第二十六話 臨時パーティ結成のお手伝い
「チュリリ! (あと十分くらいでお一人来ます!)」
「あぁ、ありがとうピピ」
さて、今日はどのくらいの人が来てくれるかな。
月曜日より多いということは今までの経験上はないことだけど。
地下二階リニューアルオープン初日の来場客数は四十六人。
先週月曜日の記録を大幅に塗り替えた。
だが今日は少し不安があった。
昨日来た冒険者たちは魔物急襲エリアでボコボコにされていたからである。
いくら帰り際テンションが高かったとはいえ、すごく疲弊していたことが気がかりだったのだ。
「ララ、昨日来た人たちについては任せるぞ」
「任せて! といっても、説明はいらないって人には指輪と採集袋渡すだけでしょ? 余裕ね!」
俺は昨日来ていない人、つまりセーフティリングシステムについての説明を聞いたことがない人に対してのみ説明、受付をすることにし、ララにはそれ以外の人の対応をしてもらうことになった。
「今日の制限枚数の説明は忘れるなよ。薬草は十五枚、毒消し草は十枚だからな」
「大丈夫だって!」
昨日の惨状を受けて採集できる数を増やした。
そうでもしないと冒険者たちはポーション代と解毒ポーション代で赤字になるのは間違いなかったからだ。
「じゃあカトレア……はとりあえずここで待機でいいかな? 今日はドラシーもいるからなにかあったらいつでも転移できるし」
「……はい、わかりました。それと……」
「あぁ、そうか。ララのほうが落ち着いたらいっしょに行ってきていいから」
「……はい! ありがとうございます」
やっぱり草マニアだな。
カトレアは栽培エリアのことを知ると、目を輝かせて「行ってみたい」と言ってきたのだ。
それはそうとついさっきの話だが、朝食のときにカトレアとドラシーが初めて顔を合わせることになった。
「おはよう。あら、あの錬金術師さんじゃない? ここは外だったかしら……家の中のようね。ということは私のことも見えてるかしら?」
「!?」
「見えてるようね。って中にいるから見えて当然なんだけどね」
「……あの、この方は? ……小人さんですか?」
「彼女はドラシー。まぁこのダンジョンの主みたいなもんだな」
「……主ですか!?」
それから簡単にではあるがドラシーのこととダンジョンについてを説明した。
カトレアはダンジョンのことについては普通に聞いていたものの、ドラシーの存在には驚いていたようであった。
というよりも興味深々だったというべきか。
また、朝食後にカトレアから提案があった。
それは、しばらくここにいさせてほしい、宿代と食事代の代わりにポーション類を提供するからとのことであった。
ただし、その薬草と水はこのダンジョンの素材を使用するので、実際には技術料みたいなもんだ。
そもそもこの前の日曜に俺のあとについてダンジョンに来ようとしたのも、解毒ポーションを作ってくれようとしたらしい。
それは俺が解毒ポーションを山ほど抱えていて重そうだから持ってあげようというのもあったらしいが、それよりも解毒ポーションが足りなくなるだろうと予想してのことだったようだ。
俺とララも話を聞くうちに今朝までの気まずさは徐々に薄れ、ポーション類を用意してくれるなら大歓迎だと意見が一致し、しばらくここにいてもらうことになった。
ただ、最後にカトレアからもう一つお願いがあると言われ、それには今もまだ少し困っている。
「……ロイス君、ポーションを売ったらもっと簡単に稼げますよ?」
「いや、あまり目立つようなことはしたくないんだ。カトレア……が採集袋の制限枚数内で作って町で売る分には自由にしてもらって構わないよ」
「……そうですか。ララちゃん、私の分もお弁当作ってくれたんですか?」
「もちろんだよ! そういう条件ってこともあるけど、カトレア姉もここにいる間は家族同然だからね!」
「……ふふ、ありがとうございます」
そう、ポーションや弁当の話でなく、呼び方についてだ。
カトレアは敬語をやめてほしいと言い、さらに俺には呼び捨てで、ララにはもっと親しみのある愛称で呼んでほしいと言ってきたのだ。
さすがに三つも年上の女性に対し呼び捨ては戸惑うだろう。
見た目が俺より下に見えるだけに周りからは変に思われないだろうが。
「わふっ! (来たよ!)」
外からシルバの声がした。
やっぱり早いな。
まだ八時だ。
「おはようございます。いらっしゃいませ」
「おはようございます! 今日もよろしくお願いします!」
すっかり顔なじみとなった感じのいい青年、ジョアンさんであった。
昨日も来ているため説明はいらないので、さっと50Gを差し出してきた。
「ありがとうございます。今日の採集制限は昨日とは変更になりまして、薬草十五枚、毒消し草十枚になります」
「おお! それはありがたいですね!」
「昨日はみなさん支出のほうが多かったと思いましてね」
「確かにあのポイズンスライムと魔物急襲エリアにはやられましたね! といっても僕はこわくてあのエリアは外から見てただけなんですけど」
「そうでしたか。ソロで行かれたんですか?」
「はい! まだまだ勉強中でして、人と組めるレベルには達してませんので!」
「そんなに気にしなくてもいいと思うんですけどね」
「いえ、僕の役割はみんなの安全が第一ですから! じゃあ小屋使わせてもらいますね!」
ジョアンさんはレンジャー志望だそうだ。
なんでも探索において周辺に罠がないか敵が襲ってこないかなどを事前に察知する役割だそうだ。
スカウトとか言う人もいるらしいが俺には詳しいことはわからない。
武器は弓をメインに短剣なども持っているようだ。
……今日は昨日より客足が悪いな。
八時半になってもまだジョアンさんしか来ていない。
やはり懸念してたことが的中してしまったかな?
