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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十章 帝国大戦乱

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第三百五話 橋と騎士

 リヴァーナさんやシルバたちが戻ってきた。

 シルバたちが魔物を狩りすぎたせいか、リヴァーナさんは戦闘よりも魔石を拾ってる時間のほうが長かったらしい。


 そして食事休憩が終わり、出発することにした。

 ここから真東に行くと大きな橋があるらしい。

 元々帝国は四つの大陸、国に分かれていたのを橋で繋げて一つの国にしたんだったな。


「ベルちゃんの新品のローブさぁ、私のと色違いだったけど、緑はロイス君が選んだの?」


「いえ、ベルさんが緑を気に入ったようで」


「ふ~ん、そうなんだぁ~。ロイス君と同じ緑をねぇ~」


 俺のはグラデーションになってるんだからベルさんのローブの緑とは同じにするなよな。

 こっちは手間がかかってる分だけきっと少しお高いんだぞ。


「リヴァちゃんも大樹のダンジョンに行ったら黄色のオシャレなローブ作って貰ったらいいじゃろ?」


「うん! ロイス君のコートみたいなグラデーションにしてもらうの!」


 御者席には寝起きのジジイが座っている。

 リヴァーナさんは仮眠を取るために馬車内で横になってるが、まだそこまで眠くはないのかずっと話しかけてくる。

 そういや俺が屍村に着いたとき寝てたんだったよな。


 ここまでの道中は冒険者たちのおかげで思ったより敵の数が少なかったので、シルバたちにも交代で寝てもらうことにした。

 今俺の傍ではシルバ、マカ、エク、タルが寝ている。

 いつも思うがすぐに眠りにつけるのが本当に羨ましい。


「あ、でもそういう特注的なことはやってないんですよ~ウチ。サイズ直しくらいはしますけど、さすがに細かい色の注文まで聞いてたらキリがないですからね」


「えぇ~そうなの? な~んだ」


「どの装備も売れ筋は大体黒と白ですしね。一応各色取り揃えるようにしてますが、ほかの色はあまり売れないんですよ」


「確かにね~。どこの防具屋も黒か白しか置いてないもん。でも個性って大事だと思うんだけどなぁ~」


「リヴァーナさんみたいな凄腕の魔道士の方が黄色を着てるとみんなマネして黄色を着るようになるかもしれませんね」


「そうなったら面白いよね。でもみんなが着ちゃったら結局黒や白と同じになるのか。それは嫌かも」


 いくら服や装備品に無頓着な俺でもその気持ちは少しわかる。

 特に毎日着る防具だとそう思ったりするのかもな。

 愛着があるからこそ自分だけのオリジナリティが欲しくなるんだろう。


「わかりました。では装備品のカラーを自分好みに変更できるチケットみたいなものを魔物のドロップ品に追加しましょうか。そのチケットがあれば新品の防具を買われるときに無料で自分好みのカラーの注文ができるようにしますので」


「本当!? ……でも魔物のドロップ品ってなに?」


 あ、そうか。

 まだウチのダンジョンのシステムについてはなにも知らないんだったな。

 えっと、案内冊子は…………あった。


「こちらの案内冊子をどうぞ。では当ダンジョンにつきましての説明をさせていただきます」


「ぷぷっ! ロイス君もそんな受付みたいなことするんだ? ララちゃんも受付ごっこしてたよ、ぷぷっ」


 なぜ笑う?

 別に面白いこと言ってないよな?


「受付ごっこじゃなくて本当に受付が仕事なんです。というか俺の仕事は受付がメインですよ? 管理人室にある受付カウンター席に座って、毎日ずっとお客を待ってるんですから。それに毎朝ダンジョンに向かう冒険者のお見送り、夜にはお出迎えもしてますし」


「え……従業員いっぱいいるって聞いたよ? ロイス君はほかにもっといっぱいやることあるんじゃないの? 経営で忙しいだろうし……」


「いやいや、俺ができることなんて受付くらいなんですよ。お金に関することはほぼララが管理してくれてますし、従業員のシフトを考えたり給料を渡したりするのもララです。まぁカトレアがララの補助に入ってくれたりはしますけど、錬金術師は忙しくなると錬金以外のことが全く手につかなくなりますから、やっぱりララに頼るしかないんですよ」


