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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十章 帝国大戦乱
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第二百六十九話 元勇者

「ほっほっほ、勇者とは言ってももう三十年以上も前の話じゃがの」


「三十年? 私のお爺ちゃんより年上って言ってたけど、ジジイ何歳なの?」


「たぶん七十くらいじゃ」


「やっぱりジジイじゃない……でもその様子だとまだまだ生きそうね……魔力持ちだからかな」


「ほっほっほ、若いもんには負けんわい」


 最近見たお爺ちゃんたちの中では一番肌の艶もいいしね。


 でも今はちっとも強そうに見えない。

 魔力もそこまで多いとは思わないし。

 元勇者と聞いて少し驚いたけど、そんな前の話じゃホントに強かったかどうかもわかんないよね。

 面倒なジジイってイメージがついちゃってることもあるけど。


「そんなジロジロ見んでも今のワシの能力は魔法以外さっぱりじゃ」


「そんなの見ればわかるよ。でも錬金術師って言ってたよね? それは勇者を辞めてから?」


「そうじゃ。勇者時代に通った大樹のダンジョンみたいなダンジョンを創り出すことに憧れてのう。勇者を辞めてからも何度か通ったわい。結局それから数十年なにも成果は得られてないがの……」


 ふ~ん。

 そんなに大樹のダンジョンのことが好きなんだぁ。


「今でも諦めてないの?」


「もちろんじゃ。ワシはこの村、もしくはユウシャ村に人工ダンジョンを設置したいと思っておったからのう。それなら王国まで行かんでも帝国内の冒険者が集まってくるじゃろうし。じゃが正直半分諦めかけていたのも事実じゃ」


 帝国に人工ダンジョンね~。

 でもそうなってたら面白かったのに。

 ウチとこっちでお客の取り合いや、どっちが優れたダンジョンかを競い合ったりとかさ。

 でも優れたダンジョンってどうやって決めようかな?


 ……妄想で終わっちゃうからやめよう。


「魔工ダンジョンの奥にある水晶玉がダンジョンコアって知ったのは最近?」


「そうじゃ、つい三日ほど前かの。そのゾーナとかいう冒険者の情報がここにも入ってきて、水晶玉の取り扱い方を聞いた瞬間にピンときたんじゃ。大樹のダンジョンの管理人が人工ダンジョンに対して魔工ダンジョンと名付けたって情報も入ってきたしの」


「なるほどね。だからさっきダンジョンにいっしょに行きたがったの?」


「……足手まといになることはわかっておったんじゃ。じゃがこの目でどうしても水晶玉が設置されてる環境を見てみたくての。なにかのヒントになるかもしれんし」


「環境なんてあまり関係ないよ。それに……」


「……それに?」


 これ以上は言わないほうがいいか。

 このジジイがダンジョンを悪用しないとも限らないし。

 お兄さえいれば誰でもダンジョンが構築できるなんて知ったら飛びつくに決まってるもん。


「なんなのじゃ? 教えてくれんかの?」


「騎士隊長さん、騎士たちは今後どうするんですか?」


「そこまで言っておいてお預けなんて酷いのじゃ……」


「ジジイ、うるさい」


「……改めてララちゃんの見解を聞かせてもらうのである。ソロモン、そうであるな?」


「はいであります。我々の認識が甘かったことは事実でありますから」


 それから、魔工ダンジョンの危険さ、魔瘴の拡がり方、現在のウチの冒険者の動き、王国移住後の生活のことなどを伝えた。

 二人は終始真剣に聞いてくれていた。


 そのあと、村入り口の封印を緩和し、騎士全員にも中に入ってもらった。

 食事の効果があったのか、みんなしっかり耳を傾けてくれてたみたい。


「隊長、どうしますか? 事態は思ってたより深刻みたいです……」


「魔瘴をとめられなければ町中にも浸食してくるんですよね……」


「帝都を守りきれるのでしょうか……」


「先に家族だけでも安全な場所に避難させたいのですが……」


「皇帝にどうお伝えすればいいのやら……」


「勇者に魔工ダンジョンを討伐してもらうにしても数が多すぎるな……」


「魔王は王国で失敗したからまずほかの弱い国を狙ってるってことですよね……」


「僕、ゾーナのこと昔から知ってますけど、あいつが逃げろなんて言うの初めて聞きましたよ……」


「我々も速やかに国民が避難する際の誘導に当たるべきでは?」


「船を操縦できる人材をすぐにでも集めましょう! できれば船の調達はララ殿にお願いしたいのですが……」


「隊長! 指示をお願いします!」


 みんなめちゃくちゃ喋るじゃん。


 でもちゃんと判断できてる。

 騎士ってだけで偏見を持ってたのは私のほうだったのかもね。


 騎士隊長……スタンリーさんだっけ?

