第二百五十二話 裸の付き合い
夕食後、ウチに住むみんなが自然とリビングに集まっている。
とりあえず明日は二隻の船を運行することにした。
それぞれの船の操縦はシモンさんとヴァルトさんに任せ、操縦方法を覚えてもらうために魚屋のヨーセフさんとヨハンさん、それに四バカたちに同行してもらうことも決まった。
「魚屋には誰か手伝いに行ったほうがいいかな?」
「あ、私が行ってくるわ」
「いいんですか?」
「デイジーと喋りながら楽しくやるわよ」
まぁデイジーさんからしてもスピカさんが来てくれたほうがいいか。
スピカさんが魚を売ってるところなんて想像できないけどな……。
「そういやユウナ、ピピがユウシャ村に行ったら酷い扱いを受けたらしいぞ」
「え……ピピちゃん、ごめんなのです……」
「チュリ(構いませんよ。焼き鳥にされそうでしたけど)」
その冗談は俺にしか伝わってないからな?
「で、ピピによると村人全員が臨戦態勢に入ってたらしい。手紙も燃やされたってさ」
「やっぱりなのです……あの村はそういう村なのです……でもみんながみんなそんなに強いわけではないのです」
「お婆さんたちが一斉に攻撃魔法放ってくるんだから強いだろ……」
「村にいる人たちはここのランクで言うと強い人でもEランク、ほとんどの人はFランクといったところなのです」
いや、それってかなり強いと思うんだが……。
ユウナが最初ウチに来たときも回復魔道士としては既にトップクラスだったもんな。
自分たちの強さに自信があるんだろうから逃げるなんて選択肢がないってのもわかる。
それにユウシャ村の住人が逃げ出すわけにはいかないんだろうし。
「ユウナちゃん、絶対に帰ってきてね……」
「ララちゃん……」
ユウナとララはソファで寄り添っている。
ララの寂しそうな様子がヒシヒシと伝わってくるな……。
「安心しなさい! 凍らしてでも連れ帰ってくるわよ!」
「……私ね、やっぱり攻撃魔道士もいいかなって思ってるの」
「いいと思うのです。ララちゃんが攻撃してる間は私がすぐ近くでララちゃんを守るのです」
「無視しないでよ!? パーティでしょ!?」
「「……」」
シャルルはわざとやってるのか?
場を和ませるためにわざと空気を読めない役を買って出てるんだよな?
シャルルの隣にいるジェマも以前なら慌ててシャルルをとめてたはずだが、のんびりお茶を飲んでいる。
ウチの空気にも慣れたようだな。
カトレアとモニカちゃんはソファですっかり眠ってしまってるようだ。
どうやら二人とも徹夜だったらしく一睡もしてなかったんだってさ。
モニカちゃんは船の外装や内装のことを考え、カトレアは船に搭載する魔道具に魔法付与の錬金をしてたらいつの間にか朝になってたらしい。
でもそのおかげでこんなに早く船が完成したってわけだ。
本当に錬金術師様様だな。
「ウェルダンが馬車を引くとして、ほかにシルバ、マカ、ビスがいれば十分だよな?」
「余裕なのです。ウェルダン君がいれば普通の馬車なら三台くらい繋げても引けるのです」
「モー(任せて)」
俺の足元で寝そべっているウェルダンがそのままの体勢で答える。
俺が座ってるソファには魔物が大集合中だ。
ピピ、シルバ、メタリンにリスたち全員。
さすがにゲンさんはいないけどな。
「キュ(いっしょに行けなくてごめんなさいです……)」
「メタリンが謝ることない」
上空から海をこわがるのはわかるが、まさか船までこわがるとは思わなかったけどな……。
もし沈んだら泳げないからという気持ちはわかるんだけど。
「じゃあ明日は朝早いからもう解散にしよう」
みんなも疲れてるはずだからな。
案の定すぐに二階に転移していった。
カトレアとモニカちゃんはまだ寝ている。
「ピピ、さっきはどうだったんだ?」
「チュリ(まだ船にいましたね)」
「わふ(可哀想だよ……)」
「キュ(真っ暗な海の上で一匹……)」
気にするなってほうが無理だよな。
ピピなんかもう何回も見に行ってるし。
シルバもピピに見に行くように催促してるし。
……明日の朝まで待ってまだ親ペンギンが来ないようならしばらくはウチで育てるか。
牧場の一角に封印結界を張ってそこで育てれば急に凶暴化しても大丈夫だろうしな。
さすがにアグネスたちに任せるわけにはいかないけど。
「じゃあ俺は風呂に行ってくる」
俺が立ち上がると同時に魔物たちは魔物部屋に走っていった。
きっとみんなで風呂に行ったんだろう。
しばらくはいっしょに入れなくなるからな。
さて、俺は人間用の大浴場に行くか。
明日からは人が少なくなる分ゆったりと入れるんだろうが、人が多いのもまたいい。
そして体を洗ってから大浴場へ転移した。
……あれ?
