第二百五十七話 救出案再考
「ベネットの外で魔物に襲われてる少女を助けるって設定はどうかな? 助けてくれたのは偶然にも王国の冒険者だったっていう設定で。少女役はマリンちゃんね」
「それなら騎士が襲われてるところを助けるほうがいいんじゃない? 襲う役はゲンさんで」
「ララちゃんとマリンが帝国民のフリして港で泣きながら説得してはいかがでしょう? 帝都に両親がいる設定で、早く助けに行かないと魔王に殺されるって泣き叫ぶんです。ついでにみんな早く逃げて~とも言いましょうか」
「ゾーナさんたちにベネットの町で誘導してもらって逃げたい人だけどうぞって形にしたらいいんじゃないかな? それなら冒険者たちも行かなくていいし、船から降りてるわけでもないしさ」
「私もそのゾーナさんという方に頼るべきだと思います。この時間ロスはかなり痛いですし、もう初級ダンジョン討伐どころかすぐにでも逃げなくてはいけない状況になってるかもしれませんし」
「帝国民だったら入れるんでしょ? なら帝国出身者だけでパーティ作らせて潜入させたらどう? まず身内に逃げるように伝えたらそこから勝手に拡がっていくと思うわよ」
「武器を持たない丸腰の状態で代表の方々数名だけ町に入れてもらい封印結界のデモンストレーションをするというのはいかがでしょうか? まずは守りに来たんだぞという意志を見せることが重要だと思います」
「マルセール周辺の案内冊子みたいなものを作るのはいかがでしょうか? 町や村の素晴らしさをアピールして、逃げるのではなくて移住したいと思っていただくんです。魔道列車や宿屋システム、魔道カードなど錬金の町という触れ込みを押し出しても面白いかもしれません」
ララ、マリン、カトレア、モニカちゃん、ジェマ、スピカさん、ミランダさん、最後にセバスさんという順で意見が述べられた。
こんな話なのでさっきスピカさんにも町から戻ってきてもらった。
魚屋の店員体験は新鮮で面白かったそうだ。
それより色々と意見が出たが、全部試してもみてもいいと思う。
どれかが上手くいけばラッキー程度に考えておいたほうがいい。
そういえば意外にもナポリタンの町関連の意見は出なかったな。
ベネットと同じ状況だろうと踏んでるのか。
「お兄はどの案がいい? それともほかになにかある?」
ララだけじゃなくみんなが俺の意見を待っているようだ。
正直、良さそうな案はなにも浮かんでいない。
賭けに出てもいいんなら……。
「チュリ(このままだと三日も持たないと思います)」
ピピは賭けに出ろと言ってるのか?
一刻の猶予もないと?
……俺たちから見た帝国は今も三日後も最低な状況だということに変わりはないもんな。
ベネットで入国許可をもらったとしても結界を張るにはだいぶ時間がかかる。
町はそれなりに広いらしいし、なにより結界を張ってから出発する予定だったユウナや魔物たちはもう町を出発してしまったんだから。
「よし、みんなとは少し違うが俺の意見を聞いてくれ」
「「「「……」」」」
一瞬で張りつめた空気になる。
なんだか俺の言うことが予想されてそうだがまぁいい。
「拠点は屍村にする」
「「「「え……」」」」
「ピピにはこのあとすぐにまずサウスモナの大型魔船、次にリーヌの高速魔船に行ってもらい、屍村を目指すように伝えてもらう。屍村に着いてから冒険者にやってもらうことにはなにも変更はない」
「ちょっとちょっと! まずピピに屍村の状態を確認してもらわなくてもいいの!?」
「いい。明るいうちに着こうと思ったら時間がない」
「そうだけど……」
ララだけじゃなくみんなも心配してるようだ。
どんな状態の村か想像がつかないからな。
でも仮に屍だらけだとしたらそれはそれで都合がいいんじゃないか?
「ピピはそのまま帝都に行ってゾーナさんにベネットじゃなくて屍村に変更したことを伝えてくれ」
「チュリ! (了解しました!)」
「屍村だと封印結界の範囲も少なくていいだろうからユウナがいなくてもエマ一人でなんとかなる。そもそも寂れた村なら全体を守らなくても港付近だけでもいいかもしれない」
「……それはそうね」
ようやくララが同意してくれた。
「先に結界を張ってしまえば騎士たちはなにもできないだろうしな。移住希望者だけを結界内に入れるようにすればいいし」
「エマちゃんにそんな器用なことできるの?」
「エマには無理かもしれないが、ララならできるんじゃないか?」
「え…………ドラシーから聞いた?」
「いや、なにも。ララのことだから嫌々ながらもすぐに練習してるだろうと思ってさ」
「えっ!? ララちゃん!? いっしょに練習しようって言ったよね!?」
「マリンちゃん……ごめんね。試しにやってみたらすぐにできちゃったの……」
「ズルいよ……」
本当に使えたのか。
いや、封印魔法を使えることを疑ってはなかったがそんな簡単にできるものなのかよ……。
というかできたんなら早く言えよな。
魔道化の作業だっていっしょに行けるじゃないか。
……まぁそれはもう少し先の話になるか。
「ララ、屍村に行けるか?」
「え……やっぱりそういう流れだよね……」
そう、そういう流れだ。
別に戦闘をしろって言ってるわけじゃない。
ただ封印魔法による結界を張るだけだ。
しばらくは屍村にいてもらわないといけないけどな。
これでヒューゴさんたちの負担も減るだろう。
本当は行かせたくないが、ララに行ってもらうのが一番安心できるっていうこともある。
「どうだ? ララの護衛としてゲンさんとメルとマドにも行ってもらうからさ。ついでだからミニ大樹の柵に加えて魔道柱と魔道線も設置してしまおう。そのほうが冒険者たちも安心して旅立って行けるしな」
「「「「……」」」」
魔道プレートまでは埋めないが、これで半魔道化の完成だな。
エマも楽に封印魔法の維持ができるに違いない。
「……わかった。行ってくる……」
なんで泣きそうなんだ?
