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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十章 帝国大戦乱

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第三百一話 説得

 ララが落ち着くのを待ってから、小屋の横にある会議スペースに移動した。


「そのコートいいですね。緑のグラデーションがきれいです」


「背中の刺繍も見てください」


「……おお!? これはまさに私たちが毎日見てたあの景色じゃないですか!?」


 ヒューゴさんにはこのコートの素晴らしさがわかるようだな。


「これは新作か? なんの素材を使ってるんだ?」


「マグマドラゴンの皮とミスリルを使ってます」


「え……高そうだな……でもいいな」


 ヴィックさんはこっちの装備が気になるのか。


「その帽子は」


「ねぇ、もう始めますよ?」


「はい……すみません」


 せっかくヒューゴさんが帽子にも触れてくれようとしてるのに。

 こういう宣伝も大事なんだぞ?


「じゃあお兄、早く説明をお願い」


 ヒューゴさんパーティとエマも合流。

 リスたちも村の外から帰ってきて、ここにいない魔物はユウシャ村にいるウェルダンとビスの二匹だけだ。

 みんな久しぶりに俺に会えて嬉しいのか、俺の周りには魔物が集まってる。

 ペンギンだけはララがむりやり自分の目の前に座らせたが。


 そして説明を始める。

 もう何度もしてきたから受付のときと同じように定型文になってるな。


「ダメ! 却下!」


 早い……。

 まだウェルダンが倒れたからユウシャ村に行くって言っただけで、詳しい理由は今から言うところなのに。

 マリンは一応最後まで聞いてから反対したぞ。


「ダメだからね!?」


 ……続けて俺にマナの力らしきものがあることを説明する。


「ダメ! 危ないから絶対ダメ!」


 なに言ってもダメって言いそうだな……。


「ララちゃん、ウェルダン君が死んじゃうかもしれないんですよ?」


「それでもダメ!」


「では死ぬのではなくて、魔瘴による影響で凶悪な魔物になってしまったらどうします? ユウナちゃんたちにウェルダン君を倒させるんですか? ロイス君が同行しなかったらシルバ君たちも同じようになるおそれがあるんですよ? ピピちゃんやシルバ君の体調変化に気付きましたよね?」


「それは……。でもお兄が死んじゃったら意味ないもん……」


 本当に凶悪な魔物になるかなんてことはわからない。

 でもゲンさんたちが以前に、魔物は普通の動物が魔瘴を浴びて魔物化した例も多いと言っていた。

 それに俺たちはただのリスが魔物化した例も実際に見ている。


 俺の魔物たちの場合とは少しケースが違うとはいえ、魔瘴の影響が良くないということくらいはわかる。


「ララ、もし倒れたのがウェルダンじゃなくてユウナだったらどうする?」


「……行く。お兄の魔物たちをむりやりにでも連れて」


「そうだろ? それに半年前だってララは魔工ダンジョンに助けに行ったじゃないか」


「それとこれとは別なの! お兄だけはダメだもん! 戦闘も全然してないでしょ!? そんなの危ないに決まってるもん! こんな魔瘴の中で無事に帰ってこられるわけがないよ!」


「ララが頼んでくれたこの防具があれば大丈夫だ。まぁ俺はできるだけ馬車の中でおとなしくしとくけどさ」


「……ダメだもん。それでもお兄が行くって言うんなら……私も行く」


「ダメだ。俺とララの二人を守れるほど魔物たちは万能じゃない」


「でも……」


 ララが不安がるのも当然か。

 この数日間で家族を失い一人になってしまった子供のことも数多く目にしたことだろう。

 もし俺が死んでしまったらララも同じように一人になる。

 カトレアたちがいるとはいえ、ララにとっても俺にとっても本当の家族は俺たちだけだ。


 そういう意味では俺をダンジョン管理人として見てないのはララだけかもしれないな。


「……でもよく考えると、ユウナやシャルルが倒れたんなら俺が行くことはなかっただろうな」


「「「「え……」」」」


「その場合はウェルダンかシルバにウチの最上級のポーションを渡して終わりだったはず。ララやほかの誰かを行かせるようなこともしなかった。俺にそんな能力があるかもしれないことにも気付いてなかっただろう」