「え……ララちゃんヤバくない? まだ十二歳なんだよね?」


「はい。兄が頼りないと妹がしっかりするみたいですね、ははっ」


 自分で言ってて虚しくなるな……。

 でも俺が経営のことを考えるよりララに任せたほうが確実なんだから仕方ないじゃないか。


「そんな謙遜せんでもよいじゃろ。本当に頼りない兄じゃったらララちゃんもあそこまで心配せんよ。それに道で会ってきた冒険者たちを見ればわかる。みんながロイス君を慕っておったじゃろ」


「だよね。ロイス君はきっと女の子にモテモテだもん」


 慕われてるのとモテモテは違うと思うんだが……。

 ってそういう話になるとユウトさんのことが出てきそうだからやめておこう。


「それよりジジイは魔物を倒してくれてるんですか?」


「い~や、ワシはなんもしとらん。リス二匹だけでも余裕なようじゃ。こやつらの魔法、今のワシのよりも強いかもしれん……」


「リスたちはまだ一歳にもなってないんですよ? それに負けないでくださいよ~」


「なんじゃと……でも魔法は別にしても素早さがズルいんじゃよ……」


 ジジイに期待はできなさそうだな……。

 まぁ騎士との揉め事がありそうならそのときは元勇者の肩書きが役に立ってくれるみたいだけど。


 そしてそのあともこれまでと同じように道中冒険者たちに補給物資を渡しながら進んでいく。

 避難してくる人たちともすれ違うからどうしてもスピードが上がらない。

 予定よりも数時間遅れだが、それでもなんとか橋にまで辿り着くことができた。

 ユウシャ村はまだまだ遠い。


 これは関所ってやつか?

 頑丈そうな門があるじゃないか。

 その前には騎士っぽいの人が何人もいる。


「とまれ~! ここから先は……スライム!?」


 騎士たちは戦闘態勢に入った。

 ジジイ、頼んだ。


「ちょっと帝都のほうまで行きたいんじゃが」


「それはいいが、このスライムはなんだ!? なぜ馬車を引いている!?」


「馬みたいなもんじゃよ。それにそのリスたちも魔物じゃ」


「なっ!?」


「魔物使いって知っておるか? その魔物使いの魔物じゃから心配せんでもいい」


「魔物使いだと? ……なんだそれ?」


「なんじゃ、知らんのか。お主じゃ話にならんから責任者呼んでくれ。騎士隊長のスタンリーはおらんかの?」


「もしいたとしてもお前みたいな胡散臭いやつを騎士隊長殿が相手にするわけないだろう! 魔物使いだかなんだか知らんが魔物を通すわけにはいかん! すぐに引き返せ! 殺されないだけありがたいと思えよ!?」


 ……ヤバい、キレそう。


 とそのとき、ジジイが壁に向かって魔法を放った。


 騎士たちは自分たちの背後への攻撃になにが起こったのかを理解できていない。


 壁の一部が崩れ落ちる。

 今のは土魔法か?

 結構威力あるじゃないか。


 っていきなり攻撃して大丈夫なのかよ……。


「貴様! おい、今すぐ捕らえよ!」


 馬車が騎士たちに一斉に取り囲まれる。


「お主ら、ワシのことを知らんのか? アルフィという名に聞き覚えは?」


「……アルフィだと? ……まさか元勇者の!?」


「若造でもさすがに名前くらいは知っておるか。一刻を争っとるんじゃ、通してくれるかのう?」


「……どうぞ」


 騎士たちは不本意そうにしながらもゆっくりと馬車から離れていく。


 そして門が開き、橋へと入ることができた。


 というかこんな簡単に通していいのか?

 名前を知ってただけで本人かどうかなんてわからないだろ?


