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俺の天職はダンジョン管理人らしい  作者: 白井木蓮
第一章 管理人のお仕事
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第二十五話 錬金術師カトレア

 翌朝、昨日と同じく朝の日課を早めに切り上げて帰ってきて、朝食が並ぶ食卓の席に着いた。

 既にララとカトレアさんは着席しており、お喋りしていた。


「おはようございます」


「……あっ、おはようございます。おかえりなさい」


「……どうも」


 まだぎこちなさがとれずにいた。

 というよりも気まずい、いや、どうしたらいいのかわからないといったほうが正しいか。


 昨日の晩のことだ。


 ご飯を食べ、順番に風呂に入り、寝る準備をした上で、今日のダンジョン運営の反省会を行うことになった。

 カトレアさんはいないほうがいいと思ったのだが、本人がどうしてもというので参加してもらうことになった。


 まずララが話したことは、当初の想定よりも毒にかかる人が多かったということだ。

 これは初級者が多いので毒に対する認識が甘く、不用意な戦い方をしたせいだと結論付いた。


 だがどうやら少し問題が発生していたらしい。

 一人で複数回毒にかかる人が後を絶たなかったらしく、解毒ポーションを持ってきていない人も含め、ララが持っていった十五本は早い段階で底をついてしまったとのことだ。

 十五本も持っていってたことも驚きだったが、その後の対応についてさらに驚いたのであった。



 昨晩の出来事①

「カトレアさんが解毒ポーションを大量に持ってたってことだよな?」


「違うって! 作ったのよ! 何回言えばわかるのよ!」


「毒消し草と交換で持っていた解毒ポーションを渡したってことだろ? カトレアさんが事前に町で作ったのを持ってきてたってことだよな?」


「だから! その場で作ったって言ってるでしょ!」


「その場でって言ったってそんなすぐできるようなものじゃないだろ。毒消し草をすり潰したり、調合の配分とかさ、ポーションなんだから溶けさせて融合させるのだって時間かかるんじゃないのか? いくらカトレアさんが凄腕の薬師だったとしてもさ、そんな毒消し草渡されてはいできましたってわけにはいかないだろ。そのくらいは薬師についてなにも知らない俺でもさすがにわかるぞ」


「だ~か~ら~! 錬金術で作ったって言ってるでしょうが!」


「少し落ち着けってば。そんな怒ってばっかいると皺が増えるぞ。さっきから錬金術錬金術ってなに言ってるんだよ? 正直よくわからない言葉だから知ったかぶって聞き流してたけど、その錬金術だっけ? 草をすり潰す速度が速くなるスキルみたいなもんか?」


「このバカお兄!! カトレアさんは薬師じゃないのよ! 錬金術師なのよ! 漢字わかる!? 錬 金 術 師!」


「バカっておまえ……。お客さんの前であまりそういう口は利かないほうがいいぞ。で、薬師じゃなくてその錬金術師ってのはいったいなんだ? やっぱり爆弾作りそうな名前じゃないか」


「お兄!!」


「……爆弾……まぁ作れないこともないですけど」


「カトレアさん、相手にしないでいいからね! それよりも今見せてもらっていい? じゃないとお兄には伝えられそうもないから」


「……はい、わかりました。少しお待ちを」


「(ララ、リュック取りにいったようだけど大丈夫か? 爆弾作れないこともないって言ったけど、本当は既に爆弾を大量生産してて、あの中にも入ってるんじゃないか?)」


「……」


「……お待たせしました。ではまず私の錬金術ではこれを使用します」


「ん? これは……ツボ? それが大小二つ、他に爆弾は入ってないの?」


「……残念ながら爆弾はありません。これは錬金釜と呼ばれるものです」


「錬金釜?」


「……はい、では見ていてください。ここに毒消し草と大樹の水があります。これをこの小さな釜に入れます。そして錬金釜に私の魔力を注ぎます。そしてその状態をしばらくキープします」