「……」


「もちろん今俺が行ったところでウェルダンを救える保障なんてないし、俺が着く前に死んでるかもしれない。もし行かなくてもユウシャ村の人たちが今頃こっちに向かってきてくれてるかもしれない。ユウナが上級の浄化魔法をマスターして治してくれてるかもしれない。つまり可能性を考えればキリがない。でも俺が行かなかったらそれだけで可能性を狭めることになる」


「……お兄じゃないとダメってことだよね」


「あぁ、俺じゃないとダメだ。俺にしか救えない可能性だってあるのに、なにもしないわけにはいかない。例え危険を冒してでもな」


「…………わかった」


 わかってくれたか。


 だがカトレアの視線が少し痛い……。

 そりゃ俺だって最初は乗り気じゃなかったが、もうこの通り行く気満々なんだからいいだろ?


「でもやっぱり私も行く。私がお兄を守るから」


 わかってなかったか……。


「あのなぁ」


「ゴ(ララ、お前が行くのなら俺たちは行かん)」


「なにゲンさん?」


「……ララが行くんなら魔物たちは誰も行かないってさ」


「えっ!? なんで!?」


「ゴゴ(さっきロイスが言った通りだ。お前が行くと俺たちに犠牲が出る可能性が高くなる。馬車の中にいようがおそらくお前は封印魔法すら使えない。ただ一人で怯えてるだけだ。ロイス、今のララはワイルドボアが近くにいるだけでも足がすくんで動けなくなってしまうんだ)」


 厳しいな……。

 でもゲンさんがここまで言うんだから今のララが戦えないのは明らかだ。


「お兄?」


「……ララになにかあったら俺に申し訳ないってさ」


「嘘だ、もっといっぱい喋ってるもん。……でももういいよ。みんなにまで迷惑はかけられないからね」


 今度こそわかってくれたようだな。


「よし、ワシがいっしょに行ってやろう。まだまだ若いもんには負けんぞ」


「お兄、でも一つだけ約束して」


「……なんだ?」


 みんな何事もなかったかのようにしてるけど、長老は無視でいいのか?


「絶対に帰ってきて。例えウェルダンが助からなかったとしても、村の人たちやユウナちゃんが村に残るって言っても、魔瘴が凄くて帰れそうになくても絶対に帰ってきて」


「……スピカさんは、ユウシャ村に行ってその帰りに身動きがとれなさそうならそこから動くなって言ってたぞ?」


「動いて。そのころにはもう誰も移動してないだろうから、みんなで前方に魔法をぶっ放しながらメタリンが全速力で馬車を引けば大丈夫」


 確かにそれなら大丈夫そうだが、もし最後の希望を持って避難してる人に当たったらと思うとこわくて無理だろ……。


「ワシが連れ帰ってくるから安心していいぞ。このまま王国に行かずに死ぬわけにはいかんからな」


「「「「……」」」」


 いいのか?

 無視でいいんだな?

 そういう扱いの長老なんだな?


