表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第十章 帝国大戦乱

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

255/742

第二百五十五話 責任者の仕事

 ハンバーガー屋での食事から管理室に戻ってくると、そこには既にララ、カトレア、モニカちゃんがいた。


「お兄、どういうことか説明してよね」


「え……」


 なぜかいきなり怒ってる……。


 そして改めて事情を説明した。


「ふ~ん。乗れない人がたくさんいるからってのはわかるけどさ、そんな簡単に本数を増やしたりなんてできないの。わかる?」


「「はい……」」


 ソファには俺だけじゃなく隣にメロさんも座らされいっしょに怒られている。


「わかってないでしょ? 村の魔道化だって今後の安全のためには必要なことだけど大赤字案件なのは間違いないんだからね?」


「「はい……」」


 封印魔法維持のためには魔力が必要になるからな。

 それに魔道プレート、魔道柱、魔道線などに使うミスリル生成にも大量に魔力が必要だ。

 その魔力分の魔石を村に負担してもらうなんてさすがに無理な話だし。


「窓口担当に新しく従業員を雇うって話はまぁいいよ。ウチが率先して雇わないことには示しがつかないから。でも今の村側の責任者の方にダンジョン側の駅の責任者まで兼ねてもらうって話は反対ね」


「「え……」」


「当たり前でしょ? だってメロさんがマルセール駅全体の責任者をしてるって言っても駅にある各店舗の経営にはいっさい関わってないし、はっきり言ってただのお飾りじゃん。トラブルがないかどうかを見てるだけですよね?」


「まぁそうだが……でも道案内したりも……」


 メロさんはバツが悪そうに答える。

 メロさんだってセバスさんに頼まれたから仕方なくやってるのに……。


「それに対して村の責任者の人たちは駅にあるお店の管理もしてるの。マルセールみたいに場所を貸し出してるだけじゃなくてちゃんと経営してるんだからね?」


 確かに……。

 どの村の駅もウチから商品提供をしてる店と村の名産を販売してる土産物屋の二店舗のみだが、責任者は村から経営を任されてるんだもんな。


「駅の外に発着する馬車のお出迎えやお見送りなどもしてたりするんだよ? それに村にあるお店の紹介もしてるんだよ?」


 結構忙しいんだな……。

 お客さんと顔を合わせる機会が一番多いポジションでもあるよな。


「わかりますか? メロさんが考えてるほどみんな余裕があるわけじゃないんです。だからあまり負担を増やすのはやめてあげてください」


「はい……」


 この口調だと余計にこわい……。

 マリンと違ってララは大人の従業員に対してはいまだにこの口調だからな。


「ピィ! (お客さん来られてますよ!)」


 メルが魔物専用入り口から入ってきた。

 さっき管理室に入る前に見たときは三匹で仲良く昼寝してた。


 俺が通訳しなくても、カトレアがドアを開けにいく。


「どうぞ中にお入りください」


「「「失礼します」」」


 それぞれの村の責任者たちが入ってきた。

 本当に来たのか……。

 それも連絡してから次に出発する列車で……。


「こちらのソファにおかけください。お飲み物はなににされますか?」


 三人は緊張しているようだ。

 俺がいることは知っていただろうが、まさか錬金術師三人にしかもララまでいるとは思ってもみなかっただろうからな。

 言わば勢揃いって感じだ。


「みなさんお菓子もどうぞ!」


 ララは先ほどまでとは打って変わって笑顔で接する。

 だが三人の表情は硬い。

 メロさんとの気楽な会議のつもりで来てこの状況だったら仕方ないと思う。


 ソボク駅の責任者は村長の娘のセレニティーナさん。


 ソボク村は魔道列車の運行開始とともに村長が交代した。

 とは言っても元村長は物凄く元気なので毎日駅に顔出してるらしいけどな。

 村も新しくなったことだからこの機会に村長も交代したんだろう。

 さすがにセレニティーナさんを村長にはしなかったけど。


 ビール駅の責任者はウチで働いてくれてるシエンナさんの弟のシエンタさん。

 ボクチク駅の責任者はアグネスたちの兄のアルヴィンさん。

 どちらの村もウチと関係がある人物を抜擢してきたというわけだ。


 偶然かはわからないが三人とも十七歳。

 メロさんと同い年だ。

 だから四人は親近感があるのか関係も良好のように見える。


「ロイスさんもこちらに来ませんか?」


「え?」


「すみませんお兄は今考え事中なんです!」


「え……」


 セレニティーナさんの誘いをララが即座に断る。


 今怒られてる最中なのに俺が行くと思ったのか?

 というかこの三人がいるんだからもう怒らないでほしい……。


 そしてなぜかララがセレニティーナさんの隣に席を移した。


「じゃあ始めましょうか」


 どうやらメロさんではなくてララが進行を務めるようだ。


「メロさんからお話は伺いました。列車の運行本数を増やしたいのは山々なんですが、それをするとみなさんの負担が増すことになると思うのでしません」


「「「え……」」」


 あくまでみんなの仕事量を考えてということか。


「ですが乗車人数を増やそうと思います」


「「「「え?」」」」


 ん?