魔物に襲われる危険があるからか?
……屍がこわいからに決まってるよな。
俺だって行きたくないもん。
「ピピ、メタリンとタルの二匹を乗せて飛べるか?」
「チュリ(それは厳しいかもです……)」
「ん? 無理なのか。サウスモナからヨハンさんをメタリン馬車で連れて来てもらおうと思ったんだけどな」
「お兄、それなら私たちがメタリン馬車でサウスモナに行くよ。そこから高速魔船で向かうからヨハンさんに港で待っててもらうってのはどう?」
「そっちのほうがいいか。カトレア、このあとすぐに高速魔船の準備をしてくれ。あ、屍村ではヨーセフさんと四バカもいるからやっぱり大型魔船も二隻追加で。もう練習とか言ってる場合じゃない」
「わかりました」
こんなところか?
ほかになにか抜けてることあるかな。
「ララ、冒険者たちの誘導場所の変更も考えといてくれ」
「うん。旅の途中で考えるね」
「ベネット付近やナポリタン付近は減らしてもいい。王国冒険者が屍村に拠点を構えて移住者の支援をしてると知ったら騎士たちは屍村に向かってくるはずだから、もし移住希望者がいるんなら騎士といっしょに逃げてくるだろう」
「さすがお兄! そこまで考えて屍村を選んだんだね!」
いや、たまたまだ。
と、いつもなら言ってるんだろうが、本当にそれを考えてのことだからな。
まぁ騎士たちがその通りの行動を取ってくれるかどうかは賭けだけどさ。
町の外に出て魔物がいっぱいいることを知り、町付近の魔物を減らしてくれたら一番いいんだけどな。
今日の夕方にゾーナさんたちに伝わったとして、ベネットやナポリタンに伝わるのは明日か。
冒険者たちにはそれまでに初級魔工ダンジョンを討伐してもらって移住の誘導に合流してもらうというのが一番理想だな。
メタリン馬車やウェルダン馬車がない以上、一日での討伐はさすがに無理だろうけど。
馬たちに期待するのはあまりに酷だし。
「じゃあララは旅の準備を。カトレアとモニカちゃんは船の準備、マリンは……回復アイテムや食料はエマが持っていってるか。ジェマとセバスさんはみんなへの手紙をお願いします。ゾーナさん宛てとヒューゴさん宛てと、サウスモナの大型魔船はヴァルトさん宛てでいいか。あ、ユウナ宛ても。ピピ、どうにかしてユウナたちにも知らせてくれ」
みんなはすぐに動き出す。
スピカさんとミランダさんはカトレアたちに付いていった。
マリンはララに言われて物資階層になにかを取りに向かったようだ。
ジェマとセバスさんは手紙を書き始めている。
そして俺は魔物部屋にやってきた。
全員揃っているようだ。
「ゲンさん、悪いけど帝国に行ってもらっていいかな?」
「ゴ(おう。ピピから聞いたぞ。ララの護衛は任せろ)」
「ゲンさんがいない間、森のことはちゃんと守るから安心して」
「ゴ(それはもう心配してないから気にするな。今の俺はこいつらと同じだ)」
みんなと同じ?
それはつまり俺の仲間ってことでいいのか?
というかこっちからしたらもうずっとそんな感じだったけどさ……。
「メタリン、サウスモナまで頼むな」
「キュ! (お任せくださいです!)」
「一人で帰ってこれるか?」
「キュキュ(大丈夫なのです。みんなが帝国に行ってしまうとご主人様を守れるのは私だけなのですぐに帰ってくるのです)」
「そうか。帰りもビール村から魔道列車使っていいからな? 村の駅責任者のシエンタさんには連絡しておくから」
「キュ! (助かりますです!)」
行くときにララからメタリンを紹介しといてもらうか。
メタリンが一匹でいると普通は魔物かと思われるからな。
「チュリ(ロイス君、さっきは言いませんでしたが、人がいっぱい死ぬんですよ? ララちゃんに見せてもいいんですか?)」
「どうだろうな。できれば行かせたくないってのが本音だが、ララが行ったほうがみんながまとまるのは事実だしな。ララだって封印魔法で貢献できるってわかってるんだから行きたいだろうし」
「チュリ(でもこわがってるじゃないですか)」
「それは屍がこわいからだろう。だからみんなで守ってやってくれよ。俺以上にさ」
「チュリ(もぉ~、私たちはロイス君の傍にいるときが一番力を出せるんですからね? それに私たちがいない間は外出を控えてくださいよ)」
「わかってるよ。ここでおとなしくしとくから」
ピピは厳しいようで過保護すぎるな。
ペンギンのことはもう忘れてくれてるといいが。