第二百八十九話 24ストア
夕方になり、大型魔船が二隻続けてやってきた。
後ろの船の操縦士は見たことない人だったが、どうやらサウスモナの人らしい。
先の船を操縦していたヨーセフさんによると、今朝シモンさんたちが町長たちをサウスモナまで送った際に、三人ほど操縦士を乗せてきたそうだ。
あの町長、本当に操縦士を手配してくれてたんだな。
それよりもまずこの約五百人の対応をせねば。
魔道カードや住居、食事の準備が凄く大変になるだろう。
錬金術師たちはカトレア以外の四人で魔道カードの発行に当たるようだ。
ミランダさんがいてくれて助かってるな。
「ロイスさん! お待たせしました!」
「お疲れ。そこから厨房に入れるから頼むぞ」
モモたちが助っ人に来てくれたようだ。
さっき連絡してからまだ二十分ちょいしか経ってないというのに。
魔道列車って凄い。
モモのほかにヤック、マック、アンもいっしょだ。
この四人が来たのは大きいな。
ウチのバイキングのほうはオーウェンさんとシエンナさんの二人だけになってしまってるが、まぁ余分に作ってあるだろうしあっちはどうにかなるだろう。
そしてモモたちから遅れること十五分、更なる助っ人がやってきた。
「なにここ!? 広いね!」
改札を出るなりフランが元気よく話しかけてきた。
フレヤさん、カミラさん、クラリッサ、メイナードも来たようだ。
「できるだけ早く陳列を頼む」
「うん! すぐやるね!」
フランたちは新しくできたばかりの店へ入っていった。
今から一時間ほど前、この待合室全体にアップデートをかけることになった。
その間みんなには居住区エリアもしくは外に移動してもらった。
作業自体は十分程度で終了したが、中は以前とかなりガラッと変わっている。
まず待合室エリアと店舗エリアを完全に左右で分けることにした。
駅入り口から見ると、待合室は完全に右側のみにし、左側は全面店舗スペースになった。
正面には今までと同じく魔道列車の改札。
駅入り口から少し左側に居住区階層への転移魔法陣となる入り口を設置。
外、居住区、改札、店のそれぞれに行きやすいようにしたつもりだ。
駅入り口と改札との距離は離れていても無駄なので、実際には駅入り口となる転移魔法陣は中央にある。
だから入り口後方にはスペースが拡がっており、そこは待合室と店舗の横壁との境になるが、その壁沿いにはドリンクの自動販売魔道具をずらーっと並べてみた。
左側の店舗スペースには店が横一列に並んでいる。
元々左側にもあった待合室部分をなくしたのと、魔力が届くギリギリまで拡張したことでどの店もかなり奥行が広くなったと思う。
だが地上の魔道プレート設置の都合上、駅入り口側にも魔道列車側にもこれ以上はエリアを拡げることはできない。
いずれこのエリアの大半はなくなるとわかってるのに、このために地上の魔道プレートを新たに設置するのは非効率だしな。
そして店舗エリアの一番手前にある店が、新店舗となる二十四時間ストアだ。
その名の通り、二十四時間営業の店となる。
ここでは軽食類や衣服類、生活用品などを販売する。
要するになんでも屋だ。
さすがに武器防具を販売したりはしないけどな。
できればウチの5均屋みたいに自動販売魔道具での販売にしたいところだが、ここではそれができない。
転移魔法陣のありがたさが……ってもうそれは言わないでおこう。
だから商品にはシンプルに、価格が書かれたタグだけを貼ることにした。
そして会計時にはレジカウンターの上に置かれた商品全てのタグを一瞬で読み取り、合計価格を算出する魔道具を準備する予定だ。
これだけのお客がいると、店員が一個一個価格を確認してたら時間帯によっては会計待ちの列が凄いことになりそうだからな。
まぁその魔道具は今絶賛開発中なんだけど。
さっきまで錬金術師総出でやってたからなんとかなるだろ。
今はカトレアが一人で最後の仕上げに入ってるんだと思うが……とか考えてたらちょうどやってきたじゃないか。
「できたのか?」
「はい。ロイス君に言われた通り、レジカウンターの上を魔力ボックス化するイメージで仕上げました。もう一つの買い物カゴ自体をそのまま魔力ボックス化する案については時間の関係で見送ります」
「そうか。まぁそっちは魔力を無駄に消費しそうだしいいや。買い物中に合計価格とか見れたら便利だなって思っただけだし」
「……では設置に参りましょうか」
一瞬睨まれた……。
そして二十四時間ストアに入る。
……長いから24ストアでいいか。
店内にはフランたちのほかにミーノもいた。
軽食類はもう既に並べ終わっており、今は新しい従業員に対して接客を教えてくれているようだ。
二十四時間営業だから勤務時間は八時間交代の三交代制にしてある。
お客が少なくなる真夜中の従業員は少なめだけどな。
すぐに新魔道具の設置は完了し、無事にテストも終わったようだ。
「この会計ボックスとタグ発行魔道具の二点セットで、今度販売権利の申請をするかもしれません。ミランダ先生がこれを気に入ったようで……」
「ふ~ん。一個一個タグを貼るのが面倒な人もいるだろうけどな」
「それを言ったらなにもできませんよ……」
「でもそれなら会計魔道具やタグ管理魔道具もセットにしてさ、ウチのストアみたいに全部を連携したらどうだ? どうせなら売り上げとかも端末の一覧で見れたほうがいいだろ。魔道化された町や村ならそのほうが実用性ありそうだし」
「でもそれは水晶玉ありきの話になりますからね……。それにそのセットで使用できるお店は限られてきますし、私たちがお店の売り上げを見れちゃうことにもなりますよ?」
「あ、それはマズいな……」
「まぁここはウチのお店だからできるかもしれませんけどね。でも今は余裕ないから無理です」
「いや、やらなくていい。ここはそのうちなくなるし」
危ない危ない……。
わざわざ自分の首を絞めるところだった。
水晶玉なんて面倒な話になるんならやらないほうがいい。
「ねぇロイス君、本当に利益なしでいいの?」
「ん? あぁ、今はみんな着る物がなくて困ってるだろうしな。ある程度行き渡ったら通常の価格に戻すから」
フランも利益なしということについて心配してるようだ。
普段からホルンに口酸っぱく言われてるんだろうな。
「この商品ってマルセールから仕入れた物がほとんどなんだよな? ウチの商品もあるのか?」
「ウチのは少しだけ。高くてさすがに需要がなさそうだから」
「そうだよな。この際赤字でもいいから全部の服をもっと安くしたほうがいいのかもしれない」
給付された魔道Pはたった500Pしかないからな。
食費のことを考えたら服まで買う余裕がないかもしれない。
……やはり500Pは少ないか?
