第二百七十九話 移住者専用魔道カード
「俺たちは港町の建築作業が合ってそうだな!」
「力のある人たちは地上での仕事をお願いね!」
「八百屋とお肉屋とお魚屋は誰がする!?」
「僕、大樹のダンジョンに行ってみたいんですけど……」
「冒険者がしたいんなら遠慮なく行ってきていいよ! でもたまにはここにも顔出してね!」
盛り上がってきたな。
屍村について、簡単にではあるがシモンさんから話を聞くことができた。
シモンさんとヨーセフさんは、ララに昼過ぎに帰ると約束していたらしく、またすぐに船で屍村に向かっていった。
同時に、船の護衛としてウチから新たなパーティが三組旅立って行くことになった。
これで四バカたちを入れて五隻の船を運行することができるというわけだ。
というかさっき護衛が二手に分かれることになったのも、その護衛パーティをもっと早く送りこんでおけば問題なかったんだよな。
ララは怒ってそうだ。
「あの、ロイスさん」
「はい?」
「僕たちも冒険者として大樹のダンジョンに行ってもよろしいでしょうか?」
「もちろんですよ。ウチのダンジョンに入ることによって魔力吸収に貢献していただくことも立派な仕事です」
「え……」
帝国全体の冒険者が全部ここに来るとなると、どうやらウチへの新規冒険者がたくさん見込めそうだな。
でもそうなるとウチでもまた従業員不足問題が発生する。
冒険者が増えるのは嬉しいことだが、従業員を探すのがいつも面倒なんだよなぁ。
まぁ今回は探すのに困ることはなさそうだけど。
ララとミーノあたりに面接官を任せて、良さそうな人を適当に雇ってもらうか。
「あ、でも移住者が全員来るまでの数日間はここにいてもらっていいですか? 地上に全く魔物が出現しないというわけではありませんから」
「それはもちろんです。自分たちの国の問題ですから最後まで責任は取るつもりです」
ふむ。
いい心がけじゃないか。
しかし屍村の人たちがこんなに仕事に前向きになってくれるとは思ってもみなかったよな。
聞けばずっと錬金術師や冒険者たちの収入に頼りきりだったらしいし。
今、屍村に残ってる冒険者は数十人いるらしく、それなりに腕に自信がある人たちが揃ってるそうだ。
「ロイス君、最終の打ち合わせをしますので管理室に」
ジェマが呼びに来た。
この待合室の雰囲気をもっと見ていたいところではあるが、まだまだやることがある。
管理室にはさっきマルセールで集まってたメンバーに加え、デイジーさん、アグネス、アグノラがいるようだ。
「ん? メロさんも来たんだ」
「気になって仕方なくてよ! マルセールはリョウカの親父さんに任せてきた!」
ウチの従業員じゃないのに……。
「ではみなさま揃われましたところで始めさせていただきます。お題は移住者への給付金についてでございます」
う~ん、昨日からずっと悩んでるけどまだ答えが出ないんだよなぁ。
「町で再度検討しましたが、やはり今すぐ現金で給付ということはまず不可能でして……。できればマルセールの町民のみなさまにもご協力いただきまして、ポイントという形で給付させていただきたいのですが……」
移住者の人たちの多くは財産を帝国で失うことになる。
ここに持ってこれるのは持てるだけの現金だけ。
だが持てる量も限られてる。
歩いてでの避難となると尚更だ。
しかしここで新しい生活をするためには当然のことながらお金が必要になる。
ウチの魔力頼りではすぐに魔力が底をついて終わりだからな。
まぁ水晶玉次第では数か月くらいなら持たせられるとは思うが、ジリ貧なのは間違いない。
それよりもセバスさんたちが気にしたのは、移住者たちはそれでは納得しないんじゃないかということらしい。
助けてもらった上に当面の生活の面倒まで見てもらったら申し訳なさでいっぱいになるはずだというのだ。
実際に屍村の人たちはセバスさんの考えた通り、すぐにでも働きたがった。
まだ給料面の話なんてなにもしてないから、助けてもらった恩としばらく住居や食料を用意してもらえるのならその代わりにという交換条件のようにも思える。
でもそれでは移住者の人たちのお金はいっさい貯まらない。
ずっとダンジョンに住めるわけではないし、ここを出てからのことも考えてもらわなければならない。
結局また一文無しでスタートというのは精神的にも持たないだろう。
……みんな俺の答えを待ってるようだ。
でもこれ、ダンジョン管理人が考えるようなことじゃないよな……。
だから良い案が浮かばないに違いない。
もう適当でいいや。
「とりあえずPでの給付で決定しましょうか。魔道カードを移住者の方向けに少し改修することにしますので」
「「「「え……」」」」
錬金術師たちが困惑してるが知らん。
「魔道カードを作る気がある人には、最初にカードを作成する時点で500P付与しましょう。そしてこれからも一日に100P、希望する人にだけPを付与します」
「「「「……」」」」
「ただし、最初の500P以外は全て借金という形にします」
「「「「え……」」」」
「魔道カードのP欄は二つに増やします。上は従来のP表示で、最初に付与する500Pや毎日付与する100Pもここに追加します。さっき言ったカードのシステム的な改修は次の下の欄のことになります」
錬金術師たちが真剣に見つめてくる。
改修プランを頭に描く準備ができてるに違いない。
「上のP欄に100P付与するのと同時に、下のP欄は100Pマイナスにします」
「「「「……」」」」
さすがにもうわかったよな?
