離れた。

 これまた戻ってきたのは夕飯の時間をだいぶ過ぎていた。


 ララはふらふらになりながらも夕飯にぶっかけうどんなるものを作ってくれた。

 うどんと言えば温かい汁の中に入ってるイメージだったからこれはとても新鮮でツルっと食べることができた。

 もちろん美味しく、カトレアもこのときばかりは元気になっていた。


 食後、なぜかララがもう一度ダンジョンへ行ってくると言いだした。

 なにかまだ確認できてないことがあるのだとか。

 さすがに時間が時間だったので、どうしてもというなら明日の朝に行くように言ったんだ。


 カトレアは頼んでいた作業が完了していたようだったのでまた思いついたことをお願いしてみた。

 すると、一瞬忌まわしいものを見るかのような目をされたがなにも言わずに去っていった。


 そして、朝食の時間の今に至るというわけだ。


「さすがに今日は無理じゃないか? なんせ新要素が多すぎる。とても俺一人では回せそうもないし、ドラシーだってカトレアの助けがなければ無理だ。ララだって朝からまた行ってきたばかりだし、カトレアはあまり睡眠が取れてないようじゃないか」


 そんな状態を冒険者たちに見られるとウチの環境がブラックだと思われてしまう。

 ……そういやカトレアはサブになったんだから従業員みたいなもんだよな?

 給料を払うことは考えてなかったな。

 あっ、これ完全にブラックだウチのダンジョン。


「やはり今日は地下二階までにしよう。ポーションも明日からにする」


「ヤダヤダ! みんなといっしょに早く魔物急襲エリア行きたいの!!」


「嫌です! 私の汗と涙の結晶である新システムをみんなに早くお披露目したいです! ポーション担当のウサちゃんも準備してくれてるんですからね! 早くお肉が食べたいです!」


 俺は助けを乞おうとドラシーを探すが、リビングのテーブルの上にある小さなベッドで寝ているのを見つけ諦めた。


「……わかったよ。その代わり体調が悪いと感じたらすぐに休むこと。それでいいな?」


「「はい!」」


 今日地下三階をオープンすることは冒険者たちには言ってない。

 本来は先週の予定であったが、先々週の時点で諸事情により延期と発表して残念がられたものだ。

 延期と発表していても、そう言っておいて実はオープンするんじゃないかと考えた冒険者が先週月曜朝早くから多数訪れていた。

 なので魔力が足りなくてまだ先になりそうだと適当にあしらったのだが、それならばと先週は今までで一番多い来場客数となっていたのだ。


 そのような経緯もあり、今日こそはオープンするであろうと期待している冒険者たちが、八時にも関わらず外に集まっているのである。

 近頃お客が増えすぎたため、受付に並んでる列と小屋前にいる人達がごちゃごちゃになっていたので、このエリアの入り口にも簡易な門を設置することにした。


「チュリリ! (みなさんいつもよりさらに早いです!)」


「わふ~? (僕もまた地下三階行ってきていい?)」


 ピピとシルバは昨日も今朝もララと一緒に地下三階行ってきたばかりなのに元気だな。

 さすがにピピは残ってくれないと俺がのんびりできないからダメだよ?


「あぁ、行ってきていいぞ。ララが倒れそうならすぐに連れて帰ってきてくれ。じゃあピピ、門のカギを開けてきて」


「わふ! (やった!)」


「チュリ! (了解しました!)」


 ピピが門を開けると、冒険者たちは走って入ってきた。

 ……多いな。

 三十人はいるんじゃないか?


「おはようございます」


 いつもと同じように挨拶をすると


「おはようございます!」


「あの門はなんですか!? いつの間に作ったんですか!?」


「新しい門ができたということはもしかして!?」


「あれ!? あの小屋の前のものはなんですか!?」


「凄い!」


 相変わらず朝から元気な人たちだ。

 この時間から来るぐらいだから知らない顔の人はいない。


「えぇ、お察しの通りです」


「「「「うおぉぉぉーーーー!!」」」」


「「「「やったぁーーーー!!」」」」


「凄い!」


 元気すぎるだろ。

 ここが町中だったら即行締め出されてるよ。


「ララ、風魔法でみんなに声が届くようにしてくれるか? カトレアは左で準備しておいてくれ」


 そう言って俺とララは管理人室の外に出た。

 カトレアは管理人室内の左側の席にて受付の準備を始めている。


「みなさんおはようございます! とりあえず声が聞こえる位置に集まって座っていただいてもよろしいですか?」


 冒険者たちはワクワクが抑えきれないといった様子で足早に俺の前に集まって座り出した。


「ありがとうございます! では今から新階層である地下三階についてご説明させていただきます! 新システムであったり新要素であったりと新しいことがいくつかございますが、いったん最後まで聞いていただければ幸いです。質問は最後に受けつけたいと思います!」