セバスさんに頼んであと500P追加してもらうべきかも。
「大丈夫ですよ! だってこの服、こんなに安いんですもん!」
メイナードが何枚かの服のタグを見せてくる。
……ん?
50G?
こっちは30Gだと?
確かに安いな……。
町がいくらか負担してくれてるのかもしれない。
「それより店の外凄いことになってますよ! もうオープンしたほうがいいんじゃないですか!?」
店の外?
……長蛇の列が、いや、列じゃなくてただ押し寄せてきただけという危険な状態だ。
すぐに近くにいたウサギを出動させる。
すると一瞬でみんなおとなしくなり、列が出来上がった。
ウサギが魔物だということは知ってくれてるようだな。
「そうだフレヤさん、しばらくここで勤務してもらってもいいですか? マルセールとの仕入れ交渉もお願いしたいですし」
「えぇ、わかったわ。フランより私のほうが知り合いがたくさんいるでしょうから融通も利くしね」
「店員もまだ数人雇いますので接客指導もお願いしますね。軽食類や生活用品のレジも同じですから、そっちの補充とかもミーノやリョウカと相談してやってもらえると助かります。あ、そういやサウスモナとマルセールが提携することになったんで、早速明日サウスモナからマルセールに衣服業者が来てくれるそうです。なのでその対応もお願いします」
「あら? わざわざ来てくれるの? これは忙しくなりそうね。なら私だけじゃ不安だからカミラさんもいっしょでいい?」
「えぇ、そこはお任せします」
「私もいいんですか? 大樹のダンジョンより人が多い服屋さんなんて楽しみですね、ふふっ」
今までより忙しくなるっていうのに、おばさん二人は楽しそうだ。
ウチのダンジョンのみんなは少し感覚がマヒしてるんじゃないだろうか……。
「じゃあもう少ししたら店をオープンしますので、みなさんよろしくお願いします」
そして24ストアのオープンの時間になった。
だがお客が店内に入る前に、まずメロディさんから移住者のみんなに話したいことがあると言う。
「衣服類をご購入される皆様、まだまだこれから避難してくる方もたくさんいますのでその方たちのことも考慮してご購入しましょう。それにここで販売する商品は今後しばらくはこの価格帯で提供してくださるそうです。販売価格を見たらきっと驚かれると思いますが。商品の数もあちこち走り回って集めてくださってるそうなので心配はしないでくださいとのことです。あ、私たちのために寝る間も惜しんで働いてくれております大樹のダンジョンやマルセールの町の皆様の心配はしましょう。本当にありがとうございます。それではごゆっくりお買い物をお楽しみください」
メロディさんの言葉のおかげか、みんなゆっくりと店内に入っていく。
……楽しそうだな。
もっと服を取り合って戦争みたいになるのを想像してたんだが……。
あっという間に店は人でいっぱいになった。
少し店が小さかったかもしれない……。
でもこれ以上大きくすると、ほかの店がどんどん奥にいってしまうからな~。
「ねぇ、この服30Gだって!?」
「は? 嘘だろ?」
「ママ、あっち見てきていい?」
「うん。気に入ったのがあったら持ってきて。でも100Gまでだからね? もし迷子になったら近くのウサギさんに声かけるんだよ?」
「はぁ~い!」
「どれも安いな……こんなに物価が違うのか……」
「もちろんそれもあるだろうけど、きっと通常よりもだいぶ安くしてくれてるんだって……」
「やっぱりそうか……感謝しかないな」
「うん。あの子のためにも明るく振る舞わなきゃって思ってたけど、王国の人たちのほうがよっぽど私たちを気遣ってくれてるんだよね」
「あぁ……ここに来れないであろう俺たちの両親や兄弟の分も三人でしっかり生きていこうな」
「……うん」
俺の近くにいた二人はそっと手を取り合う。
二人は俺の視線に気付くと、ハッとした様子で勢いよく頭を下げ、子供のほうに駆け寄っていった。
そしてその子供も俺に向かって頭を下げ、笑顔で手を振ってくる。
だから俺も軽く手を振り返しておいた。
……さて、ここにいても邪魔になるしもう店を出ようか。
次はなにをしようとしてたんだっけな。