「具体的には今と同じ四十席車両を追加します。そしてトイレ車両ですが、この車両は少し改良して前部分をトイレスペース、後ろ部分は座席スペースとして二十席を確保し、五車両の真ん中の三両目に配置します。つまり六十席増えますので最大で百四十名が乗車可能となります」


「「「「えぇっ!?」」」」


 一気に六十席も追加……。

 本当に必要なのか?

 トイレ車両の二十席追加だけでもいいんじゃないのか?


 というかしっかり対策を考えてたんだな。

 それなのに俺たちが運行本数を増やすとか、責任者の負担を考えてなかったりしたから怒ってたのか……。


「トイレ車両の改良は現在の利用状況を踏まえたうえで無駄があると判断したからです。みなさん大体駅でトイレに行かれる方が多いようですから。もちろんトイレに近い席への配慮などもしっかりするつもりです」


 確かに少し多すぎだったもんな。

 みんな最初は珍し気に覘きには行くものの利用しない人がほとんどだし。


「この車両追加もお客さんの多い時間帯のみに絞るつもりでしたが、面倒なのでそれはやめます。お客さんが少ない時間はゆったり乗ってもらうことにしました」


 やっぱり一人で二席独占できるのが理想だもんな。

 窓側に座りたいって人が多いはずだし。


 とここでドアがノックされた。

 そしてセバスさん、ジェマ、宿屋のおじさんが入ってくる。


「すみません遅くなりました」


「ちょうど良かったです。そちらに座ってください。お兄は向こうに移って」


 え……。

 真ん中のソファからマリンが座ってる端っこのソファに追いやられた……。

 マリンはそれが面白いのか笑ってる。

 というかマリンのやつ、最初から知ってたくせに黙ってたな。

 あとで覚えとけ。


 三人が来たことでこの部屋にある六つのソファは満席になった。

 まずこの部屋の拡張が必要じゃないか?


 というかこの三人は呼び出されたのか?


「セバスさん、まずはみなさんに帝国の件の説明をお願いします」


「え……かしこまりました……」


 セバスさんはララに弱すぎる……。

 ララが可愛いからとかじゃなくてこわいからだ。

 つまり俺と同じだな。


 そしてセバスさんから三人に説明をする。

 三人は驚いてなにも言葉が出ないようだ。


 そりゃいきなり帝国なんて言葉が出てきたうえに、魔工ダンジョンの出現やウチの大勢の冒険者が既に向かったこと、今後マルセールで移住者を受け入れることや港町を作ることなどを一度に聞いたらパニックになって当然だと思う。


 ララは三人の理解が追いつくのを待って次の言葉を発しようとしている。


「そこでウチの各駅でも移住者の中から新しく従業員を採用することに決めました。魔道カード発行業務を含むお客様窓口担当とダンジョン側の駅の責任者を兼ねてもらいます」


「「「「おお?」」」」


 みんなは嬉しそうな表情を見せる。


「みなさんの負担も少しは減らせると思います。ですので大変だとは思いますがもうしばらくだけ今のままで続けてもらってもよろしいでしょうか?」


「はい!」


「もちろんだべ!」


「大変ですけど楽しいです!」


 ララが仕事の大変さをわかってくれていたのが嬉しかったのか、三人は元気に返事をする。

 三人とは反対にメロさんは少し落ち込んだような表情をしてる。

 みんながそんなに大変だとは思ってなかったんだろうな。

 魔道列車に対する思いはみんな同じなんだろうけどさ。


「ありがとうございます。で、セバスさん」


「はい……」


「マルセール駅の町側の責任者がメロさんっていうのはもうやめてください」


「え……そう言われましても……」


「メロさんには魔道列車全体の責任者として動いてもらわないと困るんです。今度からはマルセール駅も含め最低でも四人は従業員が増えるんですから。港町の駅も増えるんならさらに管理が大変になりますし」


「はい……」


「代わりの責任者はリョウカさんのお父さんかお兄さんでいいんじゃないですか? 案内所からは駅の中のことや各店舗の様子も見れるわけですし」


「それはそうでございますけど……」


「リョウカさんとルッカちゃんはウチの従業員ですし、おじさんも宿屋協会の会長なんですからお二人のどちらがなっても町のみなさんは納得されると思いますよ? もし宿屋の人員が足りないようでしたら移住者の方がいますし」


「でも……」


 セバスさんと宿屋のおじさんは目だけで俺に助けを求めてくる。

 ララの言うことは絶対なんだから俺がどうこう言えるはずがない。

 というか俺もララの意見に賛成だし。

 だからここは静観しておこう。


「メロさんはどう思いますか?」


「……俺も総支配人の意見に賛成だ。名前だけの責任者なんて意味がないからな」


「おじさんはどうですか?」


「……ララちゃんの言うことが正しいと思う。でも駅の責任者ともなると私よりも息子のほうが適任だな。若いやつのほうが流行に敏感だろうし、ほかの村の責任者のみなさんもお若いからな、ははっ」


「だそうですけど?」


「……了解いたしました。その方向で話を進めさせていただきます」


 セバスさんもそのほうがいいと今は思ってるはずなのに、ララのことをおそれてか萎縮してしまってる。


 さすがにそこまでこわくないからな?

