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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第一章 管理人のお仕事
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第二十七話 得意飲み物

「ふぅ、もう大丈夫そうかな」


 時刻は十時、受付待ちの人がいなくなり、ようやく一息つける。

 ここから数時間はのんびりする時間だ。

 実質二時間だけだな、仕事したといえるのは。


「ララ、もういいぞー助かったよ」


「はーい、こっちは二十八人ね」


「そんなに来てたのか? こっちは十二組の十八人だな」


「え? 多くない? 既に昨日と同じ人数だよ?」


「本当だな。てことはまた記録更新かもな」


「月曜日を超えるのは初めてね。それよりもお兄、ポーションの件はどうしようか?」


「う~ん、それがまだなにも考えてなくてなー」


「えぇー? 今日は昨日よりもみんな早く着いちゃうよ?」


 おそらく今日もポーションや解毒ポーションを必要とする冒険者が多く出てくると予想されるため、カトレアに頼んでこちらでも用意するつもりであった。

 カトレアがいるから用意すること自体は問題ではないのだが、それをどのように扱うかを決め兼ねていた。


 単純に町の相場で売るのが一番簡単だろう。

 だがその場合儲かるのはウチだけであり、最悪の場合ダンジョンの評判に関わる問題になるかもしれないと思ったのだ。


 薬草や毒消し草の数をある程度調整できることくらい冒険者たちはわかっているだろうし、それに昨日カトレアがララと一緒に毒消し草と交換で解毒ポーションを作り出すのを見ている者が何人もいる。

 ウチが解毒ポーションを販売するためにポイズンスライムをわざと冒険者にけしかけて毒をくらわせているという噂でも流れたら評判はがた落ちだ。


 それにウチで買えることがわかったら町では今より需要が少なくなり、供給だけが増えることになる。

 そうなると販売価格が下がるのは目に見えており、薬草類の買取価格も下がり、必然的に冒険者たちの収入も下がることになる。

 となると儲かるのはこれまたウチだけになる。


 あれ?

 ウチというか錬金術師ってヤバくない?

 稼ぎ放題じゃん!


 ふと、部屋の中のカトレアを見ると、カトレアもそれに気付きにっこりと微笑んできた。

 なぜだか邪悪な笑みに見えた……。


「……ロイス君、あまり考えすぎるのもよくないですよ」


「う~ん、そうは言ってもねぇ。それより一つ聞いていい? 錬金術師ってめちゃくちゃ儲からない?」


「……あら、そこに気付きましたか、さすがロイス君ですね。私はそこまでお金はないですけど、稼ごうと思えば難なく稼げると思いますよ? ふふ」


「……」


 もはや邪悪な笑みにしか見えなくなってきた。


 なにかいい案はないか。

 要はウチが得してると思われなければいいんであって。


「……少し休憩したらどうですか? サイダー作りましょうか?」


「サイダー!? 作れるの!?」


「なになにサイダーって!? カッコいい名前!」


「……ふふふ、サイダーは私の得意飲み物ですよ。私は飲みませんが」


「ぜひ作ってください! お願いします!」


「え、お兄だけズルい! 私も!」


「……ふふ、少しお待ちくださいね」


 カトレアは昨日と同じように錬金釜をテーブルの上に準備した。

 サイダーってどうやって作るんだろうか?

 それより得意飲み物って言葉初めて聞いたぞ。

 なにか怪しげな粉を数種類取り出したようだが……


「……ここに砂糖とクエン酸と炭酸水素ナトリウムを適量入れまして、最後にこの大樹の水を入れて魔力を注ぎこめば」


 なんか聞いたことのない名前を呟きながら魔力を注ぎはじめたぞ?

 やっぱりこれ黒魔術だよ。

 おっ、光った!


「……できました。ではこちらをどうぞ」


 うん、透明な液体に炭酸のシュワシュワ感、見た目は完全にサイダーだ。


「ではいただきます…………う、美味い!! やっぱ炭酸は最高だな!」


「えー私も! …………!! うぇぇ~なにこれ。喉が痛いよっ」


「ララにはまだ早いようだな。しかし、これ美味しすぎない?」


「……おそらくそれは大樹の水のおかげだと思います」


「水か、なるほどな。これの材料はすぐ手に入るの? 価格は?」


「……町に行けばすぐ手に入りますよ、マルセールは流通が盛んですからね……価格も比較的安価です」


「よし、わかった。考えなきゃいけないことが増えてしまったな」


「私はこれもういいや。そんなことよりお兄、早くしてよね?」


 まさかサイダーがウチで飲めるなんて思ってもみなかった。

 しかも町のやつより格段に美味い!