おじさんおばさんたちもわかってくれてるんじゃないか?
「そのマイナスPが一定P、例えばマイナス3000Pに達した時点でそのカードは使えなくなり、カードの持ち主は今後当魔道ダンジョンへは出禁とします」
「「「「え……」」」」
3000Pは酷いかな?
でもそのP設定はみんなで考えてくれよ。
それにウチのダンジョンに出禁ってなるだけで、別にマルセールとか港町に住んでもらってもいいしさ。
借金も返せって言うわけでもないし。
ただ魔道列車と魔道カードは今後使えなくなるけどな。
……やっぱり酷い?
心に傷を負ってる人たちを追い出す気かって言われたりする?
でもマイナス3000Pにならなければいいんだからな?
二日に一回付与するとしたら二か月はなにもしないでも大丈夫だぞ?
その分食費は節約してもらわないといけないけど。
……質問はないようなので続けることにする。
「大事なのは次です。給料についてもこの魔道カードで管理します」
もう言わなくてもいいと思うけどさ。
「移住者の方が働いた給料は下のP欄に追加します。そして、この下のPについては、現金への換金を可能とします。基本的に上のPを下のPへ移すことは不可能ですが、下がマイナスの場合に限り、下がゼロPになるまで上のPを移すことは可能にします。それと現金をカードにチャージする際に下がマイナスだった場合は、まず下のマイナスがなくなるように設計します。Pで買い物する際は上のPでしか買い物できませんので、あらかじめ下のPから上のPへ移すといった作業が必要になります」
「「「「……」」」」
「もちろん現金の準備が困難ということですから、換金に関しては今すぐにできなくてもいいと思います。マルセールで買い物する分にはPが使えますしね」
換金だってP収入がある店舗側からしたら既に普通にやってることだ。
それにウチでは冒険者たちも換金可能だしな。
だからこれくらいの改修なら一瞬で終わると思う。
魔道具も少し仕様を変えるだけでほとんど使いまわしでいけるんじゃないか?
「ただし、給料からはみんな一律で住居代を引きましょう。給料が発生しない人からは引きません。給料が発生してる人であれば子供であろうが引きます。同じ家に住んでようが一人は一人で考えましょう」
一週間に一日でも働けば数日分のマイナスがすぐプラスに変わるだろ。
これからの人生のことはゆっくり決めてくれればいい。
「結果的に給付額は最初の500Pだけになるかもしれませんがどうですか? もちろん額は町で決めてもらっても構いませんし、この案自体を採用しなくても結構ですので」
俺の考えは伝えたし、もういいよな。
穴があったらそこはみんなで埋めてくれ。
それより仕事を提供することをもっと考えたほうがいいんじゃないか?
「……ロイス様、完璧でございます」
え?
こんなんで完璧なのか?
「数か月もいただければ国からの予算も確保できると思います」
一人最大3500P給付するとして、二十万人いたら7億Gも必要になるかもしれないのに完璧なのか?
もちろんそれを現金で給付することはないが、そのPで購入する食料であったり生活用品にかかるお金は実際に動くことになるんだぞ?
Pを使ってもらった店側からしたら現金での収入と同じなんだぞ?
Pだからといって甘く考えてないか?
なにもないところから湧き出てくるものじゃないんだぞ?
不正利用者も出そうだが、その対策は任せたからな?
なんだか考えれば考えるほど不安になってきた……。
せめてマルセールの人口くらいならそこまで深く悩む必要もなさそうなのに。
「実際には無一文という方のほうが少ないですし、屍村の方々みたいに前向きな人も多くいらっしゃると思います」
「そうだといいんですけどね」
でも人口が増えれば王国としても結果的に嬉しいもんな。
労働者が増える分、お金の巡りも良くなるはずだし。
ウチとしても新規の冒険者が来るし、魔道列車の利用客も増えるだろう。
……だがもし仮に今、王国も帝国と同じようになって、みんながダンジョンに逃げ込んできたらアウトだよな。
どうにかして王都パルド、ボワール、サウスモナくらいまでは魔道化を実現しておきたいところではあるが……。