 仕事のとき以外は可愛い女の子だって知ってるだろ?

 ジェマとだって仲良くしてるのに。

 ってジェマは笑いたいのを我慢してるじゃないか……。

 父親とララのやり取りが面白いんだろうな。


「じゃあそう決まったところで私たちからの提案です。各駅のダンジョン内に馬の預かり施設を作ろうと思いますがいかがでしょうか?」


「「「「馬の預かり施設?」」」」


「はい。例えばソボク村から魔道列車に乗った馬車の御者さんの目的地がビール村だったとします。その場合、馬まで列車に乗せて連れていく必要ないと思いません? 目的地がその先のサウスモナとかの場合は別ですけど」


「確かに……」


「馬と馬車があると行動範囲も限られますし、馬の負担もありますしね」


「でも荷物は?」


「……レア袋がありますね」


 俺はこの案を言った覚えがないな。

 ということはララたちが考えたのか。


「そうです。馬を預かるのと同時にレア袋の貸し出しも始めます。ただし、レア袋は超貴重品なので魔道化してある範囲の外には一歩も持ち出せないようにします。あ、言うの忘れてましたけど近々お兄がみなさんの村を魔道化しに行きますから」


「「「ええっ~!?」」」


 魔道化という言葉が今日一の驚きだったようだ。


 でも魔道化を望んでたんだろ?

 魔道化と言っても封印魔法をかける準備をするだけだからな?

 宿屋システムや会計魔道具の導入はまだ先の話だぞ?

 さっき魔道カード発行業務をすると言ったのとはまた別だからな?


「馬預かり施設によって馬車車両を利用するお客さんは減るはずです。馬車はレア袋に入れて持ち歩いてもらいますので貴重品を預かることはありませんし」


「……質問よろしいでしょうか?」


「はい、セレニティーナさんどうぞ」


「料金はおいくらになるのでしょうか?」


「馬一頭の預かりに加えレア袋一つの貸し出しセットで一日50Gにします」


「「「「おおっ!?」」」」


 今の一区間100Gに比べたらだいぶ安いな。

 二区間だと今200Gかかってるのが90Gですむわけだ。

 往復でも人間の運賃分だけでいいから130G、ということは270Gも安くなるのか。

 一日50Gだから……五日目までは今よりも安いんだな。


「馬の面倒は誰が見るんだべ?」


「シエンタさん、いい質問です。みなさんもご存じのようにウチには優秀なウサギがいますので二十四時間体制で面倒見れます。ダンジョンなので快適な牧草地や小屋を用意することも簡単にできます。それにアルヴィンさんの妹さんたちのおかげで既にノウハウを覚えているウサギがいますので」


 なるほど。

 ウサギたちだけで面倒を見れるかどうかはアグネスたちに確認済みってわけか。

 環境面もアグネスたちに監修してもらえばいいしな。

 なんだったら水晶玉で様子を見てもらったり、通話魔道具でウサギに指示してもらってもいい。


「二人は迷惑かけてないでしょうか……心配なのでこのあと会いに行ってよろしいですかね?」


「お二人は今帝国に行ってもらってるんです……。馬四十頭くらいといっしょに船で」


「えぇ……船に四十頭……」


「もしかしたら今日は帰ってこないかもしれませんが、魔道列車もあるんですからまたいつでも遊びにきてください」


「はい……」


 そんなにアグネスたちに会いたいのか?

 まぁアグネスたちもアルヴィンさんを気にしてたからな。

 大勢いる兄や姉たちの中でも一番仲が良かったらしい。

 年が一番近かったってこともあるだろうが、アグネスたちがいなくなった家で一番年下はアルヴィンさんだから心配になるんだろう。


 そういや船出向からもう七時間近くになるのに、まだピピも帰ってきてないな。


「では以上で今日の会議は終了となります。みなさんも村に帰って村長さんに伝えてください。帝国のことについてはセバスさんがまた村に伺うと思いますけど」


「……まさにこのあと各村にお伺いしようかと思っていたところでございます」


 セバスさんはずっと困り顔じゃないか……。


 じゃあ俺も最初に行く村についていって魔道化作業をしてくるとするか。

 でもピピがいないと魔道線を張るのに時間がかかるんだよなぁ。

 まぁ村だからリスたちでも大丈夫か。


 みんなが立ち上がろうとしたとき、通話魔道具の音が部屋中に響き渡った。


 すぐにメロさんが立ち上がって取りにいく。


「はいこちらマルセール駅管理室……え? ちゅり? ……あ、もしかしてピピか?」


 ピピも通話魔道具使えるんだな……。

 じゃなくて帰ってきたのか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=444329247&s
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