この時間帯こんなに人多かったっけ?
「ロイスさん! こっちどうですか!?」
この声は……ジョアンさんか。
双子のお兄さん二人もいっしょのようだ。
本当に仲がいいなこの三人。
ティアリスさんよりも兄弟って感じがするな……。
では遠慮なくごいっしょさせてもらおう。
「なんか人多くないですか?」
「たぶんみんないつもより長めに入ってるんです。僕らもそうですけど、明日からはしばらくお風呂に入れませんからね」
なるほど。
魔物も人間も考えることは同じってことか。
「ジョアンさんは帝国についてどの程度知ってます?」
「簡単な歴史と地理くらいで、最近の帝国がどうかといったことは全く知らないんです」
「俺なんてマーロイ帝国って国があることしか知りませんでしたよ、ははっ」
「「俺たちもだ! わっはっは!」」
やっぱりその程度だよな。
ジョアンさんは謙遜してるだけで色んなこと知ってそうだけど。
「難しい役割になると思いますがお願いしますね」
「はい。絶対に仲間は誰も死なせませんし、一人でも多くの方を救ってきます」
ティアリスさんパーティに任せた役割は全体のフォローだ。
自由に動き回ってもらって冒険者や帝国の人たちの動きを把握し、状況に応じてパーティの誘導位置の変更であったりの指示をしてもらったりもする。
同行してもらうFランクパーティもEランクに限りなく近いパーティだ。
「私も混ぜてもらってよろしいですか?」
ヒューゴさんがやってきた。
この様子だともう結構長い時間入ってるな……。
「あ、そうだ。ヒューゴさんとジョアンさんにはユウナたちのこと話しておきますね。……あ、もちろんお兄さんたちにも」
お兄さん二人に一瞬悲しい顔をされた……。
「内緒でお願いしますね。特別扱いと思われるかもしれませんが、ユウナたちにはユウシャ村に向かってもらいます」
「「!?」」
内緒って言ったからか声を出さずに驚いてくれたようだ。
お兄さん二人はピンときていない様子。
俺と同じでユウシャ村や勇者の存在を知らないのかもしれない。
「ユウナはそのユウシャ村出身らしいんですよ」
「「!?」」
「家族を助けるために一人で行くって言い出したもんですから、シャルルと俺の魔物も何匹か同行させることにしました」
「「……」」
そしてユウシャ村のことを少し話した。
今日ピピが焼き鳥にされそうになったことなども。
「なるほど。そのユウシャ村の人たちが逃げる決断をしてくれたらミランニャの人たちが移動する助けにもなりそうですよね」
「確かにそうですね。それだけの冒険者……冒険者って呼んでいいんですかね? とにかくユウナちゃんたちにはどうにかして説得してきてもらいましょう」
上手くいってくれるといいんだけどな。
「もしユウナちゃんたちがベネットに戻ってこないようでしたらどうしましょうか?」
「そのときは放っておいてもいいです。ユウナが村のみんなといっしょに村に残るという決断をしたということですので」
「「え……」」
「ユウシャ村は遠いですし、船で行こうとしても海流の流れが速く海側から近付くのは危険らしいです。それに村に残るからって死ぬと決まったわけではありませんし」
「……シャルルさんも村に残るんですか?」
「あ、シャルルにはユウナを見捨ててでも帰ってこさせます。俺の魔物もいっしょなんでまぁ大丈夫でしょう」
「……わかりました」
ヒューゴさんはどうにか納得してくれたようだ。
だがジョアンさんはまだ不満があるようだ。
「ジョアンさん、まずユウナが戻ってくることを期待しましょう。それにユウナ一人のことよりも、仲間全体のことや目の前の救える命のことを考えてください」
「……はい、すみません……僕にとってはもうここの仲間たちも家族みたいなものですから心配になってしまって」
「ジョアン! だからこそユウナちゃんのことを信じようぜ!」
「そうだ! それと管理人さん! 俺たちは管理人さんのゴーが出るんならいつでもそのユウシャ村とやらまで行くからな!」
お兄さんたち、いいこと言うじゃないか。
なるべく危険なところには行かせたくないが、ティアリスさんならユウナを説得してくれるかも。
……って無理に決まってるか。
その場合はパーティメンバーのシャルルでさえも説得できなかったってことだもんな。
……ん?
なんだか騒がしいな。
「のぼせてるぞ! 早く風呂から出して寝かせろ!」
「ウサギ君! 水を持ってきてくれ! ってそっちのやつもだ! 急に立ち上がるからだよ!」
……よし、そろそろ出ようか。
長風呂は危険だな。