 そのとき、さっきララが出てきた小屋のドアが開いた。

 まだ誰かいたのか。


「ふぁ~、よく寝た。……あれ? みんな集まってなにしてるの? ご飯?」


 ……リヴァーナさんだ。

 背が低いとしか聞いてなかったが、一瞬でピンときた。

 カトレアもそう思ったのか、急に緊張した表情になる。


 リヴァーナさんはそのままなにも言わずに向かいの端の席に座った。

 エマもなにも聞くことなくすぐに飲み物の準備に取りかかっている。

 おそらくリヴァーナさんはここに来てからはこの小屋でララたちと生活してるんだろう。


 というか俺とカトレアに気付いてないのか……。


「お兄、この人はリヴァーナさん。ユウシャ村出身の魔道士で、雷魔法は上級レベル、土魔法と風魔法は中級レベルと凄い魔法の使い手なの」


「……え? お兄? …………あ、どうも……」


 お互い軽く会釈をする。


 続いてララから俺とカトレアを紹介され、カトレアとも無言で会釈を交わしている。

 しかしなぜか俺のことばかり見てくる……って俺が見てるからか。

 カトレアが言うように男性不信かもしれないからあまり見るのはやめよう。


 ……チラッと見てみようか。


 ……やっぱりまだこっちを見てる。

 なにか見定めをされてるようにも感じる。


「チュリリ(見た目は小さくて可愛い女の子ですけど、魔力が凄いです……ユウト君の言ってたこともあながち間違いではなさそうですね……)」


 ピピにそこまで言わせるとは……。

 それほどの逸材なのか。


「リヴァさん? お兄は戦闘タイプじゃないですからね?」


「……うん。わかってる……」


 なんだその確認は?


 ……まさか俺と一対一で戦おうとしてたんじゃないだろうな?

 実はそういう決闘が好きだからソロを続けてるとか言わないでくれよ?

 こっちは色々想像してたんだからな?


「お兄は今からユウシャ村に行くんです」


「えっ!? ……そうなんだ」


 何度かチラ見してみるが、向こうはガン見してきてる……。

 たまにカトレアのことも見てるが、ほぼ俺を見てるよな?


 俺のことをこわがって警戒してるのかもしれない。

 そういや俺まだ一言も口を開いてないもんな。

 第一印象としては最悪に違いない……。


「ロイス君のそのコートさぁ……」


 ん?

 俺のコートを見てたのか?


「カトレアちゃんが着たら全身緑になるよね」


「「「「……」」」」


 いきなりなにを言い出すんだ……。

 確かにカトレアが着ると緑緑になるが……。


「あれ? ……まぁいいや。でも凄くきれいな色。大樹のダンジョンの管理人さんだからその色なの? 大樹カラーってやつ?」


 もしかして冗談のつもりで言ったのか?

 笑いを取ろうとしたとか?

 そうだとすると申し訳ない……。


「そんな感じですね。コートの背中には大樹の刺繍もされてますから、ウチの防具職人たちが色々想いを込めて作ってくれたんでしょう」


 するとリヴァーナさんは立ち上がり、俺の背後に来て大樹の刺繍を確認する。


「これが大樹……」


 ……あっ!?

 マズかったかもしれない……。

 嫌な思い出があるんだったな……。


 まさか泣き出したりしないだろうな?


 ……それ以上はなにも言わずに元の席に戻っていった。


「ロイス君もカトレアちゃんも戦闘しないのに凄くいい防具着てるよね。リヴァのなんかゴミみたいなローブだし。ヒューゴ君たちもしっかりした装備してるし、ほかの冒険者たちもみんないい装備してた」


「それは物価が違うから仕方ないって言ってるじゃないですか。ウチの防具屋に来たらリヴァさんもきっとお気に入りの商品が安価で見つかりますから」


 ララが即座にフォローする。

 どこか面倒そうなのは気のせいか?

 というかリヴァーナさんは自分のことを名前で呼ぶタイプなのか。


「だといいけどさ。……それよりロイス君、ユウシャ村に行くって本当?」


「えぇ、どうしても行かないとならない事情ができまして」


「……ならリヴァもいっしょに行っていい?」


「「「「えっ!?」」」」


 もしかしてこんなときだからこそユウトさんがユウシャ村に戻ってるとか考えてるんじゃないだろうな?

 そもそも今頃言い出すんならなぜもっと早くに戻ってないんだ?


 ララとの会話からするとウチに来るつもりはあるみたいだけど。


「ワシのときはみんな無反応じゃったのに……」


 こっちは無視でいいんだよな?


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