「大丈夫ですよ……今日もたくさんいらっしゃいます」
「!?」
いつの間にか俺の左の椅子にカトレアが座っていた。
気配を消すのやめてもらえませんかね~、心臓が持たないんですけど。
「来るかなー。俺だったら行かないけどな」
「……ふふ、冒険者は諦めの悪い生き物なんです」
カトレアはそれだけ言うと部屋の中へ戻っていった。
ドラシーとなにか話してるようだが、どうせ草のことだろう。
「わふ(いつもの三人組が来たね)」
ティアリスさんと双子の兄たちが来たようだ。
「おはようございます」
「「おはようございます! 三人分お願いします!」」
説明がいらないってのは本当に楽だな。
顔は似てなくてもさすが双子、声が揃ってる。
ん? ティアリスさんの顔色がおかしいようだが……
「ありがとうございます。今日の採集制限は薬草十五枚、毒消し草十枚になっておりますので」
「「おお! 昨日より多い!」」
採集袋と指輪を受け取り小屋へ走っていく双子。
ティアリスさんが残るのもいつも通りだ。
「どうかされましたか? ご気分が優れないように見えますが?」
「わかる? さすがロイス君ね。ちょっと昨日疲れすぎたみたい。だから今日はお休みにしようかと思ったんだけど、あのバカ兄貴たちが行くって聞かなくて。さすがに二人で行かせるのは心配だから結局来ちゃったってわけね」
「ティアリスさんのほうがしっかりしてるように見えますもんね。あまり無理はしないでくださいよ」
「うん、ありがとう。でもさすがに今日のコンディションであのエリアは正直キツイのよね。今日は採集だけでもいいのに」
さすがにこの状態を見て放っておくわけにはいかない。
でもいいことを思いついた。
「……ティアリスさんになにかあっても困りますし、今日だけでももう一人メンバーを加えてみませんか?」
「え? 誰かいい人いるの? ロイス君が来てくれるなら大歓迎よ?」
「……いえ、少しお待ちを」
俺は管理人室横のドアから外に出て小屋に向かう。
そこではジョアンさんと双子の兄貴たちが親しげに話していた。
「ジョアンさん、すみませんが少し来ていただいてもよろしいですか?」
「はい! どうかしましたか?」
ジョアンさんを管理人室前にいるティアリスさんのところへ連れてくる。
「ジョアンさんにお願いがありまして、今日一日だけなんですけどティアリスさんたちとパーティを組んでみませんか?」
「えぇ!? そんな、僕にはまだ早いですよ!」
「ジョアンさんのお気持ちはお察ししますが、管理人からのお願いと思って頼まれてくれませんかね? ティアリスさんの体調が万全ではないということもありますけど、ジョアンさんにとってもお試しでパーティを組むことは悪いことではないでしょう?」
「それはそうですが……僕が良くてもティアリスさんたちはいいんですか?」
「えぇ、ジョアン君なら歓迎するわ。確かレンジャーだったよね? あのバカ兄貴たち勝手に進んでくからサポートしてくれると助かるもの。私が兄貴たちの分も採集するのをサポートしてくれるだけでもいいからさ」
「う~ん、僕も新人なので期待されても困りますけど、採集は得意だから任せてください! よろしくお願いします! お兄さんたちにも挨拶してきますね!」
「うん、よろしくね!」
ジョアンは嬉しそうに小屋へ走って入っていった。
走るっていってもほんの数メートルだけどね。
「勝手に話を進めてしまいましたが良かったですか?」
「えぇ、彼ならバカ兄貴たちとも仲いいしね。それにレンジャーだからバランス的にはちょうどいいわ。採集も楽にできそうだし」
「それなら良かったです。そういやティアリスさんはどの系統の魔法を使うんですか?」
「私? 私は補助系少しと回復が主ね。要するにあのバカ兄貴たちの子守みたいなもんよ」
「ふふっ、大変そうですね」
「まぁね。それはそうとロイス君も日曜は町に来るんでしょ? 今度来たときお茶しない?」
「最近日曜はダンジョンの調整が忙しくてすぐ帰らないといけないんですよねー。あっ、でも今週はゆっくりできるかも」
「そうなの? なら十一時……あら、ララちゃんおはよう」
管理人室を見ると部屋の中からララが顔だけ出してこちらを睨むように見ていた。