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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十章 帝国大戦乱
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第二百六十三話 屍村の由来

「もう数百年も前の話じゃがの、元々は勇者と呼ばれていた一人の男がここに村を作ったのが始まりと言われておるんじゃよ」


 出た勇者!


「その男はそのとき五年連続で勇者に選ばれていたそうじゃ。じゃが魔物との戦いの日々に疲れておったそうでのう、急に誰も連絡が取れなくなったそうなんじゃ。そこで勇者を剥奪されることになったんじゃと」


 なんかわかるなぁ。

 勇者じゃなくても休みたくなるときなんていくらでもあるもん。

 でもそれを聞くとウチのダンジョンの日曜休暇ってのは気持ち的に効果があるのかもね。

 まぁみんな休みでもトレーニングに明け暮れてるんだけど。


「元勇者がここで発見されたのはそれから五年後。ちょうどララちゃんがいるところらへんで白骨化しておったそうじゃ」


「えっ!?」


「冗談じゃ。地上で倒れてるところを発見されたんじゃが、既に息を引き取ったあとじゃったっていうのは本当じゃ」


「……」


 このジジイ……。


「そのときにはもう地下にこの空間はできておったそうじゃ。その元勇者は魔法に長けていたらしいからの」


 土魔法で作りあげたのかな?

 でもメルとマドのコンビならこれくらいすぐ掘れるよね?

 お兄に散々こき使われてきたんだもん。


「じゃがそのときの皇帝はこの場所に立ち入ることを禁じたんじゃ。元勇者が魔法で危険なことをしようと考えていた可能性があるとしてな。そこで誰もこの地に寄り付かないように、屍村と名付けたんじゃとか」


 ふ~ん。

 意外と普通の話ね。

 皇帝も人々を守ろうとしてってことだもんね。


「……で? 勇者は出てきましたけど、ユウシャ村は別に関係ないんじゃないですか?」


「ほっほっほ。今のはほんの一説で、まだ話は終わってないぞ。もう一説がユウシャ村と関係しておる」


 なら早く続けてもう一説を言いなさいよ!


「……お腹が減ったの。なにか食料持ってないか?」


「……」


 このクソジジイ……。


 でも手土産を用意してこなかったわけじゃないからね。


「なにかお好きな物ありますか?」


「そうじゃのう~。さっきワイルドボア見たからブルブル牛を使った料理が食べたいのう~」


「……」


 なんでワイルドボアがブルブル牛になるのよ?

 そんなものどうやって調達しろって言うのよ?


 とでも言って欲しいのかな?


「ちなみにどんな食べ方がお好みですか?」


「う~む、久しく食べてないから豪快に焼いた物がいいかのう~。いや、軽く炙った物も美味そうじゃのう~」


「いいですね~。えぇっと、そういえばお名前を聞いてませんでしたよね?」


「ワシか? ワシはアルフィ。名前を聞かれたのなんて何年振りかの? 最近じゃずっと長老としか呼ばれてないからの」


「それではアルフィさん、ご希望のブルブル牛のステーキをご用意させていただきます」


「ほっほっほ。そりゃ楽しみじゃのう」


 そして再び地上に戻る。

 地下で料理して文句言われても嫌だからね。


「……もしかして今すぐ調理するのか?」


「そうですけど?」


「え……まずどこかでブルブル牛を狩って肉を調達してこないのか?」


「ブルブル牛の肉なら大量に持ってますから」


「え……どこにじゃ?」


「この袋の中に」


 アルフィさんにレア袋を見せる。

 あ、今見せた袋は食料じゃないほうだった……まぁいいか。


「……ほぇ? とても大量に入ってるようには見えないんじゃが……」


 レア袋からまず調理テーブルを取り出し、設置。

 次に食事テーブルを四卓ほど出した。

 すぐにエマちゃんが配置を整えてくれる。

 そして調理器具、紙製の食器を順に取り出した。


「え? え? なんじゃそれ? というかなんじゃその袋……」


 そして状態保存機能付きレア袋SS1だっけ?

 そこからブルブル牛の肉を大量に取り出す。


「こちらがご所望のブルブル牛のお肉です。大樹のダンジョン産となっております」


「ほぇ……」


「あ、豪快に焼き上げたものがいいんでしたよね? ではまずそちらから」


 肉を塊ごと串刺しにして右手に持ち、左手では火魔法の準備。

 多少強めにしたほうがいいよね?

 デモンストレーションとかいうやつ?