「毒消し草と大樹の水を入れてこのオシャレな釜に魔力を注ぐ? なんかの本で読んだ黒魔術みたいだな。悪魔が出てきたりしないだろうな? ってそんな簡単に出て……!? なにか今光らなかった!? 悪魔出てくるの!?」


「……お兄、少し黙って見ていようね。もう完成したみたいだから」


「……これで完成です。釜の中の液体をこちらの瓶に入れますね」


「毒消し草はどこいったんだ? この液体に溶け込んだってこと?」


「……はい。で、こちらの完成品が解毒ポーションとなります」


「確かに見た目は同じだけど、本当に解毒ポーションなのか?」


「それは間違いないよ! だからみんな毒が治ってるんでしょ!」


「うーん、それもそうだな。それにしてもこの錬金釜は料理で使う釜よりも熱の伝導率をよくしたものって感じなのか?」


「……その考えも間違ってはいないですけど、この錬金釜は魔力で作られているんです……釜自体の素材は実物の鉱石ですけど、釜の中身が魔力で溢れてるって言ったほうがいいんですかね」


「……つまり中に入れた素材を魔力で融合したり変化させたりしてるってこと?」


「……はい、その通りです」


「ララ、それってこのダンジョンと似てるよな」


「そうね。まぁ詳しい話はドラシーから聞いたほうが早いよ。……まだお休み中か」


「そうなのか。カトレアさんが錬金術師だってのはわかった。……あっ、すみませんいつの間にか普段の口調になっていたようで」


「……ふふ、そちらのほうが親しみやすくていいですよ」


「じゃあ遠慮なく。カトレアさんも気にしないでいいですからね」


「……私はこれが普通なんです」



 そう、カトレアさんは薬師ではなくて錬金術師だったことが発覚したのだ。


 俺は錬金術について「草を速くすり潰すためのスキル」なんて言ってしまったんだぞ!

 今思い出しただけでも無知だった自分が恥ずかしくて情けない。


 しかし、薬師が錬金術師だっただけで俺の推理は揺らいではいなかった。

 それが徐々に狂いだしたのはその後のことだ。



 昨晩の出来事②

「じゃあカトレアさんは冒険者たちを助けてくれたんだね? 管理人として礼を言わせてもらうよ。ありがとう」


「……いえ、お気になさらずに」


「で、ウチの毒消し草はどうだった? 役に立ちそう?」


「……通常のものよりかは遥かに高性能ですね。現にさっきの解毒ポーションだって一般的に流通してるものは毒消し草二~三枚で作られてるのに、ここの毒消し草と水を使えば一枚で作れてしまいます……もちろん腕にもよりますが」


「ふ~ん、でもそれってただ薄いか濃いかの問題だよね? カトレアさん自身には役立ちそうなの?」


「……私は……ただ錬金術の腕を磨きたいだけですから。それがたまたまいい素材を見つけてしまって……錬金オタクと言われるかもしれませんが」


「そうなんだ。でも目的に少しでも近づいたんなら良かったよ」


「……私には目的なんてありません。ただ師匠にもっと世界を見て勉強してこいって言われただけなんです」


「師匠……先生のことかな? その先生も酷なことを言うよね。自分がわからないことを患者に自分でなんとかしろだなんてさ。……あっ、今のはなんでもないんだ気にしないで!」


