第三十話 新サブ
「なぁ、さすがに毎回地下一階から行くのは可哀想じゃないか?」
「……ロイス君はいきなり地下三階に飛べるダンジョンがあるとお思いですか?」
「そうだよお兄! そこを甘くしちゃ舐められるよ!」
「いや、それはそうなんだけどな、地下三階を作ると単純に最短ルートを行くだけだからそこまではただの散歩みたいなもんだ。町からここまで歩いてきたのにさらに倍以上歩かせられると思ったら少し嫌にならないか?」
「「それは……」」
時刻はお昼過ぎ、地下三階の階層追加は無事に終わったらしく、中の確認をしようと思ったところにちょうど俺が帰ってきたため現状報告をしてもらうことになった。
「ダンジョンへ入っていきなり強敵ばかりというのはよくある話だろ? 俺は知らないが。それに地下三階のほうが吸収量は少し多くなってるんだし、いいと思うんだけどな」
「それは確かにそうだけどね……そういえば私は毎日ドラシーに飛ばしてもらってるっけ……」
「……それでは初心者が採集のためにいきなり地下二階や三階へ行くことも考えられるのでは?」
「そうなんだよ。だから一度行ったことのある階層にしか飛べないことにする」
「そんなことできるの?」
「わからん」
「「わからん!?」」
だって思いつきで言ってるだけだもん。
この提案だって今町から帰ってきたばかりで少し休憩したい俺がすぐに地下三階まで連れていかれそうになったから面倒で言ってるだけだもん。
まぁ今は転移でいけるが、これが冒険者だったら歩いていくんだからな。
少し走って最短ルートでも一時間はかかるぞ。
「ドラシー、なんとかならないか?」
「ん~それには冒険者個人を特定できる仕組みを作らないとダメってことよね?」
「まぁそうなるな」
「今日じゃないとダメなの? さすがに疲れてるんだけどねアタシ」
「じゃあ仕方ないか。地下三階は一週間延ばそう」
そうだ、無理に明日オープンさせる必要はない。
地下三階に加えてポーション販売開始となるとあまりにもやることが多すぎる。
「えぇ!? 明日オープンしないの!?」
「そうですよ!? 今でさえ予定を一週間延ばしてるんですよ!?」
珍しくカトレアまで大きな声を出してなんだよ。
どう考えたって無理だよ明日は。
「実は明日からポーション類をウチで販売することになったんだ。その準備とかもあるしな」
今からそれについて考えなきゃならないんだ。
アンゴララビットにお釣りとかお金の管理ができてくれれば話は早いんだがどうだろうな。
「カトレア姉!」
「はい、ララちゃん。この後お見せする予定でしたが少し登場が早まってしまいましたね」
なにを言ってるんだこの二人は?
明らかに秘密兵器登場みたいな雰囲気を醸し出してるぞ!
カトレアはどこかからなにかを運んできた。
「……んしょ……重いですね」
「お兄! 見てないで手伝ってあげなよ!」
「え? あぁ……重いな、なんだこれ? ポーションの絵?」
見た目はたいして大きくないのに、この魔道具? は凄く重たかった。
「……よくぞ聞いてくれました、これこそポーション自動販売魔道具です!」
「ポーション自動販売魔道具!?」
「……ふふふ……そうです、なんとこの魔道具はですね、このように薬草や毒消し草を入れると枚数を自動で判別することができ、さらに条件が満たされればこのボタンが光るようになるのでこれをポチッと押していただければ……ほらこの通り! ここにポーションが現れるのです! どうですか!? 凄くないですか!?」
「これは凄いな! いったいどうなってるんだ?」
本当にこれは凄いぞ!
魔道具とか言ってるからカトレアが錬金術で作ったんだろうが、これがあればアンゴララビットがいらなくなるばかりか、地上でもポーション交換ができるんじゃないか!?
