第三話 魔物使い
「「魔物使い!?」」
「なっ、なによ!? なにに驚いてるのよ!?」
魔物使い、全く知らないわけでもないがあまり聞き覚えがない言葉に二人して目を見開き驚く。
話の流れからして俺が魔物使いってこと?
ララがなにか言いたそうだからここはララに任せよう。
「つまりお兄は魔物使いで、お爺ちゃんも魔物使いだったってことよね?」
「えっ?」
「えっ? 違うの?」
「……アナタたちはあの爺さんが魔物使いって知らなかったの?」
「それもあるけど、お兄も魔物使いってことだよね?」
「……そっか、その様子だと本人すら知らなかったのね。だとしたら色々と納得だわ」
やはり俺が魔物使いであることは間違いなさそうだ。
でもどうやってわかるんだろう?
俺が疑問を感じていたことに気付いたのか、ダンジョンコアは俺の足元と窓際のほうに目をやる。
「この子たちは魔物よ。もしかしてそれも知らなかった?」
「「えぇ!?」」
俺とララは驚きの声をあげた。
俺の足元にいる犬のシルバ、窓際の鳥かごにいる小さな鳥のピピを順番に見ると、二匹とも「え? どうしたの?」といった表情で俺を見てくる。
この二匹が魔物だと?
「そこの狼はシルバーウルフ、あっちの鳥はホワイトエナガって魔物よ」
「狼ですか!? 犬じゃなくて!?」
「……確かに犬と言われれば犬に見えるわね。でも狼で、魔物よ。シルバーウルフだから力もあるしスピードもあって結構強いのよ。ちなみにあの鳥はとても俊敏で回避力が高い。頭が良いからスピードを生かした攻撃や相手をかく乱したりもできるわね」
ダンジョンコアは俺たちがなにも知らないことに呆れ、二匹の特徴を説明しだした。
その点については少し思い当たる節はある。
シルバは体がそこまで大きくないがこのダンジョン周辺の森に出現する魔物くらいならあっという間に倒してしまう。
ただ基本的に朝の散歩以外は家の中でゴロゴロしているし、なによりモフモフな毛が最高に気持ちいいからちょっと強い犬としか思ってなかった。
ピピは窓からパッと出ていって気付いたらいつの間にか帰ってきているから動きが俊敏なことはわかっていた。
だけど小さくて全身真っ白で可愛すぎるから観賞用の鳥としか思っていなかった。
「その子たちと会話ができたりしない? 話すことがわかるというか」
「それは確かにわかります。ただ長年いっしょにいるからなんとなく雰囲気で通じているだけと思っていましたが」
「……この子は天然のようね」
……なんだか残念がられたようだ。
ただ思い返してみても出会ったころから魔物と感じるような出来事はないんだよな。
「そもそも魔物使いって魔物をどうやって仲間にするんですか?」
「そりゃあ魔物と戦って、魔物がアナタについていきたいとかいっしょに戦いたいとか思ったりするんじゃないの? そこんとこはアタシはよくわからないけど。逆にその二匹はどうやって仲間になったのよ?」
「うーん、ペットだと思ってて仲間とは意識したことなかったんですが、二匹とも戦ったりはしてないですよ。ピピ……ホワイトエナガの場合は家の近くの木で見かけて可愛かったので家で飼えないかなーと思って近づいて話しかけたら喜んで肩に飛び乗ってきてくれたんです。シルバ……シルバーウルフの場合は馬車で移動中に森の中で倒れているのを見つけて、急いで馬車に乗せて手当てしたんですよ。それからずっといっしょですね」
「ふーん。戦わずして仲間にすることができるのね」
要するに魔物と心を通わせれば仲間になってくれるってことかな?
というか爺ちゃんはなんで魔物使いのことを教えてくれなかったんだ?
まさか爺ちゃんも俺が魔物使いって知らなかったとか?
……さすがに魔物使いがシルバとピピを見てペットの犬や鳥とは思わないよな。
色々考えていると、ララがまたダンジョンコアに尋ね始める。
「さっきお兄がダンジョン管理人に設定されてるって言ったよね? 私たちはあなたに会うのは初めてだけどそこらへんの仕組みはどうなってるの?」
「あ~、それは爺さんがアナタたち二人をダンジョンの副管理人……アタシたちはサブって呼んでるけど、そのサブに登録していたからよ」
「サブ? でもそれはサブであってメインではないってことでしょ? というか私も登録されてるの!?」
「管理人の爺さんが死んだことによって爺さんが持っていた管理人権限が無くなったのよ。そういった場合サブに適任者……つまり魔物使いがいれば自動的に昇格する仕組みになっててね、それでロイス君が管理者となったわけ。ちなみにサブには魔物使いとか関係なく誰でも登録できて、サブも設定次第で管理者と同等の権限を持つことが可能よ」
「……お兄がサブに登録されていない場合や魔物使いじゃなかった場合は管理者はいなくなってたってことよね? その場合はどうなってたの?」
「このダンジョンは消滅してたわね」
「「!!」」
……偶然そうならなかったのか?
それとも爺ちゃんが俺が魔物使いってことを考慮してサブに登録していたと考えるべきか。
でももしダンジョンがいきなり消滅なんかしたらそのときダンジョン内にいる人とかどうなるんだ?
「消滅なんて珍しいことじゃないから深く考えなくていいわよ。ダンジョンコアは残るからまた作れるし、一から作り直したい場合なんかは一度きれいな状態にしてからのほうが捗ったりするでしょ?」
「そんな軽くていいんですか……」
「いいのよ。ただの魔力なんだから。中に人がいた場合も強制転移されるようになってるし。このダンジョンのメリットは危険が少ないことなのよ。困るのはダンジョンコアが破壊されたときね。行き場のない魔力が暴走するおそれがあるわ。でもやっぱり魔物使いがいなければダンジョンコアもただの水晶玉と同じだから魔物使いあってのダンジョンコアね」
今さらっと危険なことを言わなかったか?
コアさんが破壊されると魔力が暴走する?
……それよりも水晶玉って言ったか?
「もしかして水晶玉ってあれですか?」
俺は管理人室を見ながら言った。
いつも座っているカウンターの上に水晶玉が乱雑に置かれているのだ。
「当たり前じゃない。いつも見てるでしょ」
「「!?」」
あれがダンジョンコア!?
階層ごとに滞在してる冒険者の人数がわかったり、冒険者の現在地がわかったり、ダンジョン内部の指定した場所を映し出したり、指定した冒険者を斜め上から覗くように見えたり、凄く便利な魔道具としか思ってなかったあれがダンジョンコア!?
ってこの機能完全にダンジョンコアだ。
……つまりコアさんは水晶玉で、水晶玉はコアさんってことだよね?
「あの……なんかごめんなさい」
「なにが? アナタがいつもカウンターでぐったりして眠そうに見てること? それとも埃をかぶってること? 周りが汚いこと?」
「……全部です。雑に扱ってすみませんでした」
……まず掃除から始めよう。