「……ロイスさん?」


「お兄……はぁ~。カトレアさん、そろそろお兄の誤解を解いてやって。全部ね」


「……わかりました」



 そこからは地獄だった。


 なんとカトレアさんは病気などではなく、本当にただ錬金術の師匠に言われて旅をしてるだけだったのだ。

 それも錬金術向上のためだけにだ。

 ウチの薬草と水は自らの病気を治すためでなく、錬金術向上のためのいい素材として扱われていたのであった。


 ということは当然食事制限の件もなかったことになる。

 この時点で半分以上推理が崩れた。


 だが、まだ彼女の幼いころからの食生活問題は残っていた。

 というよりも食事制限の話がなくなったことでこれに関してはより深刻に思えてきたんだ。

 聞いてはいけないとは思っていたものの、なにがなんだかわからなくなって勢いで聞いてしまったよね。



 昨晩の出来事③

「じゃ、じゃあですね、食生活問題についてはどうなの?」


「……食生活問題」


「お兄!」


「食事をあまり口にできない貧しい環境で育ってきたんじゃないのかな?」


「お兄! そういうことは聞いちゃダメなんだよ!」


「……いえ、それも説明しますね」


「カトレアさん!? 言いたくないことまで言う必要なんてないんだよ!?」


「……ララちゃん、違いますから……私の親は私が小さいころに亡くなりました」


「カトレアさん、それ以上、言わなくても……いいから……ぐすっ」


「……他に親戚のいなかった私は錬金術師であった母の姉弟子……今の私の師匠でもある方が育ての親になると言って引き取ってくれたんです」


「「……」」


「……それが四歳のときです。それから今までずっと……」


「そうか。つらかっただろうね。その師匠には育ててくれた恩義はあるだろうけど、あまりいい環境ではなかったのか」


「お兄、仕方ないよ。他人の子を育てるのは凄く大変なことなんだよ。お爺ちゃんは私たちが孫だから良くしてくれたんだよねきっと」


「……あの、お二人とも……違いますから」


「「え?」」


「……師匠は凄くいい方ですし、なにより不自由なく育ててくれました。まるで本当の子供であるかのように。錬金術師ですからお金もそれなりにありましたし」


「ならどうして? 食事だけは満足に与えられなかったってこと?」


「……それが違うと言ってるのです。ただ……師匠の食に偏りがありまして」


「偏り? 好き嫌いが多いってことか?」


「……好き嫌いというよりも、好きなものだけを食べていたいってところですね」


「なるほど、その好きなものの中にハンバーグが入ってなかったってことか。好みだからそれなら仕方ない部分もあるよな」


「そうね! 食べ物の種類なんて山ほどあるもんね! なーんだ、心配して損しちゃった気分」


「……いえ……極端なんです」


「「極端?」」


「……はい。具体的には……パンとパスタです」


「パンとパスタか。ウチでもたまに作るよ。パンは買ってくるけど。他には?」


「……それだけです」


「「はい?」」


「……パンとパスタだけです」


「「!?」」


「……」


「ま、まぁ、パンとパスタっていっても種類が豊富だからな! なぁララ!?」


「そ、そうね! 私はあんことかクリームが入ったパンが好きかな! パ、パスタはカルボナーラが好き! あとミートソースとか!?」


「……」


「……もしかして? もしかしてだけど?」


「お兄、もういいんじゃないかな」


「……朝はパン、昼もパン、夜はパスタです」


「う、うん? ウチも朝はパン食べるよな? ララ? 今日は疲れたしそろそろ寝るか」


「う、うん。毎日ではないけど、昼もたまに食べるよね? そうだね、よい子は寝る時間だね!」


「……朝はクロワッサンです」


「「……昼は?」」


「……チーズ蒸しパンです」


「「夜は?」」


「……ナポリタンです」


「……一応聞くけど、それはある一日のメニューなのかな?」


「……」


「お兄! もうやめてよ! お願いだから……うぅっ」


「そ、それもそうだな。うん。さぁもう寝ようか。カトレアさんもお疲れだろうしな。ララ、部屋に案内してあげてくれよ」


「う、うん! 明日も朝早いしね! じゃあカトレアさん、二階行きましょうか!」


「……最後にあと一つだけいいですか」


「「え!? まだなにか!?」」


「……私は十七歳です」


「「!?」」


「……」


「いやいや、それはさすがに冗談でしょう? はははっ、なぁララ?」


「ふふっ、カトレアさんも冗談言うのね! 少し安心しちゃった」


「……」


「……嘘でしょ?」


「……今年十八歳になります」


「「……」」


 最後に一番の爆弾を落とされたかもしれない。


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