 そして空中に肉をかかげ、火魔法により肉を一気に焼き上げる。


 ……うん、上手く火の調整ができたと思う。

 切り分けて、お皿に乗せて、特製ソースをかけて、と。


「どうぞ。よろしければ下にいるみなさんもお呼びになってはいかがでしょう? まだまだたくさんありますので。あ、私たちは住人になるつもりはありませんが、しばらくお世話になるんですからこれくらいはさせてください。これも干渉に当たるのであれば無視してくださって結構ですが」


「……お主、今の魔法は全力か?」


「まさか。肉を美味しく食べるための調理用の火力ですよ」


「今一瞬だけとんでもない魔力を感じたぞ……本気を見せてもらってもいいかの?」


「えぇ~? 私は戦闘の苦手な総司令官なんですよ?」


「ワシの目はまだそこまで濁っておらん。今日来た冒険者全員の中でもお主の魔力は特に多い」


 なんなのこのジジイ。

 ブルブル牛が食べたいだの全力の魔法を見せろだの。

 すっごく面倒くさいんですけど……。

 お主って言われるのもあまり好きじゃないわね。


「あの、ララちゃんはしばらく戦闘はお休みしてるんです。大樹のダンジョンの総支配人として経営が忙しいものですから」


 ヒューゴさんが話に入ってきてくれた。


「ほぇ? 経営? 十二歳の子が?」


「はい。大樹のダンジョンだけではなく、今は魔道列車と言ってマルセールの町と近辺の三つの村を結ぶ列車の経営もあるもんですから。ほかにも色々ありますが、とにかくララちゃんは戦闘をしてる暇がないんです」


 あくまで仕事が忙しいからってことにしてくれてるんだね。

 ヒューゴさん、優しいな。


「というか冷めちゃいますから早く食べてくれませんか?」


「あ、あぁそうじゃったな……。ではお言葉に甘えてみんなも呼ばせてもらうぞ」


 そして食事会が始まった。

 ヨハンさんとヨーセフさんの見事な魚捌きにみんな歓声をあげたりしている。

 こう見てると普通の村だよね。


 ……それよりジェマさんはこの村の住人が何人って言ってたっけ?

 百だっけ?

 二百だっけ?


 今の時点で二百人はいるよね?

 みんなどこにいたの?

 いや、地下なんだろうけど、ホントに地下にいたの?

 さっき地下に入ったとき数十人だったよね?


 私の手がとまってるのを見たシモンさんが近くに寄ってきた。


「まだ全員じゃないみたいだよ。冒険者の半分くらいは外に出てるんだって」


「地下にみんないたんですか?」


「そうみたいだね。というかこの村は地下にあるんだよ。さっきララちゃんが入ったのはまだ村の入り口ってところだね。あそこから各家に繋がってるんだ」


「え……ただの長老宅じゃないんですか? じゃあここにいくつかあるボロボロの小さい家は?」


「長老宅以外はダミーだね。屍村と呼ばれるにはボロボロじゃないと困るみたい」


 それも自由のためなのか。


 数百年前の勇者が作ったただの地下室が大きく発展したってことだよね?

 でもさっきのジジイの言い方だと、そのときにはもう大勢が住める村としての空間ができてたってことかな?


「で、屍村の由来のもう一説はなんだったんですか?」


「それはね、どうやらこの村には元々ユウシャ村出身者ばかりが集まってきてたらしいんだ」


「えっ!? なんでユウシャ村の人たちがこの村に!?」


「昔からユウシャ村の中では、戦いたくないんなら屍村に行けって言われてるんだってさ」


「戦いたくない? ……戦闘がしたくないんならユウシャ村にいたらダメってことですか?」


「そういうことらしいね。きっとここを作ったっていう勇者がきっかけなんだろうけどさ。もちろん今はユウシャ村以外からも人がやってくるし、ここで生まれてここで育った子もたくさんいるみたいだけどさ」


「……ユウナちゃんもここに来てたかもしれないってことですか?」


「そうだね。来ることになるかもしれないって言ったほうが正しいのかもしれないけど」


 ユウシャ村の人はなんのために戦闘をするの?

 勇者を生み出すため?

 魔王を倒すため?


 ユウナちゃんは大魔道士になるって言ってたよね?

 そして魔王を倒すんだよね?

 なら勇者は今頃どこかで魔王を探してるの?

 行方不明ってそれこそ勇者剥奪されるんじゃないの?


 というか屍って戦いたくない人たちのことを表す言葉なの?

 戦えなくなったら屍同然ってこと?

 そんなの酷くない?


「あ、でもユウシャ村の掟で外部に話すのはダメらしい。だからユウシャ村以外の人はここに来た人たちしか屍村の由来は知らないんだって。だからほかの町から来る人達は本当に居場所がなくなった人だったり、自分を見失った人たちってわけだ」


 ユウシャ村から来る人たちとは全然理由が違うってことか。


 ……この場にいる人たちからはそんな様子は全く見受けられないんだけど。

 みんな楽しそう。


「ララちゃんや、ブルブル牛のローストビーフを作っておくれ」


「このジジイ……」


「え……すまんの……つい調子に乗ってしまったみたいじゃ……」


 あ、つい声に出してしまってたみたい……。

 まぁいいや。


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