 冒険者たちは「おぉ」と声を上げるも、それ以外は頷くだけで静かに聞いてくれるようだ。

 メモを取り出す者までいる。


「ではまず、新システムである冒険者カードについて説明を行います」


「「「「冒険者カード!?」」」」


 思わず声を発せずにはいられなかったようだ。

 だがすぐにしまったとばかりに身をすくめる。


 ふふふ、そうだろう?

 冒険者カード、いい響きだろ?


「この冒険者カードはお客様の情報を保持させていただくものとなっております。その情報とは、当ダンジョンの踏破状況……つまり何階層まで到達しているかですね。それと、勝手だとは思いますが、ランクというものを設定させていただくことになります」


「「「「ランク!?」」」」


 お? これはどういった反応だ?

 勝手にランク付けするなってことか?

 そりゃ勝手だと思うが、転移が可能かどうかの判断をただ到達階層だけでは決められなかったから仕方ないじゃないか。

 ただ地下三階に行くだけなら強い人の後ろをついていけば簡単なことだからな。

 その後一人で行かれても危険に陥るに決まってる。


「なにそれ面白そう!」


「俺のほうが上だからな!」


「ちょっと! 最後まで聞きましょうよ!」


「凄い!」


 好意的な意見のほうが多そうだな。


「ランクといいましても、一人で何階層まで行っても安全かどうかを判断するだけですので悪しからず。このランクの判断基準はセーフティリングが計測した値を基に判断することになっています。それと、この冒険者カードは強制ではありません」


「強制ではない?」


「ならなんのために?」


「自分の強さを知るためとか?」


 やはりこれだけではピンとこないか。

 ……ティアリスさんのあの顔はなにか気付いてそうだな。


「このカードはこのダンジョンからも持ち出し可能です。一番の目的は次回来たときに到達済みの階層の入り口へ転移できるようになることです」


「「「「おぉ!!」」」」


「一度行った階層ならば次からはすぐに行けるってことか!」


「それはいい!」


「凄い!」


 うん、なかなかいい反応だ。

 これならまだしばらく通ってくれるよね?


「このときの判断基準にランクを用います。なにより安全がこのダンジョンのモットーですからそこはご了承ください」


 冒険者たちは、「それなら仕方ないな」「当然だ」「うんうん」などといった表情で頷いているように見える。


「繰り返しますが強制ではありませんから。ちなみにランクはHランクからのスタートとなります。Gランクになれば地下二階から、Fランクになれば地下三階から入場できるようになります」


「Hから上がっていく感じか」


「Fランクでもまだ初級者レベルってことよね?」


「まずはFランクに上がらないとな!」


「先は長そうだ……」


 そうだ、先はまだまだ長いぞ。


「それとセーフティリングにも改良を加えております。まず、指輪を装着していない状態でダンジョンに入ることはできなくなりました。ダンジョン内では指輪を外すこともできません。それとランクの関係で、内部的ではありますが倒した敵の総経験値という項目を増やしました。こちらは自動で溜まり、冒険者カードへ反映される形となります。あくまでランクの判断基準としてだけなので、特に深く考えないでください。ただし、ソロで戦ってる場合とパーティで戦ってる場合では入手できる経験値に差が出ます。均等割りとまではいかないものの、ソロに比べてパーティは一人当たりの入手できる経験値が少なくなってしまいますのでご了承願います」


「え? じゃあソロの方がいいのか?」


「バカ! ソロの方がパーティより大変なんだから当たり前だろ」


「均等割りじゃないのならパーティでも良さそうね」


「凄い!」


 ふふふ、どうだ冒険者カードは?

 転移とか関係なく欲しくなってきただろ?

 後ろのカトレアを見てみろよ。

 眠そうだけどニヤニヤが止まらないって顔してるぞ?

 そうだ、アイデアこそ俺が出したがこれを実現したのはカトレアとドラシーなんだからな。

 

 だがまだこれくらいで驚いてもらっては困る。


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