……カトレアとララは二人揃って高笑いしてる。
よっぽど早く見せたかったんだな。
なんかむかつくから無視だ。
「で、これをお金にすることは可能か?」
「ふふふ……え? お金?」
「明日から販売するってさっき言ったじゃん。もう薬草じゃなくてお金でいいんだ」
「……はい? ロイス君はなにを言ってるんですか? この薬草判別機能がどれほど優れたものかがわからないのですか?」
「いや、だからもう薬草は判別しなくていいんだって」
「……え……でも……苦労したのに……」
「うん、それはよくわかったけどさ、明日からはお金で販売しないとダメになったんだよ。難しいのか?」
「……いえ、お金みたいに決まった形や重さであれば凄く簡単です……でもせっかく薬草を判別できるように頑張ったのに……うぅ」
カトレアが泣きそうになっている。
確かに凄い機能だが、今はそれを必要としていないんだよ残念だけど。
「ほら? 道具屋とかならきっと活用してくれるさ? 大量に持ち込まれたときとか数えるのに凄く便利だからな!」
懸命に慰めの声をかける。
だがカトレアには聞こえていないようだ。
「(ロイス君、こんなに頑張ってるんだからもう認めてあげてもいいんじゃない? カトレアちゃんもまだここにいたいみたいだし。解除はいつでもできるんだからさ)」
ドラシーが小声で俺に言ってくる。
先週くらいからドラシーに相談はされていたんだが、そう簡単に決めていい話とは思えなかったから保留にしていた。
でもまぁお試しということでいいか。
「カトレア、その魔道具が素晴らしいのはみんな十分にわかってるからな。そこで一つ相談なんだが」
「……相談? 道具屋には売りませんよ?」
「そのことじゃなくてさ……このダンジョンの副管理人になってくれないか?」
「「!?」」
カトレアとララが驚く。
そう、カトレアにはもちろんララにも話はしていなかった。
「どうだろうか? もちろん嫌なら断ってくれてもいい。それにもし引き受けてくれてもいつでも解除はできるから安心してほしい」
「カトレア姉! いいじゃん! 私と同じだよ!? やれること増えるよ!?」
ララは賛成のようだが、カトレアは悩んでいるようだった。
「……私なんかが副管理人になっていいんですか? ただの錬金オタクですよ? まだ知り合って一か月しか経ってないんですよ?」
「うん、問題ない。カトレアさえ良ければだが。ドラシーの希望でもあるしな」
「カトレアちゃんがサブになってくれたら私の仕事が減るからね。それに錬金術の知識も向上するわよ? ほら、このダンジョンも錬金術でできてるんだしさ?」
「えぇ!?」
声をあげたのは俺だ。
このダンジョンが錬金術でできてるだって!?
魔道士がダンジョンコアを作ったって言ってなかったか!?
……よく考えると魔道士=錬金術師でもなにもおかしくはないな。
カトレアも凄い魔力を持ってるそうだし、魔法も使えるもんな。
それに錬金釜の仕組みを聞いたときダンジョンと似てるなって思ったし。
ん? ララとカトレアが驚いていないことを見ると二人は気付いてたってことか?
なら俺も知ってた感じでいくしかないな。
「カトレアにとっても悪い話じゃないと思うんだけどな。ドラシーも助かるし、俺たちも今以上に助かるしな。それにカトレアがサブになってくれるんなら明日から地下三階も運用できそうなんだけどな」
よし、あくまで平静を装ったぞ!
先ほどの「えぇ!?」がまるでなかったかのように振舞ってやった!
「え? 本当ですか? ……それならサブにならせてください! こちらからもお願いしたいくらいです!」
地下三階に食いついたのか?
そんなに早く地下三階に行ってみたいのか?
カトレアが好きそうな要素ってなにかあったっけ?
その後、水晶玉でカトレアが副管理人になることを設定した。
「さて、まずはポーション自動販売魔道具とやらをお金で使えるように作り直してもらおうか。地上も含めて五台分な。それができたら入り口から各階層に転移できるように冒険者を判別する仕組みを考えてくれ。ドラシーはカトレアの補助で。ララは今から地下三階のチェックな。シルバとピピも連れてってやってくれ。俺は別でやることあるから」
「……え……五台? ……鬼ですか?」
「うん! 行ってくるね!」
「……え? ララちゃん? 鬼ですよこの人……」
「頑張ってねカトレア姉! 私も明日オープンできるようにしっかり見てくるから!」
「……え? ……はい、やるしかなさそうですね」
みんなに指示を出した俺はサイダーを取り出し、ソファに深々座った。
少し長めの休憩だ。