「普段は門が開きっぱなしなんじゃよ。じゃから誰でも通れるんじゃ」


「じゃあなんで今はとめられたんですか?」


「そりゃこんな状態じゃからのう、ほれ」


 橋の先を見てみる。


 ……ここもまた人で溢れかえっているようだ。


「まさかこれ全部避難者ですか?」


「じゃろうな。ここは帝都と屍村のちょうど中間地点になるから休憩場所にしとるんじゃろ」


 門を閉めれば陸路から魔物は入ってこれない。

 川からの高さも結構あるし、空中だけを気にしておけばいいってわけか。

 確かに休憩場所としては持ってこいの場所だ。


 そして橋の両脇には弓矢や剣を装備した騎士が外側を向いて等間隔で並んでいる。

 ……魔道士もいるようだな。


 でもこれはつまり逃げることを手助けしてるってわけだよな?


「この人たちは騎士隊長側の人間なんですかね?」


「どっちに付けばいいのかわからんのじゃろう。じゃからワシらをとめてみたり、通したりもする。じゃが国民を救いたいという気持ちだけは誰もが同じじゃ」


 自分たちがこの先どうなるかも不安なはずだもんな。

 そのうえ国民の命まで守らないといけない。

 騎士としてのプライドもあるだろうから王国の冒険者の言うことなんか鵜呑みにもできない。


 そう考えると騎士隊長とやらの行動力は凄いと思う。

 逃げろなんて言われて皇帝が首を縦に振ることなんてまずないだろうが。


「わふ? (なにかあったの?)」


 シルバが目を覚ましたようだ。


「そういやシルバとマカはどうやってこの橋を通ってきたんだ? 門を飛び越えたのか?」


「わふ(え? わっ、人がいっぱい……ユウシャ村に行ったときも屍村に行ったときも門は開いてたし、まだほとんど人はいなかったよ。騎士の人はいたけど見つかるわけないしね)」


「そうか。ということは今日だけでこれだけの人が避難してきたんだな。このあとも……ん?」


 空中から襲ってきた敵を誰かが火魔法で派手に焼き尽くした。

 なかなかいい炎じゃないか。


「さすがです! 次あのドラゴンをお願いします!」


 騎士たちからは歓声があがっている。

 一方逆側では矢が何本も放たれ、全てが敵に命中し、敵は川に落ちていった。


「お見事! どうやったらそんなに命中力が良くなるんでしょうか!?」


 騎士がそんなに低姿勢でいいのかよ……。

 というか守りを王国の冒険者に任せっきりでいいのか……。


「あやつらも大樹のダンジョンの冒険者か?」


「はい。ウチでは中級者に認定してます」


「ふ~ん。まぁそれなりの火魔法ね。中級者って言うくらいはあるよ」


「彼女が得意なのは風魔法なんです」


「え……そ、そうなんだぁ……まぁリヴァの風魔法ほどではないだろうけどね……」


 ララが凄いって言うんだからリヴァさんの魔法は雷以外も相当な威力なんだろう。

 なにかこだわりがあるらしく、ほとんど雷しか使わないようだが。


 ウチの馬車に気付いたそのパーティのリーダーが向こうからこっちに歩いてくる。

 そして俺の魔物が多いことに気付き、異変を感じ取ったようで慌てて馬車に駆け寄ってきた。


 なので馬車から少し顔を出す。


「ナイジェルさん、お疲れ様です」


「ど、どうして……てっきりララちゃんがこんなところまで来たかと思ったらまさか……」


「少し野暮用ができまして。あ、これ大量の食糧が入ってますのでここに避難してきた方々にも食べてもらってください」


「あ、あぁ……でもなにがあったんだ? ……あ、ゲンさんまでいるじゃないか……」


 ヒューゴさんやティアリスさんパーティに話したんだからナイジェルさんたちにも話したほうがいいか。


「パーティの四人に集まってもらっていいですか? リヴァーナさんとジジイは代わりに警備に当たってください」


「え~~。敵倒しても魔石が川に落ちちゃうからあまりやる気が起きないんだけどね~」


「ずっと座りっぱなしで腰が痛いのにのう……」


 そう言いながらも二人は馬車を降りてすぐに魔物めがけて魔法をぶっ放している……。

 リヴァさんは風魔法を使うことにしたようだ。


「あの子がティアリスの言ってた例の子か。となると今から向かうのはもしかして……あ、すぐにみんな呼んでくる」


 ティアリスさんはお喋りすぎるな……。


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