 ここもソロモンさんに頼るのかな?

 信頼できる息子がいていいね。


「……帝都、いや、帝国を捨てるのである」


「「「「……」」」」


「せっしゃは今すぐ皇帝に、帝国全体へ緊急避難指示命令を出してもらうように提言してくるのである。みなのものはベネット、ナポリタン、ミランニャへ向かってくれなのである。そのあとはほかの騎士や冒険者たちと連携して国民の移動を助けるのである。なお、皇帝の指示を待つ必要はないのである。責任は全てせっしゃが持つのである」


「「「「隊長!」」」」


「帝都にいる家族のことは頼みましたよ!」


「任せるのである! みなのもの、絶対に死ぬなである! またこの村で会うのである!」


「「「「うおぉぉぉぉ!」」」」


 うるさい……。

 男性小屋からヨハンさんが驚いた表情で飛び出してきた……。

 地下まで聞こえてるんじゃないかな……。


 それから騎士たちはすぐ村を出ていった。

 みんな冒険者たちと同じ表情をしてたよ。


 結果的に私たちがベネットではなく屍村に来たことは正解だったみたい。

 元勇者のジジイがいたからみんな納得してくれたんだろうし。


「ソロモンさんはいっしょに行かなくて良かったんですか?」


「せっしゃはこの村でララ殿の手助けをするように言われたであります。それにせっしゃは騎士ではなく魔道士であります」


「ふ~ん。要は私たちの見張りみたいなもんですよね?」


「え……さすがに誰もいないってわけにはいかないでありますから……」


 まぁ害はなさそうだしいっか。

 騎士隊長の息子だったら帝国民からの信頼とかあったりするかもしれないし。


「ところで、村の人たちはどこにいるのでありますか?」


「え? 知らないんですか?」


「初めて来たでありますから……それに屍村のことはあまり……」


 やっぱり帝国の人たちは屍村にいいイメージがないみたいね。

 地下に住んでるってことも知られてないのか。


「村のことは朝になればわかります。そっちの男性小屋使っていいですから休んでください。まだベッドも空いてますし」


「いえ、せっしゃも村の入り口で見張りに加わります。仮眠施設も用意していただいてるようでありますし」


 仮眠施設とは言ってもただのシートにクッションと毛布をいっぱい置いただけなのに。

 まぁシートは少しフカフカだけど。


「じゃあソロモンさんも封印結界の維持を手伝ってもらってもいいですか? それなら範囲をもう少し向こうまで拡げることができそうですし」


「おお!? それは名案です!」


「ララさん、封印は私に任せて少しお休みになってください」


「そう? じゃあエマちゃんお願いね。誰か来たら港の待機用の馬車に案内してあげて」


 入り口にあれだけ人がいれば避難してきた人たちの誘導もスムーズにいくよね。


 あとは船か。

 まずはこの村の人たちを乗せて、夜明けとともに出発してもらおっか。

 そうすれば昼過ぎくらいにはこっちに戻って来れるよね?


 おそらくそのころには人が殺到してるはず。

 一番近いベネットからなら早くて馬車で四時間ってところかな?

 早朝に出る馬車が多いだろうからちょうどいい時間になるよね。


「ララちゃん、いったいなにがあったの?」


 あ、ヨハンさんも起きてきたんだっけ。


「帝都から騎士が来たんです」


「えっ!? 今の人たち騎士だったの!? 大丈夫!?」


「えぇ。騎士隊長っていう偉い人もいたからちょうど良かったです。騎士も冒険者たちと同じように、避難してくる人たちの誘導に当たってくれることになりました」


「おお!? さすがララちゃん!」


「いえ、このジジイが元勇者だったおかげですよ」


「元勇者!? アルフィさんが!?」


 そりゃ信じられないよね。

 私と騎士たちが話してる途中にここで寝ちゃうようなジジイなんだから。


「ゲンさん、ベッドを準備するからジジイを運んでくれる?」


「ゴ」


 レア袋からベッドを出し、会議スペースのすぐ横に設置完了。

 ゲンさんは座っていたジジイを優しく抱え、ベッドに寝かせる。


「さすがにここは寒くないかな……」


「ジジイだから別にいいんですよ。長老なんですから地下だけじゃなく地上の村のことも気になるでしょうし。それに布団も暖かいやつですしね。あ、今度ヨハンさん家の布団もウチの物にしたらどうです?」


 なんだか気が抜けたら眠くなってきちゃった。


 私は小屋の中で寝させてもらうことにしよう。


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