 なんとかしてカトレアには出ていく前にサイダーの大量生産をしてもらわねばならなくなったな。

 ……ここでサイダーを売るのはありかも、町で困る人もそうはいないよな?

 というかみんなも飲みたいに決まってるよね?

 やっぱり錬金術師って丸儲けじゃね?


「お兄!」


「はい!? え? あ、あぁ、ポーションの件ね、うん、決めた」


 サイダーのことしか頭になかったなんてとても言えない。

 とりあえずそれっぽいことを言わないといけないな。


「とりあえずの暫定的な処置として、昨日と同じように交換にしよう。今日の町での買取相場は薬草が十五枚:45G、毒消し草が十枚:60G、販売相場はポーションが一本:30G、解毒ポーションが一本:50Gだから、薬草五枚でポーション一本、薬草五枚と毒消し草五枚で解毒ポーション一本でいこうか。ポーションはよく使うだろうから少しサービスだ。薬草類はもちろんタグが外れてるやつだけな。ウチで採集した物限定でいきたいから、この交換はアンゴララビットにやってもらう。あいつらならウチの薬草かどうかの見分けもつくし、回収した薬草を持ち帰って再利用してくれるしな。これなら町の相場を崩すことはないだろう。ウチで取れた薬草をウチで作ったポーションにするだけなら誰も損はしない。冒険者が少し得をするだけだ。交換場所は地下二階の休憩エリアだけにするか。ドラシー、今言った交換レートと当ダンジョンで採集した物のみって書いた看板を用意してくれ。ポーション用の瓶も用意してもらいたいんだが、それを外に持ち出せるように作ることも可能か? それとアンゴララビットを二匹送ってくれ。ララは最初だけ説明しにいってもらえるか? 後は口コミで広がるだろうし、明日からは受付で説明しよう。カトレアはとりあえずポーションを五十本に解毒ポーションを三十本作ってくれるか? 今からララと栽培エリアに行ってきてくれ。そこに大樹の水もあるから」


「わかったわ。瓶は本物を一部使用すれば大丈夫よ。」


「うん! わかったよお兄! じゃあカトレア姉、栽培エリアに行こっ! 錬金釜も忘れずにね!」


「……え? 今ので全部決定したんですか? 少し理解が追いついてないんですけど……長くないですか?」


「いいから! とりあえず五十本と三十本を作ってくれればさ! ドラシーお願い!」


「はいはい、いってらっしゃい」


 ララとカトレアの姿が消えた。


 よし、上手くいったみたいだな?

 出任せの言葉に適度に数字を混ぜ、各個人にそれぞれ仕事を割り当てることで細かいことは誤魔化すことができたはずだ。

 なおかつ俺にはなんの仕事も割り振っておらずここでのんびり座ってるだけでいいのだ。


「ねぇ、あの子凄い魔力持ってるわよ」


「!?」


 そうだ、まだドラシーがいたんだ。

 完全にのんびりとはできないようだな。


「魔力がなんだって? 足りないの?」


「……あのカトレアちゃんのことよ。あの子の潜在魔力は相当なものだってこと」


「そりゃあ錬金術師だからじゃないのか? 稼ぎ放題なんだから魔力が多くないとなれないとか?」


「……あの子の戦い方を一週間ほど見ていたけど、ほとんど初級魔法ばかりだったわ」


「戦いに魔力使うんなら錬金術に使ったほうが儲かるからじゃないか?」


「戦いよりも錬金術にというのはあるかもしれないわね。だけど魔力があり余ってるように見えるのよねぇ」


「錬金オタクだって自分で言ってたよ? それにここ最近はポーションばかり作ってたからじゃないか? 草マニアだから薬草にしか興味がないんだろ」


「う~ん、もったいないわね。本人に欲がなさすぎるのかもね」


 そういやさっきお金はあまり持ってないって言ってたな。

 食べ物にもこだわりが全くなかったしな。

 それに師匠に言われたから世界を旅することになったって言ってたっけ。

 ここへ来ることになったのはいい薬草がありそうだったからか。


 ……うん、欲の欠片さえ見当たらない。

 邪悪な笑みだなんて言ってホントすみませんでした。

 おまけに自分が飲みたいがためだけにサイダー作らせようとしてました大量に。


「ねぇロイス君、あの子まだしばらくここにいるのよね? あの子に少し手伝ってもらってもいいかしら?」


「ん? カトレアがいいって言うんなら大丈夫じゃないか? でも手伝えることなんてあるのか? 魔力を吸い取るのか?」


「少し表現が悪いけど、似たようなものね。あの子にとってもいい経験になるでしょうからね」


「まぁ任せるから好きにやってくれ」


 俺はのんびりできればそれでいいんだから。

 しばらくはサイダーも飲めるしね。


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